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第25話:決戦の広場
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ユリウスが後戻りのできない公開対決を宣言した。
その言葉は広場に集まった人々の心臓を鷲掴みにしたかのように、一瞬ですべての音を奪い去った。地鳴りのようなどよめきが、期待と不安、わずかな希望を乗せて広場に満ちていく。王都の中央広場は今、巨大な劇場と化していた。
舞台の中央には私たち。三方からはおびただしい数の観客が取り囲んでいる。瘴気に顔を歪ませ、最後の救いを求める民衆。宮殿のバルコニーから国の未来を値踏みするように固唾を飲んで見守る貴族たち。広場の周囲は、物々しい雰囲気の近衛騎士団が固めている。
黄みがかった瘴気で重く澱んだ空気の中、誰もが浅く苦しげな呼吸を繰り返す。その舞台の上で、二つの対照的な影が対峙していた。
一方にいたのは、怒りと焦り、そして隠しようもない恐怖で我を忘れた王子エドウィン。その瞳は血走り、完璧に整えられていたはずの髪も乱れている。
もう一方にいたのは、静かな覚悟を固めたユリウス。その隣に立つ私も、かつてのように怯えてはいなかった。私の瞳は澄み渡り、これから成すべきことだけをまっすぐに見つめている。
「……よかろう!その挑戦、受けて立ってやる!」
自らが掘った墓穴から逃れられないと悟ったのだろう。エドウィンは、やけくそになったように叫んだ。
「だが、その前に、まずは我が国の真の聖女に、その力を示させようではないか!者共、ユナをここへ!」
王子の甲高い命令。やがて、宮殿の奥から数名の兵士に引きずられ、一人の女性が広場に姿を現した。偽聖女、ユナ。
その姿は痛ましいほど惨めだった。かつて民衆を熱狂させた華美なドレスは、塔での幽閉生活の間に汚れ、無残に引き裂かれている。自信に満ちて輝いていたはずの瞳は、ただ恐怖に怯え、虚ろに宙を彷徨っていた。
「聖女よ!」
エドウィンはユナの腕を乱暴に掴み、民衆の前に突き出す。
「今こそ、真の力を示し、あの魔女が放つ邪悪な妖術を打ち破るのだ!」
それはもはや懇願というよりも、最後の悪あがきに等しい悲痛な命令だった。ユナは恐怖に震えながら、言われるがままにか細い両手をおずおずと天へ掲げ、かすれた声で祈りの言葉を紡ぎ始める。
「ひ、光よ……聖なる光よ……」
だが、奇跡は二度は起きなかった。彼女の手のひらに生まれたのは、選定の日の、広間を焼き尽くすようなまばゆい光ではない。まるで夏の夜の、今にも消え入りそうな蛍のような、頼りなく、弱々しい輝きだった。
ぽつりと生まれたその小さな光は、瘴気の深い闇に触れることもできず、数秒も経たずに儚く消え去る。広場を支配していた重い瘴気の空気には、何の変化ももたらさなかった。
その無力な結果に、集まった民衆から深い絶望のため息が漏れた。やがて、その息は、裏切られた者の怒りの声へと変わっていく。
「……偽物め!」
誰かが叫んだ。
「やはり、お前は偽物だったのだ!」
「我々を騙していたのか!」
「国賊め!」
罵声はあっという間に広場全体を覆い尽くす怒号の嵐と化す。憎しみに満ちた声の暴力に、ユナの心の糸はぷつりと、完全に切れてしまった。
「いや……いやぁぁぁぁっ!」
彼女は耳を塞ぎ、その場に崩れ落ちると、子供のように声を上げて泣きじゃくる。偽りの栄華は今、それを熱狂的に支えていた民衆自身の手によって、完膚なきまでに破壊されたのだ。
「だ、黙れ!黙らぬか、下賤の者どもが!」
エドウィンはヒステリックに叫ぶ。だが、もはや彼の言葉に耳を貸す者はいない。全ての策が尽き、最後の希望も目の前で無残に砕け散った。追い詰められた彼の理性は、ついに完全に崩壊する。
彼は狂気に満ちた血走った瞳を私へ向け、震える指で私を指し示した。
「――あの魔女だ!」
王子の威厳など微塵も感じさせない、ただの断末魔の叫びだった。
「あの女がいるからだ!あの女の邪悪な妖術が、聖女様の聖なる力を封じ込めているのだ!」
彼は茫然と立ち尽くす近衛騎士団へ、狂ったように命令を飛ばす。
「者共、何をためらっている!あの魔女を捕らえよ!火刑に処し、その忌まわしき灰を、この瘴気と共に浄化するのだ!」
火刑。その残酷な言葉に、近衛騎士たちは動けなかった。彼らは、正気を失った主君と、怒りに燃える民衆、そして静かにこちらを見つめるユリウス公爵との間で、ただ立ち尽くすことしかできない。
張り詰めた一瞬の膠着。それを破ったのは、私を守るように一歩前に出たユリウスの静かな動きだった。
彼は狂乱する王子を憐れむような、どこまでも冷たい瞳で見つめ、はっきりとした声で言い放つ。
「王子。民が求めているのは救済です。魔女狩りという名の見苦しい責任逃れではございません」
その言葉は、エドウィンの最後の、そして唯一の逃げ道を容赦なく断ち切った。ユリウスは絶句する王子に一瞥もくれず、私の方へとゆっくりと振り返る。そして、そのアイスブルーの瞳に絶対的な信頼を込めて、力強く頷いた。
「リーナ。見せてやれ」
彼の声が私の心にまっすぐに響く。
「本物の、奇跡というものを」
その言葉を合図としたかのように、広場のすべての視線が私一人に注がれた。
風が止まる。
時が止まる。
私の最後の戦いの舞台が、静かに幕を開けた。
その言葉は広場に集まった人々の心臓を鷲掴みにしたかのように、一瞬ですべての音を奪い去った。地鳴りのようなどよめきが、期待と不安、わずかな希望を乗せて広場に満ちていく。王都の中央広場は今、巨大な劇場と化していた。
舞台の中央には私たち。三方からはおびただしい数の観客が取り囲んでいる。瘴気に顔を歪ませ、最後の救いを求める民衆。宮殿のバルコニーから国の未来を値踏みするように固唾を飲んで見守る貴族たち。広場の周囲は、物々しい雰囲気の近衛騎士団が固めている。
黄みがかった瘴気で重く澱んだ空気の中、誰もが浅く苦しげな呼吸を繰り返す。その舞台の上で、二つの対照的な影が対峙していた。
一方にいたのは、怒りと焦り、そして隠しようもない恐怖で我を忘れた王子エドウィン。その瞳は血走り、完璧に整えられていたはずの髪も乱れている。
もう一方にいたのは、静かな覚悟を固めたユリウス。その隣に立つ私も、かつてのように怯えてはいなかった。私の瞳は澄み渡り、これから成すべきことだけをまっすぐに見つめている。
「……よかろう!その挑戦、受けて立ってやる!」
自らが掘った墓穴から逃れられないと悟ったのだろう。エドウィンは、やけくそになったように叫んだ。
「だが、その前に、まずは我が国の真の聖女に、その力を示させようではないか!者共、ユナをここへ!」
王子の甲高い命令。やがて、宮殿の奥から数名の兵士に引きずられ、一人の女性が広場に姿を現した。偽聖女、ユナ。
その姿は痛ましいほど惨めだった。かつて民衆を熱狂させた華美なドレスは、塔での幽閉生活の間に汚れ、無残に引き裂かれている。自信に満ちて輝いていたはずの瞳は、ただ恐怖に怯え、虚ろに宙を彷徨っていた。
「聖女よ!」
エドウィンはユナの腕を乱暴に掴み、民衆の前に突き出す。
「今こそ、真の力を示し、あの魔女が放つ邪悪な妖術を打ち破るのだ!」
それはもはや懇願というよりも、最後の悪あがきに等しい悲痛な命令だった。ユナは恐怖に震えながら、言われるがままにか細い両手をおずおずと天へ掲げ、かすれた声で祈りの言葉を紡ぎ始める。
「ひ、光よ……聖なる光よ……」
だが、奇跡は二度は起きなかった。彼女の手のひらに生まれたのは、選定の日の、広間を焼き尽くすようなまばゆい光ではない。まるで夏の夜の、今にも消え入りそうな蛍のような、頼りなく、弱々しい輝きだった。
ぽつりと生まれたその小さな光は、瘴気の深い闇に触れることもできず、数秒も経たずに儚く消え去る。広場を支配していた重い瘴気の空気には、何の変化ももたらさなかった。
その無力な結果に、集まった民衆から深い絶望のため息が漏れた。やがて、その息は、裏切られた者の怒りの声へと変わっていく。
「……偽物め!」
誰かが叫んだ。
「やはり、お前は偽物だったのだ!」
「我々を騙していたのか!」
「国賊め!」
罵声はあっという間に広場全体を覆い尽くす怒号の嵐と化す。憎しみに満ちた声の暴力に、ユナの心の糸はぷつりと、完全に切れてしまった。
「いや……いやぁぁぁぁっ!」
彼女は耳を塞ぎ、その場に崩れ落ちると、子供のように声を上げて泣きじゃくる。偽りの栄華は今、それを熱狂的に支えていた民衆自身の手によって、完膚なきまでに破壊されたのだ。
「だ、黙れ!黙らぬか、下賤の者どもが!」
エドウィンはヒステリックに叫ぶ。だが、もはや彼の言葉に耳を貸す者はいない。全ての策が尽き、最後の希望も目の前で無残に砕け散った。追い詰められた彼の理性は、ついに完全に崩壊する。
彼は狂気に満ちた血走った瞳を私へ向け、震える指で私を指し示した。
「――あの魔女だ!」
王子の威厳など微塵も感じさせない、ただの断末魔の叫びだった。
「あの女がいるからだ!あの女の邪悪な妖術が、聖女様の聖なる力を封じ込めているのだ!」
彼は茫然と立ち尽くす近衛騎士団へ、狂ったように命令を飛ばす。
「者共、何をためらっている!あの魔女を捕らえよ!火刑に処し、その忌まわしき灰を、この瘴気と共に浄化するのだ!」
火刑。その残酷な言葉に、近衛騎士たちは動けなかった。彼らは、正気を失った主君と、怒りに燃える民衆、そして静かにこちらを見つめるユリウス公爵との間で、ただ立ち尽くすことしかできない。
張り詰めた一瞬の膠着。それを破ったのは、私を守るように一歩前に出たユリウスの静かな動きだった。
彼は狂乱する王子を憐れむような、どこまでも冷たい瞳で見つめ、はっきりとした声で言い放つ。
「王子。民が求めているのは救済です。魔女狩りという名の見苦しい責任逃れではございません」
その言葉は、エドウィンの最後の、そして唯一の逃げ道を容赦なく断ち切った。ユリウスは絶句する王子に一瞥もくれず、私の方へとゆっくりと振り返る。そして、そのアイスブルーの瞳に絶対的な信頼を込めて、力強く頷いた。
「リーナ。見せてやれ」
彼の声が私の心にまっすぐに響く。
「本物の、奇跡というものを」
その言葉を合図としたかのように、広場のすべての視線が私一人に注がれた。
風が止まる。
時が止まる。
私の最後の戦いの舞台が、静かに幕を開けた。
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