捨てられ聖女は、隣国で”香りの魔術師”として覚醒しました~冷徹公爵様の心を癒すのは、私だけの調香術です~

YY

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第27話:裁きと国の新しい夜明け

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国王の厳粛で、あまりにも重い裁きの言葉。それが広場に響き渡った瞬間、すべての混乱はぴたりと終わりを告げた。
王命は絶対だ。これまでどちらにつくべきか迷っていた近衛騎士団の兵士たちが、一斉に、そして迷いなく動き出す。彼らの顔にあった戸惑いの色は、もはやどこにもない。そこにあるのは、王の剣として大罪人を断罪するという、鋼の決意だけだった。
「……離せ」
膝から崩れ落ちたまま呆然と虚空を見つめていたエドウィンが、力なく呟く。だが、その声にかつての王子の威厳など微塵も残っていなかった。騎士たちはその言葉を無視し、完全に戦意を喪失した彼を、荒縄で固く縛り上げていく。
その光景を宮殿のバルコニーから見ていた王子派の貴族たちは、蜘蛛の子を散らすように逃げ出そうとした。だが、彼らの行く手は、すでにユリウス配下のヴァルテンベルク騎士団によって、静かに、しかし確実に塞がれていた。
ある者はその場で捕らえられ、またある者は生き残るために広場へと駆け下り、ユリウスの前にひれ伏して見苦しいまでの許しを乞うた。権力というあまりにも脆い砂の城が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていく。
広場の隅で泣き崩れていたユナもまた、近衛兵によって身柄を拘束された。「国を欺き、その財産を不当に騙し取った」という明確な罪状の下に。彼女はもはや聖女でも魔女でもない。ただの、哀れな一人の罪人として、歴史の舞台から静かに退場させられたのだ。
すべての断罪が終わった後、バルコニーに立つ国王が再び民衆に向かって口を開いた。その声は病に蝕まれ弱々しかったが、国の未来を思う王としての最後の気力に満ちていた。
「我が息子、エドウィンは、本日をもって王太子の位を剥奪し、北の塔に終生幽閉とする!」
それは一つの時代の完全な終わりを告げる宣言だった。
国王は続ける。
「この疲弊しきった王国を再生させるために。私はここに、我が国で最も厚き忠誠と、賢明なる知恵を持つ男に、全権を委ねることを決意した!」
彼は震える手で、広場に立つ一人の男を指し示した。
「ヴァルテンベルク公爵、ユリウス!今日この時より、そなたをこのアステル王国の摂政と定める!国のすべてを、そなたに託す!」
その宣言に一瞬の静寂が訪れた後、広場から地鳴りのような万雷の拍手が沸き起こった。
民衆は知っている。誰が本当に国を憂い、誰が本当に民を救ったのかを。彼らは新しい時代の到来を、心からの歓声で歓迎した。その歓声は「ユリウス摂政、万歳!」という声と、いつしか「リーナ聖女様、万歳!」という二つの名前を呼ぶ大きなうねりとなっていた。
それから数日後。
王都にようやく穏やかな日常が戻り始めた頃、私はユリウスと共に国王陛下からのお召しを受け、彼の私室へと招かれていた。
国王は豪華な天蓋付きの寝台に身を横たえていた。顔色はまだ優れないが、その表情には重荷を下ろしたような安らかな光が宿っている。
侍従に助けられゆっくりと身を起こすと、私にそばに来るよう手招きをした。
「リーナ殿」
その声は優しく、慈愛に満ちていた。
「まことに感謝の言葉も見つからん。そなたこそが、この国に神が遣わしたもうた、真の聖女であったのだな」
そう言って、一国の王が私のような異邦人の名もなき女に向かって、ゆっくりと深く頭を下げた。
「陛下、おやめください!」
慌ててその身を支えようとすると、彼はにこやかに私の手を取った。
「よいのだ。私は王である前に、この国の民を愛する一人の男。民の命を救ってくれた、そなたに礼を尽くすのは当然のことだ」
そして彼は、ユリウスにもそばに来るよう促した。国王は私の手とユリウスの手をそっと取り、年老いて節くれだった大きな手の中で優しく重ね合わせた。
「ユリウスよ」
彼はまるで実の息子に語りかけるような父親の目でユリウスを見つめた。
「リーナ殿を生涯、大切にするのだ。その手を、決して離してはならんぞ」
「……御意に」
ユリウスが静かに、しかし力強く頷く。
「二人でこの国に光を取り戻してくれ。それが余からの最後の願いだ」
その言葉は、王としての最後の勅命であり、一人の父親としての温かい祝福の言葉だった。
すべての政治的な嵐は過ぎ去った。
私とユリウスは宮殿の一番高い場所にあるバルコニーから、眼下に広がる王都の景色を眺めていた。あれほど重く淀んでいた空は、どこまでも青く澄み渡っている。通りには活気が戻り、人々の顔には笑顔が戻り始めていた。
最大の危機は去った。
私は隣に立つユリウスの大きな手をそっと握った。彼は優しくその手を握り返してくれる。言葉はいらなかった。ただ、こうして二人で同じ景色を眺めているだけで、心が温かく満たされていく。
だが、この国の危機は去っても、私たち二人の物語には、まだ果たされていない大切な約束が残っていることに、私は気づいていた。北の鉱山町で、あの夜、彼が私に伝えようとしてくれた、あの言葉。
その続きを、私はまだ聞いていない。
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