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第29話:世界で一番美しい答え
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私の言葉を聞き終えたユリウスは、ただ静かに私の手を取った。彼の指先が私の手の甲を優しくなぞる。その小さな触れ合いだけで、彼の深い愛情が伝わってくるようだった。そして彼が私を導いたのは、宮殿の庭園の中でも、ひときわ月光を浴びて白く輝く、純白の薔薇が咲き誇る場所だった。夜風に揺れる花弁が、甘く清らかな香りをあたり一面に漂わせている。
そこで彼は、私の前に静かに片膝をついた。
ヴァルテンベルク公爵。そして、このアステル王国の摂政。この国で今、最も権力を持つ男が、一介の技術者である私の前に、その絶対的な権威を捨て、一人の男として向き合っている。その事実に、私の胸は震えた。
「リーナ」
彼が私の名を呼ぶ。その声は、真摯な愛に満ちていると同時に、普段の彼からは想像もつかない、答えを待つわずかな不安に震えていた。その感情の揺れが、私には痛いほどに伝わってくる。
彼の大きな手がゆっくりと開かれる。その中にあったのは、小さなベルベットの小箱だった。
パチン、と音を立てて蓋が開く。中に収められていたのは、一つの指輪。華美な装飾は一切ないが、細く優美な銀の腕の中心で、一つの宝石が月光を吸い込んで、深く静かに輝いている。それは、彼の瞳の色をそのまま閉じ込めたかのような、美しいアイスブルーのサファイアだった。
「私の生涯のパートナーになってほしい」
彼のまっすぐな瞳が、私の目をまっすぐに捉えている。その瞳の奥には、私への限りない愛と、この一瞬にかける彼の決意が見て取れた。
「結婚してくれないか」
その言葉が私の耳に届いた瞬間、私の瞳から大粒の涙がぽろぽろと溢れ落ちた。ああ、また泣いてしまっている。でも、それはもう、かつて私が流した、あの絶望の涙ではなかった。胸の奥から、温かな涙が静かにあふれた。それは、長い旅の果てに、ようやく辿り着いた安堵と、この上ない幸福感の涙だった。
私の脳裏に、これまでの道のりが走馬灯のように駆け巡る。
――『偽物』の烙印を押され、たった一人玉座の間で立ち尽くした、あの屈辱の日。
――魔獣の咆哮に怯え、絶望の闇の中を独り彷徨った、あの暗い森。
――そんな私の前に現れた、氷のように美しい一人の騎士。
彼がくれた、新しい名前。彼がくれた、私のための工房という名の城。懐疑的な重臣たちの前で、「彼女の言葉は、私の言葉だ」と宣言してくれた、あの絶対的な信頼。鉱山の闇の中で、私の震える手をそっと包んでくれた、あの大きな手の温かさ。
全てが、この瞬間のためにあったのだ。この世界に来て経験した全ての苦しみも悲しみも、このたった一言の彼の言葉によって、全てが報われていく。
「はい…!」
ようやく私は声を絞り出した。涙に濡れた顔のまま、私は人生で最高の、満開の笑顔を彼に向けた。
「喜んで。あなたの隣が、私の本当の居場所です」
その答えを聞いた瞬間、ユリウスの張り詰めていた表情が、ふっと和らいだ。彼の肩から力が抜け、心の底から安堵のため息を漏らすのがわかった。
彼はゆっくりと立ち上がると、小箱から指輪を取り出し、私の左手の薬指にそっとはめてくれた。ひんやりとした金属の感触と、彼の指先の温かさが、私の心に永遠の誓いとして刻みつけられる。その指輪は、まるで私のために作られたかのように、完璧に私の指に馴染んだ。
そして彼は、私を強く、しかし壊れやすいガラス細工でも扱うかのように優しく、その腕の中に抱きしめた。彼の胸に顔をうずめると、いつも感じていたあの清浄な香りが、私を優しく包み込む。
「…断られたらどうしようかと…」
私の耳元で、彼が囁いた。その声は、弱々しく、少しだけ少年のような笑みを浮かべていた。
「生きた心地がしなかった」
初めて聞く、彼の弱音。誰よりも強く、気高いこの人が、私からの答えをこれほどまでに恐れていた。その事実に、私の胸は愛しさで張り裂けそうになった。
彼がゆっくりと腕の力を緩める。そして、その大きな両手で私の顔を優しく包み込んだ。彼の親指が、私の頬を伝う涙をそっと拭う。
そして私たちの視線が絡み合った。彼の顔がゆっくりと近づいてくる。私はそっと目を閉じた。
唇に触れたのは、驚くほど柔らかく、そして温かい感触だった。それは、これまで私たちが交わしてきたどんな接触とも違う。お互いの心の奥底にある全ての感情を確かめ合うような、深く、どこまでも甘い口づけ。彼の不器用だが切実な愛情が、私の魂に直接流れ込んでくるようだった。彼の温もりと息遣いだけが、夜の静寂を満たしていた。
私たちがゆっくりと唇を離した時、夜の庭園は相変わらず静かな沈黙と、甘い薔薇の香りに満たされていた。
だが、私たちの世界はもう、決して元には戻らない。
私たちはどちらからともなく固く指を絡め合い、手を繋いだ。私の小さな手が、彼の大きな手に包み込まれ、完璧に重なり合う。そして、宮殿の温かい光が待つ方へと、ゆっくりと歩き始めた。
これから、私たちは国王陛下にこの婚約を報告するだろう。やがて、その報せは公式なものとして国中に広まり、多くの人々が私たちの未来を祝福してくれるに違いない。
輝かしい未来へと続く、長い長い道。その道を、もう私は一人で歩くことはない。
夜明け前の庭園で、二人の新しい物語が、今、静かに始まろうとしていた。それは、この世界で一番美しく、そして、真実の愛に満ちた物語になるだろう。
そこで彼は、私の前に静かに片膝をついた。
ヴァルテンベルク公爵。そして、このアステル王国の摂政。この国で今、最も権力を持つ男が、一介の技術者である私の前に、その絶対的な権威を捨て、一人の男として向き合っている。その事実に、私の胸は震えた。
「リーナ」
彼が私の名を呼ぶ。その声は、真摯な愛に満ちていると同時に、普段の彼からは想像もつかない、答えを待つわずかな不安に震えていた。その感情の揺れが、私には痛いほどに伝わってくる。
彼の大きな手がゆっくりと開かれる。その中にあったのは、小さなベルベットの小箱だった。
パチン、と音を立てて蓋が開く。中に収められていたのは、一つの指輪。華美な装飾は一切ないが、細く優美な銀の腕の中心で、一つの宝石が月光を吸い込んで、深く静かに輝いている。それは、彼の瞳の色をそのまま閉じ込めたかのような、美しいアイスブルーのサファイアだった。
「私の生涯のパートナーになってほしい」
彼のまっすぐな瞳が、私の目をまっすぐに捉えている。その瞳の奥には、私への限りない愛と、この一瞬にかける彼の決意が見て取れた。
「結婚してくれないか」
その言葉が私の耳に届いた瞬間、私の瞳から大粒の涙がぽろぽろと溢れ落ちた。ああ、また泣いてしまっている。でも、それはもう、かつて私が流した、あの絶望の涙ではなかった。胸の奥から、温かな涙が静かにあふれた。それは、長い旅の果てに、ようやく辿り着いた安堵と、この上ない幸福感の涙だった。
私の脳裏に、これまでの道のりが走馬灯のように駆け巡る。
――『偽物』の烙印を押され、たった一人玉座の間で立ち尽くした、あの屈辱の日。
――魔獣の咆哮に怯え、絶望の闇の中を独り彷徨った、あの暗い森。
――そんな私の前に現れた、氷のように美しい一人の騎士。
彼がくれた、新しい名前。彼がくれた、私のための工房という名の城。懐疑的な重臣たちの前で、「彼女の言葉は、私の言葉だ」と宣言してくれた、あの絶対的な信頼。鉱山の闇の中で、私の震える手をそっと包んでくれた、あの大きな手の温かさ。
全てが、この瞬間のためにあったのだ。この世界に来て経験した全ての苦しみも悲しみも、このたった一言の彼の言葉によって、全てが報われていく。
「はい…!」
ようやく私は声を絞り出した。涙に濡れた顔のまま、私は人生で最高の、満開の笑顔を彼に向けた。
「喜んで。あなたの隣が、私の本当の居場所です」
その答えを聞いた瞬間、ユリウスの張り詰めていた表情が、ふっと和らいだ。彼の肩から力が抜け、心の底から安堵のため息を漏らすのがわかった。
彼はゆっくりと立ち上がると、小箱から指輪を取り出し、私の左手の薬指にそっとはめてくれた。ひんやりとした金属の感触と、彼の指先の温かさが、私の心に永遠の誓いとして刻みつけられる。その指輪は、まるで私のために作られたかのように、完璧に私の指に馴染んだ。
そして彼は、私を強く、しかし壊れやすいガラス細工でも扱うかのように優しく、その腕の中に抱きしめた。彼の胸に顔をうずめると、いつも感じていたあの清浄な香りが、私を優しく包み込む。
「…断られたらどうしようかと…」
私の耳元で、彼が囁いた。その声は、弱々しく、少しだけ少年のような笑みを浮かべていた。
「生きた心地がしなかった」
初めて聞く、彼の弱音。誰よりも強く、気高いこの人が、私からの答えをこれほどまでに恐れていた。その事実に、私の胸は愛しさで張り裂けそうになった。
彼がゆっくりと腕の力を緩める。そして、その大きな両手で私の顔を優しく包み込んだ。彼の親指が、私の頬を伝う涙をそっと拭う。
そして私たちの視線が絡み合った。彼の顔がゆっくりと近づいてくる。私はそっと目を閉じた。
唇に触れたのは、驚くほど柔らかく、そして温かい感触だった。それは、これまで私たちが交わしてきたどんな接触とも違う。お互いの心の奥底にある全ての感情を確かめ合うような、深く、どこまでも甘い口づけ。彼の不器用だが切実な愛情が、私の魂に直接流れ込んでくるようだった。彼の温もりと息遣いだけが、夜の静寂を満たしていた。
私たちがゆっくりと唇を離した時、夜の庭園は相変わらず静かな沈黙と、甘い薔薇の香りに満たされていた。
だが、私たちの世界はもう、決して元には戻らない。
私たちはどちらからともなく固く指を絡め合い、手を繋いだ。私の小さな手が、彼の大きな手に包み込まれ、完璧に重なり合う。そして、宮殿の温かい光が待つ方へと、ゆっくりと歩き始めた。
これから、私たちは国王陛下にこの婚約を報告するだろう。やがて、その報せは公式なものとして国中に広まり、多くの人々が私たちの未来を祝福してくれるに違いない。
輝かしい未来へと続く、長い長い道。その道を、もう私は一人で歩くことはない。
夜明け前の庭園で、二人の新しい物語が、今、静かに始まろうとしていた。それは、この世界で一番美しく、そして、真実の愛に満ちた物語になるだろう。
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