ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第1章:炎上プロジェクトと問題児(エリート)たち

第25話:課題(プロブレム)の可視化

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ケンジの巧みな進行によって、場の雰囲気はすっかり和やかなものになっていた。自らの功績を認められた仲間たちは、気分良くワイングラスを傾けている。その完璧に温まった空気を見計らい、ケンジはにこやかな表情のまま、瞳の奥に鋭い光を宿して次の議題へと移った。

「さて。我々の強み(Keep)についてはよく分かりました。皆さんがそれぞれ素晴らしいスキルとポテンシャルを秘めていることも再確認できました。しかし」
彼はそこで一度言葉を切り、仲間たちの顔をじっと見回した。
「プロジェクトを確実に成功させるためには、強みを伸ばすことと同時に、弱点を克服することも同じくらい重要です。そうでなければ、いずれまた同じ失敗を繰り返すことになる」
静かだが重みのあるその言葉に、仲間たちの表情がわずかに引き締まる。
「では、次に『Problem』…今回のプロジェクトで、我々が改善すべきだった点について話し合いましょう」

ケンジはまずルリエルへと視線を向けた。
「最初の課題です。作戦開始直後、我々は敵の斥候わずか一体に対し、大規模な攻撃魔法を使用してしまいました。その結果、奇襲のアドバンテージを失い、包囲される直接的な原因となりました。…この件について、ルリエルさん、あなたはどう考えますか?」
穏やかな問いかけだが、核心を突かれたルリエルの頬がカッと赤く染まる。
「そ、それは…! あのゴブリンがシーナを狙っていたからですわ! 私は仲間を守るために、咄嗟に最善だと思った行動を…!」
「助けようとしてくれたのは、まあ感謝するけどさ」
すかさずシーナが口を挟む。
「おかげでもっとやばいことになったじゃないか。あんたのあのド派手な一発がなきゃ、もっと楽に勝てたかもしれないんだぜ?」
「なんですって!?」
再び口論が始まろうとしたその瞬間。

「お待ちください」
ケンジが静かに二人を制した。
「ルリエルさんの『仲間を救う』という動機自体は、決して間違っていません。むしろ賞賛されるべきものです。問題はその『手段』です」
彼はルリエルに優しく語りかける。
「あなたの強力な魔法は、戦場の戦況をひっくり返す、最高の『奥の手』です。しかし、それを最初の敵に使ってしまった。それはまるで、残弾数を考えずに必殺技を撃ち尽くしたようなものです。より少ない力で、同じ目的を達成できる別の選択肢はなかったでしょうか?」
その問いにルリエルはぐっと言葉を詰まらせた。ケンジは彼女を責めなかった。ただ事実を客観的に提示しただけだ。
彼は羊皮紙に書き込む。
【課題P-01:リソース管理の最適化(魔力コスト意識の欠如)】

次に、ケンジはシーナへと向き直った。
「次の課題です。偵察任務中、我々の斥候役が一時的に本来のタスクを中断しました。これにより、敵斥候の発見が遅れるという結果に繋がりました」
遠回しな指摘に、シーナは「ちっ」と舌打ちをする。
「…月光苔だぜ? あんなお宝、めったに見つかるもんじゃないんだ。ちょっとくらいいいじゃないか」
「ええ、そのアイテムの希少価値は理解できます。ですが」
ケンジは淡々と続けた。
「プロジェクト全体から見れば、それは『スコープ外』のタスクです。それはまるで、道中の寄り道で、肝心の目的地に着くのが遅れたようなものです。たった一つの未承認のタスクが、全体のスケジュールを遅延させ、リスクを増大させる。その因果関係を、プロとして理解いただけますか?」
「…………」
シーナは何も言い返せなかった。ケンジは再び羊皮紙に書き込む。
【課題P-02:タスク優先順位の認識共有(スコープクリープの発生)】

そして、最後に。
ケンジは沈黙を保つゴードンへと視線を移した。
「最後の課題です。危機的状況が発生したにも関わらず、我々の予備戦力は当初の計画に固執し、即座に行動を起こすことができませんでした」
その言葉にゴードンは初めて兜の奥から低い声を発した。
「……指示は、『ポイントBで待機』。俺は指示に従ったまでだ」
「はい、その通りです」
ケンジは意外にもあっさりとそれを認めた。
「それは指示を出した私自身の問題でもあります。私の指示が、状況の変化に対応できるほど柔軟なものではなかった。それは、まるで一本道の地図だけを渡して、別の道を通ることを禁じてしまったようなものです。つまり…」
彼はゴードンを、そして自分自身を含めた全員に言い聞かせるように言った。
「我々チーム全体に『状況変化への柔軟な対応能力』が欠如していた。これが今回の三つ目の、そして最大の、問題点です」
ケンジは羊皮紙に最後の課題を書き記した。
【課題P-03:状況変化への柔軟な対応能力の欠如(チーム全体)】

羊皮紙の「Problem」の欄が埋まる。そこには、ルリエルの魔力浪費も、シーナの個人行動も、ゴードンの頑固さも、もはや個人の失敗としては書かれていなかった。すべてが客観的な、そして「チーム全体の課題」としてリストアップされていた。三人はその羊皮紙を食い入るように見つめていた。誰も責められてはいない。だが、自分たちの未熟さが明確にそこに示されている。彼らは初めて、自分たちの失敗を客観的に、そして一つのチームとして共有したのだった。

羊皮紙に客観的な事実としてリストアップされた三つの「課題」。それを見つめるパーティメンバーたちの表情は真剣だった。
先ほどまでの高揚感は消え、代わりに自分たちの未熟さと正面から向き合う、静かで建設的な緊張感がその場を支配していた。誰も言い訳をしない。誰も他人を責めない。ケンジが作り上げたこの奇妙な「会議」のルールを、彼らはいつの間にか受け入れていた。

「さて」
ケンジは羽ペンを持ち直し、羊皮紙の一番右側に設けられた最後の空欄を指し示した。
「課題(Problem)の特定は完了しました。ですが、プロジェクトマネジメントはここで終わりではありません。最も重要なのは、この課題を次にどう活かすかです」
彼の声は穏やかだったが、その瞳には教師のような厳しさと、仲間を導こうとするリーダーとしての熱意が宿っていた。
「最後に、『Try』。これらの課題を解決するために、我々が次に挑戦すべきことを決めましょう」

ケンジはまずルリエルへと視線を向けた。
「課題P-01『リソース管理の最適化』について。何か良いアイデアはありますか?」
その問いにルリエルはしばらくうつむき、何かを考えていたが、やがて意を決したように顔を上げた。その頬はわずかに赤く染まっている。
「……わ、私、知っていますわ。王立魔術院の基礎の教科書に載っていたはずですもの。燃費の良い小さな魔法の数々を…」
「ええ、知っているなら、ぜひそれを」
ケンジが促すと、ルリエルは視線をそらしたまま、小さな声で続けた。
「これまで、地味だからと馬鹿にして、練習もしてきませんでしたけれど…。…やってみますわ。そのコストパフォーマンスとやらを改善する努力を」
それは、天才を自称する彼女が初めて自らの欠点を認め、そしてその克服を誓った瞬間だった。ケンジは満足げに頷くと、羊皮紙に書き込んだ。
【Try-01:ルリエル - 低コスト魔法の習得と実戦での活用訓練】

次に、ケンジはシーナへと向き直る。
「課題P-02『タスク優先順位の認識共有』について。これは私からの提案ですが、よろしいでしょうか」
彼はシーナの目をまっすぐ見て言った。
「作戦行動中の計画外の個人行動は原則禁止とします。ただし、チーム全体の利益に繋がるとあなたがプロとして判断した場合は、必ずPMである私に報告し、その場で承認(アプルーバル)を得ること。これでいかがでしょう?」
それは、彼女の自由を縛るルール。しかし同時に、彼女のプロとしての判断力を信頼するというメッセージでもあった。シーナは「ちっ」と舌打ちを一つすると、不敵に笑った。
「…まあ、ボスがちゃんとあたしの提案の価値を判断できるってんなら、乗ってやってもいいけどさ」
「ありがとう」
ケンジはシーナの信頼に応えるように深く頷いた。
「…それと、もう一つだけ」
シーナは不意に視線を床に落とすと、ぽつりと呟いた。
「今度、もし、またあんな状況になったら…俺は、月光苔なんかじゃなく、もっといい、仲間の役に立つもんを、見つけてやるさ。…絶対に」
その言葉は、誰に聞かせるわけでもなく、彼女自身の心に誓うようだった。ケンジは、彼女のそんな内面を垣間見て、胸が熱くなるのを感じた。
(このチームは、きっと強くなる)
確信にも似た思いが、彼の胸に込み上げる。
ケンジはその言葉を合意とみなし、羊皮紙に書き記した。
【Try-02:シーナ - スコープ外タスク発生時のPMへの事前報告・連絡・相談の徹底】

そして、最後に。
ケンジはゴードンへと視線を移した。
「最後の課題P-03『状況変化への柔軟な対応能力』。これは特に私とゴードンさんの課題です」
彼は自らの問題でもあると明確に告げた。
「つきましては、今後定期的に模擬戦闘訓練を実施したいと思います。私が様々な想定外の状況を付与し、皆さんがそれにどう対応するかをシミュレーションするのです。ゴードンさんには、その訓練の要となっていただきたい」
その提案に、ゴードンはこれまでで最も力強く、そして明確な意思を込めて頷いた。
「…異論ない。それは必要だ」
ケンジは最後の「Try」を羊皮紙に刻み込んだ。
【Try-03:チーム全体 - 想定外事態への対応シミュレーション訓練の定期的実施】

すべての欄が埋まった羊皮紙。それはもはやただの紙切れではなかった。
それは彼らが初めて自らの意志で作り上げた未来へのロードマップ。彼らのチームとしての憲法だった。

ケンジはペンを置くと、晴れやかな表情で宣言した。
「以上で、第一回KPTミーティングを終了します。皆さんお疲れ様でした」
彼はそこで一度言葉を切ると、悪戯っぽく笑った。
「――さて。それでは改めて、祝杯をあげましょうか」

その言葉に、部屋の空気が一気に緩む。シーナが「待ってました!」と叫び、ルリエルが「当然ですわ!」と胸を張る。ゴードンもその兜の奥で、わずかに笑ったように見えた。
彼らが再びグラスを掲げた時。そこにいたのは、もはやただの寄せ集めの問題児たちではなかった。
共通の過去(Keep)を誇り、共通の課題(Problem)を認識し、そして共通の目標(Try)へと向かって歩み出す。
一つの「チーム」が今、確かにこの場所に誕生したのだった。
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