ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第1章:炎上プロジェクトと問題児(エリート)たち

第26話:課題管理票と女神の憂鬱

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祝宴は深夜まで続いた。
普段は口数の少ないゴードンまでもが、シーナに勧められるままにエールを呷り、ルリエルは上機嫌で自らの武勇伝を(かなり脚色を加えて)語っていた。それは、確かに「チーム」の初めての祝勝会だった。
しかし、その喧騒がようやく静まり、仲間たちがそれぞれの部屋へと引き上げていった後も、佐藤健司は一人、宿屋の自室で机に向かっていた。

彼の目の前には、先ほどのKPTミーティングで使用した羊皮紙が広げられている。
【Keep】【Problem】【Try】。
三つの領域に書き込まれた、乱雑だが確かな熱量を帯びた文字。それは、彼らが初めて一つのチームとして、過去を分析し、未来を定義した、記念すべき議事録だった。
これは、仲間との「初めての自己評価」であり、「最初の未来計画」だった。
ケンジは、その内容を一つ一つ指でなぞる。
(…よかった)
彼の胸に、再び温かいものが込み上げてくる。
だが、彼は感傷に浸るために一人残業をしているわけではなかった。
プロジェクトマネージャーの仕事は、会議を終えたここからが本番なのだ。

ケンジは真新しい羊皮紙を取り出すと、慣れた手つきで羽ペンをインクに浸した。そして、その羊皮紙に美しい罫線を引いていく。
彼がこれから作成するのは、あらゆるプロジェクトにおいて、その成否を左右すると言っても過言ではない、最も重要なドキュメント。

――課題管理票(プロジェクト・バックログ)。

彼は羊皮紙の最上段にそう力強く書き記した。
そして、その下にいくつかの項目を設けていく。
『課題ID』『課題内容』『担当者』『優先度』『ステータス』。
前世で、彼が来る日も来る日も、見つめ続けてきた、憎らしくも頼もしい一覧表。
KPTで洗い出した「Problem」と「Try」を、具体的な「タスク」へと落とし込み、その進捗を管理していくための羅針盤だ。

ケンジはペンを走らせながら、羊皮紙に次のように書き記す。
■ P-001
課題:ルリエルの戦闘時における過剰な魔力消費(魔力枯渇による再戦不能リスク)
担当:ルリエル、ケンジ
優先度:高
状態:対応中

■ P-002
課題:シーナの作戦行動中におけるスコープ外タスクの無断実行(全体リスクの増大)
担当:シーナ、ケンジ
優先度:高
状態:対応中

■ P-003 課題:ゴードンの状況変化に対する硬直的な対応(チームの対応力低下リスク) 担当:ゴードン、ケンジ 優先度:中 状態:対応中
カリカリ、とペンを走らせる音だけが静かな部屋に響く。
書き出していくうちに、ケンジの祝宴で浮かれていた心は急速に冷静さを取り戻していった。
リストアップされた課題はどれも根が深い。一朝一夕で解決できるような簡単なものではない。
そして、これらはあくまで今回のゴブリン討伐という一つの小さなプロジェクトで表面化した、氷山の一角に過ぎないのだ。
これから彼らが対峙しなければならない本当の敵――「魔王」。
その巨大なプロジェクトを前にして、このあまりにも未熟で、あまりにも問題だらけのチームで、本当にやり遂げることができるのだろうか。

ケンジはペンを置くと、深く長いため息をついた。
リストアップされた課題の多さに、彼は改めて、自分たちがこれから歩んでいく道のりの、途方もない困難さを実感していた。
それは前世で何度も経験したデスマーチの始まりの匂い。
だが、不思議と絶望はなかった。
彼の胸の中にあるのは、むしろ困難なプロジェクトを前にしたPMだけが感じる、武者震いのような静かな闘志だった。
(…やれる。いや、やってみせる)
彼は、震える手でペンを握り直した。
一歩ずつ、終わりの見えないプロジェクトの迷路を進むために。

ケンジが、自らが作り上げた「課題管理票」のあまりにも長いリストを前に、静かな闘志を燃やしていた、まさにその時だった。

『――すごーーーいッ!!!』

突如として、鼓膜を直接揺さぶるようなけたたましい歓声が、ケンジの脳内に直接響き渡った。
「うわっ!?」
ケンジは思わず椅子から飛び上がりそうになる。それは紛れもなく、あのポンコツ女神の声だった。相変わらずTPOというものを一切わきまえない、デリカシーのないテレパシーだった。
『見てたよ、ケンジさん! いやー、もう最高だったわ!』
女神の声は、まるで応援しているスポーツチームが逆転サヨナラ勝ちでも収めたかのように、興奮と賞賛に満ち溢れていた。

ケンジは片手でズキズキと痛み始めたこめかみを押さえながら、内心で深いため息をついた。
(…だから、いきなり大声で話しかけるのはやめていただきたい…)
しかし、クライアントからのコミュニケーションを無視するわけにはいかない。それがプロジェクトマネージャーという哀しい生き物だった。
ケンジは意識の中で女神へと応答する。
『…ご声援、どうもありがとうございます。ですが、今は少々取り込んでおりまして』
『いいじゃない、いいじゃない! ちょっとくらい! いやー、それにしてもすごかったわねぇ! あの最後のコンボ! ゴードン君が敵を押さえて、シーナちゃんが陽動。そこにルリエルちゃんの雷撃――完璧な連携だったわ!』
そのあまりにも的外れで、表面的な感想に、ケンジはさらに頭痛がひどくなるのを感じていた。
(…この人、戦闘のプロセスをまったく理解していない…)
彼女は、ただ結果だけを見て、その派手な部分だけを切り取って喜んでいるだけだ。その裏側で、どれだけの緻密な計算とギリギリの判断が行われていたかなど、まるで興味がないようだった。

『それに、あなたのあの、よく分からないけど自信満々な指示!』
女神は続ける。
『“タスクキル”…って結局なんのことか分からないけど、ケンジさんがそれを言った時、すごく頼もしく見えたの!』
(…それは、どうも)
もはやケンジは相槌を打つ気力さえ失いかけていた。
そして極めつけに、女神はこれ以上ないほど得意げな声でこう言い放ったのだ。

『――やっぱり、あなたをスカウトした私の目に狂いはなかったわ!』

(…出た。手柄の横取り…)
ケンジはもはや驚きもしなかった。
前世で何度も見てきた光景だ。プロジェクトが炎上している間は知らんぷりを決め込み、すべてが終わった後でしゃしゃり出てきて、「まあ、俺が彼を任命したんだからな」と悦に入る、無能な上司の姿と完全に一致していた。

『これで私の上司(主神)への報告書もちょっとは格好がつくわ! いやー、ようやく“管理不行き届き”のレッテル返上よ!』
女神は一人上機嫌でぺらぺらと喋り続けている。
ケンジは、そのあまりにも俗っぽい神の言葉をただ無言で聞き流していた。そして彼の視線は、再び手元にある羊皮紙へと戻される。
そこには、女神が賞賛してやまない華々しい勝利の裏側で生まれた、数々の生々しい「課題」がリストアップされている。
【リソース管理の最適化】
【タスク優先順位の認識共有】
【状況変化への柔軟な対応能力の欠如】
女神は、この課題を一つとして認識してはいないのだろう。
彼女にとっては、結果が良ければすべて良いのだ。
だが、それではダメなのだ。
プロジェクトは成功を継続させてこそ意味がある。一度の奇跡的な勝利に浮かれて、根本的な問題から目を逸らせば、次こそ本当にすべてが終わる。
――でもさ、もし次にまた危ない場面があったら、私、ちゃんと見てるからね。
女神の脳内通信に、突如として、そんな一言が混じった。ほんの一瞬、彼女の底抜けな明るさから滲み出た、真剣で、どこか頼りない本心。
ケンジは、その言葉に思わずペンを握る手にぐっと力を込めた。
上司(クライアント)が浮かれている時こそ、現場の管理者は冷静でいなければならない。
彼は、女神の陽気な独演会を遮るように、静かに、しかしはっきりとした口調で反論の狼煙を上げた。
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