ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第2章:赤いタスクと二つの正義

第41話:母の涙とプロジェクト・マイグレーション

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ケンジの最後の偵察作戦が承認され、パーティには張り詰めた空気が流れていた。ワイバーンの巣へ直接潜入する。一歩間違えれば、命はない。

夜の闇が山を覆い、風鳴りの山が不気味な風音を唸らせる頃、作戦は決行された。

ケンジとゴードンは、ワイバーンの巣から十分に離れた場所で待機する。目の前には、ルリエルの魔法で投影されたホログラム地図が浮かんでいた。地図上には、シーナが進むルートが点線で示されている。

「ルリエルさん、準備はいいですか?」

ケンジが真剣な眼差しで尋ねる。

「はい、ケンジさん。いつでも」

ルリエルは深く息を吸い、目を閉じて精神を集中させた。身体から淡い光が放たれ、周囲の魔力が彼女の周りに集まっていく。遠見の魔法は、術者の魔力を視覚として空間に投影する高度な魔法だ。しかし、魔力乱流が荒れ狂うこの山では、魔法の制御は非常に困難だった。

一方、シーナは闇に紛れ、ワイバーンの巣へと向かっていた。彼女の身体は影そのもののように、闇の中を滑っていく。その足音は風の音にすら紛れ、誰にも気づかれることはない。

(まったく、ボスも大層な仕事を頼んでくれるもんだぜ。こんな危険な場所に、一人で忍び込むなんて……)

心の中で悪態をつきながらも、シーナの表情はプロとしての確かな決意に満ちていた。ケンジの「悲劇を避けるための唯一の道」という言葉を信じているからこそ、彼女はこの危険な任務に命を懸けることができた。

ワイバーンの巣に近づくにつれ、魔力乱流の不穏な気配はさらに強まる。周囲の岩肌は、まるで生きているかのように不規則に脈動していた。巨大な心臓がすぐそばで鼓動しているかのようだ。

そして、ついにシーナは、巨大な洞窟の入り口へとたどり着いた。洞窟からは熱気と、焦げ付くような硫黄の匂い、そして湿った土の香りが混じり合って漂ってくる。

シーナは身を隠し、待機しているケンジとルリエルに心の中で通信を送る。

『ボス、着いたぜ。ここから、ルリエルのお嬢ちゃんに任せる』

その通信を合図に、ルリエルは遠見の魔法をワイバーンの巣へと放った。

彼女の魔法の視界は、光の届かない深海へと潜っていくかのように、ゆっくりと、しかし確実に進んでいく。ケンジのタブレットには、ルリエルの視覚情報がリアルタイムで投影され始めた。

最初に映し出されたのは、洞窟の奥にある、平らな岩盤の上に大切に並べられた、数羽のヒナだった。産まれたばかりなのだろうか、小さな身体を寄せ合って無邪気に眠っている。その身体から聞こえるのは、か細く、しかし確かに生きているという証の小さな鳴き声。狂暴なワイバーンのヒナとは思えないほど、愛らしく、か弱い命だった。

ルリエルは、その光景に思わず息をのむ。彼女の視界が、ヒナたちの上でゆっくりと揺れていた。

「ヒナが……いるわ」

ルリエルの声は、驚きと安堵に満ちていた。

そして、そのヒナたちを守るように、巨大な親ワイバーンの姿が映し出される。身体を丸め、ヒナたちを巨大な翼で包み込むその姿は、狂暴なモンスターとは全く違っていた。

ワイバーンは苦しそうに顔を歪め、不規則な魔力の波が、まるで電流のように絶えず放たれている。その様子は、彼女の身体を内側から蝕んでいるかのようだ。荒い息遣いが、遠見の魔法を通してルリエルの耳に届く。

ルリエルの遠見の魔法は、親ワイバーンの魔力から、一つの感情を読み取った。それは深い恐怖。何かに怯えている。だが、その恐怖よりも強く、ルリエルの心に響いてきたのは、ヒナたちに向けられた痛切な愛情だった。

「このワイバーンは、狂暴なモンスターではないわ……」

ルリエルの声は震えていた。ワイバーンは、魔力乱流という世界の「バグ」によって心身を蝕まれながらも、ヒナたちを守ろうとする一人の母親だったのだ。

ルリエルの翡翠の瞳から、一筋の涙が頬を伝った。ワイバーンの苦しみとヒナたちへの愛情を、まるで自分のことのように感じていた。

ケンジのタブレットには、ルリエルの視覚情報と、ワイバーンのバイタルデータが映し出されていた。

【対象:ワイバーン】
【状態:重度の魔力汚染】
【感情:ヒナへの愛情(極大)、侵入者への恐怖(極大)】

ルリエルの感情的な観測と、自身の論理的な分析が完全に一致したことに、ケンジは確信を持った。

「やはり、そうだったのか……」

ワイバーンの異常な攻撃性は、ヒナを守るための母親としての本能だった。そして、その苦しみは、世界の「バグ」である魔力乱流によってもたらされたものだったのだ。彼らは、世界の「バグ」によって苦しんでいる母親と子どもたちを救うための、プロジェクトを遂行していた。

『ボス、無事任務完了だ。そろそろ帰るぜ』

シーナからの通信が届く。

ケンジはタブレットを閉じると、立ち上がり、ゴードンに視線を向けた。

「ゴードンさん。作戦目標を、変更します」

ゴードンは硬い表情で頷く。彼はケンジの言葉に、すでに予感を感じていた。

夜が明け、太陽の光が風鳴りの山を照らし始める頃、シーナとルリエルは無事に野営地へと戻ってきた。二人の顔には疲労の色が濃いが、その瞳には確かな充実感が宿っている。

ケンジは彼女たちが戻るのを待ち、焚き火を囲む皆の前に立った。ゴードンは、いつも通りの厳しい表情で、ただ静かに彼の言葉を待っている。

ケンジは、皆の顔を一人ずつ見回した。彼の瞳はもはや単なるプロジェクトマネージャーのものではない。そこには、仲間たちの命と、苦しむ母親ワイバーンの命を救いたいと願う、強い意志が宿っていた。

「皆さん、これまでの調査、本当にお疲れ様でした。そして、シーナさん、ルリエルさん。危険な任務、ありがとう」

ケンジは深く頭を下げた。

「さて、僕たちはこの調査を通して、いくつかの重要な事実を知ることができました」

ケンジは焚き火の揺らめく炎を見つめ、一呼吸置く。皆の視線が、彼の次の言葉を待っていた。焚き火のパチパチという音だけが響く。

「ルリエルの観測からも分かった通り、このワイバーンは狂暴なモンスターではありません。彼女の心には、ヒナたちに向けられた深い愛情と、侵入者に対する深い恐怖がありました。世界の『バグ』によって苦しみながらも、ヒナたちを守ろうとする、一人の母親だったんです」

ルリエルの瞳から、再び一筋の涙が頬を伝った。ケンジが彼女の気持ちを理解してくれている、その事実が何より嬉しかった。

シーナは焚き火の熱を浴びながら、不敵な笑みを浮かべていた。危険な任務ばかりを面白がる自分を、ケンジはいつだって想定外の方法で裏切ってくれる。その非常識な発想こそが、彼女がこのリーダーを信頼する理由だった。

ケンジは皆の反応を確かめ、言葉を続けた。

「僕たちの目標は、『討伐』ではありません」

ゴードンは硬く拳を握りしめた。討伐。その言葉が、彼の中に眠る過去の記憶を呼び起こす。
(やめてくれ……)
妹の手を掴もうと、必死に手を伸ばしたあの日の自分が重なる。届かなかった指先。耳に残る、かすれた声。
「作戦を続行しろ!」
冷徹なリーダーの声が、彼の脳裏にこだまする。

「作戦目標を、変更します」

ケンジの声が、過去の幻影を打ち破る。

「目標は、ワイバーンの討伐ではありません。母子共に、安全な場所へ移設し、交易路の安全を確保することです」

ゴードンは、ケンジの言葉に、妹の命を救うためのもう一つの道を見た。あの時、もしリーダーがこんな選択肢を提示してくれたなら……。感情に流されることなく、論理的に、そして最も良い結果を導き出すケンジの哲学が、彼の頑なな心を解き放つ。

「……ボス。俺は、お前の作戦に乗る。ワイバーンを、安全な場所へ移設する。それが、俺たちの新たな任務だ」

ゴードンの言葉は、重く、そして力強かった。それは、ケンジの提案に対する絶対的な信頼の証だった。

ケンジは深く頷く。

「ありがとうございます。ゴードンさん」

彼は皆の顔を見回した。

「ワイバーンを安全な場所へ移設する。それが、僕たちの新たなプロジェクトの目標です。さあ、皆さん。このプロジェクトを、成功させましょう」

ケンジの言葉に、皆は静かに、そして力強く頷いた。

ワイバーン討伐という危険なプロジェクトは、ワイバーンを救うという、希望に満ちたプロジェクトへと、その姿を変えた。朝日を浴びて金色に染まる山肌を、冷たい風が吹き抜けていく。誰かが焚き火に薪をくべ、パチッと火の粉が跳ねた。それは、新たな旅の始まりを告げる、静かな決意の音だった。
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