ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第2章:赤いタスクと二つの正義

第55話:緊急時対応計画(コンティンジェンシープラン)

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ケンジの目はカッと見開かれた。超高速で稼働する情報処理空間から、絶望的な現実へと意識が引き戻される。ワイバーンの咆哮、仲間たちの悲鳴、世界の終わりを告げるような風の音。そのすべてが、濁流のように五感に押し寄せた。

だが、心は混沌に支配されていなかった。脳裏には、スキル【プロジェクト管理】が弾き出した唯一の活路が、一本の揺るぎない光の道となって示されている。

彼は、パニックに陥る仲間たち、そして眼下で繰り広げられる地獄絵図を、感情を映さない冷徹な管理者の目で見つめた。その声は、絶望的な戦場に不釣り合いなほど冷静で、事務的で、絶対的な権威に満ちている。

「現時刻をもって、当初のプロジェクトは中止!」

崖の上に響く雷鳴のような声に、仲間たちの動きが止まる。信じられないといった目で、彼らはケンジを振り返った。

「これより、緊急時対応計画(コンティンジェンシープラン)に移行します!」

コンティンジェンシープラン。誰も意味を理解できない、異世界の呪文のような響き。だが、言葉に込められた有無を言わせぬリーダーの意志だけは、痛いほど伝わってくる。

ケンジは、彼らが反論する時間さえ与えない。矢継ぎ早に、自らが分析した状況を簡潔に共有していく。

「状況を報告します! 勇者ガイのパーティは、戦力の70%以上を喪失。およそ1分以内に全滅します!」
「ガイのパーティが全滅した場合、ワイバーンの敵意(ヘイト)は、100%の確率で、巣の近くにいる我々へと転移します!」
「そして、親個体の狂乱で、巣の洞窟が崩落を始めている! 我々の保護対象であるヒナは、およそ3分以内に失われます!」

それは、絶望的な事実の羅列だった。だが、ケンジの声に、絶望の色はない。彼はただ、解決すべき「課題」を、客観的なデータとして読み上げているだけだ。

「以上の分析結果に基づき、これより、我々のプロジェクト目標を、再定義します!」

彼は崖の端へと一歩進み出ると、眼下の惨状、そして仲間たちを見据えた。

「新たな目標は、二つ!」

ケンジは、指を一本立てる。

「最優先事項(トップ・プライオリティ):勇者ガイのパーティの救出、および、安全圏への離脱支援!」

あまりにも信じがたい言葉に、最初に異を唱えたのはシーナだった。
「はぁ!? 救出ですって!? あいつは、この事態を引き起こした元凶じゃないか! なんで、あたしたちが、あんな馬鹿の尻拭いを…!」

「異論は認めません!」

ケンジは一喝のもとにシーナの言葉を遮った。

「これは感傷的な判断ではありません。論理的なリスク管理です。彼らが全滅すれば、次に死ぬのは我々です。彼らの生存は、我々が生き残るための絶対条件(マスト)なのです!」

その冷徹な正論に、シーナはぐっと言葉を詰まらせた。

ケンジは、すぐに二本目の指を立てる。

「第二目標(セカンダリ・オブジェクト):ワイバーンのヒナの確保!」

彼はゴードンの兜の奥の瞳をまっすぐ見つめた。

「当初の目標は、まだ、死んではいない。我々は、あの母親を救えなかった。だが、その子供たちを、見殺しにすることだけは、絶対にあってはならない!」

その言葉には、冷静なプロジェクトマネージャーとしての顔を超えた、一人の人間としての熱い想いが込められていた。ゴードンの心に、その言葉が深く突き刺さる。

ケンジは高らかに宣言した。

「これより、我々は、この二つの目標を、同時に、達成します!」

あまりにも無謀で、正気の沙汰とは思えない作戦。だが、その言葉には、聞く者の心を奮い立たせる不思議な力があった。絶望的な状況下でケンジが作り出した絶対的な「秩序」。それが、仲間たちの心に再び光を灯そうとしていた。

狂乱の戦場に響き渡った、あまりにも冷静な宣言。それは、混沌の中に打ち込まれた絶対的な秩序の楔だった。

仲間たちの顔から、絶望とパニックの色が潮が引くように消えていく。彼らの瞳に宿ったのは、リーダーへの揺るぎない信頼の光だった。

そうだ。俺たちには、この男がいる。どんな絶望的な状況でも決して諦めず、必ず活路を導き出す最高のプロジェクトマネージャーが。

「―――はいよ、ボスッ!」

最初に沈黙を破ったのは、シーナの不敵な笑みだった。瞳に恐怖はない。あるのは、不可能とも思えるミッションを前にしたプロフェッショナルとしての静かで熱い高揚感だけ。

「了解ですわ、ケンジさん!」

ルリエルも、血の滲んだ唇をきつく結び、力強く頷く。震えはすでに止まっていた。託された新たな役割。それを今度こそ完璧に果たしてみせるという、天才魔術師としての誇りが心を再び燃え上がらせていた。

ゴードンは言葉を発しなかった。ただ、その巨大な戦斧の柄を一度だけ盾の縁でゴンと力強く打ち鳴らす。それは、いかなる命令であろうと必ずやり遂げるという寡黙な戦士の、何よりも雄弁な誓いの音だった。

仲間たちの迷いは完全に消えた。意識はもはや崩壊した過去の計画にはない。ただケンジが示した未来を切り拓くための新たな二つの目標だけを見据えていた。

「ルリエルさん!」

ケンジの矢継ぎ早な指示が飛ぶ。

「あなたの魔力は、この作戦の生命線です! 攻撃ではなく、支援に徹してください! ワイバーンの視界を眩ます閃光魔法(フラッシュ)を、断続的に放ち続けてください! 目的は、ガイのパーティが体勢を立て直すための、わずかな時間を稼ぐこと!」

「お任せをッ!」

ルリエルは即座に詠唱を開始する。杖の先から放たれたのは、大魔法ではない。KPTで訓練を重ねた、低コストで効果的な無数の光の矢。それがワイバーンの眼前に降り注ぎ、巨大な身体の動きを一瞬だけ鈍らせた。

「シーナさん!」

「分かってる!」

ケンジが叫ぶより早く、シーナの身体は、すでに疾風となって駆け出していた。

「あなたのタスクは、第二目標の達成! この混乱に乗じて、巣に潜入! ヒナを確保してください!」

「3分だろ!? やってやるよッ!」

シーナは、崖の岩肌を重力を無視するように駆け下りていく。その姿は、もはやただの盗賊ではない。チームの未来を双肩に担う、信頼に応えんとする一人の戦士だった。

「ゴードンさん!」

ケンジは最後に、鋼鉄の巨人へと向き直る。

「我々のタスクは、最優先事項の達成です! 僕と共に崖を降りる! あなたの盾がガイたちの唯一の希望です!」

「―――承知した」

ゴードンの短い返答。だがその声には、彼の魂のすべてが込められていた。

眼下では、ガイのパーティがなすすべもなく蹂躙されている。英雄の輝きは、もはやない。そこにあるのは、ただ死の恐怖に怯える敗残兵の姿だけ。

絶望的なカオス。だが、その混沌の中にあって、崖の上から行動を開始したケンジのパーティだけが、まるで精密な機械のように統率の取れた動きを見せ始めていた。

ルリエルが上空から支援の魔法を放ち、ワイバーンの注意を惹きつける。シーナが隙を突いて崩落寸前の巣へと潜入していく。そしてケンジとゴードンが、ガイたちを救出するために絶望的な戦場の中心へと身を投じようとしていた。

崩壊した計画にも、目の前の絶望にも、彼らはもう打ちひしがれない。ただリーダーが示した新たな目標に向かって、自らのタスクを完璧に実行するだけ。

それは、あまりにも過酷なリアルタイム・リスク対応という試練の中で、彼らが本当の意味で「チーム」へと生まれ変わった証明だった。
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