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第3章:偽りの繁栄と経済戦争
第69話:俺を君の“リソース”として使ってほしい
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「…『アノマリー』。世界の理から外れた存在。そうだろう?」
ガイのその静かで重い問いが、作戦司令室と化した塔の一室に響き渡る。
ケンジの仲間たちは、ただ言葉を失って、目の前の変わり果てた勇者の姿を見つめていた。シーナの指は短剣の柄の上を固く彷徨い、ルリエルの瞳は警戒と、それ以上に深い困惑に揺れている。ゴードンはケンジの前に立ちはだかったまま微動だにしない。
彼らの剥き出しの敵意と警戒心。そのすべてをガイは静かに受け止めていた。そして彼はゆっくりと自らの腰に手をやる。
仲間たちが息をのむ。彼が神々しい聖剣を抜き放つのではないかと誰もが身構えたその瞬間、ガイが手で掴んだのは剣の柄ではなかった。
彼は自らの勇者としての誇りの象徴でもあったはずの聖剣を、鞘ごと腰から外すと、まるで過去の過ちを断ち切るかのように静かに部屋の床へと置いたのだ。カラン、と虚しい金属音が響く。
そして、ガイはその場で深く頭を下げた。王や神に対するよりも深く、床にその金色の髪がつくほどに。それは絶対的な敗北を認めた者だけができる、完全な謝罪の形だった。
「―――俺のやり方は間違っていた」
絞り出すような声だった。その一言に、彼のこれまでの人生のすべてを否定するほどの重い痛みが込められていた。
「俺は自分の力を、正義を信じすぎていた。その結果、仲間を危険に晒し、そして君たちの緻密な計画を台無しにした。…本当にすまなかった」
彼は顔を上げない。ただ自らの罪を告白するかのように言葉を続ける。
「だが」
その声に力がこもった。
「人々を救いたいという想いだけは本物だ。この国を、人々を脅かすあらゆる脅威から守り抜きたい。その気持ちにだけは嘘偽りはない」
彼はそこで一度言葉を詰まらせ、この場にいる誰もが予想だにしなかった衝撃的な言葉を口にした。
「―――俺と俺の仲間を、君の“リソース”として使ってほしい」
リソース。ケンジが好んで使う、無機質な異世界の言葉。それがガイの誇り高き勇者の唇から紡ぎ出された。その事実が、何よりも雄弁に彼の変化を物語っていた。
シーナも、ルリエルも、そしてゴードンさえも、ただ唖然としてその言葉の意味を測りかねる。
ガイはゆっくりと顔を上げた。その琥珀色の瞳にもはや以前の傲慢さはない。そこにあるのは、自らのプライドをすべて捨て去り、それでもなお人々を救うことを諦めない、一人の男としての真摯な光だけだった。
「君のやり方は俺には理解できないことばかりだ。だが、正しいのは君の方だった。俺の個の武力では、この世界の“バグ”には到底太刀打ちできない。それを俺はこの身をもって知った」
彼はケンジの「手法」を完全に認めたのだ。
「だから頼む。俺たちを君のプロジェクトの一部に加えてくれ。俺たちは君の指示に従う。君の計画の一つの駒として動こう。俺たちの力も、仲間たちの貴族への影響力も、すべて君の管理下に置いてほしい」
それはあまりにも衝撃的な申し出だった。勇者ガイが、そのすべてのプライドを捨て、ライバルであったはずのケンジのその手法の軍門に下ることを宣言したのだ。彼は自らが英雄であることをやめ、ケンジのプロジェクトを成功させるための「資源」となることを選び取った。
部屋は再び深い静寂に包まれた。後に残されたのは、床に置かれた聖剣の静かな輝きと、頭を下げたままケンジの返事を待つ一人の男の、あまりにも真摯な覚悟だけだった。
ケンジの仲間たちは、ただ息をのんでそのありえない光景を見守っていた。シーナは警戒に細めていた瞳を、今はただ驚愕に見開いている。ルリエルは怒りでも軽蔑でもない、ただ純粋な困惑にその美しい眉をひそめていた。ゴードンはケンジの前に立ちはだかったまま微動だにしない。だが、彼の兜の奥の瞳がこれまでに見たこともないほど激しく揺れ動いているのを、ケンジは感じていた。
そして、そのすべての視線が今、ケンジという一点に注がれている。このあまりにも唐突で、そしてあまりにも大きな申し出。それをどう判断するのか。このチームのリーダーとして。この世界の運命を左右しかねないプロジェクトのマネージャーとして。
ケンジの心は静かだった。彼の脳内では感情のさざ波一つ立ってはいなかった。ただ、彼のスキル【プロジェクト管理】が超高速でこの新たな事象を分析、評価しているだけだった。
(インプット:勇者ガイのパーティによる協力要請)
(提供可能リソース:高レベルの戦闘員、王宮貴族へのコネクション、王国騎士団との連携能力、豊富な資金力…)
ケンジの視線がテーブルの上のロードマップへと向けられる。そこには、彼が頭を悩ませていた数々の致命的な課題がリストアップされていた。
(課題1-1:高位神官への協力要請。現状の承認確率は10%以下…)
(シミュレーション開始。変数『ガイのコネクション』を追加…)
(再計算結果:承認確率、95%に上昇)
(課題1-2:特殊薬草『月影草』の確保。現状の調達ルートは裏社会のみ。コストは高く、量は不安定…)
(シミュレーション開始。変数『ガイの騎士団連携能力』を追加…)
(再計算結果:王国の正規ルートからの大量確保が可能。コストは30%以下に圧縮)
(フェーズ2:行軍。現状のルートは危険地帯を迂回するため、所要日数は最短でも五日…)
(シミュレーション開始。変数『ガイのパーティによる先行偵察および護衛』を追加…)
(再計算結果:南の最短ルートの安全確保が可能。所要日数は三日に短縮)
弾き出されていく、そのあまりにも圧倒的なシミュレーション結果。ケンジのプロジェクトマネージャーとしての頭脳が結論を導き出す。この申し出を断るという選択肢はない。それはプロジェクトを成功へと導くための最善手どころか、唯一無二の活路だったのだ。
ケンジはゆっくりと顔を上げた。そして頭を下げたままのガイへと静かに歩み寄る。彼は床に置かれたガイの聖剣を拾い上げた。そしてその鞘を両手で捧げ持つようにして、ガイの目の前へと差し出す。
「顔を上げてください。勇者、ガイ殿」
ケンジの声に、ガイはおそるおそる顔を上げた。その琥珀色の瞳に、ケンジははっきりと告げた。
「あなたの真摯な申し出、謹んでお受けします」
その言葉に、ガイの瞳が安堵と新たな決意の光に輝いた。
「ですが」
ケンジは続ける。
「あなたをただの“駒”として使うつもりはありません。あなたとあなたの仲間たちは、この『ミレット村救済計画』における、我々の最も重要なパートナーです」
彼は聖剣をガイのその手に返す。それは、二人の勇者が初めてその手と手を取り合った瞬間だった。
ケンジは仲間たちへと向き直る。
「皆さん、よろしいですね?」
シーナがちっと舌打ちを一つすると、不敵に笑った。
「ボスがそう判断したんなら文句はねえよ。ただし、こいつがまた勝手な真似をしたら、その時はあたしがこいつの喉笛を掻き切る。それでいいな?」
「ええ。結構です」
ルリエルとゴードンも静かに頷いた。彼らはケンジの判断を信じていた。
こうして、かつて敵対した二つのパーティは、一つの目標に向かって歩み出すことになった。ケンジの緻密な計画(ロジック)と、ガイの持つ強力な資源(リソース)とが、今この場所で融合し、かつて誰も見たことのない最強のプロジェクトチームが形成されたのだ。
「では」
ケンジはテーブルの上のロードマップを指し示す。その顔にもはや疲労の色はない。そこにあるのは、不可能を可能に変えんとするリーダーの力強い輝きだけだった。
「これより、キックオフミーティングを再開します。ガイさん、まずはあなたのチームが提供可能な全リソースの詳細なリストアップからお願いします」
新たな、そして本当の戦いが、今、幕を開けた。
ガイのその静かで重い問いが、作戦司令室と化した塔の一室に響き渡る。
ケンジの仲間たちは、ただ言葉を失って、目の前の変わり果てた勇者の姿を見つめていた。シーナの指は短剣の柄の上を固く彷徨い、ルリエルの瞳は警戒と、それ以上に深い困惑に揺れている。ゴードンはケンジの前に立ちはだかったまま微動だにしない。
彼らの剥き出しの敵意と警戒心。そのすべてをガイは静かに受け止めていた。そして彼はゆっくりと自らの腰に手をやる。
仲間たちが息をのむ。彼が神々しい聖剣を抜き放つのではないかと誰もが身構えたその瞬間、ガイが手で掴んだのは剣の柄ではなかった。
彼は自らの勇者としての誇りの象徴でもあったはずの聖剣を、鞘ごと腰から外すと、まるで過去の過ちを断ち切るかのように静かに部屋の床へと置いたのだ。カラン、と虚しい金属音が響く。
そして、ガイはその場で深く頭を下げた。王や神に対するよりも深く、床にその金色の髪がつくほどに。それは絶対的な敗北を認めた者だけができる、完全な謝罪の形だった。
「―――俺のやり方は間違っていた」
絞り出すような声だった。その一言に、彼のこれまでの人生のすべてを否定するほどの重い痛みが込められていた。
「俺は自分の力を、正義を信じすぎていた。その結果、仲間を危険に晒し、そして君たちの緻密な計画を台無しにした。…本当にすまなかった」
彼は顔を上げない。ただ自らの罪を告白するかのように言葉を続ける。
「だが」
その声に力がこもった。
「人々を救いたいという想いだけは本物だ。この国を、人々を脅かすあらゆる脅威から守り抜きたい。その気持ちにだけは嘘偽りはない」
彼はそこで一度言葉を詰まらせ、この場にいる誰もが予想だにしなかった衝撃的な言葉を口にした。
「―――俺と俺の仲間を、君の“リソース”として使ってほしい」
リソース。ケンジが好んで使う、無機質な異世界の言葉。それがガイの誇り高き勇者の唇から紡ぎ出された。その事実が、何よりも雄弁に彼の変化を物語っていた。
シーナも、ルリエルも、そしてゴードンさえも、ただ唖然としてその言葉の意味を測りかねる。
ガイはゆっくりと顔を上げた。その琥珀色の瞳にもはや以前の傲慢さはない。そこにあるのは、自らのプライドをすべて捨て去り、それでもなお人々を救うことを諦めない、一人の男としての真摯な光だけだった。
「君のやり方は俺には理解できないことばかりだ。だが、正しいのは君の方だった。俺の個の武力では、この世界の“バグ”には到底太刀打ちできない。それを俺はこの身をもって知った」
彼はケンジの「手法」を完全に認めたのだ。
「だから頼む。俺たちを君のプロジェクトの一部に加えてくれ。俺たちは君の指示に従う。君の計画の一つの駒として動こう。俺たちの力も、仲間たちの貴族への影響力も、すべて君の管理下に置いてほしい」
それはあまりにも衝撃的な申し出だった。勇者ガイが、そのすべてのプライドを捨て、ライバルであったはずのケンジのその手法の軍門に下ることを宣言したのだ。彼は自らが英雄であることをやめ、ケンジのプロジェクトを成功させるための「資源」となることを選び取った。
部屋は再び深い静寂に包まれた。後に残されたのは、床に置かれた聖剣の静かな輝きと、頭を下げたままケンジの返事を待つ一人の男の、あまりにも真摯な覚悟だけだった。
ケンジの仲間たちは、ただ息をのんでそのありえない光景を見守っていた。シーナは警戒に細めていた瞳を、今はただ驚愕に見開いている。ルリエルは怒りでも軽蔑でもない、ただ純粋な困惑にその美しい眉をひそめていた。ゴードンはケンジの前に立ちはだかったまま微動だにしない。だが、彼の兜の奥の瞳がこれまでに見たこともないほど激しく揺れ動いているのを、ケンジは感じていた。
そして、そのすべての視線が今、ケンジという一点に注がれている。このあまりにも唐突で、そしてあまりにも大きな申し出。それをどう判断するのか。このチームのリーダーとして。この世界の運命を左右しかねないプロジェクトのマネージャーとして。
ケンジの心は静かだった。彼の脳内では感情のさざ波一つ立ってはいなかった。ただ、彼のスキル【プロジェクト管理】が超高速でこの新たな事象を分析、評価しているだけだった。
(インプット:勇者ガイのパーティによる協力要請)
(提供可能リソース:高レベルの戦闘員、王宮貴族へのコネクション、王国騎士団との連携能力、豊富な資金力…)
ケンジの視線がテーブルの上のロードマップへと向けられる。そこには、彼が頭を悩ませていた数々の致命的な課題がリストアップされていた。
(課題1-1:高位神官への協力要請。現状の承認確率は10%以下…)
(シミュレーション開始。変数『ガイのコネクション』を追加…)
(再計算結果:承認確率、95%に上昇)
(課題1-2:特殊薬草『月影草』の確保。現状の調達ルートは裏社会のみ。コストは高く、量は不安定…)
(シミュレーション開始。変数『ガイの騎士団連携能力』を追加…)
(再計算結果:王国の正規ルートからの大量確保が可能。コストは30%以下に圧縮)
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(シミュレーション開始。変数『ガイのパーティによる先行偵察および護衛』を追加…)
(再計算結果:南の最短ルートの安全確保が可能。所要日数は三日に短縮)
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ケンジはゆっくりと顔を上げた。そして頭を下げたままのガイへと静かに歩み寄る。彼は床に置かれたガイの聖剣を拾い上げた。そしてその鞘を両手で捧げ持つようにして、ガイの目の前へと差し出す。
「顔を上げてください。勇者、ガイ殿」
ケンジの声に、ガイはおそるおそる顔を上げた。その琥珀色の瞳に、ケンジははっきりと告げた。
「あなたの真摯な申し出、謹んでお受けします」
その言葉に、ガイの瞳が安堵と新たな決意の光に輝いた。
「ですが」
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こうして、かつて敵対した二つのパーティは、一つの目標に向かって歩み出すことになった。ケンジの緻密な計画(ロジック)と、ガイの持つ強力な資源(リソース)とが、今この場所で融合し、かつて誰も見たことのない最強のプロジェクトチームが形成されたのだ。
「では」
ケンジはテーブルの上のロードマップを指し示す。その顔にもはや疲労の色はない。そこにあるのは、不可能を可能に変えんとするリーダーの力強い輝きだけだった。
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