ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第3章:偽りの繁栄と経済戦争

第70話:故郷への道、最初の兆候

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王都の西門が、ゆっくりと重い扉を開いていく。朝日がスポットライトのように、門をくぐる一行の姿を黄金色に照らし出した。それは彼らがこれまで経験したことのない、あまりにも完璧な船出だった。

先頭を歩くのはゴードン。その鋼鉄の鎧は王城の最高の職人の手によって隅々まで整備され、ワイバーンとの激闘で受けた深い傷跡はもはやどこにもない。背負う荷物も以前とは比べ物にならないほど充実していた。

その後ろを進むのは一台の頑丈な馬車。御者台に座るケンジの手綱を握る手つきはまだぎこちないが、その冷静な瞳はまっすぐに西の地平線だけを見据えている。馬車の荷台には山のように物資が積まれていた。ガイの貴族としてのコネクションを最大限に活用し、王宮の医療院から正式に融通された最高級の医薬品と清潔な包帯。そして、最低でも一ヶ月はもつであろう保存食料と清水。

その荷台の隅に、ルリエルが静かに腰掛けている。彼女の膝の上には、王立魔術院の禁書庫からガイの特別な許可を得て持ち出すことのできた、禁断の古代文献の束が置かれていた。アノマリーに関する記述があるかもしれない唯一の希望だ。

そして、馬車の隣を軽やかな足取りで歩いているのはシーナだった。

彼女の表情に、かつて彼女を支配していた焦りや絶望の色はもはや欠片もない。フードの奥から覗く翡翠の瞳は、まるで夜明けの一番星のように強く、希望の光に満ち溢れていた。

(帰れるんだ)

シーナは心の中で何度もその言葉を反芻していた。

(あたしは今、故郷に帰るんだ)

これまではずっと一人だった。稼いだなけなしの金を薬に変え、人知れず村へと送り届けるだけ。それは終わりも見えず、誰にも理解されることのないあまりにも孤独な戦いだった。だが今は違う。彼女の隣には仲間がいる。自分の個人的な問題をチーム全体の最重要インシデントだと断言してくれた、最高のリーダーがいる。自分の痛みをまるで自分のことのように感じ、共に涙を流してくれた心優しき天才魔術師がいる。そして、自分の悲しみをその巨大な背中でただ黙って受け止めてくれた、誰よりも頼りになる守護者がいる。

彼女はもう一人ではない。このあまりにも頼もしい仲間たちと共に、故郷を救うために帰るのだ。その事実がシーナの心の最も深い場所を温かい光で満たしていた。彼女の唇に自然と笑みが浮かぶ。それは彼女がこのパーティに加わってから、初めて見せた心の底からの偽りのない笑顔だった。

ガイの協力によって、彼らの旅は驚くほど順調だった。彼が事前に騎士団へ根回しをしてくれたおかげで、街道の治安は完璧に維持されている。以前は恐る恐る進まなければならなかった盗賊の縄張りも、今や騎士たちが常駐する安全な道へと変わっていた。

ケンジが完璧なロードマップを描き、ガイがそのロードマップを実行するためのすべてのリソースを提供する。かつて敵対した二人の勇者の歪な、しかし最強の協力体制。それが彼らの旅をこれ以上ないほど盤石なものにしていた。

王都を出発してから三日が過ぎた。

ガイの協力によって整備された南の街道は驚くほど安全で、一行の旅はケンジが作成したロードマップ通り完璧に進行していた。日中は、仲間たちとの軽口や、シーナが語る故郷の思い出話で、馬車の中はこれまでの旅では考えられないほど明るい笑い声に満ちていた。

だが、小さな異変はすでに始まっていた。

「…ケンジさん、風の流れが少し変ですわ」

馬車の荷台で古代文献を読んでいたルリエルが、ふと顔を上げて呟いた。
「風に淀みを感じます。まるで水が腐ったときのような、不自然な重さです」

ケンジは手綱を握る手を止めず、冷静に空気を嗅いだ。彼の五感は、この世界に来てから幾度も危機を乗り越える中で、人間離れしたほど鋭敏になっていた。
「気のせいでしょう。この先に黒い森があります。そちらから流れてくる、湿った空気かもしれません」
彼はそう答えたが、その表情には微かな緊張が走っていた。

その小さな違和感は、一行がシーナの言っていた分かれ道を越えた直後から、明確な悪意へと姿を変えた。

「…あれ…?」

最初に異変に気づいたのは、やはりシーナだった。馬車の速度が落ちていることに気づき、不思議そうに首を傾げる。
「どうしたんだい、ボス? なんで急に…」

「いえ…」
ケンジは険しい表情で手綱を握りしめていた。
「馬が進むのを嫌がっているようです」

見れば、屈強な二頭の馬が、明らかに怯えたように足を止め、鼻を荒く鳴らしている。その瞳には、見えない何かへの純粋な恐怖の色が浮かんでいた。

そして、ケンジたちもすぐにその異変の正体に気づく。風景があまりにも不自然にその彩度を失っていくのだ。

それまで道の両脇に青々と茂っていたはずの豊かな森が、まるで病にかかったかのように、その生命の輝きを失っていた。葉は秋でもないのに枯れ葉のような、くすんだ茶色へと変わり果て、枝は力なく垂れ下がっている。鳥のさえずりも、虫の羽音も一切聞こえない。そこにあるのはただ死んだような静寂だけ。

「…なんてこと…。森が死んでいる…?」
馬車の荷台からその光景を見ていたルリエルが信じられないといった表情で呟く。彼女は杖を握りしめると、魔力のすべてを感覚へと集中させた。そして絶望に目を見開く。
「…ダメだわ…。この森からは、生命の魔力が一切感じられない…。マナの流れが完全に淀んで…、まるで腐った水のように、なっている…!」

ゴードンは無言で馬車から降りると、その枯れ木の一本にそっと触れた。そして、その分厚い篭手がまるで脆い炭細工にでも触れたかのように、音もなく幹の中へとめり込んだ。木の幹はすでにスカスカになっていたのだ。

シーナの顔から笑顔が消えていた。
「…おかしい…。こんなはずじゃ、ない…。ここの森は、もっと緑が豊かで…、いつも鳥たちの声で賑やかだったはずなのに…」

彼女の震える声が、その場の重い空気をさらに冷たくする。一行は言葉を失ったまま、そのあまりにも不気味な死の森をゆっくりと進んでいった。

その様子を、冷静に見つめていたのはガイだった。
彼は馬車の陰から静かにその光景を見つめている。彼の瞳は、かつての傲慢な輝きを失い、ただ冷徹なまでに現実を捉えていた。ワイバーンとの戦いで、彼は己の力の限界を知り、この世界の理不尽なまでのバグの恐ろしさを、その身をもって痛感した。
(…やはり、ここもか…)
彼は静かに剣の柄に手をかける。ケンジのロードマップは完璧だった。だが、その計画は、この予期せぬ「領域」の拡大を想定していなかった。

やがて、彼らはシーナが思い出話に語っていた川へとたどり着く。だがそこにあったのは、彼女の記憶の中にある清らかなせせらぎではなかった。

川の流れは完全に淀み、その水面は油が浮いたかのように不気味な光沢を放っていた。魚の姿は一匹も見当たらない。それどころか、川底には腹を上にして力なく浮かぶ無数の魚の死骸が見て取れた。川辺に生えていたはずの瑞々しい草花も、すべて力なく萎れ、土気色に変色している。

「…ああ…」

シーナの唇からか細い悲鳴が漏れた。彼女の心に灯っていた希望の光が、目の前の絶望的な現実によって、一つ、また一つと無慈悲にかき消されていく。彼女の顔から血の気が引いていくのが分かった。

「…ケンジ…」
シーナの傍らにいたガイが静かにケンジに語りかけた。
「俺たちの読みが甘かったようだ。このアノマリーは、想像以上に速く、そして広く広がっている。この先何が待ち受けているか分からん」

その声に、ケンジはわずかに口角を上げた。
「分かっています、ガイさん」
彼の瞳には、恐怖や絶望の色はなかった。ただ、静かな闘志が燃え盛っている。
「リスクが増大した。それだけのことです。ただ、計画の修正を余儀なくされた、というだけのことです」

ケンジはそう言うと、馬車の御者台から静かに立ち上がった。そして、絶望に打ちひしがれるシーナの肩に手を置く。
「シーナさん。分かっています。これはあなたの故郷がおかしくなっていく最初の兆候です」
彼の声は静かだが、力強かった。
「ですが、思い出してください。我々の目的は何でしたか?」

シーナは顔を上げ、震える唇で呟いた。
「…故郷を…救う…」

「その通りです」
ケンジは静かに頷く。
「私たちは、この絶望的な状況を救うためにここにいる。そしてあなたの故郷は、まだ完全に死に絶えたわけではない。まだ間に合うはずです」

ケンジのその言葉に、シーナの瞳に再び小さな希望の光が灯った。彼女は力強く頷いた。

「…ああ、ボス。分かった」
彼女はそう言うと、再び立ち上がり、前を向いた。彼らの本当の戦いは、まだ始まったばかりなのだから。
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