ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第3章:偽りの繁栄と経済戦争

第88話:プロジェクト“市場崩壊”フェーズ1「供給網の寸断」

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夜明け。
その光は決戦の始まりを告げる狼煙だった。安宿の一室に集った仲間たちの顔にもはや迷いの色はない。彼らの瞳に宿るのは、これから始まる前代未聞の経済戦争を必ず成功させるという鋼のような決意だけだった。

テーブルの上の地図を前にケンジが最後の作戦ブリーフィングを開始する。彼の声は静かだったがその響きには、巨大なプロジェクトのすべてを双肩に背負うリーダーとしての揺るぎない重みがあった。

「これより我々は『プロジェクト“市場崩壊”』の第一段階へ移行します」

ケンジは地図の上でフラックス市へ繋がる幾筋もの街道を指し示した。

「最初の目標はフラックス市の生命線である『物流の完全停止』です。アルタイル商会がアーティファクトで生み出した富はこの街道を通じて外部へ流出し、彼らの活動を支える物資はこの街道を通じて内部へ流入してくる。まず我々はこの大動脈と毛細血管のすべてを完全に遮断する」

その壮大な宣言にルリエルが思わず身を乗り出す。
「この街を陸の孤島にするなんてそんなことが本当に…?」
ルリエルの声には、不安が色濃くにじんでいた。彼女の魔法は街を癒やすためのものだ。それを、街を混乱に陥れるために使うことへの抵抗が、まだ彼女の心に残っている。

ケンジは彼女の不安を正面から受け止め静かに答える。「このフェーズに割ける時間はわずか半日。12時間以内に街を封鎖します。無理だと思われるかもしれませんが、僕らが持つリソースを最大限に活用すれば不可能なことではありません」

彼はまずガイへと向き直る。「ガイさん。あなたとあなたのパーティにはこの作戦で最も重要な部分を担っていただきます」
ケンジは地図の上の三本の主要街道を指した。「南の街道、東の街道、そして王都へ繋がる王の道。この三つの大動脈をあなたたちの力で同時に封鎖してほしい」

「承知した。だがどうやってだ? 騎士団の巡回に怪しまれるわけにはいかんぞ」

「問題ありません」
ケンジは静かに微笑む。「あなたたちには『訓練中の事故』を装ってもらいます。ガイさんの聖剣の力が暴走し巨大な岩石が道を塞いでしまった、とかね。あなたほどの勇者の力の暴走です。並の騎士では手出しできません。復旧には数日かかるでしょう」

ガイは一瞬眉をひそめたがすぐに不敵な笑みを浮かべる。「なるほど。君はやはり面白いことを考える」

ケンジは次にゴードンへと向き直る。「ゴードンさん。単独での任務をお願いします。シーナさんの情報によれば公式の街道とは別に、商会が密輸に利用している秘密の地下通路が存在するそうです」
彼はゴードンの瞳を真っ直ぐ見つめる。「あなたのドワーフとしての知識と、何よりその鉱脈を探し当てる特別な感覚でその通路を特定し、完全に破壊してほしい」

ゴードンは短く力強く応えた。「任せろ」

そして最後にケンジはルリエルとシーナへ告げる。「お二人は僕と共にこの街に残り第二、第三段階の準備を開始します。すべての歯車は同時に動かし始めるのです」
シーナは無言で頷いた。その表情は冷たいほどに無感情だ。彼女にとって、この作戦は正義でも悪でもない。ただの仕事。ケンジが提示した計画の合理性を、誰よりも早く見抜いていたのは彼女だった。

ケンジの完璧な采配は彼らが今持つすべてのリソースを最大限に活用し、すべてのリスクを最小限に抑えるための神業のような計画だった。

「では」
ケンジは部屋に置かれた砂時計をひっくり返す。サラサラと流れ落ちる砂。それは作戦開始を告げる合図であり、ミレット村の人々の残り少ない命の時間でもあった。

「―――プロジェクト“市場崩壊”、開始します」

その号令と共に仲間たちは一斉に行動を開始した。
彼らはもはやただの冒険者ではない。最高のスペシャリスト集団としてそれぞれの持ち場へ散っていく。
フラックスという巨大な寄生虫の息の根を止めるために。前代未聞の経済戦争の火蓋は今確かに切って落とされた。

ケンジの静かなしかし絶対的な号令。それを合図に勇者ガイとその精鋭たちは三つの部隊に分かれるとそれぞれの持ち場へ疾風のように駆け出していった。彼らの顔にもはや以前のような迷いはない。そこにあるのは、自らに課せられた型破りなタスクを必ず成功させるというプロフェッショナルとしての強い覚悟だけだった。

一方、ゴードンはひとり街の裏路地を抜けていく。彼はケンジから渡された地下通路の大まかな地図をちらりと見た。
「…こんな紙切れ何の役にも立たねえな」
地下通路は地脈や魔力の流れで形成されることが多く、地図通りに進むことなどまずあり得ない。頼れるのは長年培ってきたドワーフの勘だけだった。彼の鼻先がかすかにピクピクと動き、地面のわずかな振動や岩肌から発せられる独特な鉱物の匂いを読み取ろうとする。

「この先鉄の匂いが濃くなる…このあたりか」
ゴードンは誰もいない路地裏の地面に手を当て、岩の微かな鼓動を確かめる。
彼の指先が、まるで生きているかのように地面を這う。ドワーフの血に流れる鉱物への親和性が、わずかな異変を察知する。この下にあるのは、自然の洞窟ではない。人工的に掘られた、まるで巨大なアリの巣のような構造。彼は確信した。

同じ頃ケンジはシーナと共に宿の一室で待機していた。彼は部屋の窓から遠くでかすかに上がる土煙を見つめている。
「…計画通り」
彼は心の中で呟いた。彼の視界(UI)にはリアルタイムでガイたちの位置情報が表示されている。三つの光点が地図の上を驚異的な速度で移動し、ほぼ同時に目標地点へ到達した。

南の街道。
屈強な重戦士が巨大なウォーハンマーを天へ掲げる。「山の神よ、許されよッ!」彼の雄叫びと共に振り下ろされた一撃は、渓谷の壁を粉々に打ち砕き街道を完全に塞き止める。

東の街道。
エルフの弓兵が放った矢は、巨木の根元を正確に射抜く。森の王たちは数百年の歴史に幕を下ろし、その巨体を街道の上へ横たえていった。

そして王の道。
そこに立っていたのは勇者ガイその人だった。彼は街道を見下ろす切り立った崖の上に静かに佇んでいた。その琥珀色の瞳は、眼下を行き交うアルタイル商会の商隊を冷徹な光を宿して見つめている。
(すまない。君たちに罪はない。だがこれもより多くの命を救うためだ)
彼は心の中で何度もその言葉を繰り返した。勇者としての誇りと、人々を救うという目的。二つの正義が彼の心の中でせめぎ合っていた。

彼はゆっくりと腰に携えた聖剣を抜き放つ。剣身が太陽の光を反射し神々しい輝きを放った。だがそれはもはや民衆に希望を見せるための華々しいものではない。ケンジという指揮官の緻密な計画を遂行するための、冷徹で恐ろしいほどの破壊の道具だった。

彼は聖剣を天へ掲げ、すべての神聖な力を剣先の一点へ収束させていく。彼の狙いはケンジが地図の上で指摘した岩盤の最も脆い一点。

「これが俺の新しい正義だッ!」

ガイの叫びと共に聖剣が振り下ろされた。放たれたのは純粋な破壊のエネルギーの奔流。光の津波が崖の一点へ叩きつけられると次の瞬間、世界から音が消えた。そして山が泣いた。崖そのものが断末魔の悲鳴を上げるように激しく震え、表面に無数の亀裂が走る。
そして山が崩落を始めた。数万トンの岩と土砂がまるで巨大な滝のように王の道へ降り注いでいく。

その様子を王都の騎士団の巡回部隊が目撃していた。
「おいなんだあれは!?」
「あれは…勇者ガイ様ではないか? 訓練中の事故だと連絡があったがまさかあれほどの…」
騎士団長はただ唖然としていた。ガイの力が制御不能になったという連絡に疑いはなかった。だがその背後にうっすらと見える、別の場所で上がる土煙。
「……おかしい。南と東の街道でもほぼ同時に『事故』が起きたと連絡があったばかりだ」
騎士団長の鋭い眼差しがその不自然すぎる偶然を捉えていた。彼はすぐに本部に緊急の連絡を入れる。

一方ガイは完璧な破壊の痕跡を静かに見下ろしていた。彼の心に高揚感はない。ただ一つのタスクを完了させた静かな満足感だけ。彼はケンジから渡された通信用の魔法具を取り出す。

「…こちら、ガイ。タスク1-A、完了した。繰り返す。タスク1-Aは計画通り、完了だ」

ガイの報告を聞きながらもケンジの表情はわずかに険しい。
(……予想通り、違和感を抱いたか。騎士団長クラスの人間なら不自然さに気づくだろう)
ケンジの読み通り騎士団の動向は、この先の作戦に小さな波紋を広げ始めるだろう。
そして彼はシーナに視線を向けた。
「シーナさん。ゴードンさんからの連絡は?」
シーナは首を横に振る。「まだ。地下通路は複雑で簡単にはいかないでしょう」

ゴードンのタスクはまだ終わっていなかった。この作戦の最後のピースはまだ埋まっていなかったのだ。
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