ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第3章:偽りの繁栄と経済戦争

第90話:フェーズ2「経済的総攻撃」

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フラックス市は陸の孤島と化した。その鮮やかな作戦成功から一夜が明ける。安宿の一室、ケンジたちの作戦司令室は新たな局面へと移行していた。

窓の外では昨日までの狂乱じみた活気が嘘のように鳴りを潜めた。代わりに街を支配するのは、出口を失った人々の怒号と不安が入り混じった不協和音だ。物流という都市の血流を止められたアルタイル商会は、今まさに経験したことのない混乱の渦中にいるはずだった。

だがテーブルの上のロードマップを見つめるケンジの表情に勝利の安堵の色はない。彼の瞳に宿るのは次なる一手を見据える冷徹な戦略家の光だけだ。

「皆さん」

ケンジの静かな声に部屋にいた仲間たちが一斉に彼へ向き直る。そこには作戦を完了させ一時的に帰還していたガイとゴードンも合流していた。彼らの顔には疲労の色が濃いが、それ以上にケンジという指揮官への絶対的な信頼感が浮かんでいる。

「フェーズ1『供給網の寸断』は完璧に成功しました。ガイさん、ゴードンさん。素晴らしい仕事でした」

ケンジの労いの言葉に二人は力強く頷いた。

「ですが」
ケンジは続ける。その声のトーンがわずかに低くなった。「これはあくまで序章に過ぎません。アルタイル商会は確かに焦っているでしょう。ですが彼らの力の源泉であるアーティファクトは今もこの街の地下で稼働し続けている。彼らが蓄えた莫大な富もまだ尽きていない。時間を与えれば、彼らは必ずこの状況を打開するための次の一手を打ってきます」

彼は仲間たちの顔を見回した。「我々は彼らにその時間を与えない。間髪入れずに次の一手を打ちます」

ケンジはロードマップの次の項目を指し示した。そこには禍々しい響きを持つ新たな作戦名が記されていた。

【フェーズ2:需要の完全消滅(デマンド・アナイアレーション)】

「…じゅようの、しょうめつ…?」
ルリエルが不思議そうにその言葉を繰り返す。

ケンジは頷いた。「フェーズ1で我々は『供給(サプライ)』を止めました。ですがそれだけでは足りない。この街に存在するアルタイル商会への『需要(デマンド)』そのものを完全に消し去るのです」

彼は窓の外を指さした。そこには不安げな表情で行き交うフラックスの市民たちの姿があった。「彼らの強さの源泉は富です。そしてその富を生み出しているのは彼らの商品を買い求めるこの街の市民たち。ならば我々が次にすべきことはただ一つ」

ケンジの瞳が鋭い光を宿す。「アルタイル商会と市民との間に築かれた『信用』という名の脆い関係を完全に破壊します」

それはもはや物流を止める物理的な妨害工作ではない。人々の心を操作し経済活動そのものを内側から崩壊させんとする、悪魔的な心理戦の始まりだった。

ケンジはその恐るべき作戦の実行者として二人の仲間へ向き直る。その視線の先にはシーナとルリエルがいた。彼女たちこそがこの経済的総攻撃の要となる二本の矢だ。

「これよりフェーズ2を開始します。皆さんそれぞれのタスクの最終確認を」

ケンジの静かな号令。
それがフラックスという巨大な都市の心臓部に冷たい毒を注ぎ込む合図となった。

その恐るべき毒の最初の一滴を投じるのは、このパーティの中で唯一影の世界に精通するプロフェッショナル、シーナの仕事だ。

彼女はケンジから作戦の詳細な指示を受けると一言だけ「…任せとけ」と呟き、再び狂乱の喧騒の中へその身を溶け込ませていった。

彼女が最初に向かったのは、前夜にも訪れた情報屋フクロウが根城にする酒場『金色の鼠』。だが今度の目的は情報を買うことではない。情報を「売る」ことだった。

「おい、フクロウ。とっておきの特ダネだ。買うかい?」

シーナはカウンターの隅で酒を呷るフクロウの耳元でそう囁いた。フクロウは訝しげに彼女を一瞥する。

シーナは懐から一枚の羊皮紙を取り出した。そこにはケンジが宿場町で出会った避難民の家族から聞き出したミレット村の惨状が克明に記されている。病の詳細な症状、村がどのように死に至っていったかの過程。そしてその悲劇が始まった時期が、アルタイル商会が急成長を遂げた時期と完全に一致するという揺るぎない事実。

「…これは…」
フクロウの目が驚愕に見開かれる。「…アルタイル商会の『奇跡』の裏にはこんな話があったのか…」

「ああ。あたしが命がけで掴んだ情報だ」
シーナは冷たく言い放つ。「この情報をどう使うかはあんた次第だ。だがもしこの街で何かデカい騒ぎが起きたら…その火種はあんたが作ったってことになるかもしれねえな」

それは巧妙な脅迫だった。
フクロウはこの情報の価値と、その危険性を瞬時に理解する。彼はゴクリと喉を鳴らすと、シーナに金貨を数枚握らせ、その羊皮紙をひったくるように受け取った。

火種は撒かれた。後はそれが燃え広がるのを待つだけだ。

シーナは酒場を後にすると次なる手口へ移った。彼女は七変化のようにその姿を変え、街のあらゆる階層へその毒を拡散させていく。

ある時は裕福な商家の召使いに化け、女中たちの井戸端会議に紛れ込む。「ねえ、お聞きになりました? 西のミレット村のお話…あそこの方から来た行商人から聞いたのですけれど…」

またある時は薄汚れた孤児の姿となり、市場の裏路地で物乞いをしながら他の浮浪者たちにその恐ろしい噂を囁いて回る。「…アルタイルのパンは食べちゃダメだよ…。食べると魂を吸われちゃうんだって…」

そして彼女はケンジから与えられた潤沢な資金を使い、街のゴロツキたちを何人も雇った。彼らに酒をおごり、その耳元で囁く。「…アルタイル商会が最近やけに羽振りがいい理由、知りたくないかい…?」

シーナが仕掛けた情報戦は巧みで、そして効果的だった。彼女が撒いた噂はただの根も葉もないデマではない。そこには避難民の証言という「信憑性の高い情報」が巧みに織り交ぜられていた。そして何よりも、その噂はこの街の誰もが心のどこかで感じていた、この異常なまでの繁栄への「違和感」と完璧に合致したのだ。

噂は燎原の火のごとくフラックスの街中を駆け巡った。最初は裏社会の囁き。それが昼を過ぎる頃には市場の主婦たちの井戸端会議の議題となり、夕方を迎える頃には街のすべての人々が知る公然の「恐怖」へと変わっていた。

そしてその恐怖はすぐに目に見える形となって現れ始める。

大市場の中心部、アルタイル商会が経営する最も大きな露店。そこには昨日まで人々が殺到していたはずだった。だが今、その露店の周りには誰一人客の姿はない。人々は瑞々しく完璧な商品を遠巻きに眺めながら、まるで呪いの品でも見るかのように恐れと嫌悪の表情を浮かべ囁き合っている。
「…あれがそうなの…?」
「…ミレット村の人々の命を吸って育った果物…」
「…気味が悪い…」

買い控え。それはやがて明確な拒絶へと変わっていく。市民の間に急速に広がった不安と恐怖。それはアルタイル商会の経済基盤を確実に内側から蝕み始めていた。

シーナは近くの建物の屋根の上からその光景を冷徹な瞳で見下ろしていた。彼女の仕掛けた毒は今、確実にこの街の血流に乗り、その心臓部へ向かっている。作戦の第二段階は成功した。だが彼女の仕事はまだ終わっていない。次なる一手、その準備はすでに整っていた。
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