ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第3章:偽りの繁栄と経済戦争

第94話:プロジェクト完了

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戦いは終わった。
アルタイル商会本部ビルの最深部。暴走する虚無の渦が消え失せた祭壇の中心で、ケンジたちはただ呆然と立ち尽くしていた。後に残されたのは絶対的な静寂と、満身創痍の仲間たちの荒い息遣いだけだった。

彼らは勝ったのだ。この巨大で理不尽な世界の「バグ」に。

勝利を証明するかのように、一行の目の前で静かに鎮座する古代アーティファクト。その黒曜石のような結晶体がふわりと柔らかな光を放ち始めた。それはこれまでに彼らが見てきたどの光とも違う。ミレット村の人々から奪い取った禍々しい赤黒い光ではない。暴走する虚無の黒い光でもない。ただ優しく、温かい、生命そのものとも言うべき黄金色の輝きだった。

アーティファクトは暴走の過程でその機能を破壊されたのではなかった。ケンジたちが打ち込んだ修正パッチによって、本来あるべき姿へと戻っていたのだ。それは破壊の道具ではなく、生命の流れを管理し調和させるための古代の遺物だった。

そして、そのアーティファクトに蓄えられていた膨大な、しかし行き場を失っていたミレット村の人々の生命力が、今、本来の持ち主の元へと還り始めた。

黄金色の光の粒子がアーティファクトから溢れ出す。それは暴力的な吸引ではなく、静かに、穏やかに湧き出る泉の水のように、やがて一つの巨大な川となり、崩壊したビルの天井を突き抜け、フラックスの空へと舞い上がっていく。

「…これは…」
ルリエルはその神々しい光景に息をのんだ。

一行はまるで何かに導かれるかのように、その光の川を追って地上へと戻った。そして、彼らはそこで第二の奇跡を目の当たりにする。

黒い渦に飲み込まれ灰色の抜け殻となっていたフラックスの街並み。その上を黄金色の光の川が通り過ぎていく。光の粒子が慈愛に満ちた春の雨のように地上へ降り注ぐ。するとどうだろう。黒い渦に触れ枯れ果てていたはずの街路樹が、再びその枝に緑の若葉を芽吹かせ始めた。道端で倒れていた市民たちの土気色の肌に少しずつ血の気が戻り、うっすらと瞼が開かれていく。

光の川は街の傷を癒しながら、さらに西へと向かっていく。その遥か先にある目的地、ミレット村へと。

ケンジはスキルを発動するまでもなく理解していた。彼の視界(UI)には新たな情報が表示されていたからだ。

【システムプロセス:リソース再配分(正常化)を実行中…】
【対象領域:ミレット村】
【HP回復率:毎分1%ずつ、上昇…】

ミレット村は救われたのだ。ケンジの脳裏には、あの診療所の寝台で死を待つだけだった村人たちの弱々しい赤い光が、今この瞬間も少しずつ輝きを取り戻していく様が見えていた。

その完璧なプロジェクトの完了。奇跡のような光景を前にして、最初に感情を爆発させたのはシーナだった。

「…ああ…」
彼女はその場に膝をつくと、両手で顔を覆った。指の隙間から嗚咽が漏れ出す。「…よかった…、本当に……よかった…ッ!」
彼女はもう言葉にならなかった。ただ子供のように声を上げて泣きじゃくる。それは絶望の涙ではない。故郷が、仲間が、そして自分自身が救われたことへの、温かい安堵の涙だった。

ルリエルがその小さな背中を優しくさする。ゴードンがその巨大な背中で彼女を世界のすべてから守るかのように静かに立ちはだかる。ガイもまた、その光景をどこか眩しそうに見つめていた。

ケンジはそんな仲間たちの姿を、静かな満足感を込めて見つめていた。プロジェクトは完了し、何よりも大切な仲間たちの笑顔を守り抜くことができた。それだけで十分だった。彼らの長く過酷な戦いが、今確かに終わろうとしていた。

ケンジたちがアルタイル商会の本部ビルから地上へと戻った時、街の空気は一変していた。天を覆っていた黒い渦は完全に消え失せ、代わりに穏やかな午後の陽光が街並みを照らしている。そして、あれほど街を支配していた狂乱じみた熱狂と、その後に訪れた死の静寂。そのどちらもが嘘のように消え去り、そこにはただ戸惑った、しかし確かな平穏が戻りつつあった。

生命力を奪われ倒れていた市民たちは、一人、また一人と意識を取り戻し、何が起きたか分からないといった表情で顔を見合わせている。彼らの身体を蝕んでいた過剰なエネルギーは去った。だが、代わりに訪れたのは心地よい疲労感と穏やかな日常の感覚だった。

その混乱の中心で、街の衛兵たちが慌ただしく動き回っていた。彼らが向かう先は一つ。崩壊したアルタイル商会の本部ビルだ。

やがて一行はその光景を目の当たりにする。ビルの中から引きずり出されてくる一人の男。その身には高価な衣服ではなく、みすぼらしい囚人服が着せられ、両手には重い枷がはめられている。リーダー、レプス。彼の顔にはもはや以前のような傲慢さも狂気もなかった。すべてを失い、ただ空っぽになった抜け殻のような表情で、彼は衛兵たちに連行されていく。

その哀れな敗北者の姿を、ケンジたちはただ黙って見送った。彼らの心に勝利の高揚感はない。ただ一つの長く困難なプロジェクトが終わったという静かな安堵があるだけだった。

一行が拠点とする安宿へ戻る。その扉を開けた瞬間だった。部屋の隅に置かれていたミレット村へ繋がる通信用の水晶が、まるで彼らの帰りを待ちわびていたかのように温かい光を放ち始めたのだ。

ルリエルが駆け寄り、その水晶に魔力を注ぎ込む。そしてそこから響いてきたのは、もはやあの絶望に満ちたかすれ声ではなかった。信じられないほどの喜びに満ち溢れた、あの老医師の力強い声だった。

『―――ケンジ殿ッ! シーナ! 聞こえるかッ!?』

「先生!」
シーナが水晶へ駆け寄る。

『奇跡だ…! まさに、奇跡だ…ッ! 村の者たちが…、皆、目を覚ました! あれほど苦しんでいた熱病が、まるで嘘のように引いていく…! 儂の身体も、こんなに軽いのは何年ぶりか…!』
その声の向こう側から、人々の歓声、そして子供たちの笑い声が聞こえてくる。
『ありがとう…! ありがとう、勇者様たち…! このご恩は一生忘れません…!』

その温かい感謝の言葉。ミレット村が救われたという揺るぎない事実が、仲間たちの心を満たしていく。

そしてシーナ。彼女は故郷の復活の声を聴きながら、その場に膝から崩れ落ちた。瞳からこれまで堪えていた涙が奔流となって溢れ出す。彼女はゆっくりと仲間たちへ向き直った。そして一人一人の顔を見つめながら、その震える声で感謝の言葉を紡ぎ出す。

「…ルリエル…。あんたの魔法がなきゃ、あたしは…、とっくに心が折れてた…。ありがとう…」
「…ゴードン…。あんたがいてくれなきゃ、あたしは、きっと間違った道へ進んでた…。ありがとう…」
「…ガイ…。あんたのこと嫌いだったけど…。でも、あんたが頭を下げてくれたおかげで…、あたしは救われた…。ありがとう…」

そして最後に、彼女はケンジの目の前に立つと、これまでの人生のすべてを込めて、深く頭を下げた。

「ボス…。あんたがいなきゃ、あたしは何もできなかった…。あたしの故郷を、家族を、救ってくれて…。本当に…、本当に、ありがとう…ッ!」

その魂からの感謝の言葉を、ケンジは静かに受け止めると、涙にくれるシーナの小さな頭にそっと手を置いた。

「…いいえ。これは僕一人の力ではありません。あなたたち全員で勝ち取った勝利です」

彼は部屋の隅に置いてあったプロジェクトの計画書を手に取る。そしてその一番下に最後のステータスを書き記した。

【ミレット村救済計画:完了(PERFECT SUCCESS)】

プロジェクトは完璧な形で完了した。その達成感とカタルシスが、部屋全体を温かい光で包み込んでいく。彼らの長く過酷な戦いが、今確かに終わったのだ。誰もがそう信じていた。
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