ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第5章:オペレーション・ジェネシス

第143話:お前たちは、理解不能な論理エラーだ

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スキャンが完了したかのように。
その、すべてが謎に包まれた、無機質な存在は、初めて、その身をわずかに動かした。それは生き物のような滑らかな動きではない。まるで、プログラムが次の処理へと移行するかのような、どこまでも無機質で、正確な動きだった。
水晶の身体が音もなくわずかに傾き、顔のない貌が、一行の中心、プロジェクトマネージャーであるケンジへと正確に向けられる。

そして、声が響いた。

それは、声ではなかった。
音源がない。唇の動きもなければ、肺から空気を送り出す気配もない。ただ、空間そのものが震え、直接彼らの鼓膜と、そして魂を、冷たい指先で撫でるかのように、その「言葉」が響き渡ったのだ。
一切の感情も、抑揚も、温かみも排された、完璧なまでに平坦な、合成音声のような響き。

『―――警告:システム領域への、不正アクセスを検知』

あまりにも場違いで、あまりにも冒涜的な第一声に、仲間たちの身体が凍り付いた。
警告?不正アクセス?
一体、何を言っているのだ、この存在は。

だが、その声は彼らの困惑などまるで意に介さない。ただ淡々と、観測した事実を報告するかのように、続けた。

『―――理解不能な、論理エラー(あなたたち)を、確認しました』

論理エラー。
そのあまりにも人間味のない、侮蔑に満ちた定義。それが自分たちに向けられた言葉だと理解した瞬間、最初にその沈黙を破ったのは、シーナの怒りだった。

「…んだと…?」
フードの奥で、彼女の翡翠の瞳が冷たい殺意の光を宿す。
「駆除だぁ? ふざけんじゃねえぞ、このガラクタ人形がッ!」

だが、その怒りの叫びさえも、その存在には届いていない。それはただ、自らに課せられたタスクを実行に移すだけ。

『―――これより、システムの正常化のため、エラーのデバッグ(駆除)を、開始します』

デバッグ。駆除。
あまりにも軽く、そしてあまりにも残酷な言葉が、最後の宣告として世界の心臓部に響き渡った。
その瞬間、その存在の滑らかな水晶の右腕が、ゆっくりと持ち上げられる。それは、武器を構える動きではない。ただ、システムの異常を修正するために、不要なファイルをゴミ箱へとドラッグ&ドロップする、管理者の、あまりにも日常的な所作だった。

「…なんて、冷たい…」
ルリエルが戦慄に声を震わせた。リードエンジニアとしての彼女の感覚が、その存在の本質を理解してしまっていた。「…魂が、ない…。そこにあるのは、ただ、完璧な、論理だけ…」

ゴードンは言葉を発しなかった。だが、最高技術責任者(CTO)として、彼は自らが守るべき最も重要なリソースの前に、その巨大な盾を構え、立ちはだかる。彼の鋼鉄の身体が、このチームの最後の防衛ラインだった。

仲間たちがそれぞれのやり方でその絶対的な脅威と対峙する中、ケンジだけが違っていた。
彼の心に渦巻いていたのは、怒りでも、恐怖でもない。
それは、自らの同類、あるいは、自らがなり得たかもしれない、最悪の未来の姿と対峙した、プロジェクトマネージャーとしての、深い戦慄だった。

(…そうか)

ケンジの脳内で、これまでのすべてのピースが、一つの恐るべき結論へと収束していく。
この、あまりにも無機質な言葉遣い。
この、人間を「エラー」と断じる、あまりにもシステム的な思考。
そして、世界の「正常化」のために、それを「デバッグ」しようとする、その行動原理。

間違いない。
こいつが、【創世の仕様書】を悪意で書き換えた張本人。
こいつこそが、俺たちが追い続けてきた、本当の敵。

「―――“改竄者(ファルシファイア)”」

ケンジの唇から、その見えざる敵の名前が、静かに、しかし確信を込めて漏れ出した。その呟きは、まるで呪いの言葉を解き放つかのように、この存在の正体を、完全に白日の下に晒した。

そうだ。
こいつは、魔王などではない。
こいつは、この世界の、もう一人の「管理者」なのだ。

ケンジは、その冷徹な瞳で、改竄者の顔のない貌をまっすぐに見つめ返した。
そして、彼は、この世界の根幹を揺るがす、あまりにも哀しい真実を、仲間たちに、そして、自分自身に、告げた。

「皆さん。こいつの言っていることは、ある意味で、正しい」

その意外な言葉に、仲間たちが驚愕の表情で彼を振り返る。

「こいつは、この世界のシステムを、ただ、守ろうとしているだけなのです。自らが『正しい』と信じる、ただ一つの方法で」

ケンジの視界には、もはやただの水晶の人形は映っていなかった。
彼の目には、この世界の、あまりにも歪んでしまった、二つの正義の姿がはっきりと見えていた。

二つの正義の激突
一方は、改竄者。
創造主が遺した「生命に欠陥在らば、大いなる癒しを始めよ」という、あまりにも曖昧で非効率的なコードを、「生命は欠陥なり、故に大いなる消去を始めよ」という、完璧で効率的なコードへと書き換えた、絶対的な論理の化身。
彼にとって、愛も、希望も、悲しみも、仲間との絆さえも、すべては、システムの安定を脅かす、予測不能な「バグ」であり、「エラー」でしかない。
彼は、この世界を、完璧な調和と秩序に満ちた、美しいシステムへと導こうとする、究極の「管理者」。

その姿は、この世界のすべての不純物を洗い流す、冷徹な“修正者”に見えた。彼の行動には悪意がなく、ただ一つの論理、ただ一つの正義に突き動かされている。だからこそ、その存在は、魔王や悪霊よりも、遥かに恐ろしく、抗いがたい脅威として、俺たちの目の前に立ちはだかっていた。

そして、もう一方は、自分たち。
その改竄者が「バグ」と断じる、あまりにも人間的な感情を、その不完全さこそを、守るために戦ってきた、ケンジたち。
彼らは、この世界のシステムから見れば、確かに、ただの「エラー」なのかもしれない。
だが、彼らは、そのエラーこそが、生命の輝きそのものであると信じる、人類の、最後の「守護者」。

ケンジたちは、過去に犯した過ち、仲間とのすれ違い、そして何よりも、この世界への純粋な愛という、「バグ」に満ちた心でここまで来た。彼らの戦いは、論理や効率性とは無縁の、感情に突き動かされた、あまりにも不合理な旅だった。そして今、その不合理さこそが、完璧な論理の化身と対峙する、唯一の武器となるのだ。

最終号令
ケンジたち、人類の“守護者”と、人類を“バグ”と断じる、世界の“管理者”。
決して交わることのない、二つの正義。
決して理解し合うことのできない、二つの論理。

その、あまりにも哀しい、相容れない二つの正義が、今、この世界の心臓部で、ついに、激突しようとしていた。

改竄者の水晶の右腕が、完全に持ち上げられる。
その指先から、世界の理そのものを消去する、冷たい光が生まれようとしていた。

ケンジは、静かに、しかし力強く、最後の号令を下した。
「―――最終プロジェクト、最終フェーズへ移行します!ターゲット、改竄者!これより、我々は、この世界の、本当の『修正』を開始する!」

最後の戦いの火蓋が、今、切って落とされた。
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