ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第5章:オペレーション・ジェネシス

第144話:フェーズ1:システムの防衛機能

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『―――これより、システムの正常化のため、エラーのデバッグ(駆除)を、開始します』

改竄者の、一切の感情を排した無機質な宣告が、世界の心臓部である『創造の玉座』に、最後の審判の鐘のように響き渡った。ケンジが最後の号令を下し、仲間たちがそれぞれの武器を構え直す。彼らの心は、これから始まる最後の戦いを前に、極限まで研ぎ澄まされていた。

だが、改竄者は動かなかった。

ゆっくりと持ち上げられたその水晶の右腕は、一行を直接攻撃しようとはしない。それは、まるでオーケストラの指揮者が、その最初のタクトを振り下ろすかのような、静かで、そして絶対的な所作だった。
改竄者の指先が、虚空に、一つのコマンドを打ち込む。
その瞬間、世界のすべてが、悲鳴を上げた。

最初に反応したのは、一行の背後で、静かに、そして荘厳に脈動していた『創造の玉座』そのものだった。
それまで、世界の理を司る神の心臓のように、穏やかで清らかな蒼白い光を放っていた巨大な水晶の結晶体。その光が、何の予兆もなく、フッと、完全に消え失せたのだ。
絶対的な闇。そして、その中心から、微かに、焦げた回路の匂いが漂ってくる。
闇の中心から、新たな光が生まれる。それは、希望の光などでは断じてなかった。
まるで、システムの最も深い場所で、何かが致命的に「壊れた」ことを告げるかのように、禍々しいまでの、深紅の警告灯(アラート)の光だった。

ドクン、と。
玉座が、一度だけ、不気味に、そして力強く脈動する。その鼓動は、もはや生命の息吹ではない。暴走する機械が上げる、断末魔の叫び。その衝撃波が、空間全体を震わせ、仲間たちの足元を揺るがした。
荘厳なハーモニーを奏でていたはずのハミングは、完全に沈黙した。代わりに鳴り響き始めたのは、耳の奥を突き刺すような、甲高い金属音の警報(アラーム)。それは、この世界のシステム全体が、今、緊急事態(エマージェンシー)モードへと移行したことを告げる、絶望的なファンファーレだった。

「…ッ!来るぞッ!」

ケンジの鋭い警告が飛ぶ。
玉座の変貌に呼応するように、この神の記憶装置のすべてが、その姿を変えていく。
ドーム状の壁面を走っていた無数の蒼白い光の線が、すべて血のような赤色へと変わり、これまでにないほどの速度で乱れ飛ぶ。彼らが立っていた光の道もまた、その清らかな輝きを失い、まるで溶岩のように赤黒く明滅を繰り返している。足元から伝わる、熱。その熱は靴底を焦がすほどだ。
この空間のすべてが、敵となった。
この世界のシステムそのものが、侵入者である彼らを排除するために、その牙を剥いたのだ。

「なんて、禍々しい魔力ですの…!ただ、異物を排除するためだけに最適化されている…!」

リードエンジニアとしてのルリエルの声が戦慄に震える。そのエネルギーの質は、もはや世界の理を司る神聖なマナではない。あまりにも冷徹で、そして効率的すぎる、殺意の奔流だった。
ゴードンは、最高技術責任者(CTO)として、その巨大な盾を構え、ケンジたちの前に立ちはだかる。彼の鋼鉄の身体が、このチームの最後の防衛ラインだった。
シーナは、最高警備責任者(CSO)として、その気配を完全に消し去り、影の中で、これから現れるであろう未知の脅威に備えていた。

そして、そのシステムの変貌の中心で。
改竄者は、ただ、静かに、そこに佇んでいた。その無表情な顔が、かすかに、しかし確実に、満足げに微笑んだように見えた。

警報が、最高潮に達した、その時だった。
赤く明滅を繰り返していた『創造の玉座』。その巨大な水晶の表面が、まるで水面のように、ぐにゃりと歪んだ。そして、その歪みの中心から、何かが、ゆっくりと、滲み出してくる。
一体、また一体と。
それは、まるで、システムが生み出した、悪性の腫瘍。あるいは、エラーを駆除するために放たれた、戦闘プログラム(バトル・プログラム)そのものだった。
最初に現れたのは、一体。
その身体は、玉座と同じ、半透明の水晶でできていた。だが、そのフォルムは、生き物を模したものではない。無数の、鋭利な刃を持つ幾何学的なプレートが、複雑に組み合わさってできた、人型の処刑機械。顔があるべき場所には、ただ一つの、赤い光を放つ単眼(モノアイ)が、不気味に輝いているだけだった。

「…なんだ、こいつは…」

ゴードンが、低い声で唸る。彼の目は、自身の経験則から分析しようとする。だが、彼の頭脳にあるどのデータベースにも、その情報は存在しなかった。
絶望は、それだけでは終わらなかった。
一体目の出現を皮切りに、玉座の表面の至る所が、同じように歪み始める。そして、その歪みの中から、次々と、同じ姿をした水晶の処刑機械が、音もなく、滲み出してくる。
二体、三体、四体…。
最終的に、彼らの前に立ちはだかったのは、五体の、完璧なまでに同じ姿をした、無機質な殺意の化身だった。

その瞬間、ケンジの視界に、幾つものログが点滅する。
《プロジェクト管理:解析開始》
《敵性オブジェクト名:システム・ガーディアン》
《クラス:アンチ・ウイルス》
《脅威レベル:Sクラス(測定不能)》

「Sクラス…!?」
ケンジの声が、驚愕に震えた。ゴブリン・チャンピオンも、狂乱したワイバーンさえも、このランクには遠く及ばなかったはずだ。
五体のシステム・ガーディアンは、一行を取り囲むように、完璧な五角形の陣形を組んだ。その動きには、一切の無駄も、乱れもない。まるで、一つの頭脳によって、完全に同期させられているかのようだった。

そして、一切の鬨の声も、威嚇の咆哮もなく。
ただ、その単眼の赤い光が、一斉に、侵入者たちをロックオンした。
抗うことすら許さない、完璧な猛攻が、始まった。

最初に動いたのは、一体だった。
その水晶の身体が、一瞬だけ、デジタルノイズのように揺らめく。次の瞬間、その姿は、元の場所から完全に消え失せていた。

「…消えたッ!?」

シーナの鋭い警告が飛ぶ。だが、遅い。
ガーディアンは、瞬間移動したのだ。ケンジの、死角となる、真後ろに。

「ケンジさんッ!」

ルリエルの悲鳴。
だが、その絶体絶命の危機を救ったのは、CTOとしての、ゴードンの、神業のような反応速度だった。彼は、ケンジの指示を待つまでもなく、その巨大な身体を反転させ、鋼鉄の盾を、何もないはずの空間へと叩きつけた。

ガギィィィィィィィィンッ!!!!

耳をつんざくような、甲高い金属音。
ゴードンの盾と、実体化したガーディアンの、水晶の刃が、火花を散らして激突していた。
「…重いッ!こんな一撃、ワイバーンの突進に匹敵する…!だが、俺が、このチームの盾だッ!」
ゴードンの、岩のような巨体が、その衝撃に、数歩、後ずさる。彼の篭手を握る指が、白く変色していた。
ゴードンは、その体勢を立て直すと、渾身の力でガーディアンを弾き飛ばした。
「いける!この一撃なら…!」
彼の心に一瞬、勝利への希望が灯る。しかし、それはシステムが仕掛けた罠だった。

ゴードンが弾き飛ばしたガーディアンの身体が、音もなく霧のように拡散し、デジタルノイズの光の粒子となって消える。
そして、その粒子が、再び、別の場所で、瞬時にガーディアンの姿を再構築した。
「なっ…!?」
驚愕に目を見開いたゴードン。その一瞬の隙を、残りの四体が見逃すはずもなかった。
彼らは、完璧に同期した動きで、同時に、襲い掛かってきたのだ。
一体は、その両腕を、鋭利な槍へと変形させ、ゴードンががら空きになった側面へと、高速で突きを繰り出す。
もう一体は、宙へと高く舞い上がると、その身体から、無数の、水晶の破片を、弾丸のように、後衛のルリエルへと撃ち放った。
「やらせない!」
ルリエルは、ただ防御魔法を展開するだけでなく、「システムに最適化された存在なら、逆に、魔法で脆弱性を突けるはず!」と自らの知識を信じ、水晶の弾丸が通る軌道に、実験的な風の渦を発生させる。しかし、その魔法はガーディアンの弾丸を減速させることなく、まるでそこに何もないかのように素通りさせた。
さらにもう一体は、地面を滑るようにして、シーナが潜む影そのものを、切り裂かんと、その刃を薙ぎ払う。シーナは、影から飛び出し、ガーディアンの薙ぎ払いを紙一重でかわす。
「…完全に、読まれている」
冷静なシーナの目に、かすかな動揺が浮かぶ。彼女が着地するであろう地点に、すでに別のガーディアンからの追撃が、予測されていたかのように迫っていた。

それは、もはや戦闘ではない。
それは、システムの異常を排除するために、寸分の狂いもなく実行される、完璧な「駆除プログラム」。
個々のガーディアンの戦闘能力は、これまでのどのボスとも比較にならないほど高い。だが、それ以上に恐ろしいのは、その完璧すぎる連携だった。
彼らの攻撃には、一切の隙がない。一方が攻撃し、一方が防御し、一方が支援する。それは、まるで、ケンジ自身が作り上げた、理想のチームの、悪夢のような鏡像だった。

パーティは、もはや烏合の衆ではない。だが、それでも、この絶対的なまでのシステムの暴力の前には、あまりにも無力だった。
彼らの連携は、次々と分断され、その陣形は、内側から崩壊していく。
ケンジたちは、自分たちのチームが、いかにこの完璧なシステムの前では無力かを思い知らされた。それは、もはや絶望という言葉すら生ぬるい、途方もない現実の始まりだった。
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