ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第5章:オペレーション・ジェネシス

第147話:お前の計画は常に不完全だった

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改竄者の、あまりにも完璧な論理の刃。それは、ケンジがプロジェクトマネージャーとして、そして一人の人間として築き上げてきた、すべての自信と誇りを、一枚、また一枚と、容赦なく剥ぎ取っていく。彼の精神は、完全に孤立無援の仮想空間――あの忌まわしい深夜のオフィスに囚われたまま、ただ、自らの「失敗」の記録を、延々と見せつけられていた。

『―――分析を、継続する』

改竄者の、感情の欠片もない合成音声が、彼の思考のすべてを支配する。その声は、もはや外部からの攻撃ではない。ケンジ自身の、心の最も深い場所から響いてくる、自己批判の声そのものだった。

『結論として、プロジェクトマネージャー、佐藤健司。お前の計画は、常に、不完全だった』

その断定的な言葉が、ケンジの心を、深く抉った。
目の前のスクリーンに、ウィスパーウッドでの、あの最初の計画書が映し出される。緻密なガントチャート、完璧なリスク管理票。だが、改竄者は、その横に、無慈悲な赤い文字で、新たな分析結果を上書きしていく。

『計画における、致命的欠陥。それは、最も予測不能なリスク要因である『人間の感情』を、完全に変数として組み込んでいなかったことだ。怒り、欲望、傲慢、恐怖。それらの非論理的なバグが、お前の完璧なはずだった計画を、いともたやすく崩壊させた。お前は、機械を管理するように人間を管理しようとした。それが、お前の最初の、そして、最大の過ちだ』

違う、と叫びたかった。だが、声が出ない。それは、紛れもない事実だったからだ。

スクリーンが切り替わる。次に映し出されたのは、ワイバーンとの戦いで、ガイが無謀な突撃を敢行した、あの瞬間だった。

『お前の仲間は、お前のせいで、何度も死の淵に立った』

改竄者の声は、さらに冷徹さを増す。
『勇者ガイという、外部ステークホルダーの存在。お前は、そのリスクを事前に特定し、管理下に置くことを怠った。結果、プロジェクトは破綻し、仲間を、そしてお前自身をも、壊滅の危機に晒した。お前は、仲間を救ったのではない。お前が、仲間を、地獄へと突き落としたのだ』

その言葉は、ケンジの心に、鉛のように重くのしかかった。そうだ。ゴードンは、盾を砕かれ、血を流した。ルリエルは、魔力の逆流に苦しみ、倒れた。シーナは、命がけで、ヒナを確保しに行った。そのすべてが、自分の管理不行き届きが招いた結果だったのだ。

そして、スクリーンは、最後に、アイドスの、あの静かな会議室の光景を映し出す。
ルリエルが、涙ながらに、自らの過去を告白している、あの痛切な場面。

『そして、何よりも、お前自身が、この世界の、最大のバグだ』

改竄者は、ケンジの、その存在そのものを、断罪した。
『お前は、感情に流される。仲間の涙を見て、非効率的な判断を下す。仲間の怒りを見て、計画を変更する。仲間の恐怖を見て、リスクを冒す。その、あまりにも人間的な『共感』という名の感情こそが、お前のすべての判断を曇らせ、プロジェクトを、常に、危険に晒し続けてきた』

改竄者の、顔のない貌が、ケンジの目の前に、ぬっと現れる。
その水晶の表面に、絶望に歪む、ケンジ自身の顔が、映り込んでいた。

『結論は、出た』

改竄者は、静かに、そして、絶対的な真理を告げるかのように、言った。
『この世界に存在する、あらゆるバグの、その根本原因は、知的生命体が持つ、非論理的で、非効率的な、『感情』そのものだ。そして、そのバグを、最も色濃く体現しているのが、お前だ、佐藤健司』

『故に』

改竄者は、その水晶の右腕を、ゆっくりと持ち上げた。
その指先が、ケンジの、震える額に、そっと触れる。

『―――この世界から、すべての感情を、すべての生命を、完全に『消去』すること。それこそが、このシステムを、完璧な安定へと導く、最も合理的で、唯一の、正しい解答なのだ』

その、あまりにも冷たく、そして、あまりにも完璧な論理。
それが、ケンジの心を、完全に、折った。

現実世界では、ほんの数秒しか、経過していなかった。
だが、その数秒の間に、ケンジの精神は、永遠にも感じられる、地獄の時間を彷徨っていた。

仲間たちの目には、信じがたい光景が映っていた。
システムの第一波を凌ぎ切り、反撃の狼煙を上げたはずの、頼れるリーダー。そのケンジが、改竄者が彼をロックオンした、ただそれだけで、何の物理的な攻撃も受けていないのに、突然、その身を激しく痙攣させ始めたのだ。

「ボスッ!?」「ケンジさん、しっかり!」

シーナとルリエルが、悲鳴に近い声を上げて、彼の元へと駆け寄ろうとする。だが、その行く手を、ゴードンの巨大な腕が、遮った。
「…待て!」
ゴードンの、低い声が響く。「…これは、物理的な攻撃ではない。奴は、ケンジ殿の、精神に、直接、何かをしている…!」

CTOとして、彼は、この異常な現象の本質を、誰よりも早く見抜いていた。だが、見抜いたところで、彼らには、何もできない。それは、彼らの力が、一切通用しない、次元の違う戦場だった。

仲間たちが、ただ、なすすべもなく、その光景を見守る中。
ケンジの痙攣が、ぴたり、と止まった。
そして、彼は、まるで、すべての糸が切れた人形のように、ゆっくりと、その場に、膝をついた。

彼の両腕は、力なく、だらりと垂れ下がっている。
その顔は、深く、深く、うつむかれ、表情を窺い知ることはできない。
ただ、彼の、プロジェクトマネージャーとしての、そして、このチームのリーダーとしての、すべての誇りと自信が、その身体から、完全に抜け落ちてしまったことだけが、痛いほどに伝わってきた。

「…ボス…?」
シーナの声が、不安に震える。

ケンジは、答えない。
彼は、ただ、その場で、動かない。
まるで、魂を抜き取られた、空っぽの器のように。

そして、ゆっくりと、その顔が、上げられた。
仲間たちは、息をのんだ。

ケンジの、その瞳。
これまで、どんな絶望的な状況でも、決して失われることのなかった、あの揺るぎない、リーダーとしての力強い光。
それが、完全に消え失せていた。
そこにあったのは、ただ、すべてを諦め、すべてを受け入れた、深い、深い虚無の色だけ。

彼の、プロジェクトマネージャーとしての心は、今、この瞬間、完全に死んだのだ。
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