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第4話:忘却への旅路
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夜が明ける前に私はたった一台の簡素な馬車に乗せられた。
運び込まれた荷物は最低限の着替えが入った小さなトランクが一つだけ。かつて王宮の夜会へ向かう際に用いたアステル公爵家の紋章が輝く豪奢な馬車とは似ても似つかない。揺れの激しい古びた木製の箱。それが今の私に与えられた世界の全てだった。
見送る者は誰もいない。父も泣き崩れていた母も、姿を見せることはなかった。私はただ無感情に馬車へ乗り込み、硬い座席に身を沈める。やがて車輪が軋む音を立てて動き出し、私は生まれ育った公爵邸、そして栄華を極めた王都アステルを後にした。
しかし、現実は容赦なく冷たかった。
馬車の小さな窓から遠ざかる街並みが見える。白亜の塔、壮麗な貴族の屋敷、活気に満ちた大通り。その全てがもはや私の人生とは何の関係もない、遠いおとぎ話の風景になっていく。
美しい。けれど私の心には何も響かなかった。
喜びも悲しみも怒りさえも、今はどこか遠い場所にある。あの大神殿で、そして父の書斎で私の心は砕け散り、感情というものは全て流れ出てしまったようだった。今の私はただ息をしているだけの空っぽの人形に過ぎない。
旅が始まって一週間が過ぎた。
その間、馬車は王都の喧騒を完全に離れ、豊かな緑が広がる平野をひた走っていた。空はどこまでも青く澄み渡り、穏やかな陽光が世界を祝福していた。けれどその美しさは私の凍てついた心に染み入ることはない。私はただ窓の外を流れていく景色を、色のない絵画のようにぼんやりと眺めるだけだった。食べるように促されたものを口に運び、日が暮れれば眠る。そんな命の営みとは呼べないような日々が無感動に過ぎていく。
その日も空は雲一つない快晴だった。馬車に差し込む柔らかな光が私の手元を照らす。ふとその光景に私は遠い記憶の扉を開けていた。
あれは私がまだずっと幼かった雨の日のことだ。
公爵邸の広い庭で遊んでいた私は濡れた芝生に足を取られて派手に転んでしまった。泥だらけになったドレス、擦りむいた膝の痛み。何より一人ぼっちだった心細さで私は大声で泣きじゃくった。降りしきる雨が私の涙を隠してくれる。
もう誰も来てくれないのだと諦めかけた、その時だった。
不意に私を濡らしていた雨が止んだ。顔を上げると、大きな傘の向こうに、心配そうに眉を下げた父の顔が見えた。
「大丈夫か、セレスティア」
彼はそう言うと泥だらけの私をものともせず、その大きな腕で優しく抱き上げてくれた。彼の外套から香る懐かしいインクと古書の匂い。太く節くれだった、けれど温かい手。
あの頃の父は私の世界の全てだった。私の完璧を誰よりも喜び、私の未来を誰よりも信じてくれていた。
――あの父は、もういない。
思い出した温かい記憶は鋭い刃となって今の私を切りつけた。凍てついていたはずの心に鈍い痛みが走る。私は握りしめられたままだった右手に意識を向けた。あの日父が無理やり握らせた、あの指輪。微かな温もりを失ったその感触が、優しい思い出を容赦なく現実に引き戻す。
それからだった。まるで私の内面を映し出すかのように空の様子が変わり始めたのは。
豊かだった平野はいつしか姿を消し、道は険しい山道へと変わっていった。空を覆っていた青は徐々に色褪せ、灰色の雲が地平線の向こうから滲み出してくる。
旅の終わりが近いことを私は肌で感じていた。
そして、ついにその日は来た。
馬車が辺境と呼ばれる地域に入った途端、空は完全に鉛色の雲に覆われ、冷たい雨が窓を激しく打ち始めた。それは私の未来を暗示しているかのようだった。パタパタと響く雨音だけが世界の全ての音だった。
どれほどの時間が経っただろう。不意に馬車が速度を落とし止まった。御者台に座っていた護衛の兵士が一度もこちらを振り返ることなく事務的な声で告げた。
「着きました。ここがあなたの新しい領地です」
その声には何の感情も含まれていない。ただ厄介な任務がようやく終わったという安堵の色だけが滲んでいた。
私はゆっくりと顔を上げた。雨粒が伝う窓の向こうに、私の「新しい領地」の姿が見える。
――息を、呑んだ。
そこは町と呼ぶことさえ躊躇われるような場所だった。
道は舗装されておらず雨水でぬかるんで大きな水たまりを作っている。道の両脇に立つ家々はそのほとんどが傾き、壁は剥がれ落ち屋根には穴が開いていた。かつては鉱山町として栄えたと聞いたが今はその面影もなく、ただ寂れて朽ち果てていくだけの時間が流れている。
人の姿はまばらだった。雨を避けて軒下に立つ老人、泥水で遊ぶ痩せた子供。彼らは王都から来た見慣れぬ馬車を、そしてその中にいる私を希望のない虚ろな目で見つめていた。好奇心すらない。ただまた一人厄介者が流されてきたとでも言うような諦観に満ちた瞳。
想像を絶していた。
追放されると決まった時でさえここまで酷いとは思ってもみなかった。これは人が住む場所ではない。ここは全てを諦めた者たちがただ死を待つためだけの場所だ。
「さあ、降りてください。我々は王都へ戻らねばなりませんので」
兵士に促され私はわれるように馬車を降りた。扉が開いた瞬間、冷たい雨が私に降り注ぐ。高価だったはずのドレスの裾は瞬く間に泥水を吸って重くなった。
私の返事を待つこともなく馬車は乱暴に方向転換すると、すぐに走り去っていった。地を蹴る馬の蹄の音と車輪が泥を跳ね上げる音が遠ざかっていく。
やがてそれも聞こえなくなり後にはただ冷たい雨音だけが残された。
私は町の中心にただ一人立ち尽くす。
雨に打たれ、泥にまみれ、誰一人として手を差し伸べる者もいない。
栄光も地位も家族も未来も、全てを失った。
絶望。
これ以上の絶望などこの世にあるのだろうか。凍てついていたはずの心さえもがこのあまりにも残酷な現実の前にひび割れて悲鳴を上げている。
このままこの冷たい雨に打たれて朽ち果てていくのだろうか。
この希望のない土地で誰にも知られず忘れ去られて。
そう思った、瞬間だった。
私の心の奥底で何かがちりりと音を立てて燃えた。
それはほんの小さな火種。
絶望の底の最も暗く冷たい場所で生まれた微かな熱。
それは反発心だったのかもしれない。
あるいはただの生存本能だったのかもしれない。
けれどそれは確かに私の内に宿った光だった。
(このままでは、終われない)
声にはならなかった。しかしその想いは確かに私の意志となった。
私はゆっくりと顔を上げた。降りしきる雨の向こうに荒れ果てた町並みを見据える。
私の瞳の奥にほんの小さな光が宿ったのを、この時誰一人として知る者はいなかった。
「……ここから…」
第二幕への静かな助走が今始まった。
運び込まれた荷物は最低限の着替えが入った小さなトランクが一つだけ。かつて王宮の夜会へ向かう際に用いたアステル公爵家の紋章が輝く豪奢な馬車とは似ても似つかない。揺れの激しい古びた木製の箱。それが今の私に与えられた世界の全てだった。
見送る者は誰もいない。父も泣き崩れていた母も、姿を見せることはなかった。私はただ無感情に馬車へ乗り込み、硬い座席に身を沈める。やがて車輪が軋む音を立てて動き出し、私は生まれ育った公爵邸、そして栄華を極めた王都アステルを後にした。
しかし、現実は容赦なく冷たかった。
馬車の小さな窓から遠ざかる街並みが見える。白亜の塔、壮麗な貴族の屋敷、活気に満ちた大通り。その全てがもはや私の人生とは何の関係もない、遠いおとぎ話の風景になっていく。
美しい。けれど私の心には何も響かなかった。
喜びも悲しみも怒りさえも、今はどこか遠い場所にある。あの大神殿で、そして父の書斎で私の心は砕け散り、感情というものは全て流れ出てしまったようだった。今の私はただ息をしているだけの空っぽの人形に過ぎない。
旅が始まって一週間が過ぎた。
その間、馬車は王都の喧騒を完全に離れ、豊かな緑が広がる平野をひた走っていた。空はどこまでも青く澄み渡り、穏やかな陽光が世界を祝福していた。けれどその美しさは私の凍てついた心に染み入ることはない。私はただ窓の外を流れていく景色を、色のない絵画のようにぼんやりと眺めるだけだった。食べるように促されたものを口に運び、日が暮れれば眠る。そんな命の営みとは呼べないような日々が無感動に過ぎていく。
その日も空は雲一つない快晴だった。馬車に差し込む柔らかな光が私の手元を照らす。ふとその光景に私は遠い記憶の扉を開けていた。
あれは私がまだずっと幼かった雨の日のことだ。
公爵邸の広い庭で遊んでいた私は濡れた芝生に足を取られて派手に転んでしまった。泥だらけになったドレス、擦りむいた膝の痛み。何より一人ぼっちだった心細さで私は大声で泣きじゃくった。降りしきる雨が私の涙を隠してくれる。
もう誰も来てくれないのだと諦めかけた、その時だった。
不意に私を濡らしていた雨が止んだ。顔を上げると、大きな傘の向こうに、心配そうに眉を下げた父の顔が見えた。
「大丈夫か、セレスティア」
彼はそう言うと泥だらけの私をものともせず、その大きな腕で優しく抱き上げてくれた。彼の外套から香る懐かしいインクと古書の匂い。太く節くれだった、けれど温かい手。
あの頃の父は私の世界の全てだった。私の完璧を誰よりも喜び、私の未来を誰よりも信じてくれていた。
――あの父は、もういない。
思い出した温かい記憶は鋭い刃となって今の私を切りつけた。凍てついていたはずの心に鈍い痛みが走る。私は握りしめられたままだった右手に意識を向けた。あの日父が無理やり握らせた、あの指輪。微かな温もりを失ったその感触が、優しい思い出を容赦なく現実に引き戻す。
それからだった。まるで私の内面を映し出すかのように空の様子が変わり始めたのは。
豊かだった平野はいつしか姿を消し、道は険しい山道へと変わっていった。空を覆っていた青は徐々に色褪せ、灰色の雲が地平線の向こうから滲み出してくる。
旅の終わりが近いことを私は肌で感じていた。
そして、ついにその日は来た。
馬車が辺境と呼ばれる地域に入った途端、空は完全に鉛色の雲に覆われ、冷たい雨が窓を激しく打ち始めた。それは私の未来を暗示しているかのようだった。パタパタと響く雨音だけが世界の全ての音だった。
どれほどの時間が経っただろう。不意に馬車が速度を落とし止まった。御者台に座っていた護衛の兵士が一度もこちらを振り返ることなく事務的な声で告げた。
「着きました。ここがあなたの新しい領地です」
その声には何の感情も含まれていない。ただ厄介な任務がようやく終わったという安堵の色だけが滲んでいた。
私はゆっくりと顔を上げた。雨粒が伝う窓の向こうに、私の「新しい領地」の姿が見える。
――息を、呑んだ。
そこは町と呼ぶことさえ躊躇われるような場所だった。
道は舗装されておらず雨水でぬかるんで大きな水たまりを作っている。道の両脇に立つ家々はそのほとんどが傾き、壁は剥がれ落ち屋根には穴が開いていた。かつては鉱山町として栄えたと聞いたが今はその面影もなく、ただ寂れて朽ち果てていくだけの時間が流れている。
人の姿はまばらだった。雨を避けて軒下に立つ老人、泥水で遊ぶ痩せた子供。彼らは王都から来た見慣れぬ馬車を、そしてその中にいる私を希望のない虚ろな目で見つめていた。好奇心すらない。ただまた一人厄介者が流されてきたとでも言うような諦観に満ちた瞳。
想像を絶していた。
追放されると決まった時でさえここまで酷いとは思ってもみなかった。これは人が住む場所ではない。ここは全てを諦めた者たちがただ死を待つためだけの場所だ。
「さあ、降りてください。我々は王都へ戻らねばなりませんので」
兵士に促され私はわれるように馬車を降りた。扉が開いた瞬間、冷たい雨が私に降り注ぐ。高価だったはずのドレスの裾は瞬く間に泥水を吸って重くなった。
私の返事を待つこともなく馬車は乱暴に方向転換すると、すぐに走り去っていった。地を蹴る馬の蹄の音と車輪が泥を跳ね上げる音が遠ざかっていく。
やがてそれも聞こえなくなり後にはただ冷たい雨音だけが残された。
私は町の中心にただ一人立ち尽くす。
雨に打たれ、泥にまみれ、誰一人として手を差し伸べる者もいない。
栄光も地位も家族も未来も、全てを失った。
絶望。
これ以上の絶望などこの世にあるのだろうか。凍てついていたはずの心さえもがこのあまりにも残酷な現実の前にひび割れて悲鳴を上げている。
このままこの冷たい雨に打たれて朽ち果てていくのだろうか。
この希望のない土地で誰にも知られず忘れ去られて。
そう思った、瞬間だった。
私の心の奥底で何かがちりりと音を立てて燃えた。
それはほんの小さな火種。
絶望の底の最も暗く冷たい場所で生まれた微かな熱。
それは反発心だったのかもしれない。
あるいはただの生存本能だったのかもしれない。
けれどそれは確かに私の内に宿った光だった。
(このままでは、終われない)
声にはならなかった。しかしその想いは確かに私の意志となった。
私はゆっくりと顔を上げた。降りしきる雨の向こうに荒れ果てた町並みを見据える。
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