俺の完璧な潜入作戦が、いつも謎の令嬢にめちゃくちゃにされる件について

YY

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第4話:潜入の妨害者

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校外演習が始まった。
森は静かだった。木々の葉が風に揺れる音、鳥のさえずり、遠くで聞こえる学生たちの賑やかな声。だが、俺の耳には、それら全てが警戒すべきノイズとして届いていた。結社『ノクティス』は、この平穏の裏で必ず動く。

俺は、表向きの警護部隊から少し離れ、単独で森の奥深くへと潜入を開始した。敵の斥候や、仕掛けられた罠がないかを探るためだ。もちろん、もう一つの任務…例の公爵令嬢が勝手な行動をしないかも、常に警戒しながら。

そして、その懸念は、演習開始から一時間も経たずに現実のものとなった。
「まあ、なんて美しい蝶なのでしょう!」
甲高い声と共に、リリアーナ・フォン・エルドラドが、護衛の騎士が制止するのも聞かず、ひらひらと舞う瑠璃色の蝶を追いかけ始めたのだ。その進路は、明らかに演習ルートから外れた、魔獣の目撃情報がある危険地帯。

「……馬鹿なのか?」

俺は、木の幹に身を隠しながら、思わず本音を漏らした。
彼女の護衛役の騎士が慌てて後を追おうとするのを、俺は手で制した。下手に騒ぎ立てれば、森に潜む何者かの注意を引く。仕方がない。俺がやるしかない。俺の諜報任務は、この瞬間、不本意なベビーシッター任務へと変質した。

気配を完全に殺し、俺は彼女の後を追う。
彼女の行動は、まさに奇行の連続だった。
断崖絶壁の淵に立ち、眼下の景色にうっとりとしていたかと思えば、突然バランスを崩してよろめく。俺が地面を蹴って飛び出す寸前、彼女はなぜかバレリーナのようにくるりと一回転し、何事もなかったかのように体勢を立て直した。心臓に悪い。

次に、明らかに毒々しい色をしたキノコの群生地に、何の警戒もなく突っ込もうとする。俺が投げナイフで足元の枝を折り、注意を引こうとした、その瞬間。彼女は、足元を横切った黄金色の甲虫に気を取られ、ぴたりと立ち止まった。「まあ、綺麗ですわ」などと呟きながら。

偶然が重なっているだけか?
それにしても、悪運が強すぎる。本来であれば、俺は今頃、結社の痕跡を探して森の奥深くを調査しているはずだった。それが、いつの間にか、あの女の観察日誌を頭の中でつける羽目になっている。
『午後一時、崖際で謎の舞を披露』
『午後一時半、毒キノコを目前に甲虫と戯れる』
……馬鹿馬鹿しい。

だが、ついに偶然では済まされない事態が起きた。
彼女が古木の根元に腰を下ろし、侍女が作ったであろうサンドイッチを優雅に食べ始めた、その時だ。
俺の鋭敏な聴覚が、茂みの奥で弦が引き絞られる、微かな音を捉えた。
潜んでいたゴブリンの斥候。その汚れた矢の先は、無防備な彼女の背中に、寸分の狂いもなく向けられていた。

まずい。距離がある。俺は腰に下げた投げナイフを抜き放ち、矢を弾き落とすべく、完璧な軌道を計算した。
俺がナイフを投げようとした、まさにその瞬間。

カッ!

リリアーナの胸元で輝いていた、派手な装飾のブローチが、突如として太陽光を反射したかのように、強烈な閃光を放ったのだ。
「!」
茂みの中にいたゴブリンは、至近距離で浴びた眩い光に目が眩んだのだろう。放たれた矢は大きく軌道を逸れ、彼女の頭上を虚しく通り過ぎ、背後の木に深く突き刺さった。

当の本人は、何が起きたのか全く分かっていない。ただ、眩しそうに目を細め、「今の陽射し、やけに眩しかったですわね」などと、のんきなことを呟いている。
ゴブリンは、獲物を仕留め損ねたことに混乱し、慌てて森の奥へと逃げていった。

俺は、投げナイフを握りしめたまま、その場に立ち尽くしていた。
今の閃光は、ただの日光の反射などではない。魔力による、意図的な発光現象だ。
あのブローチ…ただの装飾品ではない。術者の危機を感知し、自動で防御魔術を発動する、高位の魔道具だ。なぜ、あんな能天気な令嬢が、騎士団でも一部の幹部しか支給されないような、一級品の代物を持っている?

全ての無謀な行動は、この絶対的な防御があることを前提とした、計算ずくの行動だったというのか?
いや、それにしては、あまりにも隙が多すぎる。彼女の様子からは、自分が危険に晒されていたという自覚も、魔道具が発動したという認識も、微塵も感じられない。

……わからない。
この女は、一体何者だ?
ただの幸運か、それとも計算か。あるいは、その両方か。
だが、一つだけ確かなことがある。リリアーナ・フォン・エルドラドは、俺が当初想定していた「厄介なだけの令嬢」ではない。
彼女の存在そのものが、今回の任務の、そして結社『ノクティス』の謎の核心に、深く関わっている可能性がある。
俺は、警戒レベルを最大に引き上げた。もはや、彼女は単なる妨害者ではない。解き明かすべき、最重要の謎そのものだ。
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