俺の完璧な潜入作戦が、いつも謎の令嬢にめちゃくちゃにされる件について

YY

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第14話:救出と捕縛

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異臭と混乱に満ちたアジトの奥から、息巻いた男が飛び出してきた。これまでの雑魚どもとは違う、鍛え上げられた体躯と、その目に宿る確かな殺意。手に持つ魔剣からは、不吉な紫色のオーラが陽炎のように立ち上っている。ここの責任者だろう。奴の顔には、計画を台無しにされた焦りと、俺という闖入者への明確な敵意が浮かんでいた。間違いない、こいつが結社の幹部だ。

そして、その元凶であるリリアーナ・フォン・エルドラドは、まだ椅子に縛られたままだ。好都合だ。ここで二人まとめて無力化し、この理解不能な茶番に終止符を打つ。俺の任務は、結社の幹部を捕縛し、そして首謀者である彼女の身柄を確保すること。どちらも、ここで完遂させる。

「貴様、何者だ!」

男が禍々しい魔剣を構えて斬りかかってくる。その一振りは、そこらの騎士であれば両断されてもおかしくないほどの重量と速度を備えていた。床の石畳が、その剣圧だけで砕け散る。だが、俺は冷静だった。腕は立つようだが、俺の敵ではない。俺は、王国暗部で、これ以上の手練れを幾人も闇に葬ってきたのだ。

俺は、男の剣筋を冷静に見切り、最小限の動きでその刃を弾く。甲高い金属音。体勢を崩した男の首筋に、寸分の狂いもなく剣の峰を叩き込んだ。男は白目を剥き、巨体が崩れ落ちる。

戦闘は、ほんの数秒で終わった。

その間、背後から、リリアーナの妙に楽しげな、場違いな声援が聞こえていたのが気になった。「素敵ですわ、ゼノン様!」「その剣筋、最高ですわよーっ!」。まるで闘技会でも観戦しているかのような、呑気な声。俺は、その声が引き起こす不快感を無視し、任務に集中した。まずは脅威を排除し、主犯を確保する。それが、俺の任務だ。

俺は、目的の人物――リリアーナの元へと向かった。一歩近づくごとに、彼女の異様さが際立っていく。彼女の前に立ち、その顔を検分する。この惨状の中、彼女のドレスには汚れ一つなく、その表情には恐怖も、混乱もない。ただ、キラキラとした、異様な光が宿っているだけだった。まるで、これから始まる何かを心待ちにしているかのように。その瞳は、これから尋問される容疑者のものではなく、劇のクライマックスを待つ観客のそれだった。

俺は、彼女を縛る縄を、一太刀で断ち切った。表向きは「救出」の形をとらねば、後々公爵家との関係で面倒なことになる。

俺が無言で手を差し出すと、彼女は、まるで当然のように、嬉々としてその手を取った。その仕草は、救出された感謝を示すものではない。まるで、舞踏会でダンスの手を取るかのような、優雅ささえあった。そして、満面の笑みを浮かべて立ち上がる。その顔にあったのは、助けられた安堵ではない。何かを成し遂げた達成感に満ちた、勝利の笑みだった。

…異常だ。

この女は、自分が今、どういう状況に置かれているのか、本当に理解しているのか?ここは敵のアジトで、周囲には仲間だったはずの男たちが倒れ伏している。そして目の前にいる俺は、彼女を容疑者として追ってきた騎士だ。だというのに、この反応はなんだ。まるで、全てが彼女の筋書き通りに進んだとでも言いたげではないか。

俺は、感謝の言葉を口にする彼女に、氷のように冷たい声で言い放った。これ以上、この女のペースに巻き込まれるわけにはいかない。

「二度と、勝手な真似はするな」

俺の、最大限の警告と拒絶を込めた言葉。だが、彼女はそれを聞くと、なぜか、ぱあっと顔を輝かせた。そして、聖母のような慈愛に満ちた笑みで、こう呟いたのだ。

「…照れ隠しですわね!」

……照れ隠し?

何を言っているんだ、この女は。

俺の思考が、一瞬、完全に停止した。

警告が、なぜそう解釈される?俺の言葉のどこに、そんな要素があった?俺は、あまりのことに言葉を失い、ただ目の前で微笑む彼女を見つめることしかできなかった。俺の動揺が、彼女には別の意味に映っていることにも気づかずに。

彼女の思考回路は、俺の理解を、常識を、完全に超えている。彼女の言葉を、俺の持つどの辞書で引いても、意味のある答えは導き出せない。

狂っているのか?それとも、これも全て、俺を欺くための、何かの作戦なのか?だとしたら、彼女の精神構造は、もはや人間のそれではない。悪意や敵意といった、理解可能な感情の範疇を超えている。

俺は、目の前で花が綻ぶように微笑む令嬢に、底知れない、不気味な何かを感じていた。彼女は、俺がこれまで対峙してきた、どんな敵よりも、恐ろしい存在なのかもしれない。
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