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第33話:隠れ家急襲で令嬢乱入
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リリアーナの私設騎士団…いや、狂信者集団の暴走を、俺は阻止できなかった。奴らは、俺が本来、夜陰に乗じて静かに急襲するはずだった結社の隠れ家へと、何の躊躇もなく、一直線に向かっている。その行軍は、もはや隠密行動とは程遠い。公爵家から支給されたであろう、無駄に装飾過多で高価な武具をガチャガチャと鳴らし、時折「ゼノン様のために!」「愛と勝利をリリアーナ様に!」などという鬨の声を上げながら、まるで祭りの行列のように進んでいく。統率という概念が存在しないのか、列は伸びたり縮んだり、まるで巨大な芋虫のようだ。もはや、あの熱狂した素人どもを正面から止めるのは不可能だ。下手に手を出せば、同士討ちになりかねん。こちらの正体も、作戦も、全てが露見する。あの集団の存在そのものが、この作戦における最大の情報漏洩源だった。
俺は歯を食いしばり、作戦を根底から変更した。苦渋の決断だったが、他に選択肢はない。俺の騎士としての矜持が、音を立てて砕けていくのを感じた。
「全隊、聞け。これより作戦を変更する。あの集団…『護衛騎士団』とやらが敵の注意を引いている隙に、我々は側面から突入し、内部の混乱を速やかに制圧する」
「しかし隊長、それでは彼らを囮に使うと…!」
副官が悲痛な声を上げる。その通りだ。最悪の状況だが、これを逆手に取るしかない。彼らを、意図せずして陽動部隊として利用する。素人を、それも貴族の子弟である学生を危険に晒すのは本意ではないが、彼らが自ら死地に飛び込んでいるのだ。俺にできるのは、彼らが無駄死にして全滅する前に、この状況を終わらせることだけだ。俺は全ての責任を負う覚悟で、部下たちに最終指示を下した。
目標の倉庫に接近すると、中からはすでに戦闘音が聞こえていた。だが、それは俺が聞き慣れた鋼のぶつかり合う音や、断末魔の悲鳴だけではなかった。なぜか、赤子をあやすような、のどかで、しかし致命的に調子の外れた子守唄が、倉庫の壁を震わせて漏れ聞こえてくる。それに混じって、パンッ、という間抜けな破裂音と、それに続くキラキラという謎の擬音。そして、それら全てをかき消すような、「素敵ですわ!」「そこですわ!」「もっと愛を込めなさい!」という、場違いに甲高い女性の嬌声が響いている。まるで、地獄の演奏会だ。俺の部下たちは、顔を見合わせ、その表情には明らかな困惑が浮かんでいた。
「…中で、一体何が起きているんだ」
隣を走る副官が、信じられないという顔で呟いた。彼の百戦錬磨の顔にも、純粋な困惑が浮かんでいる。無理もない。俺にも、全く分からん。これは、戦闘の音ではない。何かの祭りか、あるいは集団幻覚でも見ているのか。結社が、何らかの広範囲精神汚染系の魔術でも使っているのか?そうでなければ、この状況は説明がつかない。
俺は部隊に突入を命じた。これ以上、この意味不明な状況を放置しておくわけにはいかない。
扉を蹴破り、俺たちが目にした光景は、戦場というよりは、三流の喜劇だった。いや、悪夢と呼ぶ方が正しいかもしれん。
結社の屈強な工作員たちが、床一面に散らばった銀色の魚に足を取られてツルツルと滑って転び、どこからか聞こえてくる眠気を誘う盾の歌に、ふらふらと船を漕いでいる。そして、空気中には粘着性のキラキラ光る粒子が舞い、それを浴びた者たちが「目が、目がぁ!」と叫んで目をこすっている。倉庫の中は、甘い花の香りと、生臭い魚の匂いが混じり合った、地獄のような悪臭に満ちていた。
そして、その地獄のような、いや、馬鹿馬鹿しい惨状の中心で、あの女…リリアーナが、まるで舞踏会でワルツでも踊るかのように、優雅にドレスを翻していた。彼女がターンするたびに、そのドレスの裾から、さらにキラキラした魔弾が放たれている。彼女は、この混沌の指揮者だった。
なぜか、俺たちが突入するより先に、リリアーナが敵を撃破(?)済みだったのだ。俺が、何週間もかけて情報を集め、緻密な計画を立て、部下の命を危険に晒す覚悟で臨んだはずの、この王国暗部の最重要急襲作戦が。めちゃくちゃな素人の乱痴気騒ぎの、「後始末」に成り下がった。俺の部下たちも、目の前の光景が理解できず、剣を構えたまま立ち尽くしている。彼らの過酷な訓練の中に、「魚とキラキラ粒子と子守唄への対処法」などという項目はなかった。
そして、その全ての元凶は、俺の姿を認めると、まるで主人に褒めてほしそうに尻尾を振る犬のように、満面の笑みをこちらに向けてきた。その顔には、一点の曇りもない達成感が浮かんでいる。「ご覧なさい、あなた様のためにやりましたわ!」と、その目が雄弁に語っていた。
…俺の中で、これまで辛うじて繋ぎとめていた理性の糸が、ぷつりと音を立てて切れた。俺はこれまでの全ての心労と怒りと、そして底なしの呆れを込めて、彼女に叫んだ。
「なぜお前がここにいる!?」
俺の声は、倉庫の高い天井に響き渡り、馬鹿げた子守唄とキラキラ粒子を、一瞬だけ沈黙させた。
俺は歯を食いしばり、作戦を根底から変更した。苦渋の決断だったが、他に選択肢はない。俺の騎士としての矜持が、音を立てて砕けていくのを感じた。
「全隊、聞け。これより作戦を変更する。あの集団…『護衛騎士団』とやらが敵の注意を引いている隙に、我々は側面から突入し、内部の混乱を速やかに制圧する」
「しかし隊長、それでは彼らを囮に使うと…!」
副官が悲痛な声を上げる。その通りだ。最悪の状況だが、これを逆手に取るしかない。彼らを、意図せずして陽動部隊として利用する。素人を、それも貴族の子弟である学生を危険に晒すのは本意ではないが、彼らが自ら死地に飛び込んでいるのだ。俺にできるのは、彼らが無駄死にして全滅する前に、この状況を終わらせることだけだ。俺は全ての責任を負う覚悟で、部下たちに最終指示を下した。
目標の倉庫に接近すると、中からはすでに戦闘音が聞こえていた。だが、それは俺が聞き慣れた鋼のぶつかり合う音や、断末魔の悲鳴だけではなかった。なぜか、赤子をあやすような、のどかで、しかし致命的に調子の外れた子守唄が、倉庫の壁を震わせて漏れ聞こえてくる。それに混じって、パンッ、という間抜けな破裂音と、それに続くキラキラという謎の擬音。そして、それら全てをかき消すような、「素敵ですわ!」「そこですわ!」「もっと愛を込めなさい!」という、場違いに甲高い女性の嬌声が響いている。まるで、地獄の演奏会だ。俺の部下たちは、顔を見合わせ、その表情には明らかな困惑が浮かんでいた。
「…中で、一体何が起きているんだ」
隣を走る副官が、信じられないという顔で呟いた。彼の百戦錬磨の顔にも、純粋な困惑が浮かんでいる。無理もない。俺にも、全く分からん。これは、戦闘の音ではない。何かの祭りか、あるいは集団幻覚でも見ているのか。結社が、何らかの広範囲精神汚染系の魔術でも使っているのか?そうでなければ、この状況は説明がつかない。
俺は部隊に突入を命じた。これ以上、この意味不明な状況を放置しておくわけにはいかない。
扉を蹴破り、俺たちが目にした光景は、戦場というよりは、三流の喜劇だった。いや、悪夢と呼ぶ方が正しいかもしれん。
結社の屈強な工作員たちが、床一面に散らばった銀色の魚に足を取られてツルツルと滑って転び、どこからか聞こえてくる眠気を誘う盾の歌に、ふらふらと船を漕いでいる。そして、空気中には粘着性のキラキラ光る粒子が舞い、それを浴びた者たちが「目が、目がぁ!」と叫んで目をこすっている。倉庫の中は、甘い花の香りと、生臭い魚の匂いが混じり合った、地獄のような悪臭に満ちていた。
そして、その地獄のような、いや、馬鹿馬鹿しい惨状の中心で、あの女…リリアーナが、まるで舞踏会でワルツでも踊るかのように、優雅にドレスを翻していた。彼女がターンするたびに、そのドレスの裾から、さらにキラキラした魔弾が放たれている。彼女は、この混沌の指揮者だった。
なぜか、俺たちが突入するより先に、リリアーナが敵を撃破(?)済みだったのだ。俺が、何週間もかけて情報を集め、緻密な計画を立て、部下の命を危険に晒す覚悟で臨んだはずの、この王国暗部の最重要急襲作戦が。めちゃくちゃな素人の乱痴気騒ぎの、「後始末」に成り下がった。俺の部下たちも、目の前の光景が理解できず、剣を構えたまま立ち尽くしている。彼らの過酷な訓練の中に、「魚とキラキラ粒子と子守唄への対処法」などという項目はなかった。
そして、その全ての元凶は、俺の姿を認めると、まるで主人に褒めてほしそうに尻尾を振る犬のように、満面の笑みをこちらに向けてきた。その顔には、一点の曇りもない達成感が浮かんでいる。「ご覧なさい、あなた様のためにやりましたわ!」と、その目が雄弁に語っていた。
…俺の中で、これまで辛うじて繋ぎとめていた理性の糸が、ぷつりと音を立てて切れた。俺はこれまでの全ての心労と怒りと、そして底なしの呆れを込めて、彼女に叫んだ。
「なぜお前がここにいる!?」
俺の声は、倉庫の高い天井に響き渡り、馬鹿げた子守唄とキラキラ粒子を、一瞬だけ沈黙させた。
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