俺の完璧な潜入作戦が、いつも謎の令嬢にめちゃくちゃにされる件について

YY

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第34話:共闘の必要性

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俺の怒声も、現場の混沌の中では虚しく響くだけだった。まるで、嵐の中で木の葉のざわめきを叱りつけるようなものだ。その声が届く前に、新たな絶望がアジトの奥の暗闇から、統率の取れた足音と共に姿を現した。

怒号と共に、敵の増援が出現した。先ほどの連中とは、明らかに質が違う。その目には、訓練された者だけが宿す冷たい殺気が宿り、構える剣には一切の無駄がない。鎧は磨き上げられ、その動きは一つの生き物のように連携が取れている。結社の、練度の高い精鋭部隊だ。まずい。状況は、一気に最悪の局面へと転がり落ちた。

そして、その殺意に満ちたプロの集団の目の前には、あの女…リリアーナと、彼女が率いる、高価な武具を身につけただけの素人集団。彼らは、本物の殺気を間近で浴びて、ようやく自分たちがお遊戯ではなく、本物の戦場に足を踏み入れてしまったことを理解したのだろう。その顔からは血の気が失せ、自慢げに掲げていた盾は小刻みに震え、震える足は地面に根を張ったかのように動かず、ただ立ち尽くしている。ある者は腰を抜かし、ある者は声にならない悲鳴を上げている。このまま放置すれば、彼らが一方的に蹂衙され、皆殺しにされるのは時間の問題だ。文字通り、数秒で肉塊へと変わるだろう。俺の脳裏で、彼らの無残な最期が、あまりにも鮮明に映し出された。

俺はリリアーナに向かって、これ以上ないほど厳しい声で命令した。俺の声帯が張り裂けんばかりの、魂からの叫びだった。

「下がっていろ!今すぐここから帰れ!」

その言葉には、二つの、そして切実な意味を込めた。これ以上、俺の緻密な作戦の邪魔をするな。そして、ここで犬死にするな、と。これは命令であり、懇願だった。頼むから、これ以上事態を悪化させないでくれ。これ以上、俺の仕事を増やさないでくれ。

だが、彼女はなぜか、俺の怒声と緊迫した状況をものともせず、誇らしげに胸を張った。その瞳には、恐怖ではなく、恍惚とした光が宿っている。そして、信じられない言葉を返してきたのだ。

「いいえ、帰りませんわ!ゼノン様のそばが、この世で一番安全な場所ですもの!」

…何を言っているんだ、この女は。俺の言葉の、どこをどう解釈すればそうなる。戦場において、部隊を率いる指揮官のそばが最も危険な場所であることなど、三歳の子供でも分かる理屈だというのに。彼女の思考は、俺の理解できる論理の地平を遥かに超えていた。そのポジティブさは、もはや狂気の域に達している。

だが、敵は待ってはくれない。すでに、前衛の数人がリリアーナの騎士団とやらに斬りかかろうとしている。学生たちが、声にならない悲鳴を上げて腰を抜かすのが見えた。

この状況で、作戦を無視し、自ら死地に飛び込んできた彼女たちを見捨てることは、俺が騎士になった時に立てた誓いが許さない。「民を守る」という、そのあまりにも重い誓いが、今、俺の首を絞める。

…最悪だ。

俺は、彼女たちを守りながら戦うという、最も困難で、最も非効率な選択を強いられた。俺の任務は、結社の殲滅から、素人集団の保護へと、その目的を歪められてしまった。

俺はリリアーナに、最後の釘を刺すように、低い声で告げた。もはや、懇願に近かった。

「いいか、絶対に余計なことはするな。俺の指示だけを聞け。それ以外は、呼吸もするな」

俺の、その必死の警告は、全く、何一つ効かなかった。

彼女は、満面の笑みで力強く頷いたかと思うと、次の瞬間には「援護しますわ!」と叫びながら、懐から取り出した何かを投げつけた。それは、敵味方の区別なく、周囲一体の視界を奪う強力な閃光弾だった。

「ぐっ…!」

世界が、真っ白な光に包まれる。俺は咄嗟に目を閉じるが、網膜に焼き付いた残光が思考を麻痺させる。敵も、味方も、そして俺自身も、完全に視界を奪われた。この数秒の無防備な時間が、どれほど致命的か。俺は聴覚と肌で感じる空気の流れだけを頼りに、敵の剣が学生の喉を切り裂く音を聞く前に、勘で剣を振るう。甲高い金属音。弾き返したらしい。閃光でよろめいた彼女の部下の学生が、別の敵に斬られないようにその体を支える。そして、彼女が今度は胸元のブローチを起動させ、耳をつんざくような謎の超音波を放ち始めた。キィィィン、という不快な音が頭蓋骨に直接響き、敵だけでなく、俺たちの集中力をも確実に削いでいく。

「お嬢様、素晴らしいです!」「皆、歌いなさい!愛の歌でゼノン様を鼓舞するのです!」リリアーナの号令で、彼女の騎士団が、恐怖と混乱の中で、調子外れの応援歌を歌い始めた。その不協和音が、超音波と混じり合い、俺の三半規管をさらに破壊する。

…これは、共闘などではない。

これは、台風や地震の真っ只中で行われる、災害現場での、ただの人命救助だ。俺は、そう確信した。俺は、結社という敵と戦いながら、同時に、彼女が引き起こす人為的な災害からも、人々を守らねばならないのだ。

俺の騎士人生で、最も過酷な任務が、今、始まった。
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