俺の完璧な潜入作戦が、いつも謎の令嬢にめちゃくちゃにされる件について

YY

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第35話:結社幹部との激突

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倉庫街での小競り合いは、俺たちの圧倒的な練度の前に、すぐに終わるはずだった。狭い路地での戦闘は俺の専門分野だ。影を使い、壁を蹴り、一撃離脱を繰り返せば、敵の数を減らすのは容易い。だが、敵は俺の想像以上に狡猾だった。奴らは、自分たちの不利を悟るや、躊躇なく王都の目抜き通りへと、まるで堰を切ったように逃走を始めたのだ。民間人を盾にするという、騎士として最も忌むべき戦術に、何の躊躇もなく切り替えた。

陽光が降り注ぐ広場は、一瞬にしてパニックの渦に叩き込まれた。悲鳴を上げて逃げ惑う人々の波が、俺たちの緻密な包囲陣形を無慈悲に分断していく。果物屋の屋台はひっくり返り、色とりどりの果実が石畳に無残に転がった。美しい花壇は、恐怖に駆られた人々の足に踏み荒らされ、平和な日常が音を立てて崩れていく。子供の泣き叫ぶ声、母親がその名を叫ぶ声、そして結社の構成員が上げる下劣な笑い声。その全てが、俺の耳の中で不快な協奏曲を奏でていた。

「市民の保護を最優先とせよ!深追いはするな!第二、第三分隊は市民を安全な場所へ誘導しろ!第一分隊は俺に続け!」

俺は部隊に、市民の保護を最優先としながら、敵の指揮官である結社幹部を無力化するよう、的確に指示を飛ばす。そして、自ら先陣を切り、混乱の中心にいるその幹部へと向かった。奴の首さえ取れば、この烏合の衆は統率を失う。それが、この混乱を収める最短距離であり、唯一の正解だ。

だが、幹部は手練れだった。その剣技は鋭く、俺の渾身の斬撃を、まるで柳に風と受け流すように、紙一重でいなしていく。それどころか、逆にこちらの隙を突いて、毒が塗られた短剣で反撃してくる。その一太刀は重く、受け止めるたびに腕が痺れた。何より、その親衛隊もまた、死を恐れぬ精鋭揃いだ。彼らは市民を巧みに盾にしながら、俺の部下たちを分断し、確実に消耗させていく。俺と俺の部下が、彼ら主力を相手にしている、まさにその間。敵の別働隊が、我々の手薄になった側面を突き、市街地へと、まるで濁流のようになだれ込もうとしていた。その先には、噴水の陰で恐怖に震え、泣き叫ぶ、逃げ遅れた市民たちがいる。

まずい、そちらに割く兵力が、圧倒的に足りない…!俺の部下たちは、すでに目の前の敵で手一杯だ。俺の思考が、焦りで一瞬曇る。このままでは、最悪の事態…市民に犠牲者が出る。

その時だった。

信じられないことに、あの女…リリアーナの護衛団とやらが、その敵の別働隊の前に、まるで壁のように立ちはだかったのだ。彼らの構えは素人そのもので、恐怖に足が震えている者すらいる。だが、その手にしたミスリル製の剣や、オリハルコンで縁取られた盾は、明らかに一級品だった。公爵家の財力に物を言わせた、無駄に豪華な装備だ。

素人集団のはずが、そのめちゃくちゃな動きと、意味不明にキラキラと輝く装備で、なぜか敵の進軍を食い止めている。眠気を誘う盾の歌が、不協和音を奏でながら響き渡り、突撃しようとしていた屈強な敵兵が、伝染病のように次々と大きなあくびをしながら、その場でふらつき始める。破裂するバックラーが、敵の陣形を乱し、辺り一面に新鮮な魚を撒き散らす。奴らが、側面を抑えていた。いや、抑えているというよりは、あまりの馬鹿馬鹿しさに敵が困惑し、進軍を躊躇しているだけだ。プロの戦闘集団が、武装した素人の奇行を前に、どう対処すべきか判断できずにいるのだ。

俺がその信じがたい光景に一瞬気を取られていると、今度はリリアーナ本人が、敵幹部の前に、まるで舞踏会にでも臨むかのように、優雅に躍り出た。

「小娘が、死にたいか!」

幹部が、邪魔者を見る目で怒号を上げる。だが、彼女は怯まない。それどころか、扇で口元を隠し、挑発するように微笑んでさえいる。

そして、彼女が身に纏う夜空色のドレスが、まるで要塞のように淡い光を放ち始めたのだ。スカートの裾、レースの袖口、胸元で輝く宝石、その全てに刻まれた微細な魔法陣が起動し、彼女の規格外の魔力に呼応して、銀河のように輝きを増していく。その全てから、無数の、ありえないことにハートの形をした魔弾が、嵐のように乱射された。

その威力は、一個小隊の魔導師による一斉射撃にも匹敵する。いや、それ以上だ。魔弾は、まるで意思を持っているかのように、正確に敵兵だけを追尾し、その鋼の装甲を、まるで紙を貫くようにいとも簡単に貫いていく。着弾した場所からは、むせ返るほど甘い薔薇の香りと、「I LOVE Z様♡」という幻影の文字が、キラキラと舞い散っていた。

俺は、その常軌を逸した光景を前に、もはや怒りも、呆れも通り越し、ただ、戦慄していた。

あの女、一体、何者なんだ…。

人の形をしているが、あれは、もはや人間ではない。彼女の存在そのものが、この世界の物理法則や、魔術の理を捻じ曲げている。あれは、何かの、怪物だ。俺がこれまで信じてきた、血の滲むような努力と、死線を越えてきた訓練の全てを嘲笑うかのような、絶対的な理不尽の塊。それが、俺の目の前にいた。
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