傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第9章 戦争の終わり

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フェリエルは、地面に転がっている数枚の革鎧を見回すと、ゆっくりと満足げに頷いた。
そして状態がそこそこ良い一枚を拾い上げ、フィルードに差し出す。
「これはお前のものだ。」
渡されたのが一番ボロボロの鎧ではないことを知った瞬間、フィルードの胸に安堵が広がった。
(……よし、あの五枚の銅フィニーは無駄じゃなかった!)
彼は嬉々として鎧を受け取り、泥や血に汚れているのも気にせず、その場で素早く身につけた。
命に代えられるものなど、この世に存在しない――そう信じていたからだ。
フェリエルに礼を述べたあと、フィルードはさらに言葉を続ける。
「慈悲深きフェリエル執事。あなたの領地には、弓兵の予備が二人ほど残っていませんか? もし使い手がいないのなら……その弓、私に売っていただけませんか? ただ、今は資金が足りません。せいぜい五十枚の銅フィニーが限界です。これを頭金にして、残りは分割で返済します。それに、次回の戦闘にも必ず参戦し、命を賭けて働きます! そうすれば借金もすぐに返せるはずです!」
彼の必死な申し出に、フェリエルの口元には最初こそ笑みが浮かんだ。
だが「掛け売り」という言葉を耳にした瞬間、その表情がぴたりと固まる。
長い沈黙のあと、彼はフィールドの弓術を思い出し、やがて重々しく頷いた。
「……分かった。お前の条件を受け入れよう。ただし――完済までの間、毎月四枚の銅フィニーを利息として徴収する。たとえ一か月に満たなくても、一か月分として計算する。それが条件だ。」
「……!」
思ったより厳しい条件だった。
だがフィルードはほとんど迷うことなく、すぐにうなずいた。
(ふん、命を賭ける傭兵が、闇金の利息ごときに怯んでどうする!)
そう心で吐き捨て、彼は笑みを浮かべた。
――その直後だった。
「……あれは……?」
フェリエルが目を細めた先に、騎士ウォーカーの姿が現れた。
彼の従者の姿はなく、鎧は損傷し、片腕を押さえて血を流している。
さらにその背後からは、フェイン騎士と従者が怒号を上げながら迫ってくる。
「ウォーカー! この臆病者め! 小僧! 逃げるな、俺と決闘しろ! 貴様の腸をぶちまけてやる!」
その怒声が戦場に響く。
前を逃げるウォーカーの顔は、豚の肝のように真っ赤に染まり、屈辱に歯を食いしばっていた。
しかし反論もできず、ただひたすら鞭を振るい、馬を走らせるしかなかった。
「……っ! くそっ、本当に足手まといだ……!」
フィルードは冷や汗を流した。
(ただでさえ下手なのに、わざわざ前に出て状況をひっくり返しやがって……!)
周囲を警戒していた農兵たちも、すぐに槍を構えて領主を守る陣形を整える。
フィルードは素早く、手に入れたばかりの弓を手に取った。
それは八十ポンドを超える軍用弓。
木材も加工も、彼が使っていた猟弓とは比べ物にならない。
だが――虚弱なこの身体では、どうしても半弓までしか引けなかった。
ウォーカー騎士が百メートルに迫った瞬間、フィルードはその背後のフェイン騎士に狙いを定める。
だが、弦を引き絞ろうとした瞬間――。
「やめろ、フィールド!」
フェリエルの叫びが飛んだ。
「貴族を射殺すなど紳士にあるまじき行為! 重罪で裁かれるぞ! 貴族同士の戦いでも、命を奪ってはならん!」
「……な、なんだそれは……!」
理不尽なルールに、フィールドは思わず唖然とする。
(じゃあ俺たちは、貴族に殺されるのを黙って待てってことかよ!?)
だが彼はフェリエルの忠告を受け入れ、渋々弓を下ろした。
その後、ウォーカー騎士は歩兵の隊列に合流。
しかしフェイン騎士は退かず、周囲をぐるぐると回り続け、挑発するように睨みを利かせていた。
「……あの馬……」
フィルードの喉が鳴った。
従者が乗る馬は明らかに高価な代物。三分の一でも手に入れば、莫大な利益になるだろう。
「フェリエル執事……フェイン騎士を狙わず、従者だけなら攻撃してもいいですか?」
答えを待つ前に、二人の農兵弓兵がすでに矢を射っていた。
だが彼らの腕前では、馬上を疾走する従者に当てられるはずもない。
(……なら、俺がやるしかない!)
フィルードはすぐに矢をつがえ、従者の走行ルートを予測して弓を引いた。
――ヒュッ!
矢は空を裂いたが、惜しくも従者の背をかすめて外れた。
それを見たフェイン騎士は、たちまち表情を変えた。
「……っ! 腕の立つ弓兵がいる!」
危険を察した彼はすぐに馬の向きを変え、撤退の合図を出す。
だがフィルードは追撃をやめなかった。
再び弓を引き、息を殺して狙いを定める。
――ヒュッ!
鋭い音と共に矢が放たれ、ついに従者の背中を貫いた。
悲鳴を上げた従者は馬から転げ落ちる。
「……っ!」
フェリエルは呆然とその光景を見つめ、周囲からは大歓声が湧き起こった。
ウォーカー騎士も興奮を隠せず、叫ぶ。
「よくやった、若者! 必ず厚く褒美を取らせよう!」
顔を豚の肝のように染めたのは、今度はフェイン騎士の番だった。
従者を見捨て、彼は馬を駆けて撤退していく。
フィルードは震える手で弓を握りしめた。
(やった……本当にやったぞ……! 従者を落馬させるなんて、まるで夢みたいだ!)
こうして戦いの行方は決した。
ウォーカー騎士はフェインの荘園を一瞥した。
そこには老若男女が木の柵を守っていたが、落とすのは容易ではない。
農兵の傭兵たちに突撃を命じれば、恐らく全員逃げ出すだろう。
貧しい農奴から得られるものもなく、ウォーカーは即座に撤退を命じた。
戦勝ののち、領地に戻ったウォーカーはまず傭兵たちに報酬を支払った。
今回は勝利に気を良くしたのか、遅延は一切なかった。
最後に呼ばれたのは――フィルードだった。
彼は四人の敵を戦闘不能にし、その中には騎士の従者すら含まれていた。
功績は抜きん出ており、戦利品も三つ――鉄を嵌め込んだ革鎧、一頭の馬、片手剣。
革鎧は中古でも十五銀貨は下らず、剣も十五銀貨以上。
馬に至っては八十銀貨、帝国金貨三枚に匹敵する。
その三分の一が彼の取り分――およそ四十銀貨。平民にとっては莫大な財産だった。
さらにウォーカーは、彼を晩餐に招待する。
世の中を見たいと願っていたフィルードは、もちろん快諾した。
だが――。
彼が目にしたのは、想像とはまるで違う光景だった。
若い令嬢など一人もいない。料理を運んできたのは、白髪の混じった老女中ばかり。
「……これが……貴族の晩餐……?」
胸に広がったのは、栄光ではなく、失望だった。
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