傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第18章 戦利品と『超凡者』への誓い

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激しい戦闘の末、ついにすべての猪人族戦士が倒れた。
しかし――傭兵たちの損害も小さくはなかった。
「……ちっ、精鋭までやられたか」
戦場を見渡したフィールドの胸に、重いものがのしかかる。
精鋭傭兵二名が戦死、四名が重傷。さらに一般傭兵は六名戦死、十名が負傷。先ほどをはるかに上回る犠牲だった。
それも当然だ。彼ら猪人族戦士は皆、武装が整っており、我を忘れ突進してきたのだから。
だが収穫は莫大だった。武具一式、三頭の駄馬。
武具はほとんどブライアンの資産となったが、駄馬だけは全員で分けられることになった。
戦場を片付け、夕暮れに町へ戻ると――すぐに戦利品の分配が始まった。
「フィルードのおかげで助かった!」
ブライアンの提案により、駄馬一頭と干し肉百斤が彼に与えられる。誰一人異を唱えず、皆が納得して頷いた。
その後は商隊と傭兵団で分配し、全員がわずかながら利益を手にした。
やがて作業も終わり、仲間たちはそれぞれ去っていく。
「フィルードさん、今夜はどうです? 一杯付き合っていただけませんか?」
「ええ、喜んで」
二人はそのまま並んで酒場へ向かった。
――酒場の隅の席。
簡素な料理と大樽から注がれた麦酒。
ブライアンは杯を掲げながら言った。
「フィルードさん、今回は本当に感謝しています。あなたがいなければ、どうなっていたことか……。あなたは五人の敵を仕留めましたね。その功績に報いて、商隊から金貨一枚――銀貨三十枚を贈らせてください」
「ありがとうございます、ブライアンさん。今回の協力には大いに満足しています。今後もこういう仕事があれば、ぜひ声をかけてください。友人を紹介していただいても構いません」
「ええ、ぜひそうしましょう」
ブライアンは大きく頷いた。だが、すぐに真剣な表情に変わる。
「……ただ、ひとつ提案があるのですが、聞いていただけませんか?」
「どうぞ」
「フィルードさん、あなたほどの力を傭兵で終わらせるのは惜しい。私の商隊の護衛隊長になりませんか? 毎月銀貨二十枚を保証します。傭兵にしては破格です。安定もしています。ただ……新しい商路を切り開く際には、多少の危険が伴うかもしれません」
だがフィルードは即答した。
「申し訳ありません、ブライアンさん。私は縛られず、自由に生きたいのです。いずれ自分の傭兵団を立ち上げるつもりです。困ったときに一度限り雇っていただく方が、お互いにとって良いでしょう」
ブライアンは落胆を隠せず、苦笑を浮かべるしかなかった。
だがフィルードは続けて問いを投げる。
「ところでブライアンさん。各地を旅して多くを見聞きしているあなたに伺いたい。……平民が貴族になった例を知っていますか? どうすれば平民は貴族になれるのですか?」
ブライアンは肉を頬張りながら、思案げに答えた。
「志が大きいですね、フィールドさん。ですが……北部では難しいでしょう。数十年前の大戦の頃なら、まだ可能性もありました。けれど今や、貴族制度は崩壊寸前。男爵でさえ命令を無視される始末です。唯一の例外は――超凡者を抱える貴族だけです」
「……超凡者ちょうはんしゃ?」
フィルードの目が光る。
ブライアンは麦酒をぐっと煽り、口元に神秘的な笑みを浮かべた。
「超凡者とは――人を超えた力を持つ存在。戦士か魔法使いに大別されます。だが、数万年前に天地の魔力が枯渇して以来、ごく稀にしか現れません。しかも魔法使いはさらに希少。彼らを抱えられるのは王族や大貴族くらいでしょう。……なぜかと言えば、修練には魔石が必要だからです。一つで数百から数千金貨。庶民には到底手が届かない」
「……!」
フィルードは胸を高鳴らせる。未知の領域の扉が、いま静かに開かれようとしていた。
「なぜそんなに詳しいのですか?」
ブライアンは遠い目をした。
「実は……私もかつて夢見たのです。超凡者に。貴族の家に生まれた私は、多くの情報に触れることができました。だが――資質はなかった。全財産を費やして魔法使いに調べてもらい、打ち砕かれました。だから今は、こうして商隊を率いているのです」
その告白に、フィルードは深く息を飲んだ。
「……失礼しました。辛い記憶を呼び起こしてしまいましたね」
二人の杯が、静かに重なった。
――そして「超凡者」という言葉が、フィルードの心に強く刻まれた。
ブライアンが酔いに沈んでいく横で、フィルードはただ黙って杯を握りしめていた。
――超凡者。
それは、人を超えた者。王族すら恐れる存在。
「もし……もし自分がその力を手にできたなら――」
心臓が高鳴り、胸の奥で熱が灯る。
束縛を嫌い、自由を求める自分にこそ、誰にも縛られない力が必要だ。
金貨も、名誉も、地位も、すべては後からついてくる。
「俺は……必ず、超凡者になる」
その決意は、酒場の喧騒にかき消されることなく、夜の空気に確かに刻まれた。
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