19 / 345
第19章 冥想法を手に入れる
しおりを挟む
――必ず、超凡者になる。
心に刻んだ誓いを胸に、フィルードは杯を置いた。
気づけば、隣のブライアンが彼をじっと見つめている。
その眼差しは、ただの酔っぱらいのものではなく、長い歳月を旅商人として生き抜いてきた者の眼だった。
「構わないさ。君にこれらの昔話をさせてくれたのは、君の才能だろう。」
ブライアンは手を振りながら、赤らんだ頬で言った。
「君は本当に素晴らしい若者だ。この長い商売の旅で、私は常人にはない人を見る目を養ってきた。君はきっと将来、非凡な人物になる!戦争に対する鋭い感覚も非常に優れている。これからもぜひこの道に進むべきだ!」
その言葉を真正面から受け止め、フィルードは力強くうなずいた。
「ご指導ありがとうございます。心に刻んでおきます。……ブライアン管事、以前あなたが才能を調べてもらった場所は、今でも存在しますか?」
ブライアンは意味深な笑みを浮かべる。
「やはり聞いてきたな。君が尋ねなくても、教えるつもりだったよ。ただ――慎重になるんだ。あの場所は王都にある。ここから十数日もかかるし、地下の闇市場組織の管理下にある。検査費用は金貨50枚。……法外に高い。そのお金があるなら、君の傭兵団の建設に使ったほうがいい。強くなってからでも遅くはない。」
その一言に、フィルードの胸の高鳴りは半分ほど冷めた。金貨50枚――今の彼には到底出せる額ではない。
「……なるほど。今は深入りしないでおきます。」
話題を変え、彼は周囲の政治や地理、人々の暮らしについて質問を始めた。ブライアンは饒舌に答え、フィルードはスポンジのように知識を吸収していった。
気づけば、二人は酒を酌み交わし、打ち解けた口調に変わっていた。
「ブライアン兄さん、本当に魔獣を見たことがあるんですか? 攻撃されなかったなんて、運がいいですね!」
「もちろんだとも!」ブライアンはすっかり酔っ払っていた。「あんなに怖かったことは、生まれて初めてだったさ。十数年前、子牛ほどの大きさの灰色オオカミに出くわしてな……幸い腹いっぱいだったらしく、私たちをじっと見ただけで立ち去ってくれた。」
その話に、フィルードの目は輝いた。――この世界には、まだまだ未知の存在があふれている。
酒に潰れかけのブライアンを部屋に運び、毛布をかけてやると、フィルードはふと窓の外に目をやった。雪国の夜は深く、吐く息は白く消えていく。
(もっと知りたい。強くなるために、この世界のことを……)
胸の奥で小さな炎が燃えていた。
「……フィルードよ。」
背を向けかけたとき、酔いににじんだ声が呼び止めた。
「君が超常的なものに興味を持っているなら、私が集めた魔法の本をいくつかやろう。今となっては価値も薄れた代物だがな。その中で最も使えるのは二つの修練法だ。一つは戦士の鍛体法、もう一つは汎用的な冥想法だ。ただし……鍛体法に手を出すな。魔石や魔力を含む物がなければ、命を落としかねない。だが冥想法は安全だ。心を落ち着け、思考を整理するのに役立つ。」
「……! 本当ですか!」
思いがけない贈り物に、フィルードは歓喜を抑えきれなかった。
「兄さん、いくらですか? ただで受け取るわけには――」
「金などいらん。」ブライアンは急に真剣な顔をした。「大した価値のないものばかりだ。若い頃の好奇心で集めただけだしな。私はもう歳を取った。だから、君に託す。だが……深入りしすぎないようにな。」
胸が熱くなった。
「……ありがとうございます、ブライアン兄さん。このご恩は必ず返します!」
その夜、フィルードは羊皮紙を開いたが、文字が読めないことに気づいた。説明を請うと、ブライアンは根気強く教えてくれ、短時間で大まかな意味を理解できた。
「なるほど……これが、冥想法か。」
彼は何度も羊皮紙を撫で、心の底から感謝を込めて礼を言った。
翌朝、冷たい空気の中で目を覚ましたフィルードは、羊皮紙を胸に抱きながら深呼吸した。
(これで……俺も一歩前に進める)
静かな決意を抱え、彼はケビンの部屋へ向かう。
ケビンは敬礼し、ポケットから銀貨11枚を取り出して差し出した。
「団長、こちらが今月分です。」
フィルードは受け取りつつ、そのうち1枚を彼に返す。
「ケビン、これは家に送ってやれ。団の立ち上げには金がかかるが、家族を蔑ろにするわけにはいかない。」
だがケビンは真剣に首を振った。
「いいえ、団長。行軍を含めて二日しか働いていません。元々は銅貨20枚の約束でしたし、それすら不要です。食事の方がよほど価値がありますから。今は一刻も早く資金を貯めて、団を拡大すべきです。」
「……君は真面目すぎるな。」
フィルードは銀貨を無理やり握らせた。
「家を出て何も持ち帰らないのはよくない。今回の戦利品で肉干しを百斤手に入れた。これでしばらくは食いつなげる。傭兵団のことは任せろ。」
ケビンは観念して頷き、その銀貨を大切にポケットへしまった。
――それは彼にとって、人生で最も大きな報酬だった。
夢のような数日間。その実感が、ようやく心に染み込んでいった。
心に刻んだ誓いを胸に、フィルードは杯を置いた。
気づけば、隣のブライアンが彼をじっと見つめている。
その眼差しは、ただの酔っぱらいのものではなく、長い歳月を旅商人として生き抜いてきた者の眼だった。
「構わないさ。君にこれらの昔話をさせてくれたのは、君の才能だろう。」
ブライアンは手を振りながら、赤らんだ頬で言った。
「君は本当に素晴らしい若者だ。この長い商売の旅で、私は常人にはない人を見る目を養ってきた。君はきっと将来、非凡な人物になる!戦争に対する鋭い感覚も非常に優れている。これからもぜひこの道に進むべきだ!」
その言葉を真正面から受け止め、フィルードは力強くうなずいた。
「ご指導ありがとうございます。心に刻んでおきます。……ブライアン管事、以前あなたが才能を調べてもらった場所は、今でも存在しますか?」
ブライアンは意味深な笑みを浮かべる。
「やはり聞いてきたな。君が尋ねなくても、教えるつもりだったよ。ただ――慎重になるんだ。あの場所は王都にある。ここから十数日もかかるし、地下の闇市場組織の管理下にある。検査費用は金貨50枚。……法外に高い。そのお金があるなら、君の傭兵団の建設に使ったほうがいい。強くなってからでも遅くはない。」
その一言に、フィルードの胸の高鳴りは半分ほど冷めた。金貨50枚――今の彼には到底出せる額ではない。
「……なるほど。今は深入りしないでおきます。」
話題を変え、彼は周囲の政治や地理、人々の暮らしについて質問を始めた。ブライアンは饒舌に答え、フィルードはスポンジのように知識を吸収していった。
気づけば、二人は酒を酌み交わし、打ち解けた口調に変わっていた。
「ブライアン兄さん、本当に魔獣を見たことがあるんですか? 攻撃されなかったなんて、運がいいですね!」
「もちろんだとも!」ブライアンはすっかり酔っ払っていた。「あんなに怖かったことは、生まれて初めてだったさ。十数年前、子牛ほどの大きさの灰色オオカミに出くわしてな……幸い腹いっぱいだったらしく、私たちをじっと見ただけで立ち去ってくれた。」
その話に、フィルードの目は輝いた。――この世界には、まだまだ未知の存在があふれている。
酒に潰れかけのブライアンを部屋に運び、毛布をかけてやると、フィルードはふと窓の外に目をやった。雪国の夜は深く、吐く息は白く消えていく。
(もっと知りたい。強くなるために、この世界のことを……)
胸の奥で小さな炎が燃えていた。
「……フィルードよ。」
背を向けかけたとき、酔いににじんだ声が呼び止めた。
「君が超常的なものに興味を持っているなら、私が集めた魔法の本をいくつかやろう。今となっては価値も薄れた代物だがな。その中で最も使えるのは二つの修練法だ。一つは戦士の鍛体法、もう一つは汎用的な冥想法だ。ただし……鍛体法に手を出すな。魔石や魔力を含む物がなければ、命を落としかねない。だが冥想法は安全だ。心を落ち着け、思考を整理するのに役立つ。」
「……! 本当ですか!」
思いがけない贈り物に、フィルードは歓喜を抑えきれなかった。
「兄さん、いくらですか? ただで受け取るわけには――」
「金などいらん。」ブライアンは急に真剣な顔をした。「大した価値のないものばかりだ。若い頃の好奇心で集めただけだしな。私はもう歳を取った。だから、君に託す。だが……深入りしすぎないようにな。」
胸が熱くなった。
「……ありがとうございます、ブライアン兄さん。このご恩は必ず返します!」
その夜、フィルードは羊皮紙を開いたが、文字が読めないことに気づいた。説明を請うと、ブライアンは根気強く教えてくれ、短時間で大まかな意味を理解できた。
「なるほど……これが、冥想法か。」
彼は何度も羊皮紙を撫で、心の底から感謝を込めて礼を言った。
翌朝、冷たい空気の中で目を覚ましたフィルードは、羊皮紙を胸に抱きながら深呼吸した。
(これで……俺も一歩前に進める)
静かな決意を抱え、彼はケビンの部屋へ向かう。
ケビンは敬礼し、ポケットから銀貨11枚を取り出して差し出した。
「団長、こちらが今月分です。」
フィルードは受け取りつつ、そのうち1枚を彼に返す。
「ケビン、これは家に送ってやれ。団の立ち上げには金がかかるが、家族を蔑ろにするわけにはいかない。」
だがケビンは真剣に首を振った。
「いいえ、団長。行軍を含めて二日しか働いていません。元々は銅貨20枚の約束でしたし、それすら不要です。食事の方がよほど価値がありますから。今は一刻も早く資金を貯めて、団を拡大すべきです。」
「……君は真面目すぎるな。」
フィルードは銀貨を無理やり握らせた。
「家を出て何も持ち帰らないのはよくない。今回の戦利品で肉干しを百斤手に入れた。これでしばらくは食いつなげる。傭兵団のことは任せろ。」
ケビンは観念して頷き、その銀貨を大切にポケットへしまった。
――それは彼にとって、人生で最も大きな報酬だった。
夢のような数日間。その実感が、ようやく心に染み込んでいった。
38
あなたにおすすめの小説
元勇者は魔力無限の闇属性使い ~世界の中心に理想郷を作り上げて無双します~
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
魔王を倒した(和解)した元勇者・ユメは、平和になった異世界を満喫していた。しかしある日、風の帝王に呼び出されるといきなり『追放』を言い渡された。絶望したユメは、魔法使い、聖女、超初心者の仲間と共に、理想郷を作ることを決意。
帝国に負けない【防衛値】を極めることにした。
信頼できる仲間と共に守備を固めていれば、どんなモンスターに襲われてもビクともしないほどに国は盤石となった。
そうしてある日、今度は魔神が復活。各地で暴れまわり、その魔の手は帝国にも襲い掛かった。すると、帝王から帝国防衛に戻れと言われた。だが、もう遅い。
すでに理想郷を築き上げたユメは、自分の国を守ることだけに全力を尽くしていく。
辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた
平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。
それから幾千年。
現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。
そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。
ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。
だが彼自身はまだ知らない。
自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。
竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。
これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした
たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。
だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。
自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。
勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
追放されたけど実は世界最強だった件 〜異世界でスローライフを満喫してたら、元婚約者が泣きついてきた〜
にゃ-さん
ファンタジー
王国一の魔術師と呼ばれながらも、冤罪で追放された青年レオン。
田舎でのんびり暮らすつもりが、助けた村娘が実は聖女、拾った猫が神獣、弄った畑が伝説の大地に!?
やがて彼の存在は国を超えて伝説となり、かつて彼を見下した者たちが次々とひざまずく――。
ざまぁあり、無自覚ハーレムありの、スカッと系異世界リベンジ譚。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる