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第85章 交渉の砂時計が落ちる時、戦場は動き出す
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チェリルが言い終わると同時に、草むらの影から数名の兵士が飛び出してきた。
「お前たちは何者だ? なぜ夜中にここへ来た?」
槍を構えるその姿には、疲労と焦りが滲んでいた。
チェリルは、落ち着き払った笑みを浮かべる。
(……やはり、追い詰められてるな。喉も乾き、目にも余裕がない)
「私はブラックスウォーター傭兵団の士官だ。今夜ここに来たのは、幸運だと思うぞ。さっさとお前たちのリーダーに通せ。遅れたら、お前たちでは責任を取れないだろう?」
その堂々たる態度に圧されたのか、兵士たちは慌てて姿勢を正した。
「す、すぐに報告してまいります!」
その時、別の兵士が興味深そうに近づいた。
「兄ちゃん、水……持ってるか?」
喉は乾ききり、唇はひび割れていた。
チェリルは黙って頷き、水筒を一つ放り投げる。
それを受け取るなり、兵士たちは争うように水を飲み始めた。
(……想像以上に切迫している。二日も山に籠もっていれば当然か)
「兄ちゃん、見苦しいところを見せたな。俺たちは二日間ここで足止めされてる。食料はまだあるが、水がもう尽きそうなんだ。……あんたたちは、本当に助けに来てくれたのか?」
チェリルは小さく首を振る。
「断言はできない。お前たちのリーダー次第だ。――金を払ってでも命を賭ける覚悟があるかどうか、だな。」
兵士の目が揺れた。
「……金か。そりゃそうだよな。でもな、この山には五つの勢力がある。一番でかいのが三百人、あとは百人ちょっと。あそこを説得できれば、残りはなんとかなるはずだ。」
「助かる。情報感謝する。」
チェリルは軽く頷き、心の中で微笑んだ。
(交渉材料は揃った。あとは、向こうの覚悟を見るだけだ)
その時、先ほど報告に行った兵士が戻ってきた。
案内されるまま、山頂にあるテントの前にたどり着く。
チェリルは胸を張り、堂々と中に入った。
「ブラックスウォーター傭兵団所属、チェリルです。諸勲爵殿にご挨拶申し上げます!」
テントの中には、疲れきった数名の貴族。
その中で一番若い男が眉をひそめた。
「命懸けでここまで来た理由はなんだ?」
「もちろん、あなた方を助けるためです。ただし――戦う覚悟が残っているならば、の話ですが」
若者が言葉を発するより早く、他の勲爵たちが鼻で笑った。
「たかが傭兵団が、大きな口を叩くな。我々は八百人以上いる。お前たちの百や二百で何ができる?」
「山の下の獣人どもは、泥でできているとでも思っているのか?」
チェリルは笑みを崩さなかった。
「誤解なさらぬよう。我々は百人や二百の小隊ではありません。今回は半数の兵だけで来ていますが――総勢四百五十人です。
その中には、超凡者一名、全身鉄甲兵一名、鉄甲兵八十名、鉄板付き革鎧を着た兵百五十名。残りも二重装備の革鎧。刀盾兵三十名、弓兵三十名。――これでも、救う資格がないと?」
テントの空気が一瞬にして変わった。
(やっと黙ったな。……やれやれ、偉そうな貴族どもだ)
「本当だと証明できるのか?」
「信じられぬなら、これ以上話すことはない。ご武運を。」
踵を返そうとしたその時、若い勲爵が慌てて叫んだ。
「ま、待ってくれ! 我々が疑ったのは悪かった。……その、ブラックスウォーター傭兵団とは、あの――フィルード団長のところか?」
チェリルの足が止まる。
「……おや、団長の名を知っているとは。」
「もちろん! ダービー城でも有名です。あのフィルード殿の部下なら、話は別だ!」
「なら話は早い。だが――時間はない。夜明けまでに決断してもらう。」
チェリルは淡々と続けた。
「報酬は金貨千枚。これは命の代価です。現金がなければ装備・物資・奴隷でも構いません。
それと――お尋ねします。あなた方の中に超凡者はいますか? いないなら、我々は引き受けません。
作戦は単純です。あなた方が正面で戦い、我々が奇襲して決定打を与える。それが条件です。
さらに、殲滅後のすべての装備は我々が回収します。」
その言葉を告げると、ざわめきが走った。
若い勲爵が困ったように言う。
「……千枚は、さすがに高い。我々の全財産をかき集めても六百枚が限界だ。」
チェリルは表情一つ変えず、静かに言った。
「命の価値を値切る者に、救いはない。我々は慈善団体ではない。
この砂時計が落ちきった時、私は山を下る。」
テーブルに置かれた砂時計の砂が、さらさらと流れ始めた。
チェリルの視線は冷たく鋭かった。
(さて、貴族様方――お前たちの“覚悟”を見せてもらおうか)
「お前たちは何者だ? なぜ夜中にここへ来た?」
槍を構えるその姿には、疲労と焦りが滲んでいた。
チェリルは、落ち着き払った笑みを浮かべる。
(……やはり、追い詰められてるな。喉も乾き、目にも余裕がない)
「私はブラックスウォーター傭兵団の士官だ。今夜ここに来たのは、幸運だと思うぞ。さっさとお前たちのリーダーに通せ。遅れたら、お前たちでは責任を取れないだろう?」
その堂々たる態度に圧されたのか、兵士たちは慌てて姿勢を正した。
「す、すぐに報告してまいります!」
その時、別の兵士が興味深そうに近づいた。
「兄ちゃん、水……持ってるか?」
喉は乾ききり、唇はひび割れていた。
チェリルは黙って頷き、水筒を一つ放り投げる。
それを受け取るなり、兵士たちは争うように水を飲み始めた。
(……想像以上に切迫している。二日も山に籠もっていれば当然か)
「兄ちゃん、見苦しいところを見せたな。俺たちは二日間ここで足止めされてる。食料はまだあるが、水がもう尽きそうなんだ。……あんたたちは、本当に助けに来てくれたのか?」
チェリルは小さく首を振る。
「断言はできない。お前たちのリーダー次第だ。――金を払ってでも命を賭ける覚悟があるかどうか、だな。」
兵士の目が揺れた。
「……金か。そりゃそうだよな。でもな、この山には五つの勢力がある。一番でかいのが三百人、あとは百人ちょっと。あそこを説得できれば、残りはなんとかなるはずだ。」
「助かる。情報感謝する。」
チェリルは軽く頷き、心の中で微笑んだ。
(交渉材料は揃った。あとは、向こうの覚悟を見るだけだ)
その時、先ほど報告に行った兵士が戻ってきた。
案内されるまま、山頂にあるテントの前にたどり着く。
チェリルは胸を張り、堂々と中に入った。
「ブラックスウォーター傭兵団所属、チェリルです。諸勲爵殿にご挨拶申し上げます!」
テントの中には、疲れきった数名の貴族。
その中で一番若い男が眉をひそめた。
「命懸けでここまで来た理由はなんだ?」
「もちろん、あなた方を助けるためです。ただし――戦う覚悟が残っているならば、の話ですが」
若者が言葉を発するより早く、他の勲爵たちが鼻で笑った。
「たかが傭兵団が、大きな口を叩くな。我々は八百人以上いる。お前たちの百や二百で何ができる?」
「山の下の獣人どもは、泥でできているとでも思っているのか?」
チェリルは笑みを崩さなかった。
「誤解なさらぬよう。我々は百人や二百の小隊ではありません。今回は半数の兵だけで来ていますが――総勢四百五十人です。
その中には、超凡者一名、全身鉄甲兵一名、鉄甲兵八十名、鉄板付き革鎧を着た兵百五十名。残りも二重装備の革鎧。刀盾兵三十名、弓兵三十名。――これでも、救う資格がないと?」
テントの空気が一瞬にして変わった。
(やっと黙ったな。……やれやれ、偉そうな貴族どもだ)
「本当だと証明できるのか?」
「信じられぬなら、これ以上話すことはない。ご武運を。」
踵を返そうとしたその時、若い勲爵が慌てて叫んだ。
「ま、待ってくれ! 我々が疑ったのは悪かった。……その、ブラックスウォーター傭兵団とは、あの――フィルード団長のところか?」
チェリルの足が止まる。
「……おや、団長の名を知っているとは。」
「もちろん! ダービー城でも有名です。あのフィルード殿の部下なら、話は別だ!」
「なら話は早い。だが――時間はない。夜明けまでに決断してもらう。」
チェリルは淡々と続けた。
「報酬は金貨千枚。これは命の代価です。現金がなければ装備・物資・奴隷でも構いません。
それと――お尋ねします。あなた方の中に超凡者はいますか? いないなら、我々は引き受けません。
作戦は単純です。あなた方が正面で戦い、我々が奇襲して決定打を与える。それが条件です。
さらに、殲滅後のすべての装備は我々が回収します。」
その言葉を告げると、ざわめきが走った。
若い勲爵が困ったように言う。
「……千枚は、さすがに高い。我々の全財産をかき集めても六百枚が限界だ。」
チェリルは表情一つ変えず、静かに言った。
「命の価値を値切る者に、救いはない。我々は慈善団体ではない。
この砂時計が落ちきった時、私は山を下る。」
テーブルに置かれた砂時計の砂が、さらさらと流れ始めた。
チェリルの視線は冷たく鋭かった。
(さて、貴族様方――お前たちの“覚悟”を見せてもらおうか)
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