傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第102章 金貨が溶ける音──領主フィルード、食糧戦線へ!

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フィルードは恐る恐る種を一つ取り出した。
その指先がわずかに震える。たった五粒しかない聚魔蓮の種、その一つを使う――それはまるで、宝石を土に埋めるような決断だった。
(まあ、怖がってばかりもいられない。行動しなければ、何も始まらない……。)
彼は峡谷の領地へ戻り、まず一本を植えて効果を試すつもりでいた。
実際、このような「魔力循環系植物」は宝庫にいくつも存在していたのだが、長い年月に耐え切れず、ほとんどが干からびていた。
しかも、それらの植物には共通点がある――とにかく繊細すぎる。
聚魔蓮も例外ではなかった。
だが、その種の生命力は驚異的だ。
普通の蓮の種でさえ千年を超えても発芽できるのだ。聚魔蓮のそれならなおさら――。
(これが成功すれば、この領地全体が「魔力の泉」になる……悪くない賭けだ。)
そう呟き、フィルードは静かに瞑想を始めた。
新しい冥想法に従い、体内の貯魔点を練り上げる。
しかし、その過程は地獄そのものだった。まるで鋭いペンチで肉をつままれ、開閉を繰り返されるような痛み。
しかも、一気にやり遂げなければならない。途中で止めれば最初からやり直しだ。
「ぐっ……くそ、俺の精神をもってしても、これは……!」
悲鳴が峡谷に響き渡る。
彼が最初の一点を凝結させるまでに、丸三日を要した。
その間、何度も意識が飛びかけた。
もし彼が強大な魂の力を持っていなければ、確実に精神崩壊していただろう。
ようやく二つ目に取りかかろうとした瞬間、外で何かが激しく叩かれる音がした。
フィルードは全身の魔力を抑え、ふらつく体で外に出た。
マイクがそこにいた。
顔中に焦りを浮かべ、フィルードの姿を見て目を剥いた。
「だ、団長様!? そ、そのお姿は……!」
ボサボサの髪、伸びた髭、血走った目。まるで世捨て人だった。
フィルードは手を振って言った。
「大丈夫だ。修練に少し夢中になっていただけだ。それより何があった?」
マイクは息を整えながら報告した。
秋の収穫が終わった直後、獣人たちが南へ大規模侵攻を開始。
人族の腹地にまで達し、村々を襲い食糧を略奪しているという。
アモン王国はついに召集令を発布した――。
自由民は金貨二枚の免征金を支払わなければならず、開拓領地は戦士五名を派遣する義務を負う。
装備が揃えられなければ、金貨百枚の免征券を購入せねばならない。
(……王国は本気だな。つまり、もう「世界」が動き始めたということか。)
「戻るぞ。どうせ変わるなら、変わる前に動く。」
フィルードは身支度を整え、マイクと共に急ぎ領地へ帰還した。

峡谷に戻ったとき、そこに以前の活気はなかった。
馬車の姿は一台もなく、風だけが通り抜けていた。
そんな中、ケビンが駆け寄ってきた。
「団長様! 本当にお帰りに! もう帰ってこられないなら、畑に戻るつもりでしたよ!」
その姿は疲れ切っていた。髪も顔も乱れ、目の下に深い隈ができている。
フィルードは思わず笑って首を振った。
「お前は行かせん。お前がいなくなったら、この領地が崩壊する。さて、何が起こった?」
ケビンは苦い顔で頭を掻いた。
「あなたが留守の間、一か月半のあいだに……いろいろありました。
まず、指示通り食糧を買い集めました。我々自身で約六十八万ポンドを確保。
馬などの費用を除き、価格は一ポンドあたり一・七銅フェニー。合計で金貨一三〇〇枚。
さらに雇った輸送人員分で一五〇万ポンドを運搬、こちらのコストが二・一銅フェニー。金貨三五〇〇枚。
合わせて四八〇〇枚です。」
フィルードの頬がぴくりと引きつる。
(四八〇〇……金貨……俺の心臓が止まる音が聞こえた気がするぞ……)
ケビンはさらに続けた。
「それと、ダービー城で塩商人と取引しました。塩の馬車五十六台分、単価は十銅フェニー、合計七〇〇金貨。これで二年分です。」
(追い打ちか……俺の財布が泣いている……)
ケビンはおそるおそる言葉を重ねた。
「……さらに、我々の傭兵たちも免征金貨が必要で、総額は二〇〇〇枚近くになります。
ですので、残していただいた六〇〇〇枚の金貨は、ほぼすべて使い果たしました。」
フィルードは胸を押さえ、深呼吸した。
「……支払うな。俺が出る。もう月末か。来月からすべての任務をキャンセルだ。全軍を集める。」
ケビンは頷いた。
その直後、北域全体が混乱に包まれた。
自由民は徴兵され、開拓地のあちこちで悲鳴が上がった。
人々はようやく気づいた――開拓領地は「罠」だったのだ。

その後、フィルードの領地では急ピッチで軍糧の製作が始まった。
冬が近づいており、干しパンの備蓄が重要になる。
フィルードは防寒対策として、兵士一人につき羊皮を二枚ずつ支給。
さらに羊毛を売らずに紡績し、厚手のセーターを全員分作らせた。
本物の羊毛を使用したそれは、この世界では前代未聞の防寒具だった。
(これで冬は越せる。あとは、戦場での勝利だな。)
また、彼は鍛冶職人シャルドゥンと新しい犁の製作を相談した。
構造自体は単純で、試作もすぐに完成した。
ただ、戦乱で鉄材が逼迫しており、刃の部分は硬木と鉄板の複合材にすることになった。
耐久性には欠けるが、一時的な使用なら十分だ。
(農具は武器だ。俺の「領地戦」は、ここから始まる。)
見習い奴隷たちに製造を命じ、牛の数に合わせて百組の犁を量産。
これらの道具が完成すれば、あの盆地を開拓できる。
木属性の魔力吸収を一時的に止めれば、土地はすぐに息を吹き返すはずだった。
だが――。
(全部止めるのは危険だ。生命力が暴走して森が暴れ出す。制御できなくなる……少しずつだ。)
フィルードはそう判断し、段階的に魔力吸収を制御した。
同時に、暗河の探索も進めた。狭い通路が多く、進行は難航したが、
この暗河が盆地の下層へと続いている可能性を見つけ出した。
少年奴隷たちを派遣し、ノミで少しずつ道を広げさせる。
彼らの小さな灯りの先に、未来の「繁栄」がかすかに見えた。
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