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第111章 策謀の獣たち
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夜になっても、谷の入口では無数の篝火が燃え盛り、獣人たちはそれを灯として動き続けていた。
フィルードは城壁の上に立ち、燃えさかる焔を無言で見下ろす。その光が彼の頬を照らし、険しい影を落とす。
――もうすぐだ。この高さでは、いずれ奴らは真正面から肉弾戦を仕掛けてくる。
谷の入口の瓦礫や死体は山のように積み重なり、城壁の半分近くを覆っていた。もしあの厚い血の層がさらに積み上がれば、もはや距離など存在しなくなる。
彼は冷静に状況を計算しながらも、胸の奥に微かな焦燥を覚えていた。
「……300のボア・マン鉄甲兵。まともにぶつかれば、こちらの損害は避けられないな。」
呟きながら、フィルードは拳を握る。――今の状況では、賭けに出るしかない。
彼は決断した。
最後の切り札――**床弩(しょうど)**を使う。
リスクは高い。位置を悟られれば、逆に敵に利用される恐れもある。だが、手をこまねいているよりは遥かにましだ。
「ケビン、奴隷兵を率いて盆地の倉庫へ行け。床弩をすべて運び出し、同時に防衛にも投入しろ。音を立てるな。」
ケビンが頷き、影のように闇へ消えた。
フィルードはその間も城壁に残り、火の番をする獣人たちに向けて小競り合いを続けた。
今夜は嵐の前の静けさだ――彼はそう感じていた。
翌朝、獣人たちは再び突撃を開始した。
もはやその光景にも驚きはない。フィルードの目には、彼らの動きが鈍く、無駄が多く見えた。
「……まるで自分の命を、砂袋のように投げ捨てているな。」
一人一人が土嚢を抱え、死を恐れぬまま突進してくる。死体と土嚢が重なり、城壁と地面の距離は、わずか二メートルを切っていた。
その瞬間、フィルードは低く命じた。
「床弩を押し出せ。狙いは……中央の突撃列。」
巻き上げ機が唸りを上げ、巨大な弩矢が放たれた。
「ヒュッ……ヒュンッ!」
空を裂く音が続き、弩矢は獣人戦士を串刺しにした。最前列の一人、二人、そして三人目までも――矢は勢いを失わず貫通した。
血の霧が散り、前線にいた獣人たちは一瞬にして崩れ落ちた。
そのあまりの威力に、敵陣は悲鳴と怒号で満たされる。
「これが……人間の兵器か!」と、誰かが絶叫したのが聞こえた。
フィルードは冷ややかに口元を歪めた。
「これが“理”の力だ。力任せの蛮族が届く領域ではない。」
やがて前線は総崩れとなり、獣人兵たちは我先にと逃げ出した。
後方の督戦隊が斧を振りかざし、逃亡者を切り捨てようとしたが、混乱は止まらない。もはや戦意は瓦解していた。
午後には、獣人たちは完全に撤退した。
焚き火だけが谷に赤く燃え、戦場には重い沈黙が降りた。
その静寂の中で、フィルードは戦果を分析していた。
「……よし、今の一撃で士気は半分以下に落ちた。だが油断は禁物だ。」
案の定、獣人たちは午後になると、谷の周囲を回り始めた。
別の突破口を探している。彼らの動きは無秩序ではなく、明らかに意図的だった。
「やはり……背後に指揮官がいるな。」
彼の眼光が鋭く光る。
兵士たちを山稜に配置し、監視網を広げさせる。夕暮れまで、彼らは峡谷を徘徊したが、結局どこからも突破はできなかった。
谷の構造は完全に把握している。
北は沼地、南は封鎖済み。両側の山稜は切り立っており、正面以外の侵入はほぼ不可能。
だが――問題は「資材」だ。重い丸太や巨石を即座に運び込むことができない。防衛力が次第に消耗していく。
夜、谷の外で再び篝火が上がった。
「……来るか。」
フィルードは呟き、床弩部隊に待機命令を出した。
五十台の床弩が、闇の中で沈黙を保つ。
獣人が火を持って近づけば、一斉射撃が始まる。
数十名の獣人が倒れ、敵は巨大な木排を盾に前進を試みた。
その様子にフィルードは歯を食いしばる。
「やはり、ここまで学習してくるか……。」
彼は即座に決断した。
「シャルドゥンのところへ行く。投石機を作るぞ。」
夜の冷たい風を切って、彼は技師シャルドゥンの屋敷へ向かった。
「精度も威力も問わん。数十メートル飛べば十分だ。夜明けまでに最低一台――いや、二台作れ。」
シャルドゥンは蒼白な顔で頷き、雑役たちを叱咤して夜通し作業を始めた。
そして翌朝。
獣人たちはついに峡谷両側の崖を登り始めた。しかも三箇所同時に。
「ふん、予想通りだ。」
フィルードは冷笑し、すでに準備していた兵を動かす。
山稜に設けられた登山梯を使い、兵士たちは素早く上へ。滑車と巻き上げ機を設置して丸太を引き上げる。
だが、崖の角度は急で、風が強い。投下の精度は低い。
丸太を落としても、獣人たちは岩壁に体を押し付け、衝撃を回避してくる。
「……あの高さじゃ無駄か。」
フィルードは即座に命じた。
「攻撃中止。丸太は上に運べ。奴らがあと十メートルの地点に達した時、一気に叩き落とす。」
崖の下では、獣人たちが狂ったように岩を削り続けていた。
彼らは木の杭を差し込み、一歩ずつ登ってくる。まるで地獄から這い上がる亡者のように。
――だが、その努力ごと、叩き落としてやる。
フィルードは冷たい眼差しで崖を見下ろしながら、静かに呟いた。
「面白い。知恵をつけた獣人……ならば、その知恵ごと、砕いてやる。」
フィルードは城壁の上に立ち、燃えさかる焔を無言で見下ろす。その光が彼の頬を照らし、険しい影を落とす。
――もうすぐだ。この高さでは、いずれ奴らは真正面から肉弾戦を仕掛けてくる。
谷の入口の瓦礫や死体は山のように積み重なり、城壁の半分近くを覆っていた。もしあの厚い血の層がさらに積み上がれば、もはや距離など存在しなくなる。
彼は冷静に状況を計算しながらも、胸の奥に微かな焦燥を覚えていた。
「……300のボア・マン鉄甲兵。まともにぶつかれば、こちらの損害は避けられないな。」
呟きながら、フィルードは拳を握る。――今の状況では、賭けに出るしかない。
彼は決断した。
最後の切り札――**床弩(しょうど)**を使う。
リスクは高い。位置を悟られれば、逆に敵に利用される恐れもある。だが、手をこまねいているよりは遥かにましだ。
「ケビン、奴隷兵を率いて盆地の倉庫へ行け。床弩をすべて運び出し、同時に防衛にも投入しろ。音を立てるな。」
ケビンが頷き、影のように闇へ消えた。
フィルードはその間も城壁に残り、火の番をする獣人たちに向けて小競り合いを続けた。
今夜は嵐の前の静けさだ――彼はそう感じていた。
翌朝、獣人たちは再び突撃を開始した。
もはやその光景にも驚きはない。フィルードの目には、彼らの動きが鈍く、無駄が多く見えた。
「……まるで自分の命を、砂袋のように投げ捨てているな。」
一人一人が土嚢を抱え、死を恐れぬまま突進してくる。死体と土嚢が重なり、城壁と地面の距離は、わずか二メートルを切っていた。
その瞬間、フィルードは低く命じた。
「床弩を押し出せ。狙いは……中央の突撃列。」
巻き上げ機が唸りを上げ、巨大な弩矢が放たれた。
「ヒュッ……ヒュンッ!」
空を裂く音が続き、弩矢は獣人戦士を串刺しにした。最前列の一人、二人、そして三人目までも――矢は勢いを失わず貫通した。
血の霧が散り、前線にいた獣人たちは一瞬にして崩れ落ちた。
そのあまりの威力に、敵陣は悲鳴と怒号で満たされる。
「これが……人間の兵器か!」と、誰かが絶叫したのが聞こえた。
フィルードは冷ややかに口元を歪めた。
「これが“理”の力だ。力任せの蛮族が届く領域ではない。」
やがて前線は総崩れとなり、獣人兵たちは我先にと逃げ出した。
後方の督戦隊が斧を振りかざし、逃亡者を切り捨てようとしたが、混乱は止まらない。もはや戦意は瓦解していた。
午後には、獣人たちは完全に撤退した。
焚き火だけが谷に赤く燃え、戦場には重い沈黙が降りた。
その静寂の中で、フィルードは戦果を分析していた。
「……よし、今の一撃で士気は半分以下に落ちた。だが油断は禁物だ。」
案の定、獣人たちは午後になると、谷の周囲を回り始めた。
別の突破口を探している。彼らの動きは無秩序ではなく、明らかに意図的だった。
「やはり……背後に指揮官がいるな。」
彼の眼光が鋭く光る。
兵士たちを山稜に配置し、監視網を広げさせる。夕暮れまで、彼らは峡谷を徘徊したが、結局どこからも突破はできなかった。
谷の構造は完全に把握している。
北は沼地、南は封鎖済み。両側の山稜は切り立っており、正面以外の侵入はほぼ不可能。
だが――問題は「資材」だ。重い丸太や巨石を即座に運び込むことができない。防衛力が次第に消耗していく。
夜、谷の外で再び篝火が上がった。
「……来るか。」
フィルードは呟き、床弩部隊に待機命令を出した。
五十台の床弩が、闇の中で沈黙を保つ。
獣人が火を持って近づけば、一斉射撃が始まる。
数十名の獣人が倒れ、敵は巨大な木排を盾に前進を試みた。
その様子にフィルードは歯を食いしばる。
「やはり、ここまで学習してくるか……。」
彼は即座に決断した。
「シャルドゥンのところへ行く。投石機を作るぞ。」
夜の冷たい風を切って、彼は技師シャルドゥンの屋敷へ向かった。
「精度も威力も問わん。数十メートル飛べば十分だ。夜明けまでに最低一台――いや、二台作れ。」
シャルドゥンは蒼白な顔で頷き、雑役たちを叱咤して夜通し作業を始めた。
そして翌朝。
獣人たちはついに峡谷両側の崖を登り始めた。しかも三箇所同時に。
「ふん、予想通りだ。」
フィルードは冷笑し、すでに準備していた兵を動かす。
山稜に設けられた登山梯を使い、兵士たちは素早く上へ。滑車と巻き上げ機を設置して丸太を引き上げる。
だが、崖の角度は急で、風が強い。投下の精度は低い。
丸太を落としても、獣人たちは岩壁に体を押し付け、衝撃を回避してくる。
「……あの高さじゃ無駄か。」
フィルードは即座に命じた。
「攻撃中止。丸太は上に運べ。奴らがあと十メートルの地点に達した時、一気に叩き落とす。」
崖の下では、獣人たちが狂ったように岩を削り続けていた。
彼らは木の杭を差し込み、一歩ずつ登ってくる。まるで地獄から這い上がる亡者のように。
――だが、その努力ごと、叩き落としてやる。
フィルードは冷たい眼差しで崖を見下ろしながら、静かに呟いた。
「面白い。知恵をつけた獣人……ならば、その知恵ごと、砕いてやる。」
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