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第134章 上位超凡者
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まだ何も言っていないのに、隣のフランクも同じように真剣に頷いた。
「フィルード団長の策は、今の状況では最も現実的かつ完璧だと言えるだろう。……私も賛成だ。」
「この間、私はフィルード団長閣下の指揮に従います!」
フィルードは慌てて立ち上がり、深々と礼をした。
「両子爵様、そのようなご配慮は不要です。私の小細工など、表に立てるような代物ではありません。今後、上下の関係ではなく、同盟として力を合わせることが重要です。この戦いは、我々全員の生死に直結するものなのですから。」
穏やかな笑いが交わされ、場の緊張がわずかに緩む。だがその裏で、フィルードの頭の中はすでに次の十手先を描いていた。
(これで、最低限の協力体制は整った……あとは盤上の駒をどう動かすか、だな)
会議が終わると、フィルードはすぐにユリアンを呼び出した。
「ユリアン、今夜出発する。部下を率いて夜通し進軍しろ。軍団直属の護衛兵五百名、さらに豚頭族の奴隷千名を増派し、全員をお前の指揮下に置く。」
そう言いながら彼は立ち上がり、壁に掛けられた地図の前に歩み寄った。指先で一点をなぞる。
そこは崖に囲まれ、山には濃い木々が生い茂る場所だった。ディオの軍営との間には同じような地形がいくつも存在したが、彼は最も険しい場所を避け、あえて「凡庸」な地点を選んだ。
(人間は“危険すぎる場所”では慎重になり、“程々に危険な場所”で油断する。ディオのような男でも例外ではない)
振り返り、ユリアンの瞳を真っ直ぐに見つめた。
「君の任務は単純だ。奴隷一千名を率い、この地点へ向かう。裏山で丸太や落石などの重い物を収集し、戦場の仕掛けを整えておけ。奴隷たちは逃亡を防ぐため、両足を縛れ。抵抗の素振りを見せた者は……その場で処刑だ。出発前にできるだけ従順な者を選べ。猶予は三日――それで全てが決まる。」
ユリアンはその冷徹な命令に一瞬の逡巡も見せず、鋭く頷いた。
「了解しました、団長閣下。――この反乱軍に、最高の“贈り物”を届けてみせます。」
その言葉に、フィルードの口角がわずかに上がる。
次に彼はマイクを呼び寄せた。
「領地の騎兵隊を率い、撤退した開拓勲爵たちを探せ。王国が反攻の準備を進めていると伝え、兵を連れて私のもとに集結するよう説得しろ。勝利すれば、ウェイン侯爵は必ず褒賞を与える。優秀な者は、騎士爵を得ることも夢ではない。」
マイクが立ち去ると、静寂が訪れた。
地図の上に残る指の跡を見つめ、フィルードは小さく息を吐いた。
(手は打った。あとは流れを見極めるだけ……成功の確信はないが、最も勝率が高い手だ)
彼の胸には、冷たい決意と同時に、どこか昂揚する感情もあった。
(ディオを討てば、北方の流れは一変する。ウェイン侯爵と合流すれば、もはや防戦ではなく攻勢に転じられる……)
――三日後。
ユリアンが任務を終えて帰還した。フィルードは一千の兵を率い、二人の子爵と共にディオの陣営へ向かう。五千の軍勢が、地を震わせながら出陣した。
背後に広がる兵士の列を見下ろし、フィルードは胸の奥で静かに熱を感じた。
(この規模でも“戦”の匂いは充分だな……悪くない)
午後、軍は一時停止した。ディオの本陣までわずか三十里。
予定通り、フィルードは多数の騎兵を偵察に出すよう命じた。敵に気づかれぬよう細心の注意を――そう命じながら、実際には数十騎を派遣した。
(この矛盾した命令が、罠の“餌”になる)
案の定、数時間も経たぬうちに、全ての伝令が馬を駆って戻ってきた。
敵に発見された。
フィルードは迷いなく命令を下す。
「全軍、撤退する!」
直後、六百名ほどの敵騎兵が追撃に移り、両翼を次々に襲撃してくる。
フィルードは大黒の背に跨がりながら冷静に弓を引いた。放たれた矢が、敵騎兵の胸を正確に貫く。
(やはり動きが雑だ。焦っている証拠だな)
隣でそれを見ていたフランクとカールトンは、目を見開いた。
だが、追撃が激しくなるにつれ、軍の進軍速度は落ちていった。
「……このままでは伏撃地点に着く前に追いつかれる。」
フィルードは思考を巡らせながら二人に言った。
「両殿。敵の騎兵を先に叩く必要があります。お二方の部下にそれぞれ百五十騎――計三百騎がいる。合わせれば、敵の一翼を粉砕できるはずです。私はすでに二十名を討ち取った。残りは十分、戦える。」
二人の子爵は顔を見合わせ、頷き合った。
すぐに馬に跨がり、部下を率いて左翼の敵へ突撃していく。
フィルードはその背を見送りながら、冷静に周囲を観察した。
(……あの護衛たち。二人の老人か。気配が桁違いだな)
双刃の大斧を携えたその二人は、馬上でまるで暴風のように敵陣へ突入していった。
その力の奔流に、フィルードはわずかに息を呑む。
(なるほど……あれが“上位超凡者”。肉体そのものが武器だ。魔法すら必要としない)
戦場は一瞬で血煙に包まれた。斧が振るわれるたび、騎兵が一人、また一人と崩れ落ちていく。
だが次の瞬間、敵の隊列からも二人の老人が飛び出した。
一人は巨大な両手剣を、もう一人は片手剣を握っている。
距離が十数メートルに迫った瞬間、片手剣の老人の体から魔力が迸った。
掌に凝縮した水球が瞬時に形成され、空気を切り裂いて飛ぶ。
「――気をつけろ! 敵に魔法使いがいる!」
怒号が戦場に響き渡った。
「フィルード団長の策は、今の状況では最も現実的かつ完璧だと言えるだろう。……私も賛成だ。」
「この間、私はフィルード団長閣下の指揮に従います!」
フィルードは慌てて立ち上がり、深々と礼をした。
「両子爵様、そのようなご配慮は不要です。私の小細工など、表に立てるような代物ではありません。今後、上下の関係ではなく、同盟として力を合わせることが重要です。この戦いは、我々全員の生死に直結するものなのですから。」
穏やかな笑いが交わされ、場の緊張がわずかに緩む。だがその裏で、フィルードの頭の中はすでに次の十手先を描いていた。
(これで、最低限の協力体制は整った……あとは盤上の駒をどう動かすか、だな)
会議が終わると、フィルードはすぐにユリアンを呼び出した。
「ユリアン、今夜出発する。部下を率いて夜通し進軍しろ。軍団直属の護衛兵五百名、さらに豚頭族の奴隷千名を増派し、全員をお前の指揮下に置く。」
そう言いながら彼は立ち上がり、壁に掛けられた地図の前に歩み寄った。指先で一点をなぞる。
そこは崖に囲まれ、山には濃い木々が生い茂る場所だった。ディオの軍営との間には同じような地形がいくつも存在したが、彼は最も険しい場所を避け、あえて「凡庸」な地点を選んだ。
(人間は“危険すぎる場所”では慎重になり、“程々に危険な場所”で油断する。ディオのような男でも例外ではない)
振り返り、ユリアンの瞳を真っ直ぐに見つめた。
「君の任務は単純だ。奴隷一千名を率い、この地点へ向かう。裏山で丸太や落石などの重い物を収集し、戦場の仕掛けを整えておけ。奴隷たちは逃亡を防ぐため、両足を縛れ。抵抗の素振りを見せた者は……その場で処刑だ。出発前にできるだけ従順な者を選べ。猶予は三日――それで全てが決まる。」
ユリアンはその冷徹な命令に一瞬の逡巡も見せず、鋭く頷いた。
「了解しました、団長閣下。――この反乱軍に、最高の“贈り物”を届けてみせます。」
その言葉に、フィルードの口角がわずかに上がる。
次に彼はマイクを呼び寄せた。
「領地の騎兵隊を率い、撤退した開拓勲爵たちを探せ。王国が反攻の準備を進めていると伝え、兵を連れて私のもとに集結するよう説得しろ。勝利すれば、ウェイン侯爵は必ず褒賞を与える。優秀な者は、騎士爵を得ることも夢ではない。」
マイクが立ち去ると、静寂が訪れた。
地図の上に残る指の跡を見つめ、フィルードは小さく息を吐いた。
(手は打った。あとは流れを見極めるだけ……成功の確信はないが、最も勝率が高い手だ)
彼の胸には、冷たい決意と同時に、どこか昂揚する感情もあった。
(ディオを討てば、北方の流れは一変する。ウェイン侯爵と合流すれば、もはや防戦ではなく攻勢に転じられる……)
――三日後。
ユリアンが任務を終えて帰還した。フィルードは一千の兵を率い、二人の子爵と共にディオの陣営へ向かう。五千の軍勢が、地を震わせながら出陣した。
背後に広がる兵士の列を見下ろし、フィルードは胸の奥で静かに熱を感じた。
(この規模でも“戦”の匂いは充分だな……悪くない)
午後、軍は一時停止した。ディオの本陣までわずか三十里。
予定通り、フィルードは多数の騎兵を偵察に出すよう命じた。敵に気づかれぬよう細心の注意を――そう命じながら、実際には数十騎を派遣した。
(この矛盾した命令が、罠の“餌”になる)
案の定、数時間も経たぬうちに、全ての伝令が馬を駆って戻ってきた。
敵に発見された。
フィルードは迷いなく命令を下す。
「全軍、撤退する!」
直後、六百名ほどの敵騎兵が追撃に移り、両翼を次々に襲撃してくる。
フィルードは大黒の背に跨がりながら冷静に弓を引いた。放たれた矢が、敵騎兵の胸を正確に貫く。
(やはり動きが雑だ。焦っている証拠だな)
隣でそれを見ていたフランクとカールトンは、目を見開いた。
だが、追撃が激しくなるにつれ、軍の進軍速度は落ちていった。
「……このままでは伏撃地点に着く前に追いつかれる。」
フィルードは思考を巡らせながら二人に言った。
「両殿。敵の騎兵を先に叩く必要があります。お二方の部下にそれぞれ百五十騎――計三百騎がいる。合わせれば、敵の一翼を粉砕できるはずです。私はすでに二十名を討ち取った。残りは十分、戦える。」
二人の子爵は顔を見合わせ、頷き合った。
すぐに馬に跨がり、部下を率いて左翼の敵へ突撃していく。
フィルードはその背を見送りながら、冷静に周囲を観察した。
(……あの護衛たち。二人の老人か。気配が桁違いだな)
双刃の大斧を携えたその二人は、馬上でまるで暴風のように敵陣へ突入していった。
その力の奔流に、フィルードはわずかに息を呑む。
(なるほど……あれが“上位超凡者”。肉体そのものが武器だ。魔法すら必要としない)
戦場は一瞬で血煙に包まれた。斧が振るわれるたび、騎兵が一人、また一人と崩れ落ちていく。
だが次の瞬間、敵の隊列からも二人の老人が飛び出した。
一人は巨大な両手剣を、もう一人は片手剣を握っている。
距離が十数メートルに迫った瞬間、片手剣の老人の体から魔力が迸った。
掌に凝縮した水球が瞬時に形成され、空気を切り裂いて飛ぶ。
「――気をつけろ! 敵に魔法使いがいる!」
怒号が戦場に響き渡った。
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