傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第135章 ベッド・ヌーの打撃

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言い終わるやいなや、あの老人は恐れおののいたように馬から飛び降りた。
すぐに背中の特製の盾を引き抜き、全身に魔力を爆発させて防御姿勢を取る。
次の瞬間、水球が――まるで意志を持つかのように――その盾に直撃。
「ドォン!」という鈍い衝撃音が響き、水の塊は砕け散った。
老人は衝撃で何歩も後退しながらも、すぐに体勢を整える。
……ただの迎撃でこの威力か。
フィルードは遠目からその光景を見て、思わず息を呑んだ。
本に記されていた「魔力による攻撃」の記述は、ほんの一文にも満たなかった。
だが実際の威力は、想定の数倍――いや、桁が違う。
その間に老人は片手に盾、もう片方に巨大な斧を握りしめ、魔法使いへ肉薄していた。
老魔法使いは即座に馬を操って距離を取り、逃走する。
他の二人の上位超凡者も馬上で交戦していたが、数合交えただけで、馬が魔力の圧に耐えきれず倒れ込んだ。
あの筋力と魔力が同時に解放される瞬間、地を震わせるほどの力が発揮されている――。
少し体力を取り戻した俺は、再び弓を構え、矢をつがえた。
狙うのは敵の騎兵隊。
先ほどから俺の矢は正確に敵を削っており、その数はすでに数十に及ぶ。
さらに、上位超凡者たちの戦いが敵陣を混乱させ、結果として三百騎が瓦解した。
右側の騎兵は援軍として向かっていたが、仲間の壊滅を目にして撤退を余儀なくされる。
数名の上位超凡者も戦場を離脱した。
だが安堵は許されない。
進軍を再開して間もなく、後方に控えていた敵の騎兵が再び突撃してきたのだ。
その中に――見覚えのある影。
青い服の女。あの弓使いが、この隊に紛れている。
しかも今回は上位超凡者が五人。
五百騎が一糸乱れぬ陣形でこちらに迫る。
地を蹴るたび、重騎兵の蹄音が胸骨を叩くように響いた。
「弓兵、構え!」
俺の号令と同時に、無数の矢が夜空を裂く。
敵陣に降り注ぐ矢雨の中、時折、悲鳴と共に騎兵が地に落ちた。
俺自身は魔石で魔力を満タンにし、体力もほぼ回復。
陣内を絶えず移動し、位置を変えながら狙撃を続ける。
――あの女に位置を特定されるのを避けるためだ。
だが、どうやらそれも長くは持たなかった。
「卑怯な闇撃ちしかできぬ下郎め……今日は逃がさぬ」
冷たい声と共に、鋭い矢が飛来した。
「……っ!」
反射的に盾を構える。
が、衝撃は来なかった。
恐る恐る顔を出すと、そこには巨大な斧を担いだあの老人が立っていた。
歯が一本しか残っていない口を、満足そうに歪めて笑っている。
「……助かった」
思わず笑いが漏れそうになったが、慌てて真顔に戻り、頭を下げる。
「老人様、ありがとうございます。あの女の一撃を防いでくださって」
「ふむ……お前の弓の腕は悪くないな。十数人は仕留めておる」
そう言って、老人は軽く鼻を鳴らした。
「だが、まだ上級見習い止まりだ。あの娘は一つ上の境界にいる。今の矢をまともに受けたら、骨ごと砕けておったぞ」
そう言うと、骨の箱を開け、小さな果実を取り出した。
「これは体力を即座に回復させる薬果だ。お前の階位なら一口で効果がある。原価は……500金貨だ」
……一瞬で石化するとは、こういうことを言うのかもしれない。
俺の中で老人の印象は「隠遁の賢者」から「ぼったくり薬師」へと変わった。
それでも、上位超凡者の機嫌を損ねるわけにはいかない。
「……お心遣い、痛み入ります」
その時――また風が鳴った。
あの女だ。
俺は反射的に盾を上げたが、老人がため息をついて手斧を振るい、矢を叩き落とす。
「これ以上は庇えん。自分の身は自分で守れ」
言い残すと、老人は隊の側面へと駆け去った。
そこへ、二人の子爵が駆け寄ってくる。
「フィルード団長、敵の上位超凡者は我々の倍です。これでは持ちません!」
「護衛付きの者たちが多く、我々の戦力では突破が……!」
……確かに、正面からでは分が悪い。
だが、俺にも最後の切り札がある。
声を潜めて言った。
「お二人には秘密にしていましたが、今回――禁制の兵器を持ち込んでいます」
二人の顔に一瞬、理解の色が浮かんだ。
そう、俺が用意した十数台の《ベッド・ヌー(弩床)》を。
「使ってください」
カールトンが短く答えた。「非常時には非常手段を」
……そうだな。王国の禁令など、この状況では贅沢だ。
俺はマイクを取り、叫ぶ。
「ベッド・ヌー、弦を張れ!」
弩床部隊が一斉に動く。
俺もその一台に駆け寄り、青い服の女を照準に入れた。
「――放て!」
魔力を注ぎ込んだ瞬間、十数本の弩矢が雷鳴のような風音を立てて飛び出す。
空気が裂け、世界が一瞬、静止した。
上位超凡者たちの瞳孔が狭まる。
避けること自体は容易だろう。だが、彼らの隣にいる普通の騎兵たちは――逃げ切れない。
俺は小さく息を吐き、つぶやいた。
「これが……人間に対して使うべきでない“兵器”というやつか」

【PS】
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
今回の135章は、ベッド・ヌー(弩床)使用の回――いわば「戦略×禁忌兵器」の見せ場となりました。
こういう兵器描写は書いていても緊張しますね。
もし気に入っていただけたら、応援してもらえると嬉しいです。
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