傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第137章 ウェイン来援

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フィルードはマイクの報告を聞いた瞬間、胸の奥がざわつくほどの興奮を覚えた。
――あの女、ついに俺の手の中に墜ちたか。
彼は急いで捕虜のもとへ向かった。女性はすでに上位超凡者の老人によって拘束されており、静かに座り込んでいた。泣き叫ぶでも暴れるでもなく、ただ冷えた瞳で周囲を観察している。その沈着さに、フィルードは逆に興味を覚えた。
彼は彼女の前に立ち、冷ややかな視線を向ける。
「……あの日、俺の兵の首を飛ばしてくれた弓使いだな。どうして今日は、そんなにおとなしいんだ?」
女性――エレナは、ゆっくりと美しい眉を吊り上げ、斜めの視線をフィルードへ送りつけた。
「……来たのですね、“盗賊男爵”。噂以上です。あなたほど卑劣な男を見たことがないわ。
夜襲に奇襲、闇討ちばかり。あなたのやり方は、まるで腐ったハエ。
殺すなら殺しなさい。辱めを受けるくらいなら舌を噛んで死ぬ。」
周囲の部下たちは一斉に怒号を上げた。
「この女っ……!」「ボスを侮辱しやがって!」
フィルードは手をひらりと振って皆を黙らせる。
そしてゆっくりとしゃがみ込み、エレナの目の高さまで視線を落とした。
「ほう……言うじゃないか。だが――」
フィルードは淡々と、彼女の腰のポーチに手を伸ばした。
突然の行動にエレナの息が詰まる。だが、抵抗はさせない。
フィルードが取り出したのは、銅製の小さな魔導鏡――魔力流の乱れで表情を確認するためのものだ。
「鏡か。自分の顔は随分と大切にしてるらしいな。」
エレナの肩がぴくりと震えた。
フィルードは鏡をひらひらと揺らし、無表情のまま言った。
「安心しろ。俺はお前を殺すつもりはない。
だが――それから、お前の体内の魔力を廃して、俺の領地のオークの奴隷に妾として褒美に与えてやる。その時になって、お前の口がまだこんなに固いかどうか見てやろう。」
エレナの瞳から、みるみる血の気が引いた。
女性の瞳に大粒の涙が浮かび、次の瞬間――
「わ、私はディオ伯爵の養女なの! 引き渡してくれれば、伯爵が望むものは何でも差し上げるわ!
さっきの言葉も謝る……!あなたを侮辱したのは、私が悪かった……!」
あまりの豹変ぶりに、フィルードは思わず目を細めた。
――なるほど。肝は据わっていない。見た目と違って、意外と折れるのは早い。
エレナの涙がぽたぽたとこぼれ落ちるのを見ながら、フィルードは低く一喝した。
「泣くな。泣き続けるなら、今すぐ魔力を封じる。」
その声に、エレナはびくりと震えて泣き止んだ。
フィルードは彼女を無言で引きずり、臨時のテントへ引き入れた。
外では老人がにやりと薄く笑う。
「若いってのは、元気でよろしいこった。」
子爵二人は何とも言えない表情をして顔を見合わせ、部下たちはにやにやしていた。
テント内。
フィルードはエレナを床へ放り投げた。
彼女は「きゃっ」と短い悲鳴を上げて転がる。
「……な、何をするつもり……? 暴力はやめて……!
交換条件なら提示するわ……!伯爵に何でも言ってあげる……!」
フィルードは冷たく笑った。
「俺が何をするか? いいや、単純だ。
お前は情報を持っている。だから聞く。
正直に話せば、お前に手を出すことはしない。」
フィルードは布を裂き、エレナの口元に当てて軽く圧を加えた。
「まず叫ぶな。話せば助ける。」
エレナは必死に頷き、フィルードが布を外すと、息を荒くしながら答えた。
「……な、名前は……エレナ……」
「年齢。」
「19……」
フィルードは無表情のまま核心へ踏み込んだ。
「ディオはオークとどんな取引をしている?
人族を裏切る理由は?
お前たちの今回の行動は、獣人とどう連携していた?」
エレナは震える瞳で首を振る。
「し、知らないの……!本当に……!
ただ男爵領を急襲するとだけ……それ以外は知らされていなかったの……!」
フィルードは彼女の魔力循環を軽く触診し、嘘の反応がないことを確認する。
震えはあるが、魔力流は乱れていない。――本当に知らないらしい。
彼は短く息を吐き、
「……使えない。」
と、呟き、無言でテントから出ていった。
外に残されたエレナは、虚ろな瞳で動けずにいた。

その後の一日は、フィルードとディオの“神経戦”だった。
ディオが動けばフィルードも動き、止まれば止まる。
徹底した牽制で敵軍は完全に足を止められた。

翌朝。
ウェイン侯爵の伝令が駆け込んだ。
「フィルード団長! ウェイン侯爵様より伝言です。
王国軍はすでに三十里以内! 昨日の戦果もすべて確認済み。
戦後、最低でももう一つ男爵領を賜るべきと、陛下へ上奏するとのことです!」
二人の子爵も歓喜に表情を明るくした。
フィルードは冷静に状況を整理し、伝令へ言った。
「ディオの鉄甲兵はほぼ全滅。
残るは騎兵と軽装歩兵が中心。
ただし、向こうには上位超凡者が五名いる。
侯爵には“超凡者数名と騎兵の援軍”を希望すると伝えろ。」
伝令はすぐに馬を走らせて去った。

数時間後。
千を超える騎兵が土煙を上げながら到来した。
先頭にはウェイン侯爵。
「礼はいい。ディオはどこだ?」
フィルードは遠方を指差す。
「十数里先です。今なら追いつきます。」
「よし――超凡者と騎兵をまとめろ!
今日、奴を逃がしはしない!」
ウェイン侯爵の号令一下、千騎の軍勢は一斉に駆け出した。
フィルードは背の大黒に跨り、三張の弓を背に追撃戦へ加わった。
――その先には、ディオの運命を決する最終局面が待っていた。
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