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第138章 追撃の号砲
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フィルードが魔弓を試し撃ちした瞬間、口元が自然と吊り上がった。
――これは、想像以上の代物だ。
弓全体が高純度の魔素材で構成されており、以前は強化魔力矢が五射、通常矢が九射が限界だったのに、
今は強化魔力矢が六射、通常矢なら十一射も撃てるようになった。
威力も射程も明確に底上げされている。
軍団にいた上位超凡者二名の推定評価は――
“少なくとも金貨二千枚以上の価値”。
しかも、王都でも滅多に入手できない逸品。
(……二千金貨の弓を、あの女は平然と背負っていたのか。いい拾い物をしたな。)
フィルードの頬が緩む。
さらにエレナの身体から発見した魔石六枚。
思わず抱きしめてキスしたくなるほどの戦利品だ。
◆
騎兵隊は一路、敵軍の残党を追って疾駆した。
わずか三十分足らずで、ディオ軍の背中が土煙の向こうに見え始める。
ディオは振り返り、黒雲のように押し寄せる騎兵の群れを見た瞬間、顔色を失った。
――終わりだ、と悟った表情だった。
先頭に立つウェイン侯爵は、全身を魔法の気配漂う鉄甲冑で固めている。
フィルードはその威容を見るたび、羨望と野心が胸を刺した。
(あれほどの装備……一体、どれだけの資源を注ぎ込めば手に入る?)
侯爵の後方には王家の象徴たる獅子旗が翻っている。
その姿はまさに王国最強軍の威光そのものだった。
◆
ウェイン侯爵は魔力を声に込め、戦場全体に響く咆哮を放った。
「ディオ!
お前は高位にあり、王国から厚遇されてきたはずだ。それを裏切るとは何事か!」
ディオは怨嗟のこもった笑い声を上げた。
「厚遇?笑わせるな。
伯爵である私ですら、毎年王国に三割の税を納めている!
配下の小貴族に至っては四割だ!
我々の地域が北方防衛の最前線で、何度も獣人の侵攻で疲弊していることを、
お前たち中央の連中がどれほど理解している!」
そして毒を吐くように続けた。
「ウェイン!
お前は中級魔法使いだからよかったが、もし魔力が弱ければ、
今頃、お前の骨は北方の吹雪に晒されていたことだろう!」
ウェインは静かに目を閉じ、苦渋の息を吐いた。
「……王国にも事情がある。
北方は穀倉地帯だ。南部からの輸送だけでは賄えない。
だが、だからといって“獣人と結託する理由”にはならない。
お前たちは種族そのものを裏切ったのだ。」
ディオは激しく歯ぎしりし叫んだ。
「結託?証拠を出せ!
歴史は勝者が好きに書き換える。
私が裏切ったとお前たちが騒げば、それで済む話だろう!」
ウェイン侯爵は視線を下げ、懐から一枚の巻物を取り出した。
「……陛下の命令を伝える。
本日をもって、ブラント家の爵位はすべて剥奪。
成人男性は処刑。
女性はすべて奴隷籍へ落とす。」
巻物を広げる音は、断罪そのものだった。
ウェインは表情を沈め、最後の問いを投げた。
「ディオ。最後に言いたいことはあるか。」
ディオは肩を震わせ、乾いた笑い声を漏らした。
「……ふん、勝者の裁きか。好きにするがいい。」
次の瞬間、彼は剣を高く掲げ、叫び声を上げた。
「全軍突撃!
敵の騎兵一人につき金貨十枚!
奴隷も農奴も……全員解放してやる!」
しかしすでに士気は地に落ちている。
兵たちは動揺し、半数は立ち止まったままだ。
わずか数百名が前へ進もうとしたが、すぐに後続の混乱を見て足が止まった。
ウェイン侯爵は魔力を使って再び叫んだ。
「兵士たちよ!
武器を捨てれば命は助ける!
だが抵抗すれば、農奴は奴隷に、自由民は農奴に落とす!
反攻軍は一万を超える。
降伏以外の道はない!」
敵陣が一斉にざわめいた。
動揺した兵士たちは次々と足を止める。
ディオは怒号を張り上げた。
「役立たずどもが!!突撃しろ!!
立ち止まる者は一族すべて処刑だ!!」
しかし、もう誰も彼を見てはいなかった。
ディオの傍らにいた上位超凡者が肩を掴み、低く叫んだ。
「ディオ!
もう無理だ。お前だけでも逃げろ!
我々が殿を務める!」
そう言って、彼は鞭でディオの馬を叩きつけた。
馬は悲鳴を上げて駆け出し、ディオは振り返る間もなく遠ざかっていった。
助太刀に来ていた二名の上位超凡者は互いに視線を交わし、
そのまま背を向けて走り去った。
残されたのはディオ家の三名の上位超凡者のみ。
彼らは覚悟を決め、騎兵を率いて続いた。
ウェイン侯爵は目を閉じ、小さく息を吐いた。
そして振り返り、二人の子爵へ命じた。
「歩兵の武装解除を監視しろ。後続が来たら拘束せよ。」
侯爵は残りの騎兵を率い、全速力で追撃を開始した。
フィルードもその背後に加わる。
両軍の距離は一気に縮まり、
フィルードは大黒の背で短弓を構えた。
――ヒュッ。
矢は一直線に飛び、敵の騎兵を馬上から引きずり落とした。
二射、三射。
大黒の揺れを完全に殺し、狙いを外さない。
この光景に、ウェインは目を見開いた。
(……乗馬しながら“直線射撃”だと?
この世界で、それをやれる人間が何人いる……?)
ウェイン侯爵の驚愕の視線を受けながら、
フィルードは次の矢をつがえ、冷静に言い放つ。
「侯爵様――追撃はここからが本番です。」
――これは、想像以上の代物だ。
弓全体が高純度の魔素材で構成されており、以前は強化魔力矢が五射、通常矢が九射が限界だったのに、
今は強化魔力矢が六射、通常矢なら十一射も撃てるようになった。
威力も射程も明確に底上げされている。
軍団にいた上位超凡者二名の推定評価は――
“少なくとも金貨二千枚以上の価値”。
しかも、王都でも滅多に入手できない逸品。
(……二千金貨の弓を、あの女は平然と背負っていたのか。いい拾い物をしたな。)
フィルードの頬が緩む。
さらにエレナの身体から発見した魔石六枚。
思わず抱きしめてキスしたくなるほどの戦利品だ。
◆
騎兵隊は一路、敵軍の残党を追って疾駆した。
わずか三十分足らずで、ディオ軍の背中が土煙の向こうに見え始める。
ディオは振り返り、黒雲のように押し寄せる騎兵の群れを見た瞬間、顔色を失った。
――終わりだ、と悟った表情だった。
先頭に立つウェイン侯爵は、全身を魔法の気配漂う鉄甲冑で固めている。
フィルードはその威容を見るたび、羨望と野心が胸を刺した。
(あれほどの装備……一体、どれだけの資源を注ぎ込めば手に入る?)
侯爵の後方には王家の象徴たる獅子旗が翻っている。
その姿はまさに王国最強軍の威光そのものだった。
◆
ウェイン侯爵は魔力を声に込め、戦場全体に響く咆哮を放った。
「ディオ!
お前は高位にあり、王国から厚遇されてきたはずだ。それを裏切るとは何事か!」
ディオは怨嗟のこもった笑い声を上げた。
「厚遇?笑わせるな。
伯爵である私ですら、毎年王国に三割の税を納めている!
配下の小貴族に至っては四割だ!
我々の地域が北方防衛の最前線で、何度も獣人の侵攻で疲弊していることを、
お前たち中央の連中がどれほど理解している!」
そして毒を吐くように続けた。
「ウェイン!
お前は中級魔法使いだからよかったが、もし魔力が弱ければ、
今頃、お前の骨は北方の吹雪に晒されていたことだろう!」
ウェインは静かに目を閉じ、苦渋の息を吐いた。
「……王国にも事情がある。
北方は穀倉地帯だ。南部からの輸送だけでは賄えない。
だが、だからといって“獣人と結託する理由”にはならない。
お前たちは種族そのものを裏切ったのだ。」
ディオは激しく歯ぎしりし叫んだ。
「結託?証拠を出せ!
歴史は勝者が好きに書き換える。
私が裏切ったとお前たちが騒げば、それで済む話だろう!」
ウェイン侯爵は視線を下げ、懐から一枚の巻物を取り出した。
「……陛下の命令を伝える。
本日をもって、ブラント家の爵位はすべて剥奪。
成人男性は処刑。
女性はすべて奴隷籍へ落とす。」
巻物を広げる音は、断罪そのものだった。
ウェインは表情を沈め、最後の問いを投げた。
「ディオ。最後に言いたいことはあるか。」
ディオは肩を震わせ、乾いた笑い声を漏らした。
「……ふん、勝者の裁きか。好きにするがいい。」
次の瞬間、彼は剣を高く掲げ、叫び声を上げた。
「全軍突撃!
敵の騎兵一人につき金貨十枚!
奴隷も農奴も……全員解放してやる!」
しかしすでに士気は地に落ちている。
兵たちは動揺し、半数は立ち止まったままだ。
わずか数百名が前へ進もうとしたが、すぐに後続の混乱を見て足が止まった。
ウェイン侯爵は魔力を使って再び叫んだ。
「兵士たちよ!
武器を捨てれば命は助ける!
だが抵抗すれば、農奴は奴隷に、自由民は農奴に落とす!
反攻軍は一万を超える。
降伏以外の道はない!」
敵陣が一斉にざわめいた。
動揺した兵士たちは次々と足を止める。
ディオは怒号を張り上げた。
「役立たずどもが!!突撃しろ!!
立ち止まる者は一族すべて処刑だ!!」
しかし、もう誰も彼を見てはいなかった。
ディオの傍らにいた上位超凡者が肩を掴み、低く叫んだ。
「ディオ!
もう無理だ。お前だけでも逃げろ!
我々が殿を務める!」
そう言って、彼は鞭でディオの馬を叩きつけた。
馬は悲鳴を上げて駆け出し、ディオは振り返る間もなく遠ざかっていった。
助太刀に来ていた二名の上位超凡者は互いに視線を交わし、
そのまま背を向けて走り去った。
残されたのはディオ家の三名の上位超凡者のみ。
彼らは覚悟を決め、騎兵を率いて続いた。
ウェイン侯爵は目を閉じ、小さく息を吐いた。
そして振り返り、二人の子爵へ命じた。
「歩兵の武装解除を監視しろ。後続が来たら拘束せよ。」
侯爵は残りの騎兵を率い、全速力で追撃を開始した。
フィルードもその背後に加わる。
両軍の距離は一気に縮まり、
フィルードは大黒の背で短弓を構えた。
――ヒュッ。
矢は一直線に飛び、敵の騎兵を馬上から引きずり落とした。
二射、三射。
大黒の揺れを完全に殺し、狙いを外さない。
この光景に、ウェインは目を見開いた。
(……乗馬しながら“直線射撃”だと?
この世界で、それをやれる人間が何人いる……?)
ウェイン侯爵の驚愕の視線を受けながら、
フィルードは次の矢をつがえ、冷静に言い放つ。
「侯爵様――追撃はここからが本番です。」
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