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第148章 山岳を制する者は戦場を制す――フィルードの隠密作戦
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フィルードは一拍置き、静かに言葉をつなげた。
「獣人の中には騎兵も相当数います。我々は平地で彼らと正面衝突すれば、簡単に行き詰まるでしょう。ですから今回の出兵では、山岳地帯出身の兵士を優先して選抜することを提案します」
彼は自分の脳内で、獣人騎兵の移動速度と地形の制約をすでに計算していた。
「彼らの山登りやクロスカントリー能力は一般兵より高いはずです。それに……今回の遠征では、一人につき馬一頭だけでなく、ロバ一頭も抱えていく必要があります。ロバは山中で非常に有用です。馬は移動用、ロバは物資運搬用と割り切るべきです」
冷静かつ滑らかな説明が続く。
「私は反略奪小隊を率いて城を出た後、まずカールトン子爵の領地に入り、馬を預けます。その後、ロバで物資を運びつつ山脈へ進入し、山中に身を隠すつもりです。北域の山脈は四方八方に通じており、多くの領地と繋がっている。つまり、我々は本当の意味で神出鬼没になれるわけです」
ウェインは真っ直ぐフィルードを見つめ、厳しい口調で言う。
「フィルード団長、悪くない計画だ。君の言う通りに進めよう。城内でロバを集めさせる。それと一点だけ忠告しておく」
「君はアモン王国の封臣であり、北域の重要な将領だ。今後は傍観などせず、王国のためにもっと力を尽くしてほしい。我々の北域が安全になってこそ、君自身の発展もあるのではないか?」
つまり、逃げるなという釘刺しだとフィルードは悟った。
「承知いたしました。今後は必ず自戒します」
面倒事が増えるのは御免だが、ここで反抗する選択肢はない。
ウェインが手を振って解散を命じ、皆は準備に戻った。
どれほどの戦闘期間になるか読めない以上、フィルードは装備を徹底的に整えた。矢だけで三百本以上を携帯。ライドンとマイクは同行させ、ユリアンとブルースは歩兵寄りで機動が落ちるためダービー城に残留。臨時の守将はフランク子爵が務める。もちろん、フィルードはエレナも連れて行った。彼女の弓の腕は確かだからだ。
その夜、反略奪小隊は南門から慎重に出立した。しかし五百の騎兵隊を完全に隠密行動させるのは容易ではなく、すぐに獣人の警戒を引いた。走り始めて間もなく、獣人騎兵の大集団が追撃してくる。
振り返れば真っ暗な中、無数の蹄の音が響き、その執念深い追跡は夜明けまで続いた。フィルードが確認した時、後方の敵は二千。こちらの四倍以上だ。
夕暮れ近くまで逃げ続け、ようやくカールトン子爵領に到着。しかし獣人はまだ食らいついてくる。軍はそのまま城内へ入り、兵は疲労困憊して倒れ込むように眠った。
翌日の夕暮れ、今度は十分な乾パンを準備し、ロバに背負わせて再出発。夜の闇に紛れて城を出ると、そのまま山中へ突入した。深い山奥へ一定距離進んだところで野営。しかし火はつけない。パンを水でふやかし、干し肉と共に黙々と食べる。
フィルードは干し肉を噛みながら、この状況こそ奇襲戦の適地だと内心で確信していた。
その時、ウェイン侯爵が巡回の途中で近づいてきた。
「フィルード団長、我々は次にどこへ向かうべきか。こういった小規模の作戦には慣れていない。君の意見を聞きたい」
この世界の戦争レベルは驚くほど原始的だ。
陣形を広げて切り結ぶだけ。奇襲や待ち伏せなど、フィルードにとって基礎戦術でしかない手法が、貴族社会では卑劣とされている。
エレナが自分を賊呼ばわりする理由もそこにある。
だがフィルードにとって勝つための手段は何でも使う。それだけの話だった。
よく考えてから、彼は答えた。
「侯爵様、まずは様子を見るべきです。もし獣人騎兵が山まで追ってくるなら、我々は待ち伏せができます。騎兵は一人死んでも損害が大きい。地形さえ味方にすれば、少数の我々でも戦果を上げられます」
「もし追ってこないなら、以前のハロルドの領地へ向かいます。あそこは山脈に近い。獣人が襲撃に来る勇気があるなら、逆に不意打ちできます。その後、山脈の周囲を巡り、獣人の痕跡を探す」
「敵の規模が小さければ打って出ます。今回の兵は全員精鋭で、ボア・マン相手でも個別戦闘なら互角以上です」
ウェイン侯爵は反論も代案も持っていなかった。
「では君の案で行こう」
フィルードは内心でため息をついた。
ウェインは軍才が低い。というより致命的に足りない。
昨年モニーク城北側で人族大軍が獣人の奇襲を受けたのは、完全に彼の不手際だった。
中級魔法使いで皇族だから許されたのであって、そうでなければとっくに首が飛んでいる。今回も大軍を率いて出てきたくせに、包囲されていることにすら気付かなかった。
距離などの客観要因があったとしても、周囲状況を把握しないまま進軍するのは論外だ。
学生時代の偏った成績を思い出させる。ある科目は満点、別の科目は毎回赤点。
もしフィルードが上官なら、ウェインには魔法だけ使わせて絶対に軍の指揮はさせない。
翌朝、獣人騎兵はついに山へ突入してきた。
フィルードは嬉しさを隠しきれなかった。
罠に誘い込めた、と。
すぐにウェインの元へ。
「侯爵様、私の大黒牛は山の中を飛ぶように進めます。私が先行して地形を偵察してきます。獣人を迎え撃つ最適の場所を見つけてきましょう」
複数の失敗を経たウェインは、ようやく忠告を素直に受け入れるようになっていた。
「行ってこい」
獣人騎兵は馬を引いて山を進んでいるため、ロバ中心のフィルード隊には追いつけない。
フィルードは丸一日かけて最良の待ち伏せ地点を探し、ついに理想的な地形を発見した。
山間部の狭隘地で、距離こそ短いが見通しが良く、砕石が露出し、木がなく、雑草のみ。
騎兵の突撃は不可能。歩兵でも隙だらけ。
理想的な“狩り場”。
フィルードは大黒牛を駆って戻り、報告した。
「侯爵様、前方十数里に絶好の待ち伏せ地があります。これより兵士たちを先に向かわせ、戦場を構築します」
「そして我々二人は、隊列中の遠距離武器に長けた超凡者を率い、敵を遅滞させます。我々だけで大戦果は無理ですが、行軍速度を落とすには十分です」
「獣人の中には騎兵も相当数います。我々は平地で彼らと正面衝突すれば、簡単に行き詰まるでしょう。ですから今回の出兵では、山岳地帯出身の兵士を優先して選抜することを提案します」
彼は自分の脳内で、獣人騎兵の移動速度と地形の制約をすでに計算していた。
「彼らの山登りやクロスカントリー能力は一般兵より高いはずです。それに……今回の遠征では、一人につき馬一頭だけでなく、ロバ一頭も抱えていく必要があります。ロバは山中で非常に有用です。馬は移動用、ロバは物資運搬用と割り切るべきです」
冷静かつ滑らかな説明が続く。
「私は反略奪小隊を率いて城を出た後、まずカールトン子爵の領地に入り、馬を預けます。その後、ロバで物資を運びつつ山脈へ進入し、山中に身を隠すつもりです。北域の山脈は四方八方に通じており、多くの領地と繋がっている。つまり、我々は本当の意味で神出鬼没になれるわけです」
ウェインは真っ直ぐフィルードを見つめ、厳しい口調で言う。
「フィルード団長、悪くない計画だ。君の言う通りに進めよう。城内でロバを集めさせる。それと一点だけ忠告しておく」
「君はアモン王国の封臣であり、北域の重要な将領だ。今後は傍観などせず、王国のためにもっと力を尽くしてほしい。我々の北域が安全になってこそ、君自身の発展もあるのではないか?」
つまり、逃げるなという釘刺しだとフィルードは悟った。
「承知いたしました。今後は必ず自戒します」
面倒事が増えるのは御免だが、ここで反抗する選択肢はない。
ウェインが手を振って解散を命じ、皆は準備に戻った。
どれほどの戦闘期間になるか読めない以上、フィルードは装備を徹底的に整えた。矢だけで三百本以上を携帯。ライドンとマイクは同行させ、ユリアンとブルースは歩兵寄りで機動が落ちるためダービー城に残留。臨時の守将はフランク子爵が務める。もちろん、フィルードはエレナも連れて行った。彼女の弓の腕は確かだからだ。
その夜、反略奪小隊は南門から慎重に出立した。しかし五百の騎兵隊を完全に隠密行動させるのは容易ではなく、すぐに獣人の警戒を引いた。走り始めて間もなく、獣人騎兵の大集団が追撃してくる。
振り返れば真っ暗な中、無数の蹄の音が響き、その執念深い追跡は夜明けまで続いた。フィルードが確認した時、後方の敵は二千。こちらの四倍以上だ。
夕暮れ近くまで逃げ続け、ようやくカールトン子爵領に到着。しかし獣人はまだ食らいついてくる。軍はそのまま城内へ入り、兵は疲労困憊して倒れ込むように眠った。
翌日の夕暮れ、今度は十分な乾パンを準備し、ロバに背負わせて再出発。夜の闇に紛れて城を出ると、そのまま山中へ突入した。深い山奥へ一定距離進んだところで野営。しかし火はつけない。パンを水でふやかし、干し肉と共に黙々と食べる。
フィルードは干し肉を噛みながら、この状況こそ奇襲戦の適地だと内心で確信していた。
その時、ウェイン侯爵が巡回の途中で近づいてきた。
「フィルード団長、我々は次にどこへ向かうべきか。こういった小規模の作戦には慣れていない。君の意見を聞きたい」
この世界の戦争レベルは驚くほど原始的だ。
陣形を広げて切り結ぶだけ。奇襲や待ち伏せなど、フィルードにとって基礎戦術でしかない手法が、貴族社会では卑劣とされている。
エレナが自分を賊呼ばわりする理由もそこにある。
だがフィルードにとって勝つための手段は何でも使う。それだけの話だった。
よく考えてから、彼は答えた。
「侯爵様、まずは様子を見るべきです。もし獣人騎兵が山まで追ってくるなら、我々は待ち伏せができます。騎兵は一人死んでも損害が大きい。地形さえ味方にすれば、少数の我々でも戦果を上げられます」
「もし追ってこないなら、以前のハロルドの領地へ向かいます。あそこは山脈に近い。獣人が襲撃に来る勇気があるなら、逆に不意打ちできます。その後、山脈の周囲を巡り、獣人の痕跡を探す」
「敵の規模が小さければ打って出ます。今回の兵は全員精鋭で、ボア・マン相手でも個別戦闘なら互角以上です」
ウェイン侯爵は反論も代案も持っていなかった。
「では君の案で行こう」
フィルードは内心でため息をついた。
ウェインは軍才が低い。というより致命的に足りない。
昨年モニーク城北側で人族大軍が獣人の奇襲を受けたのは、完全に彼の不手際だった。
中級魔法使いで皇族だから許されたのであって、そうでなければとっくに首が飛んでいる。今回も大軍を率いて出てきたくせに、包囲されていることにすら気付かなかった。
距離などの客観要因があったとしても、周囲状況を把握しないまま進軍するのは論外だ。
学生時代の偏った成績を思い出させる。ある科目は満点、別の科目は毎回赤点。
もしフィルードが上官なら、ウェインには魔法だけ使わせて絶対に軍の指揮はさせない。
翌朝、獣人騎兵はついに山へ突入してきた。
フィルードは嬉しさを隠しきれなかった。
罠に誘い込めた、と。
すぐにウェインの元へ。
「侯爵様、私の大黒牛は山の中を飛ぶように進めます。私が先行して地形を偵察してきます。獣人を迎え撃つ最適の場所を見つけてきましょう」
複数の失敗を経たウェインは、ようやく忠告を素直に受け入れるようになっていた。
「行ってこい」
獣人騎兵は馬を引いて山を進んでいるため、ロバ中心のフィルード隊には追いつけない。
フィルードは丸一日かけて最良の待ち伏せ地点を探し、ついに理想的な地形を発見した。
山間部の狭隘地で、距離こそ短いが見通しが良く、砕石が露出し、木がなく、雑草のみ。
騎兵の突撃は不可能。歩兵でも隙だらけ。
理想的な“狩り場”。
フィルードは大黒牛を駆って戻り、報告した。
「侯爵様、前方十数里に絶好の待ち伏せ地があります。これより兵士たちを先に向かわせ、戦場を構築します」
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