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第200章 略奪隊の一掃と避けられぬ選別
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フィルードはすぐに手を振った。
「私は北境治安団の団長として動いただけです。これは私の責務ですし、ウェリアム侯爵からの命令でもあります。どうかお気遣いなく」
――功績を前面に出すつもりはない。
自分が今いる立場では、それはむしろ余計な反感を買うだけだ。
カールトンは首を振り、苦笑しながら杯を置いた。
「そうは言えませんよ。確かにあなたは招集を受けました。しかし、その“やり方”はいくらでもあったはずだ。にもかかわらず、最も面倒で、しかし最も確実な方法を選んだ。それが我々にとって、どれほど助けになったか……言葉では足りません」
彼は立ち上がり、朗らかに言った。
「さあ、堅い話はここまでだ。城へ戻ろう。今夜はとことん飲み明かそうじゃないか!」
――この男は、人心掌握が上手い。
軽く見えるが、領主としての資質は確かだ。
夜。
城内の広間では、酒と料理が惜しみなく並べられた。
フィルードの向かいにはカールトン、その両脇には二人の上位超凡者が腰掛けていた。
フィルードは杯を傾けつつ、片牙の老者へと視線を向ける。
「先輩、これだけ長い付き合いになりますが……実は、まだお名前を伺っていませんでした」
片牙の老者は大笑いした。
「はっはっは! 私はボブールだ。爵位など持っておらん。ただの老いぼれだ。今後は“ボブールおじさん”とでも呼んでくれ」
フィルードは静かに頷いた。
「では、そう呼ばせていただきます」
続けて、彼はカールトンの隣に座るもう一人の老者へ視線を移す。
「先輩、我々は二度、三度と共に戦っています。しかし、やはりお名前を存じ上げていません」
老者は口元に陰鬱な笑みを浮かべた。
「ここ数年、北域で名を上げた若造が、お前か。私はベーカーだ。私も爵位はない。ボブールと同じで構わん。“ベーカーおじさん”と呼べ」
フィルードは杯を置き、真剣に頷いた。
「以後、そうさせていただきます」
――肩書より、実力。
この二人もまた、戦場に残り続けた本物だ。
その後は雑談が続き、場は次第に和やかな空気に包まれていった。
皆がほろ酔いになった頃、フィルードは自然な口調で切り込んだ。
「カールトン子爵様。次は、大軍を動かして、領内で猛威を振るう獣人を討伐すべきでは?」
カールトンはげっぷを一つこぼしながら答える。
「ああ。明日には人を出すつもりだ。食料を略奪している連中を一掃する。連中は、主を失った犬のようなものだ。恐れる必要はないが……数が多い。できれば団長、少し力を貸してほしい」
彼は指を立てた。
「もちろん、ただ働きはさせない。原価で穀物を一部回そう」
――合理的な条件提示だ。
特に断る理由はない。
フィルードが頷こうとした、その時だった。
「……ベーカー。なぜお前の甥は、こうも独り占め思考なのだ?」
ボブールが冷笑を浮かべ、杯を置いた。
「我々の領地も、獣人の略奪で悲惨な状況だ。人手は足りず、損失はそちらより大きい。フィルード団長の助けが必要なのは、我々も同じだ!」
ベーカーは眉をひそめ、低く言い返す。
「団長が今ここにいるのだから、まず目の前の厄介事を片付けるべきだ。我々の領地を先に救い、その後で共に貴領を掃討すればいい」
ボブールは憤然と立ち上がった。
「私を愚弄しているのか!? その頃には、我々の領地は荒野だ! 獣人が勝手に去る頃合いだろうな!」
彼は拳を握りしめる。
「我々は軍を出して、お前たちを助けに来た。これ以上の誠意があるか? 残り数千の部族戦士など、お前たちでどうにでもできるだろう! 貴族の荘園と私有地しか守らぬ貴様らが、自由民のことなど気にするはずもない!」
――火花が散っている。
だが、感情論だけで戦争は動かない。
カールトンは慌てて割って入った。
「叔父上、どうか抑えてください。ボブールおじさんの言うことにも一理あります。我々の兵力だけでも、自領は守れます」
彼は一度フィルードを見て、言葉を選んだ。
「フランク領地での戦況は承知しています。多くの人手を失った。ですから……フィルード団長には、まず彼らを支援していただきましょう」
ベーカーは甥を一瞥し、内心で舌打ちした。
この判断の意味は理解している。フィルードが加われば、兵の損耗を防げる。
だが、ここで異論を唱えれば、面子が潰れる。
……結果、彼は頷くしかなかった。
「……わかった」
その夜は深夜まで酒宴が続いた。
カールトンは気を利かせ、フィルードの部屋に二人のメイドを手配していた。
明るい瞳、白い歯、過度な距離感。
理性が試される状況だったが、フィルードは深く息を吐いた。
――今は、その時ではない。
翌朝。
フィルードとボブールは軍を率い、フランク城へ進軍した。
領内に入ると同時に、フィルードは軍を分割した。
これは殲滅戦であると同時に、訓練と選別でもある。
捕虜から得た情報では、略奪担当の獣人は百人規模、最大でも三百。
フィルードは四千の兵を、二百人ずつ二十隊に分けた。
――ここで、指揮官の価値が露呈する。
損耗が最も多い百人隊長は懲罰。
損失が少なく、成果を上げた者は褒賞と名簿登録。
討伐数もまた、重要な評価指標だ。
結果は明白だった。
三日で、領内の部族獣人は一掃された。
カールトン領でも掃討は進み、残りは一、二日。
フィルードは一日の休養を挟み、帰還する予定だった。
――しかし。
ダービー城からの急報が届いた。
ウェリアム侯爵の書簡には、称賛の言葉が並んでいたが、フィルードの心は動かない。
救うべき場所があるなら、行く。
それが北域全体の安定につながるのなら、尚更だ。
「……まるで消防士だな」
自嘲気味に呟き、二人の子爵に二千ずつの派兵を命じた。
フランクは頭を抱え、やがて懇願するようにフィルードを見た。
「団長……現状はご存じのはずです。これ以上二千を出せば、防衛が成り立ちません。ですから……」
彼は言い淀みながら続けた。
「あなたは四千を率いておられる。規定は三千のはず。余剰の千……代わりに派遣していただけませんか?」
――さて。
これは、試されているな。
フィルードは、静かに彼を見返した。
「私は北境治安団の団長として動いただけです。これは私の責務ですし、ウェリアム侯爵からの命令でもあります。どうかお気遣いなく」
――功績を前面に出すつもりはない。
自分が今いる立場では、それはむしろ余計な反感を買うだけだ。
カールトンは首を振り、苦笑しながら杯を置いた。
「そうは言えませんよ。確かにあなたは招集を受けました。しかし、その“やり方”はいくらでもあったはずだ。にもかかわらず、最も面倒で、しかし最も確実な方法を選んだ。それが我々にとって、どれほど助けになったか……言葉では足りません」
彼は立ち上がり、朗らかに言った。
「さあ、堅い話はここまでだ。城へ戻ろう。今夜はとことん飲み明かそうじゃないか!」
――この男は、人心掌握が上手い。
軽く見えるが、領主としての資質は確かだ。
夜。
城内の広間では、酒と料理が惜しみなく並べられた。
フィルードの向かいにはカールトン、その両脇には二人の上位超凡者が腰掛けていた。
フィルードは杯を傾けつつ、片牙の老者へと視線を向ける。
「先輩、これだけ長い付き合いになりますが……実は、まだお名前を伺っていませんでした」
片牙の老者は大笑いした。
「はっはっは! 私はボブールだ。爵位など持っておらん。ただの老いぼれだ。今後は“ボブールおじさん”とでも呼んでくれ」
フィルードは静かに頷いた。
「では、そう呼ばせていただきます」
続けて、彼はカールトンの隣に座るもう一人の老者へ視線を移す。
「先輩、我々は二度、三度と共に戦っています。しかし、やはりお名前を存じ上げていません」
老者は口元に陰鬱な笑みを浮かべた。
「ここ数年、北域で名を上げた若造が、お前か。私はベーカーだ。私も爵位はない。ボブールと同じで構わん。“ベーカーおじさん”と呼べ」
フィルードは杯を置き、真剣に頷いた。
「以後、そうさせていただきます」
――肩書より、実力。
この二人もまた、戦場に残り続けた本物だ。
その後は雑談が続き、場は次第に和やかな空気に包まれていった。
皆がほろ酔いになった頃、フィルードは自然な口調で切り込んだ。
「カールトン子爵様。次は、大軍を動かして、領内で猛威を振るう獣人を討伐すべきでは?」
カールトンはげっぷを一つこぼしながら答える。
「ああ。明日には人を出すつもりだ。食料を略奪している連中を一掃する。連中は、主を失った犬のようなものだ。恐れる必要はないが……数が多い。できれば団長、少し力を貸してほしい」
彼は指を立てた。
「もちろん、ただ働きはさせない。原価で穀物を一部回そう」
――合理的な条件提示だ。
特に断る理由はない。
フィルードが頷こうとした、その時だった。
「……ベーカー。なぜお前の甥は、こうも独り占め思考なのだ?」
ボブールが冷笑を浮かべ、杯を置いた。
「我々の領地も、獣人の略奪で悲惨な状況だ。人手は足りず、損失はそちらより大きい。フィルード団長の助けが必要なのは、我々も同じだ!」
ベーカーは眉をひそめ、低く言い返す。
「団長が今ここにいるのだから、まず目の前の厄介事を片付けるべきだ。我々の領地を先に救い、その後で共に貴領を掃討すればいい」
ボブールは憤然と立ち上がった。
「私を愚弄しているのか!? その頃には、我々の領地は荒野だ! 獣人が勝手に去る頃合いだろうな!」
彼は拳を握りしめる。
「我々は軍を出して、お前たちを助けに来た。これ以上の誠意があるか? 残り数千の部族戦士など、お前たちでどうにでもできるだろう! 貴族の荘園と私有地しか守らぬ貴様らが、自由民のことなど気にするはずもない!」
――火花が散っている。
だが、感情論だけで戦争は動かない。
カールトンは慌てて割って入った。
「叔父上、どうか抑えてください。ボブールおじさんの言うことにも一理あります。我々の兵力だけでも、自領は守れます」
彼は一度フィルードを見て、言葉を選んだ。
「フランク領地での戦況は承知しています。多くの人手を失った。ですから……フィルード団長には、まず彼らを支援していただきましょう」
ベーカーは甥を一瞥し、内心で舌打ちした。
この判断の意味は理解している。フィルードが加われば、兵の損耗を防げる。
だが、ここで異論を唱えれば、面子が潰れる。
……結果、彼は頷くしかなかった。
「……わかった」
その夜は深夜まで酒宴が続いた。
カールトンは気を利かせ、フィルードの部屋に二人のメイドを手配していた。
明るい瞳、白い歯、過度な距離感。
理性が試される状況だったが、フィルードは深く息を吐いた。
――今は、その時ではない。
翌朝。
フィルードとボブールは軍を率い、フランク城へ進軍した。
領内に入ると同時に、フィルードは軍を分割した。
これは殲滅戦であると同時に、訓練と選別でもある。
捕虜から得た情報では、略奪担当の獣人は百人規模、最大でも三百。
フィルードは四千の兵を、二百人ずつ二十隊に分けた。
――ここで、指揮官の価値が露呈する。
損耗が最も多い百人隊長は懲罰。
損失が少なく、成果を上げた者は褒賞と名簿登録。
討伐数もまた、重要な評価指標だ。
結果は明白だった。
三日で、領内の部族獣人は一掃された。
カールトン領でも掃討は進み、残りは一、二日。
フィルードは一日の休養を挟み、帰還する予定だった。
――しかし。
ダービー城からの急報が届いた。
ウェリアム侯爵の書簡には、称賛の言葉が並んでいたが、フィルードの心は動かない。
救うべき場所があるなら、行く。
それが北域全体の安定につながるのなら、尚更だ。
「……まるで消防士だな」
自嘲気味に呟き、二人の子爵に二千ずつの派兵を命じた。
フランクは頭を抱え、やがて懇願するようにフィルードを見た。
「団長……現状はご存じのはずです。これ以上二千を出せば、防衛が成り立ちません。ですから……」
彼は言い淀みながら続けた。
「あなたは四千を率いておられる。規定は三千のはず。余剰の千……代わりに派遣していただけませんか?」
――さて。
これは、試されているな。
フィルードは、静かに彼を見返した。
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