傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第205章 血路を裂き、獣人を狩り――そして帰還へ

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それ以降、フィルードは冷静に段階を踏んで手順を回した。
まずローセイに命じ、ジャッカルマン戦士を率いさせて前進させる。役目は単純――戦死した獣人から装備と武器を回収すること。その後、あらかじめ選別しておいた新たな五百名の豚頭族奴隷を前線に送り出す。この流れを、淡々と、機械のように繰り返した。
三巡目に入った頃、やはり想定していた事態が起こる。
十数名の豚頭族が突如として長槍を翻し、後方に控えていた人間兵士へ斬りかかったのだ。
――想定内だ。
最後尾に控えていた人間の弓兵が、ほとんど反射的に立ち上がった。
「ヒューヒュー」と鋭い破空音が連続し、矢は寸分違わず標的を捉える。反乱者となった十数名の豚頭族は、叫ぶ間もなくその場に崩れ落ちた。
残った豚頭族たちも、ようやく状況を理解した。自分たちの隊列の中から反乱者が出た――それは「絶対に許されない」行為であることを。
その瞬間だった。
谷の外で大規模な部隊の集結が始まり、獣人軍が明らかに本気の攻城準備に入った。
フィルードは即座に判断を下した。
「号角を吹け!」
伝令兵が応じ、低く重い音が峡谷に反響する。それを合図に、両側の山頂に控えていた戦士たちが一斉に動き、投石機にエネルギーを蓄え始めた。
ブルースも鉄甲兵を率い、後方城壁から前線へと移動する。
豚頭族奴隷の武器はすべて回収され、速やかに分解されて城壁の下へ移された。
そのわずかな時間差の間に、すでに十数名の獣人が城壁によじ登ってきていた。
「この豚どもを、城壁から叩き落とせ!」
ブルースの怒号とともに、巨大な両刃斧が振り下ろされる。一人の豚頭族が体勢を整える前に、城壁の縁から吹き飛ばされた。
突入した鉄甲兵たちは、まさに重戦車のような存在だった。
一合も持たず、城壁上は瞬く間に制圧される。
視線を谷口へ移すと、獣人の大軍が突入した瞬間、両側の崖に据えられた投石機が一斉に火を噴いた。
巨大な石球が空気を裂く音は、まるで死者のための鎮魂歌のようだった。
密集した突撃隊列に石が叩き込まれ、谷口は一瞬で肉挽き機と化す。
十数人をまとめて薙ぎ倒す石が、血と悲鳴を撒き散らしながら転がっていった。
この手の光景には慣れているはずのフィルードでさえ、思わず眉をひそめた。
――これは戦場ではない。処刑場だ。
甕城まで、わずか数十メートル。だがそこは、もはや越えられぬ天険だった。
死体が積み重なり、血と内臓が混じって足場はぬかるみ、豚頭族の戦士たちは恐怖から麻痺へと移行していく。
数名が狂ったように叫び出した。
「悪魔だ! 悪鬼だ! 逃げろ! 肉団子にされる!」
この叫びが引き金となり、獣人軍は完全に瓦解した。
逃げ惑う者、泣き叫ぶ者――そして、恐怖で壊れ、ただ笑い続ける者たち。
――千は下らんな。
異種族であるとはいえ、その凄惨さにフィルードの心もわずかに震えた。
その変化を察したエレナが、そっと彼の手を握る。
フィルードは握り返し、無言で「大丈夫だ」と伝えた。
彼は冷静に次の指示を出す。この波の攻勢は完全に崩壊している。ここから先は、無用な死者を出さないことが最優先だった。
その後も、フィルードは同じ戦術を繰り返した。
豚頭族奴隷を交代で城壁に送り、圧力を分散させつつ、不忠分子を炙り出す。
完成した城塞防衛システムがあってこそ可能な戦術であり、安易に真似すれば確実に破滅する危険策でもあった。
五日後、獣人軍の攻撃は明らかに緩んだ。
これは包囲――いや、撤収準備だ。
フィルードはすぐに意図を読み取った。
略奪を終え、帰還する。その背後を自分に突かれるのを恐れているのだ。
――なら、恐れさせてやろう。
ためらいはなかった。
フィルードは領地内の全超凡者、八名を招集し、さらに二千名の兵を率いて暗渠トンネルを抜け、盆地を経由して領地外へ出た。
斥候を各谷口へ散らし、動向を探らせる。
戻ってきたマイクは笑って報告した。
「団長様、獣人どもは北へ線を引くように並んでいます。奇襲はいつでも可能です。それに……牛です。成牛を大量に連れている。奪えば、耕牛不足は一気に解消します」
フィルードは満足そうに頷いた。
「マイク、お前はここで待て。私とエレナが先行偵察に出る」
手を振ると、六頭の魔獣牛が整然と並んだ。
今回はすべての魔獣を連れ出している。
――机上の理屈では意味がない。実戦こそ、唯一の評価基準だ。
フィルードは大黒に跨り、エレナと共に駆け出した。
後方を、他の超凡者たちが続く。
北へ帰還する獣人の輸送隊は、この異様な一団を目にして唖然とした。
フィルードは攻撃せず、周回しながら兵数と構成を冷静に測る。
輸送隊は約三千。牛五百頭、馬車四十台以上。
確認を終えると、南へと一度退いた。
さらに数十里――同規模の輸送隊を発見。
今度は躊躇しない。
奇襲一択。
百戦錬磨の兵たちは、わずかな投槍で隊列を崩し、フィルードは六名の超凡者を率いて敵中を蹂躙する。
戦闘開始から三十分足らずで、輸送隊は完全に壊滅した。
撤退命令。
牛を引いて離脱しかけた瞬間、大黒が低く鳴いた。
「モー」
――命令は、一切不要だった。
輸送用の頑丈な牛たちは、一斉に立ち上がり、従順に彼らの後を追い始めた。


PS
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、防衛戦から一転して、フィルードが“戦場の外側”をどう支配するかに焦点を当てた回でした。
正面で勝つだけではなく、補給を断ち、恐怖を刻み、主導権を握る――
指揮官としての冷静さと、容赦のなさが少しでも伝わっていれば嬉しいです。
もし
「この動き、完全に上級指揮官の発想だ」
「戦争が“面”で描かれてきて面白くなってきた」
と感じていただけたら、ぜひ いいね・ お気に入り をお願いします!
次章フィルードはさらに一段階踏み込み、“誘ってから叩き潰す”ための罠を張ります。
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