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第227章 戦利と人口――王が与えた刃
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エドモンはフィルードの願いを聞き終え、さすがに一瞬、言葉を失った。
人口――しかも糧食付きでの下賜。
それは金銀や魔法装備とは比べ物にならないほど、扱いが難しい褒賞だった。
ここ数年、王国は連年の戦乱に晒されている。
奴隷の価格は高騰し、青壮年の農奴人口は激減。
人は今や、最も貴重な戦略資源だった。
(……上位魔薬か、魔法装備を与えるつもりでいたのだがな)
エドモンは内心でそう思った。
武勲を挙げた若き子爵に、そうした“分かりやすい報酬”を与えるつもりだったのだ。
だが、フィルードが求めたのは人口。
それも「働ける人間」と「食わせる覚悟」をセットにした要求だった。
少なすぎれば軽んじたように見える。
多すぎれば、今度は輸送と維持が重荷になる。
しばしの沈黙の後、エドモンはゆっくりと口を開いた。
「……そなたの苦境は、朕も把握しておる」
重々しい声だった。
「今や王国全体が深刻な人手不足だ。
そなたの軍に獣人が大量に混じっておることも、短期的にはともかく、長い目で見れば好ましくない」
フィルードは黙って拝聴する。
この男が“与える側”の理屈で話し始めた時、必ず裏に計算があることを彼は理解していた。
「こうしよう」
エドモンは決断した。
「王都周辺の王室直轄庄園から、青壮農奴二千名を選抜し、そなたに下賜する。
特に子の多い家庭を優先して選ぶ。生産への影響も最小限で済むだろう」
(二千……!)
フィルードの胸が跳ねた。
想定していた最低ラインを、明確に上回っている。
「連れ帰って訓練し、段階的に獣人兵を置き換えよ。
糧食についてはウェリアムに話を通しておく。可能な限り、そなたに回させよう」
フィルードは即座に深く頭を下げた。
「陛下の厚恩、誠にありがたく存じます!
臣、必ずや王国に忠義を尽くします!」
エドモンは軽く手を振った。
「当然の報いだ。そなたが功績で得たものに過ぎん」
そして、さらに言葉を続ける。
「それに、この戦が終わった後――以前の約束通り、ハロルド領内の農奴数も、ある程度は回復させてやろう。
無論、王国全体が逼迫しておる以上、完全な復旧は無理だがな」
それでも十分すぎる条件だった。
「そこから再び兵を徴募し、鍛えることもできよう。
これで、そなたの領地の人口不足はかなり緩和されるはずだ」
そう言いかけてから、エドモンの目に鋭い光が宿った。
「――それとな」
その一言で、場の空気が変わる。
「これから我々は、タロン王国領内へ本格的に侵攻する。
これは、人口を得るまたとない好機だ」
フィルードの背筋が、ぞくりと震えた。
「見逃すな。
向こうで農奴や奴隷を掳掠しても構わぬ」
はっきりとした許可だった。
「ただし、力に余ることはするな。
自領の糧食収容能力をよく見極めろ。掳掠しすぎて養えなければ、暴動の種になる」
そして、決定打。
「約束しよう。
お前が連れ帰り、養える限り――何人掳掠しようと、すべて認める」
(……これだ)
フィルードは内心で、叫びそうになるのを必死で抑えた。
直接の下賜など比ではない。
これは“将来を切り開く権利”そのものだった。
「この数年、北部の人口――特に青壮年が減りすぎておる」
フィルードは再び深く礼をした。
「陛下の洪恩、感謝に堪えません!」
エドモンは満足げに頷き、視線をウェインへと向けた。
それを合図に、ウェイン侯爵が一歩前に出る。
「陛下。今回お伺いしたもう一つの件でございますが――
今後の戦局について、ご進言がございます。主に、フィルード子爵の案でございます」
エドモンは、もはやこの流れに慣れていた。
“金の参謀”という存在を、すでに受け入れている。
「よい。申してみよ」
フィルードは、先ほどウェインに語った包囲策を、さらに噛み砕いて説明した。
地形、補給、士気、時間――すべてを踏まえた、消耗を最小限に抑える戦法。
ウェインのような軍事愛好家には新鮮な策だったが、
実戦を知るエドモンにとっては、理解可能な延長線上にある発想だった。
それでも、王は満足そうに頷く。
「朕の考えと一致しておる。
ただ、塹壕を掘るという発想はなかった。単に囲むつもりでいたからな」
エドモンは指を組み、即断した。
「障害物……塹壕か。よい。
今すぐ全軍に命じ、山を囲んで塹壕を掘らせよ。上部には簡易の遮蔽物を設置せよ」
勝利を確信した声だった。
「これで敵は完全に封じ込められる。
そのまま全員、生け捕りにしてやる。
この軍を失えば、タロン王国に何が残る?」
命令は即座に実行された。
農奴兵たちは土竜のように塹壕を掘り続け、夜になっても灯火は絶えない。
工匠たちは拒馬を量産し、外周に設置。
弓箭手は配置され、夜襲の芽を摘み取った。
五日間。
徹底的な包囲。
水も糧も尽き、士気は崩壊。
毎日のように、敵兵が山を下りて投降してきた。
六日目。
ついに敵将は白旗を掲げ、武器を投げ捨てた。
こうして三万の大軍は完全に消滅した。
だが、戦争はまだ終わらない。
エドモンは休むことなく、次の標的へと軍を進めさせるのだった。
――そして、フィルードは理解していた。
この戦いで得た最大の戦利品は、土地でも金でもない。
人。
そして、それを得る権利。
それこそが、次の戦争を決定づける刃なのだと。
人口――しかも糧食付きでの下賜。
それは金銀や魔法装備とは比べ物にならないほど、扱いが難しい褒賞だった。
ここ数年、王国は連年の戦乱に晒されている。
奴隷の価格は高騰し、青壮年の農奴人口は激減。
人は今や、最も貴重な戦略資源だった。
(……上位魔薬か、魔法装備を与えるつもりでいたのだがな)
エドモンは内心でそう思った。
武勲を挙げた若き子爵に、そうした“分かりやすい報酬”を与えるつもりだったのだ。
だが、フィルードが求めたのは人口。
それも「働ける人間」と「食わせる覚悟」をセットにした要求だった。
少なすぎれば軽んじたように見える。
多すぎれば、今度は輸送と維持が重荷になる。
しばしの沈黙の後、エドモンはゆっくりと口を開いた。
「……そなたの苦境は、朕も把握しておる」
重々しい声だった。
「今や王国全体が深刻な人手不足だ。
そなたの軍に獣人が大量に混じっておることも、短期的にはともかく、長い目で見れば好ましくない」
フィルードは黙って拝聴する。
この男が“与える側”の理屈で話し始めた時、必ず裏に計算があることを彼は理解していた。
「こうしよう」
エドモンは決断した。
「王都周辺の王室直轄庄園から、青壮農奴二千名を選抜し、そなたに下賜する。
特に子の多い家庭を優先して選ぶ。生産への影響も最小限で済むだろう」
(二千……!)
フィルードの胸が跳ねた。
想定していた最低ラインを、明確に上回っている。
「連れ帰って訓練し、段階的に獣人兵を置き換えよ。
糧食についてはウェリアムに話を通しておく。可能な限り、そなたに回させよう」
フィルードは即座に深く頭を下げた。
「陛下の厚恩、誠にありがたく存じます!
臣、必ずや王国に忠義を尽くします!」
エドモンは軽く手を振った。
「当然の報いだ。そなたが功績で得たものに過ぎん」
そして、さらに言葉を続ける。
「それに、この戦が終わった後――以前の約束通り、ハロルド領内の農奴数も、ある程度は回復させてやろう。
無論、王国全体が逼迫しておる以上、完全な復旧は無理だがな」
それでも十分すぎる条件だった。
「そこから再び兵を徴募し、鍛えることもできよう。
これで、そなたの領地の人口不足はかなり緩和されるはずだ」
そう言いかけてから、エドモンの目に鋭い光が宿った。
「――それとな」
その一言で、場の空気が変わる。
「これから我々は、タロン王国領内へ本格的に侵攻する。
これは、人口を得るまたとない好機だ」
フィルードの背筋が、ぞくりと震えた。
「見逃すな。
向こうで農奴や奴隷を掳掠しても構わぬ」
はっきりとした許可だった。
「ただし、力に余ることはするな。
自領の糧食収容能力をよく見極めろ。掳掠しすぎて養えなければ、暴動の種になる」
そして、決定打。
「約束しよう。
お前が連れ帰り、養える限り――何人掳掠しようと、すべて認める」
(……これだ)
フィルードは内心で、叫びそうになるのを必死で抑えた。
直接の下賜など比ではない。
これは“将来を切り開く権利”そのものだった。
「この数年、北部の人口――特に青壮年が減りすぎておる」
フィルードは再び深く礼をした。
「陛下の洪恩、感謝に堪えません!」
エドモンは満足げに頷き、視線をウェインへと向けた。
それを合図に、ウェイン侯爵が一歩前に出る。
「陛下。今回お伺いしたもう一つの件でございますが――
今後の戦局について、ご進言がございます。主に、フィルード子爵の案でございます」
エドモンは、もはやこの流れに慣れていた。
“金の参謀”という存在を、すでに受け入れている。
「よい。申してみよ」
フィルードは、先ほどウェインに語った包囲策を、さらに噛み砕いて説明した。
地形、補給、士気、時間――すべてを踏まえた、消耗を最小限に抑える戦法。
ウェインのような軍事愛好家には新鮮な策だったが、
実戦を知るエドモンにとっては、理解可能な延長線上にある発想だった。
それでも、王は満足そうに頷く。
「朕の考えと一致しておる。
ただ、塹壕を掘るという発想はなかった。単に囲むつもりでいたからな」
エドモンは指を組み、即断した。
「障害物……塹壕か。よい。
今すぐ全軍に命じ、山を囲んで塹壕を掘らせよ。上部には簡易の遮蔽物を設置せよ」
勝利を確信した声だった。
「これで敵は完全に封じ込められる。
そのまま全員、生け捕りにしてやる。
この軍を失えば、タロン王国に何が残る?」
命令は即座に実行された。
農奴兵たちは土竜のように塹壕を掘り続け、夜になっても灯火は絶えない。
工匠たちは拒馬を量産し、外周に設置。
弓箭手は配置され、夜襲の芽を摘み取った。
五日間。
徹底的な包囲。
水も糧も尽き、士気は崩壊。
毎日のように、敵兵が山を下りて投降してきた。
六日目。
ついに敵将は白旗を掲げ、武器を投げ捨てた。
こうして三万の大軍は完全に消滅した。
だが、戦争はまだ終わらない。
エドモンは休むことなく、次の標的へと軍を進めさせるのだった。
――そして、フィルードは理解していた。
この戦いで得た最大の戦利品は、土地でも金でもない。
人。
そして、それを得る権利。
それこそが、次の戦争を決定づける刃なのだと。
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