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第256章 耀獣城――釘を打ち、盤面を閉じる
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この地域全体を守るには、北側の山脈を“握る”しかない。
逆に言えば、握れない場所は捨てる。全部を抱え込むのは、弱者の発想だ――とフィルードは理解していた。
ローセイの現在の封地は、この一帯の三分の一にすぎない。残り二つの区域には、なお大量の豚頭族、そして少数のボア・マン部落が生活している。
(次の目標は、そこだ。二つの超大型部落を潰し、山脈を軸に堡塁を連ねる。そうすれば――“支配”は名目じゃなくなる)
フィルードの視線は、すでに地図の先へ滑っている。
通路はまだ多い。だが周囲の山脈に堅固な駐屯拠点――“釘”が打ち込まれていれば、敵が大規模に進軍するには、まずその釘を抜かねばならない。
(釘を抜くのは、痛い。時間も血も要る。だから、相手は躊躇する。躊躇した瞬間、こちらの勝ちだ)
季節がゆっくり冬へ移るにつれ、ボア・マン獣皇が約束した物資も徐々に送られてきた。
だがフィルードの予想を外したのは、物資ではなく“人口”だった。
送られてきた人数は、当初の四万を遥かに超え――なんと十万に達したのだ。
しかも四万の青壮以外の大半は少年と幼児。老幼も少なくない。
フィルードは一瞬だけ眉を動かし、すぐに理解する。
(なるほど。善意じゃない。これは後勤を焼き、ローセイに“顧慮”という鎖を巻く手だ)
青壮だけの流寇なら、焼き、殺し、略奪して動ける。だが家族が付けば話が変わる。守るものが増えれば、矛先は鈍る――それが獣皇の狙いだ。
元々の二万余りの流寇に、この移住団が加わった。ローセイ配下の青壮戦士は、ようやく六万へ届く。
そして後期、ローセイはさらに選抜をかける。大規模戦闘に適し、服従性の高いジャッカルマンを軍に編入し、そのうち二万青壮を“永久民兵”として訓練する計画だった。
(数が増えれば、質が落ちる。だから“核”を作る。核があれば、周辺は勝手に固まる)
補給面はフィルードが支えた。領地から牛群を組織し、穀物を絶え間なく運ばせる。同時にダービー城周辺でも大規模に買い集めた。
今年は獣人の劫掠がなく、ダービー城一帯は珍しい大豊作を迎えた。穀物価格は下がり続ける。
カールトンやフランクから穀物を手に入れるのに、銅フェニー一枚で黒麦一ポンドすら要らない。運賃の方が穀物より高くなるほどだ。
(戦は血で動くが、軍は穀物で動く。ならば今は、血より安い穀物を買えばいい)
幸い牛群輸送がある。継続的な輸送で、巨大化する獣人集落の胃袋を、何とか満たし続けられている。
その上で、フィルードはローセイに明確な指示を出した。
「数里ごとに、小型営寨を設置しろ」
選址はすべて山頂か高地。普段から清水と穀物をできる限り貯蔵し、高さの優位を活かして固守する。
営地端に接する地域では、戦争がない前提でアルファルファ草をできるだけ植える。営寨内の獣人は牛羊を駆り、近場で放牧する。
主城「耀獣城」から数十里の範囲には、少し大きめの寨を置く。人口は千人規模。
耀獣城は統治の中心として据え、数千名の獣人部落民を配置し、放牧と耕作を担わせる。
フィルードがこう設計した理由は単純だ。ローセイ側は叛軍出身で、いつ“清算”されるか分からない。
(だから、ひとつに集めるな。集めれば、刃を入れられた時に全部が死ぬ)
分散聚居。遊牧軍事集団に近い配置。動員能力と生存能力を同時に引き上げる――そのための構造だった。
やがて冬が来る。築城を急ぐ時期だ。
獣人は生まれつき大量の天幕を持つ。住宅問題は後回しでもいい。だが、各駐地の山頂に築く防御性木寨だけは先送りできない。
この期間、フィルードは牛群で大量の木板を運び込み、築城材料とした。
北側辺境山脈一帯は、熱気を帯びた建設現場に変わる。簡易な営寨が次々と建ち、狭い通路は塞がれていった。
(通路を閉じれば、敵は“線”で動けない。線が切れれば、軍は塊になる。塊になれば――狙いが定まる)
さらにフィルードは、各山頂の低窪地を選んで欠口を塞ぎ、人工水潭を築かせた。雪水と雨水を集めるためだ。
もちろん死水には雑質が混じる。そこで簡易浄水装置も作らせる。細砂、木炭、破布、屑物――層を重ねる。
完璧じゃない。だが、飲んで腹を壊さない程度なら十分だ。戦場の水は“理想”より“現実”が勝つ。
こうして各木寨は堅固な堡塁拠点となった。穀物さえあれば、一ヶ月ほど守るのは難しくない。
敵が代償を顧みず釘を抜きに来ない限り――そして、その釘を抜くのが容易でない限り。
寨を守る三百名の獣人のうち、百名の戦士を動員すれば防御は成立する。
普段からフィルードは、暇があれば石や転がす木など重物を山へ運べと命じた。緊急時の守城用だ。
(石は裏切らない。木も裏切らない。裏切るのは、飢えた兵と、甘い指揮官だけだ)
この小型定住点は厄介だった。生産は分散でき、防衛は集約でき、収益を生み、強い防御力を持つ。
つまり――これらの寨が完成した時点で、フィルードの北部浸透計画は“第一歩”を終える。
冬が過ぎ、新しく移住してきた十万獣人は、基本的に安置された。
ただし寒さのため凍死者は数千人に上る。主に老幼だった。
(当然だ。だが、ここで崩れれば“国”は作れない。痛みは飲み込むしかない)
それでも短期間で十万人を安置できたのは、フィルードの効率的な管理システムがあったからだ。
傭兵団設立当初から、彼はモジュール化とプロセス化を追求していた。組織を精密機械のように育て、自分の意志が最高効率で実行されるようにする。
そうでなければ――こんな短時間で、これほど大量の人口を収めるのは不可能だった。
フィルードは北部辺境山脈の要所に沿って、合計二百二十の獣人集落を設置した。
二十が千人規模の中型集落、二百が三百人規模の小型集落。
小型集落には約五十名の青壮がいる。加えて五十~百名ほどの獣人少年。
少し訓練すれば、この少年たちは城堡の防御工事を利用して、精鋭に劣らぬ戦闘力を発揮できる。
(少年は“兵”じゃない。だが“壁”の上に立たせれば、兵になる)
中型集落では通常三百名ほどの青壮戦士を抱え、少年も三百名ほど。
選址は考究され、地域内で地理的優位が最も明らかな場所に置かれる。周囲の十の小型木寨を兼顧できる配置だ。
フィルードはこれを人間側の“町”に似た定義とし、平和時には貿易点とするつもりだった。
さらには獣人の中で貨幣改革すら考えている。等価物は肉干が最適――硬通貨であり、人間世界でも通用する。
(貨幣は信用だ。信用は秩序だ。秩序が生まれれば、刃を抜かずに支配できる)
この集落ネットワークの核心が「耀獣城」だ。寨は東西両側に沿って展開し、連なって数百里に及ぶ。
そのうち一部は協議により獣皇がローセイに分配した領地で、残りは他の部落に属する。
フィルードはその区分を、いまは気にしない。
紙の線より、地面に打った釘の方が強い。
(まずは盤面を閉じる。領地の境界線は、相手が“抜けない釘”で決まる――そして、釘はもう打った)
耀獣城は、ただの名ではない。
ここから先は、“国”の形を取って進む。
逆に言えば、握れない場所は捨てる。全部を抱え込むのは、弱者の発想だ――とフィルードは理解していた。
ローセイの現在の封地は、この一帯の三分の一にすぎない。残り二つの区域には、なお大量の豚頭族、そして少数のボア・マン部落が生活している。
(次の目標は、そこだ。二つの超大型部落を潰し、山脈を軸に堡塁を連ねる。そうすれば――“支配”は名目じゃなくなる)
フィルードの視線は、すでに地図の先へ滑っている。
通路はまだ多い。だが周囲の山脈に堅固な駐屯拠点――“釘”が打ち込まれていれば、敵が大規模に進軍するには、まずその釘を抜かねばならない。
(釘を抜くのは、痛い。時間も血も要る。だから、相手は躊躇する。躊躇した瞬間、こちらの勝ちだ)
季節がゆっくり冬へ移るにつれ、ボア・マン獣皇が約束した物資も徐々に送られてきた。
だがフィルードの予想を外したのは、物資ではなく“人口”だった。
送られてきた人数は、当初の四万を遥かに超え――なんと十万に達したのだ。
しかも四万の青壮以外の大半は少年と幼児。老幼も少なくない。
フィルードは一瞬だけ眉を動かし、すぐに理解する。
(なるほど。善意じゃない。これは後勤を焼き、ローセイに“顧慮”という鎖を巻く手だ)
青壮だけの流寇なら、焼き、殺し、略奪して動ける。だが家族が付けば話が変わる。守るものが増えれば、矛先は鈍る――それが獣皇の狙いだ。
元々の二万余りの流寇に、この移住団が加わった。ローセイ配下の青壮戦士は、ようやく六万へ届く。
そして後期、ローセイはさらに選抜をかける。大規模戦闘に適し、服従性の高いジャッカルマンを軍に編入し、そのうち二万青壮を“永久民兵”として訓練する計画だった。
(数が増えれば、質が落ちる。だから“核”を作る。核があれば、周辺は勝手に固まる)
補給面はフィルードが支えた。領地から牛群を組織し、穀物を絶え間なく運ばせる。同時にダービー城周辺でも大規模に買い集めた。
今年は獣人の劫掠がなく、ダービー城一帯は珍しい大豊作を迎えた。穀物価格は下がり続ける。
カールトンやフランクから穀物を手に入れるのに、銅フェニー一枚で黒麦一ポンドすら要らない。運賃の方が穀物より高くなるほどだ。
(戦は血で動くが、軍は穀物で動く。ならば今は、血より安い穀物を買えばいい)
幸い牛群輸送がある。継続的な輸送で、巨大化する獣人集落の胃袋を、何とか満たし続けられている。
その上で、フィルードはローセイに明確な指示を出した。
「数里ごとに、小型営寨を設置しろ」
選址はすべて山頂か高地。普段から清水と穀物をできる限り貯蔵し、高さの優位を活かして固守する。
営地端に接する地域では、戦争がない前提でアルファルファ草をできるだけ植える。営寨内の獣人は牛羊を駆り、近場で放牧する。
主城「耀獣城」から数十里の範囲には、少し大きめの寨を置く。人口は千人規模。
耀獣城は統治の中心として据え、数千名の獣人部落民を配置し、放牧と耕作を担わせる。
フィルードがこう設計した理由は単純だ。ローセイ側は叛軍出身で、いつ“清算”されるか分からない。
(だから、ひとつに集めるな。集めれば、刃を入れられた時に全部が死ぬ)
分散聚居。遊牧軍事集団に近い配置。動員能力と生存能力を同時に引き上げる――そのための構造だった。
やがて冬が来る。築城を急ぐ時期だ。
獣人は生まれつき大量の天幕を持つ。住宅問題は後回しでもいい。だが、各駐地の山頂に築く防御性木寨だけは先送りできない。
この期間、フィルードは牛群で大量の木板を運び込み、築城材料とした。
北側辺境山脈一帯は、熱気を帯びた建設現場に変わる。簡易な営寨が次々と建ち、狭い通路は塞がれていった。
(通路を閉じれば、敵は“線”で動けない。線が切れれば、軍は塊になる。塊になれば――狙いが定まる)
さらにフィルードは、各山頂の低窪地を選んで欠口を塞ぎ、人工水潭を築かせた。雪水と雨水を集めるためだ。
もちろん死水には雑質が混じる。そこで簡易浄水装置も作らせる。細砂、木炭、破布、屑物――層を重ねる。
完璧じゃない。だが、飲んで腹を壊さない程度なら十分だ。戦場の水は“理想”より“現実”が勝つ。
こうして各木寨は堅固な堡塁拠点となった。穀物さえあれば、一ヶ月ほど守るのは難しくない。
敵が代償を顧みず釘を抜きに来ない限り――そして、その釘を抜くのが容易でない限り。
寨を守る三百名の獣人のうち、百名の戦士を動員すれば防御は成立する。
普段からフィルードは、暇があれば石や転がす木など重物を山へ運べと命じた。緊急時の守城用だ。
(石は裏切らない。木も裏切らない。裏切るのは、飢えた兵と、甘い指揮官だけだ)
この小型定住点は厄介だった。生産は分散でき、防衛は集約でき、収益を生み、強い防御力を持つ。
つまり――これらの寨が完成した時点で、フィルードの北部浸透計画は“第一歩”を終える。
冬が過ぎ、新しく移住してきた十万獣人は、基本的に安置された。
ただし寒さのため凍死者は数千人に上る。主に老幼だった。
(当然だ。だが、ここで崩れれば“国”は作れない。痛みは飲み込むしかない)
それでも短期間で十万人を安置できたのは、フィルードの効率的な管理システムがあったからだ。
傭兵団設立当初から、彼はモジュール化とプロセス化を追求していた。組織を精密機械のように育て、自分の意志が最高効率で実行されるようにする。
そうでなければ――こんな短時間で、これほど大量の人口を収めるのは不可能だった。
フィルードは北部辺境山脈の要所に沿って、合計二百二十の獣人集落を設置した。
二十が千人規模の中型集落、二百が三百人規模の小型集落。
小型集落には約五十名の青壮がいる。加えて五十~百名ほどの獣人少年。
少し訓練すれば、この少年たちは城堡の防御工事を利用して、精鋭に劣らぬ戦闘力を発揮できる。
(少年は“兵”じゃない。だが“壁”の上に立たせれば、兵になる)
中型集落では通常三百名ほどの青壮戦士を抱え、少年も三百名ほど。
選址は考究され、地域内で地理的優位が最も明らかな場所に置かれる。周囲の十の小型木寨を兼顧できる配置だ。
フィルードはこれを人間側の“町”に似た定義とし、平和時には貿易点とするつもりだった。
さらには獣人の中で貨幣改革すら考えている。等価物は肉干が最適――硬通貨であり、人間世界でも通用する。
(貨幣は信用だ。信用は秩序だ。秩序が生まれれば、刃を抜かずに支配できる)
この集落ネットワークの核心が「耀獣城」だ。寨は東西両側に沿って展開し、連なって数百里に及ぶ。
そのうち一部は協議により獣皇がローセイに分配した領地で、残りは他の部落に属する。
フィルードはその区分を、いまは気にしない。
紙の線より、地面に打った釘の方が強い。
(まずは盤面を閉じる。領地の境界線は、相手が“抜けない釘”で決まる――そして、釘はもう打った)
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