おいでよ血塗女子高等学校~偏差値12なのでヤンキーしかいない女子校に入学したけど、なんだかんだ幸せ!~

羽韮ソルト

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なのちゃんズ、始動!

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 ある日の休み時間、澪が険しい顔で唐突に切り出した。
「なのちゃんはこのままだと……卒業できないかもしれません」
「えっ!? もぐもぐもぐ……えっ!?」
 衝撃に身をのけぞらせつつも、手にしたホットドッグを完食するなの。他人事のような振る舞いだが、相応のショックは受けているらしく。

「な、なんで!? なの、頑張ってるよ? これからも頑張るから応援してほしい感じだよ? なのになんで~?」
「普通に成績じゃねーの? お前お世辞にも勉強できるとは言えねえだろ」
「うぐっ」 
 壊涙の的確な指摘がなのに突き刺さる! 偏差値十二のなのは、どこに出しても恥ずかしい最上級のおバカなのだ!

「いいえ、学業は関係ありません」
 澪は即座に否定した。なの最大の弱点である学業は、卒業の可否に関係ないという。
「じゃあ何で? なの悪いことした?」
「いえ……むしろ、悪い事をできないというのが問題です」
『???』
 謎かけめいた物言いに、壊涙となのが顔を見合わせる。悪いことなど、しないに越したことはないだろうに。
 このストーカー優等生、とうとう気が狂ったのか? 元々狂っていた気もするが。

 だが今回ばかりは、澪の言は全て正しい。
「このちま高では、進級も卒業も……学業成績で決まりません」
「は? いやいやそんな学校あるかよ。じゃああれか? 腕っぷしの強さで決めるとかか?」
 自分でもバカなことを言ったと思い、苦笑する壊涙。しかし澪の反応は、予想と違った。
 ただ静かに、首肯したのだ。

「その通りです。卒業できるかどうかは、喧嘩の強さによって決まります」
「……は?」
「不良としてどれだけの実績を残せたか。喧嘩の強さや度胸が据わっているか、どれだけ非道な行いをできるかなどか評価基準になっているようです」
「いやいやいや、何言ってんだお前!?」

 壊涙は腰を跳ね上げて立ち上がった。

「教育機関だぞ!? 不良養成所じゃねえんだからそんなのありえるわけねえだろ! 治外法権じゃあるまいし!」
「治外法権みたいですよ。この学校に日本国憲法は適用されていません。極論を言えば、死人が出ても内々に処理される可能性すらあります」
「うっそだろ」
「マジです」
「バカな……」
「もぐもぐもぐもぐ」

 壊涙はショッキングな情報に頭を抱えた。なのは黙々と、特大ドネルケバブを頬張っている。ちなみに自家製だ。

「というか何でそんなことも知らないんですか貴女は。自分の通う学校の情報ですよ? 低能ですか、脳無しなんですか」
「うぐっ」
「ぅぅ……」
「あっ、なのちゃんには言ってないですよ!? 前言撤回、普通学校のことなんて調べませんよねあははは」

 仇敵に投げつけた言葉のボールが、なのにも当たってしまった。顔の前で手を振り、必死に弁明する澪からはクールビューティの面影を一切感じない。
 娘に嫌われるのが嫌で叱ることができない父親のようだ。情けないこと限り無し。

 取り繕うように咳払いをして、澪は話の続きを切り出した。
「とにかく、このままではなのちゃんの卒業は危ういです。というか不可能です。ですので、僭越ながら一つ提案をさせていただきます」
「なーに?」
「いいですか、なのちゃん」

 澪は指を一本立てて、言い聞かせるように告げた。

「私たちで不良集団……『チーム』を結成して、そのリーダーに貴女がなるんです」

 チームとは、複数人の不良で構成されたグループ。暴走族やカラーギャング、チーマーなどとほぼ同義だ。
 ちま高において、チームは部活動のような扱いである。すなわち、優秀な成績を残せば、内申点に加算されるのだ。

「なのが、リーダー?」
「そうです。チームの実績はリーダーの実績になります。つまり、私があくせく働けば、その分なのちゃんの成績もうなぎ上り! 卒業など余裕でさせてみせましょう! ……例えどんな犠牲を払おうとも。誰を血祭りにあげようと」
「やったー! うなぎ! なのうなぎ大好き!」
「最後の不穏な言葉に目を向けろよ」

 うなぎ上りというワードを存じ上げないなのは、うなぎが食べられるキャンペーンだと勘違いした模様。

「うなぎ食べたいから、チーム組む! リーダーやるー!」
「ふふ、決まりですね。では私たち二人で……」
「おいちょっと待て」
「何ですか山猿……じゃなかった、類人猿さん」
「言い直してそれかよ!? じゃなくて、アタシは? 何サラッと省いてくれてるんだよ」

 胸倉を掴みかねない勢いで詰め寄る壊涙にも、澪はまるで動じない。
 当然のことを語るように、平坦な声音で答えた。

「どうして紅蓮塚さんを誘う必要が? 親しい友がいない故に挨拶をする程度のグループに入れてもらって気まずい修学旅行を過ごす学生ですか貴女は。入りたいんですか? 入れてほしいんですか? 私となのちゃん、親友同士の仲良しグループに。じゃあ土下座してください。土下座しても仲間に入れてあげませんけどね」
「てめぇ……っ」

 淡々と紡がれた散々な言葉に、壊涙の怒りは沸点直前。ビキビキと血管が怒張する音が聞こえてきた時。

「もぐ……ごくんっ。なの、壊涙ちゃんと澪ちゃんと一緒に、チーム組みたいなー。三人は仲良しさん、だもんね!」
 総長、なののありがたいお言葉が降ってきた。
 その天啓を耳に入れた二人の竜虎は。

「そうですね、私たちは仲良しですもんね!」
「ああ、そうだな時時雨! アタシらマブだもんな!」
「おえ……ええ!」
 肩を組んで、仲睦まじさをアピールしだした。口にもない言葉を吐いているせいか、空嘔吐きしているが。
 
「よーし、それじゃあチーム結成だね!」
「申請にはチーム名が必要ですが、どうします?」
「んー……えへへ、前からね? 何かで使おうと思ってたとっておきがあるんだ~」
「お、聞かせろよ」

 なのは椅子の上に立ち、薄い胸をこれでもかと張った。自信満々に語られた、チーム名は!

「チーム名は~……『なのちゃんズ』!!」
「却下だ!!」
「最高のセンスです!!」

 クソダサ過ぎて、賛否両論を巻き起こした。なのちゃんズ……不良集団としては、異分子過ぎる名称。

 
 澪はなのの意見を否定することがないため、唯一のストッパーである壊涙が断固として反対し。
 しっかりとしたチーム名を決めるために、三人は放課後、ハンバーガーショップに訪れた。
 澪となのが隣り合わせ、向かいに壊涙が座る形だ。

「というわけで、だ。チーム名と、活動方針。諸々ひっくるめて決めちまおうぜ」
「おー!」
「貴女が仕切らないでくれますか」
「ハンバーガーぶつけるぞてめえ」

 澪はすっかり、壊涙に対して牙を隠さない。なのの前だというのに、猫を被らなく大丈夫なのだろうか?
 なのは鈍感なため、直接的な暴力と度を超えた暴言を吐かない限り反応することはない。付き合いの長い澪は、そのことを熟知しているのだ。

「それで? なのちゃんの案を否定したからには、さぞ素晴らしいアイデアをお持ちなんでしょうね?」
「当たり前だ。アタシを誰だと思ってやがる」
「山猿」
「殺すぞ」
「ピピー! 殺すとか言っちゃダメ!」

 このように、殺すなどの暴言はきちんと諫める。ザル審判のなのを掻い潜るために、ラインの見極めが必要だ。
 なのに注意された壊涙を、澪がニヤニヤと嘲笑っている。
 思わず手が出そうになる壊涙だが、なののつぶらな瞳を見つめることでギリギリ踏みとどまった。

「ぐっ……まあいい。チーム名の案をいくつか考えてきた。口頭じゃ分かりづらいだろうから、フリップで説明するぞ。まずは……これだ!」
 鞄からフリップを取り出し、壊涙は自信満々に見せつけた!

「≪腐乱鐘呪フランベルジュ≫。これは炎を模した剣の事で」
「さて次は私ですね。私は……」
「シカトすんなッ!!」

 憤慨する壊涙に対し、呆れたように溜息を吐く澪。なのはこの時、本日六個目のハンバーガーを頬張っていた。

「触れないであげたのは優しさですよ? 貴女、自分がどれだけ恥ずかしい事言ってるか自覚してないんですか? 嬉々としてキラキラネームを付けるDQN親ですか。なんですか《腐乱鐘呪》って。ラノベ世代特有の意味不明なフリガナに鳥肌が止まりませんよ。不良で山猿で中二病とかほんと救いようがな――」
「言い過ぎだろうがぁぁッ!!」

 机をダンッ、と叩く壊涙。その顔は血のように赤く、僅かに涙ぐんでいた。

「言い過ぎ、だろうが……」
 満場一致で褒め称えられると思っていたのか、壊涙はしょんぼりと肩を落とした。意外とメンタルが脆いのだろうか、声が震えている。

「ごくんっ……なのはいいと思ったよ! なのちゃんズには勝てないけど!」
「半端な慰めサンキュ……つか塩と油だらけの手で触んな」
 頬に触れたなのの手は、ポテトとハンバーガーの塩分&油分でべとついていた。如何になのラブな壊涙と言えども、これは嬉しくない。
 澪なら嬉々として舐めているだろうが。

 壊涙は心が折れたのか、それ以上発表する気はないようだ。
「じゃあ次は澪ちゃんだね! 聞かせて聞かせて!」
「はい。では僭越ながら……」
 なのに屈託なく微笑みかけて、澪は大きく手を広げた。まるで、天使が羽を広げているかのよう。
 そんな彼女の口から紡がれた、尊い名前は――

「《なのちゃんイズ大天使マイエンジェルフォーリンラブフォーエバーラブ一生推せるなのちゃんしか勝たんなのちゃんはぁはぁなのちゃんチュッチュなのちゃんは私の嫁なのちゃんと私の愛の巣》です!」
「なあ小和水、ナゲット一個くれよ」
「うん! バーベキューソースがオススメだよ!」
「私の言葉が届いていない!? というかなのちゃんまで!?」

 澪の言葉は早口過ぎて、二人には聞き取れなかったようだ。悍ましい内容なので、聞こえなかった二人はラッキーである。

「うーん、決まらないね」
「そうだな。先に活動方針でも決めるか」
「なのちゃん、何かあります?」
「んー、なのちゃんズの活動方針は……」

 さらっと暫定チーム名をなのちゃんズにしつつ、
「人助け! 困ってる人を助けて、笑顔にする!」
「小学生の学級目標か」
「素晴らしい……太陽はここにいた……」

 滂沱の涙を流す狂信者はさておき、人助け。その目標自体には、壊涙も別段不服はない。だが。

「不良集団の目標がそれってどうなんだ? つか人助けの機会なんてそうそうねーだろ」
「んー、いいと思ったんだけどなー」
 不良高校の卒業に必要な名声は、良い評判でもいいのだろうか。というそもそもの疑問と、人助けというレアイベントを手段にすることの難しさ。
 二つの問題点を指摘した壊涙だったが――

 パリィィィィイイイン!!

『!?』 
 突如、破砕音が店内に木霊した。音の方向に顔を向けるより先に、
「動くな!!」
 厳めしい男の声がした。

「きゃぁぁあああ!」
「銃を、銃を持ってる!!」
「逃げろ、早く逃げ――」

 総勢五人、目出し帽を被った男たち。その手に握られているのは、明らかに銃刀法違反な代物。
 クマをも殺すであろう、散弾銃だ。
 
 ドォォォオオン!!

 その銃口から放たれた弾丸が、観客の逃げる先。店舗入り口に叩き込まれる。逃げ場はない、そう脅しつけるような射撃に、パニックを起こしていた観客たちが黙り込む。
 口を開けば、自分に銃口が向くかもしれない。そんな危うい緊張感が店内を支配した。

「逃げようとした奴は、容赦なくぶっ殺す! 死にたくなかったら、大人しくしろ!」
 
 まさかまさかの、本物の強盗襲来。

 ――人助けの話をしてたから、引き寄せちまったのか?

 そんなありえない考えが、壊涙の脳裏に去来した。
 しかしこれは、人助けなどと言っていられる状況ではない。
 百戦錬磨の壊涙と言えども、銃を相手にしたことはない。
 撃たれれば死んでしまう。頑丈な壊涙は生き延びるかもしれないが、周りの客は。澪や……なのは、死んでしまうだろう。
 
 そう考えると、迂闊に手出しはできなかった。
 澪も似たような考えなのだろう。こめかみに冷や汗が伝っている。
 ついていなかったと諦めて、助けがくるまで大人しくしよう。全員が恐怖に呑まれつつもそんな決断を下し始めた中。

 一人だけ、強盗たちに向かって歩く影が。小さな影があった。
『!!?』
 周囲の客も、強盗も目を剥いた。しかし、一番大きく目を見開いたのは、澪と壊涙の二人だった。

「小和水!?」
「なのちゃん!?」

 そう、なのがつかつかと無防備に、強盗たちへと近づいていくのだ。バカななのとはいえ、銃くらい知っているはずだ。

「な、何してやがるガキ! 殺されたいのか!? おもちゃじゃねえんだぞ、見せしめにぶっ殺して……」
「こらっ!!!」
「……!?」
 
 銃口を向けられているというのに、なんとなのは……怒声を発した。澪ですら聞いたことのない、本気の怒りに満ちた声。
 強盗たちは一様にたじろいだ。なのの剣幕に気圧されたからではない。
 この状況で自分たちの怒りを買うような真似をする少女が、異形の存在に思えてならなかったのだ。

「殺すとか、ぶっ殺すとか……ダメだよ! そういうこと言ったら、悪い人になっちゃう! それにこんな……銃なんて、持っちゃダメだよ。怪我じゃすまないから……せめてけん玉にして?」
「けん玉……?」

 感情論と独自論を展開するなのに、誰も付いていけない。だが、このままでは場の主導権が握られてると考えたのだろう。
 リーダー格らしき、長身の男が前に出て。
「悪いが……俺たちは悪人なんだ。女だろうと、ガキだろうと! お構いなしにぶん殴れるんだよぉ!!」

 男の太くたくましい腕が、しなるように揺らめいて。
「うっ!!」
『!!』
 次の瞬間、なのの小躯は一メートル程吹き飛んでいた。引きずるように地面を転がり、近くの椅子に背中をぶつけた。
「うぅ、ぅ……」
 ダメージが大きいのか、なのはぷるぷると震えたまま立てそうもない。

 そんな有様のなのを見ても、主犯格の男は溜飲を下げないようで。一歩一歩近づいてくる。
「俺は甲高い声のチビが、この世で一番嫌いなんだよ!!」
 彼の右足が、なのの腹部を痛打すべく後ろに振り上げられた。

 そのモーションを見て。静止していた二人の時間が動き出した。
 無謀にも、正義を振りかざし返り討ちになったなの。
 無策ななのが痛い目を見たのは、自業自得かもしれない。
 だが。

 想い人を傷つけられて、そんな評論家気取りの結論を下せるほど、壊涙も澪も大人ではなかった。
 床を砕かんばかりの勢いで、二人は同時に駆け出した。

 澪は忍者のような動きで、椅子を踏み台にし、テーブルの上を駆け。
 今まさになのを蹴りつけようとしている主犯格の男目掛けて身を躍らせる。

 対する壊涙は、スマートさの欠片もない猪突猛進。邪魔な椅子やテーブルを避けようともせず吹き飛ばし、最短距離で男を迫る。

 男の足がなのを捉えるよりも早く、二人は辿り着いた。
 憎き敵の元へと。

 ここで会ったが百年目、そんな因縁を思わせる怒気を滲ませて二人は吠えた。

「アアアアアアア!!」
「はぁぁああああ!!」

 そして。
「げぶっ!!」
 壊涙の喧嘩キックが腹部を。澪の上段蹴りがこめかみを襲撃し、男は首をあらぬ方向に曲げながら前方へ吹き飛んだ。五メートル以上吹き飛び、仲間の強盗の横を通り抜け。
 店外の歩道に背中から落ちたきり、男は動かなくなった。泡を吹いて気絶しているようだ。

「ッ……てめえら!」
「ハチの巣にしてやる!」

 ただの女子高生ではない。今しがたの攻防を見て、警戒レベルを最大級に引き上げた強盗達は、澪と壊涙目掛けて銃を向けて。
 躊躇うことなく、引き金を引いた。

 結論から言うと、放たれた弾丸が二人を傷つけることはなかった。

 まず澪は、引き金が絞られる寸前、僅かに身を動かし、最小限の労力で銃弾を回避した。
 そしてそのまま男たちに躍りかかり、無刀のまま。
 掌底で一人の顎を撃ちぬき、回し蹴りでもう一人の延髄を刈り取った。
 その流麗な動作は、美しきヴァルキリーのよう。

 続く壊涙の方は、銃弾を躱すというアクションを取らなかった。
 異次元の動体視力で自分に当たる銃弾を選別し、
「ラァッ!!」
 裏拳で薙ぎ払い、膝蹴りで吹き飛ばし、顔面に迫った弾に至っては。

「はぐっ……むぐっ……ぺっ」
 上下の歯で難なく受け止めてしまった。ありえない。人間の身体能力で、銃弾を寄せ付けないなどありえない。

 だが、不可能を可能にする理不尽な暴力。それが――
「てめえらには拳骨で十分だな」
「ぐぇっ」
「うぐぁ」
 天下無双のならず者。紅蓮童子の異名を持つ、最強の不良……紅蓮塚壊涙だ。

 あっという間に五人を制圧した二人は、手を払うと、何事もなかったかのように駆け出して、なのを助け起こした。

「おい、大丈夫か!」
「なのちゃん、ごめんなさい……私が付いていながら」
 
 なのは口元を少し切ってしまったようだが、他に目立った外傷はないようだ。安心させるようにニッと笑い、ピースサインを浮かべてみせた。

「大丈夫だよ。正義は必ず勝つ、だもん……二人なら何とかしてくれるって、信じてた」
「小和水……」
「なのちゃん……傷物にしてしまった責任取りますね。ただちに結婚しましょう」
「てめぇ! 抜け駆けはやめ……」
「抜け駆けってなーに?」
「はふぇっ!? い、いや何でもねー。チョコソースの特別なかけ方だ」
「ぬけ掛けってこと!? ぬけ! 美味しそう~!」

 強盗に襲われたとは思えない程呑気なやり取りに、周囲の客は茫然としている。だがそれでも、好奇心に負けたのか、一人の女性が三人に近づいて問いかけた。

「あの……貴女たちは、一体……」
 何者か、と問われても、自分たちはただの高校生だ。返答に窮する澪と壊涙。だがただ一人、信じられないバカだけは意気揚々と答えた。

「なのちゃんズ! チーム、なのちゃんズです!」
「なのちゃんズ……ありがとうございました、なのちゃんズ!」

 頭を下げる女性に続き、他の客たちからも口々になのちゃんズコールが巻き起こった。
 
「ええ……」

 珍妙な響きに苦い顔をしてしまう壊涙だが、この場限りの事だろうと甘んじて受け止めた。
 ここで名乗ったところで、自分たちのチーム名が確定することにはならないだろうと思っていた。




 ……甘かった。翌日、学校へ着くなり。
「紅蓮塚さん、マジぱねーっす!」
「時時雨さん、やばいっすね!」
「一年生から最強チームがでるかもしれねーっすね! 期待してますよ……」

『なのちゃんズ!!』

 昨日の騒動が、クラスメイトに知れ渡っていた。
「な、は……?」
 何が起きたか分からない壊涙に、澪が話しかけてきた。
「昨日のお客様の中に、新聞記者がいたそうで……私たちの事が記事になったそうですよ。《なのちゃんズ》のチーム名で」
「な……マジかぁ……!?」
「マジです」
「もぐもぐもぐもぐ」

 膝から崩れ、項垂れる壊涙。その背中を踏みつけてやろうかと企む澪。
 そして今日は『スイーツの日』との事で、持参したカヌレとマカロンでプチパーティをしているなの。

 この三人で構成される不良チームの名は《なのちゃんズ》。
 
 この間抜けな響きのグループが、後にちま高全体を揺るがす台風の目になることを、今はまだ誰も知らない――
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