自作小説の悪役令嬢に転生したのですが、どうしたらいいのでしょうか?

藍沢真啓/庚あき

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新しい仲間と甘くてしょっぱい感情

お見舞いにプリンは定番です

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「え? クリス殿下が風邪?」
「どうも一昨日川に落ちたのが原因だそうで」

 そろそろ秋も終盤に差し掛かり、冬支度をしなくてはとメイド達が少し慌ただしいこの頃。
 一昨日うちの森に落ちていた栗を拾って、保存用の甘露煮を作っていた私に、クリス殿下の実弟──カールフェルド殿下が、眉根を困ったように歪ませて言います。
 というか、何故高貴な方が厨房にいらっしゃるのかを問いたいものです。何故ここに通した、ガイナスよ。

「派手に落ちましたからねぇ」
「あれは近年まれに見る溺れっぷりだったね」

 溜息を吐きながら話す私の横では、作業を見学していたリオネル兄様が意地の悪い笑みを浮かべ同意します。
 正しく言いましょう。兄様は、つまみ食い目当てでいるんですよ!
 口が裂けても言いませんけどね!

「それはそれとして、クリス殿下のご様子は?」

 このまま放っておくとディスり大会が始まりそうなので、元大人な私が方向転換の為に口を開きますよ。はいはい、皆もちゃんと付いてきてね。

「王宮医師もただの風邪と言ってたから、さほど大きな問題にはなってないが、ただ」
「「ただ?」」
「アデイラのお菓子が食べたいって、ずっとうわ言言ってたな……」
「「……」」

 多分、ちらりと視線を交わした私と兄様は同じ気持ちだと、目で語ってる。

(王子が餌付けされてんな!)

「はぁ……、分かりました。普段からクリス殿下にはお世話になってますし、お見舞いをこれから作ってお渡ししますので、それまで兄様と一緒にサロンでお待ちくださいませ」

 リオネル兄様に応対を願い出ると、兄様は快く頷いてくれた。本当に良い兄様です。最近は次期当主としても、将来クリス殿下を支えるための近侍の勉強も凄く頑張ってて、お茶会とかでもよく話題に登ったりするんですよね。

 あ、実は私、十歳になったあたりから、お母様同伴でお茶会とかにも参加するようになりました。
 とはいえ、訪問するお家はお母様厳選によるものなので、ある意味お母様の付随的な感じなんですけどね。
 でも、そのおかげで、何人かの令嬢たちと交流する事ができました。みんなちょっと癖があるけど、いい子ばかりなんですよ!
 ……そのあたりはいずれ説明できればと思いつつ、まずはクリス殿下のお見舞いを作らなくてはね。



 「やっぱり風邪の時はのどごしがよくて、消化にいいのがマストだよね」

 氷菓もいいけど、流石に移動途中で溶けちゃうからね。ここはゼリーかプリンなんだけど……。

「ジョシュアさん。ゼラチンってまだ残ってます?」
「ゼラチンですか? ……ああ、そういえば、この間テリーヌを作る時に使い切ったかと」
「そういえば、先日そんな話をしてましたね」

 実はこの世界にはゼラチンが存在しない。というか、鶏や牛の骨を利用する考えがない。
 とはいえ、夏にゼリーとか食べたかった私は、ジョシュアさんと試行錯誤して牛の骨を煮出しては漉してを繰り返し、ゼラチンもどきを作ったのである。
 その甲斐もあって、我が家には新しい食感をもたらす料理が幾つか出されるようになったのです。

「ないものは仕方ないですよね。ちなみに、卵はありますか? あと、牛乳とバニラの枝も」
「それなら、すぐに準備できますよ」

 ジョシュアさんは下働きをしているカイン君を呼び寄せ、私がお願いした品々を持ってくるように頼んでいた。カイン君はコクリと頷くと、迷うことなく貯蔵庫に駆けていき、程なくして卵と牛乳、それからジョシュアさんが用意してくれたバニラの枝──バニラビーンズが、調理台の上に並ぶ。

「お嬢様、一体何を作られるのですか?」

 ミゼアが興味津々を瞳に浮かべ覗き込んでくる。

「プリン……ええっと、パンプティングのパンがないやつかな。入れても美味しいんだけど、体調を崩した人にはちょっと重いだろうし」
「プリンというのは初めて耳にしましたが、そちらも美味しそうですよね」
「美味しいわよ。沢山作るから、夕食のデザートにしましょう」

 私の言葉に、ミゼアとレイがきゃあと弾んだ声をあげる。甘いものは心の栄養ですからね!

 さて、と室内着にしているモスグリーンのワンピースの袖をまくり、プリン本体作成の前に、お鍋にお砂糖とお水を少量入れて火にかける。
 しばらく揺すりながら様子を見てる内に白かったお砂糖が焦げて色付きだす。

「ジョシュアさん、お湯を用意して。ミゼアとレイは危ないから離れてくれる?」

 一瞬でも目を離すと真っ黒の意味がないものになってしまう為、鍋に視線を注いだまま注意を促すと、二人はずささと距離を作るのが気配で分かる。
 いやぁ、そんなに恐怖心丸出しで逃げなくても……。

「お嬢様、お湯です」
「ありがとう。ジョシュアさんも少し離れててね」

 通常のカラメルソースよりも少し淡い色で火からおろすと、ふきんの上に鍋を置き、一気にお湯を鍋に注ぐ。
 高温の砂糖とお湯が反応して、ジュワワワと跳ねる音が響き、厨房の皆さんがギョッとした顔になる。
 うん、驚くの分かる。昔、長い入院生活で暇だった時に、看護師の皆さんと給湯室でプリンを作ったのがよみがえる。あの時もカラメルソースの色止めの時は、みんなでキャーキャー騒いじゃって、看護師長さんにめっちゃ怒られたもん。
 アデイラになって初めてプリンを作るけど、感覚って意外と身についてるもんだね。火からおろすタイミングを見て少し薄めにしたけど、余熱のおかげか理想通りの色になって満足だ。

「少しトロミをつけるから、再度火にかけて、と」

 ちゃんとした二層にしたいので、今回は煮詰める感じで。
 木べらで掬うと、とろっとソースが流れるのを確認し、冷ます事にした。

 これが出来たら、後は簡単。卵を白身を切るようにかき混ぜ、お砂糖と牛乳を混ぜたのちに、ザルで漉して、底にカラメルソースを敷いた器(なんとこちらの世界の硝子は全て耐熱性なのです)にそっと注いでから、蒸し器で蒸す。
 細く削った木の枝を真ん中に刺して濁った液が出なかったら完成!

「できた~! これを冷ましてから渡すとして、せっかくお使いで来てくれたカールフェルド殿下にもお土産渡そうっと」

 そう言って、レイにガイナスを呼び出してもらうことにした。




「なんですか。アデイラお嬢様。私、これでも忙しいのですよ」
「知ってます。わかってます。来てくれてありがとう。でも、これをカールフェルド殿下のお茶請けに出してもらおうと思って」

 自室に戻った私に、初っ端からイヤミの弾丸を投げつけてくるガイナスに、同じように応酬した私は、ガイナスへ蝋紙に包んだ物を手渡す。

「これは?」

 不透明な蝋紙に包まれてるからか、ガイナスは光に透かしたりするけど、何か分からずに尋ねてくる。

「昨日ガイナスも食べたんじゃないの? 干菓子よ」
「ヒガシ……。ああ! あの砂糖の塊ですか!」

 納得の声を漏らし、理解したと言わんばかりの顔で話すガイナス。
 砂糖の塊……間違ってはないけど、情緒なさすぎてへこむ。

「でしたら、お嬢様がお出しになればよろしいのでは?」
「そうねー。私が出せば毒見いらないもんねー」

 ガイナスの意図に気づいた私は棒読みで返して、彼の手の中にある蝋紙を奪いミゼアに渡した。

「ガイナスは忙しいそうなので、私が給仕しますわね。それによって兄様からここそとばかりイヤミを言われても、ガイナスが多忙と言い訳をしてたのでってお答えしますわ!」

 にーっこり笑って告げて、レイとミゼアを伴い部屋を出る。後ろから我に返ったガイナスが追いかけてくるけど、しりませーん。
 墓穴掘り頑張ってね!

 私を先頭にしてサロンに入れば、優雅な光景が広がっていた。

「やあ、アデイラ。もう完成したのかい?」
「兄様、出来上がってはいるのですが、接待を拒否したいい加減な執事長がいましてね、代わりに私が出向いた次第ですの」
「へえ、そんな職務怠慢な執事長がいるんだね」
「ほんと、困りましたわね。おほほ」
「ふふふ」

 私と兄様は「うふふ」「おほほ」と笑い合っていますが、目は全く笑ってないし、カールフェルド様だけでなく、うちのミゼアとレイも顔色が悪くなってます。
 でも、真実だから仕方ないですよね?

「リ、リオネル様、申し訳ございませんんんん!」

 スライディング土下座でもしそうな勢いでガイナスが謝罪の為に腰を深く折ってる。普段、お父様相手でもここまで顔色変える人じゃないのに、一体何をしたらこうなったんですか、リオネル兄様……。

「そんなに怯えなくてもいいのに、ふふふ……。あ、ところでアデイラが本当に給仕してくれるのかな?」
「いえ! わたくしガイナスがおもてなしさせていただきたくございます!」

 矢継ぎ早にガイナスが叫んでるけど、言葉がおかしいって気づいてないのかしら。というか、本当、兄様ったら、ガイナスに一体どんなトラウマを植え付けてるんですか。
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