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孟夏の深更
7
平穏というのはひとりの男によって安易に崩れるというのを、慧斗は痛感していた。
(なーにが通訳だ。すっかり忘れてた俺も悪いが、出会った当時から弐本語で喋ってたじゃないか)
それならどうして慧斗を通訳にあてがわれたのか。
「どうにかなりませんか、秋槻理事」
「うーん、協力してあげたいのはやまやまなんですけどね。今回はあちらのお偉い方からの依頼ですから無理です」
きっぱりと言われて「やっぱり」と項垂れる。
今回、紅龍が弐本にやってきたのは、本当に自主映画の撮影だった。撮影場所も秋槻学園の敷地内というのも嘘ではない。しかし、実際に撮影をしているのは生徒たちが帰った夕方や早朝や土日の話で、慧斗自身は撮影にほとんど関わっていないのが実情なのだ。
それならなぜ紅龍が慧斗を通訳としてあてがっているのか。
「日中は学園の中を闊歩して、昼食は学食、基本は俺の付きまといで。更には夜は撮影とか、あの人いつ寝てるんですか」
「付け加えると、朝と夕方は君のボディガードもやってるしねぇ」
土日はほぼ『La maison』に入り浸り。変装をしているため、まだ国際俳優の王紅龍だと知られていないが時間の問題だろう。気づけば紅龍の視線が傍にあるのが当たり前となっているも、本当に彼に休息なんてあるのだろうかと疑問が湧く。
彼はどうしてそこまでして慧斗と関わろうとしているのだろうか。彼にはすでに番がいるというのに。
彼の口から番の話が出るのが怖くて、避けている一因でもある。
「それはそうと、紅音君のほうはどう? 峯浦君からの接触はない?」
揺れる気持ちを持て余す慧斗に、秋槻理事は話題を逸らそうというのか、その質問を口に乗せる。彼の空気を読まないというか、行間を見ようとしない部分は、マイナスの意味で尊敬しかない。
「あれからはなんとも。ただ、残念ですけど、保育園は退園することにしました。今は友人の子供が通ってる保育園に空きが出るのを待ってる状況です。まだ紅音にはそのことは話せていませんが……」
結局、個人ではどうにもならないと判断し、慧斗は白糸を通して秋槻理事に峯浦の件を報告した。秋槻理事は慧斗の訴えに耳を傾けてくれたが、経営者としての彼は峯浦の退職に関しては首を縦には振ってくれなかった。
それは当然だろう。峯浦家は名家でないにしても、学園に多大なる貢献をしているのだから。学園側としてはたったひとりの職員のために、資金の糸を断ち切るのはできない。
明け透けに慧斗に語った秋槻理事の言葉は、彼にしては譲歩したに違いない。本来ならば経営事情など一般職員に話す必要などないのだから。
それは彼が慧斗を信用していると同意だった。だからこそ慧斗もそれ以上強くでることもなく、潔く身を引いたのだ。
おかげで紅龍の付きまといが加速したのはどうかと思うが。
「君には本当に悪いことをしたと思ってる。こちらでも知り合いの託児所や保育園に空きがないか訊いてみよう。なに、犯罪者を解雇できないこちらのお詫びも兼ねてるから、気にしないでいいよ」
「ですが……」
「それは建前。うちの弟夫夫から早くしろとせっつかれてるから」
苦笑する秋槻理事に、すみません、と頭を下げる。きっと彼の最大の譲歩なのだろう。明らかに軽犯罪を犯してる人間を雇用しないといけない立場で、被害者である慧斗と紅音を守ろうとしてる姿勢に頭が下がる。快楽主義なのは困った性格ではあるが。
苦学生だった頃から随分助けてもらった。今こうして秘書として働けているのも、秋槻や白糸が背中を押してくれたからだ。
「ありがとうございます、秋槻理事」
「なに、急に怖いんだけど」
「そこで人の感謝をそう言うのはいただけませんよ」
「まあ、冗談はここまでで。……もし彼から接触や何かあったら、すぐに僕や寒川さんに連絡しなさい。学園内での不祥事には目をつぶるしかないけど、行政機関が介入すればそちらで断罪も可能だから」
秋槻理事との対面を終え、入れ替わるように結城と交代をして、理事室を出た慧斗は白糸の教授室へと向かう。契約時にもらったスケジュール表では、慧斗が在学してる間の撮影はなく、夕方まで教授室で溜まった仕事を片付けることができそうだ。
紅龍が撮影で滞在してるのがどこからか漏れたのか、学園内は俄かにわきたってる。
それは当然だろう。
世界で活躍する有名俳優。美形なのもさることながら高位アルファで、大金持ち。番として狙うオメガだけでなく、ベータやアルファの女生徒たちも目がギラついている。その意欲を勉学に向けてもらいたい。
どっちみち、撮影自体は学生が不在の時間を狙っているし、撮影場所は現校舎と反対側にある旧校舎を利用しているため、行くのも簡単ではないからだ。山のひとつを学園として活用している秋槻学園は、ひとえに反対といっても気軽に行ける場所ではない。昔は循環バスが通っていたらしいが、今は完全にルートからも外れている。
送迎用の駐車場も二箇所あるが、どちらも現校舎側にあるため、旧校舎一帯を封鎖しても生活には支障がないのだ。
更には撮影時間も決まっているのと、天候もその時によって撮影箇所を変えればいいらしいので、むしろスタッフたちも楽だと紅龍は言っていたが。
慧斗は賑わう生徒たちを横目に見ながら、教授室棟に入ろうとしたところで「御崎さん」と声を掛けられた。
振り返ると、そこには峯浦の姿があり、ぞわりと背中の産毛が逆立つ。
「み……ねうら、先生……」
「お久しぶりです、御崎さん。今、お話しても?」
にこやかに笑みを浮かべる峯浦は、怯える慧斗にそう告げる。事情を知らない他者が見たら、人畜無害そうな保育士にそこまで慧斗が震えるのか疑問に思うだろう。
だが、慧斗は峯浦に底知れぬ不気味なものを感じていた。
なんとか断って逃げることはできないか、と算段しながら周囲に目を凝らす。あれだけ賑やかだった校舎とは違い、教授室棟はよほどの理由……論文の提出などでない限り人が寄り付かない場所にある。
「いえ、仕事が立て込んでいるので……」
多忙だと言えば諦めてくれるだろう、と慧斗は思っていた。社会人としてはまっとうな理由だからだ。しかし。
「紅音君のことで大事な話があるんです。時間は取らせませんので、いいですよね?」
有無を言わさない言葉と、彼の身から溢れる圧に喉を絞められたように声が出ない。アルファの威圧だ。慧斗が番契約をしたオメガだと分かって、フェロモンでは意のままにできないから、威圧で言うことを聞かせようとしている。
どうして。どうして峯浦は慧斗に固執するのだろう。他にも慧斗と同じ境遇のオメガなんてたくさんいるはずだ。見た目も平凡で、手入れもされていない疲れ果てたオメガである慧斗なんて、悪食もいいところだ。秋槻理事ですら手を出すのも躊躇う家の子供である峯浦の興味を満たすものなんてない。
「御崎さん……いいえ、慧斗さん。俺の気持ち分かってますよね」
じりじりと圧を纏った峯浦が慧斗に近づく。いやだ、と声を張り上げたくても、喉が押さえつけられたように言葉が出てこない。アルファの威圧を初めて向けられたけど、こうも恐怖に覆われるのか。
支配されそうになる。黒い峯浦という波に飲まれそうになる。怖い。アルファが……怖い!
「慧斗さん」
「……ひっ!」
すっと伸びてきた手が慧斗の頬をそろりと撫でてくる。引きつった喉から悲鳴が溢れ、全身がわななく。明らかに慧斗は恐怖に震えてるというのに、峯浦は前と変わらぬ穏やかな 微笑を浮かべて、慧斗を更なる怯えに追い落とす。
「怖がらないで、俺のオメガ。そんな汚いうなじの傷を俺が上書きしてあげますよ。知ってます? 高位アルファなら、番契約を上書きできるんです。ですから、ね?」
うっとりと慧斗と距離を縮めた峯浦が、微笑みを崩すことなく告げる。
いやだ。こんな不気味な男と番なんて嫌だ!
慧斗は峯浦の要求を突っぱねて拒絶を叫びたかったけども、峯浦の威圧のせいで声も体も思い通りにならない。
(助けて……誰か……紅……龍っ!)
アルファの威圧に身を竦ませ怯える慧斗は、心の中で紅龍の名を叫んだ。
彼は今頃撮影の調整のために本校舎と反対側の旧校舎にいるはずだ。だからどれだけ早く駆けようとも、そう簡単に来れる距離ではない。それでも、慧斗は忘れようとしても忘れることのできなかった紅龍の名を叫んでいた。
「……誰が俺の番に触れていいと許可した……?」
背後からふわりと長い腕が慧斗を包み、耳元で低く艶のある声がそう目の前のアルファに向かって唸るように告げる。
(紅龍……まさか、本当に来てくれた……)
「誰……、あなたは俳優の……。外国のアルファが慧斗さんと番? はっ、なにを言っているんです。あなたくらいのアルファなら、どんなオメガも選り取りみどりでしょう。俺は望まぬアルファに傷つけられた可哀想な慧斗さんをしがらみから開放してあげたいだけなんです」
「世迷言はそれだけか?」
「いいえ? 慧斗さんは前から俺のことを慕ってくれて、優しい笑みで俺を見てくれました。彼が俺に惚れてるのは否定しようがないでしょう? だから、優しい俺は慧斗さんに番の上書きをしてあげるんです」
當然と語る峯浦の言葉に愕然となる。彼は本当の慧斗を見ていたのだろうか。別に彼を慕う様子は見せたことがない。ただの紅音の保育園の先生と保護者としての距離感でしか接したことがない。笑顔? それは紅音の先生だから笑みも見せただろう。だが、それはただの処世術だ。ひとかけらすら、峯浦に感情を向けたことなどない。
「それなら何故慧斗がこうも震えてる。本気で惚れた相手なら、別に威圧で言うことを聞かせるなんて真似はしないだろうが」
慧斗は傍にいる紅龍に目を動かして見つめる。普通、アルファの威圧を受ければ、多少の苦痛を見せると聞いている。それなのに紅龍は峯浦の威圧ですらそよ風と言わんばかりに涼しい顔をして対峙していた。
(なーにが通訳だ。すっかり忘れてた俺も悪いが、出会った当時から弐本語で喋ってたじゃないか)
それならどうして慧斗を通訳にあてがわれたのか。
「どうにかなりませんか、秋槻理事」
「うーん、協力してあげたいのはやまやまなんですけどね。今回はあちらのお偉い方からの依頼ですから無理です」
きっぱりと言われて「やっぱり」と項垂れる。
今回、紅龍が弐本にやってきたのは、本当に自主映画の撮影だった。撮影場所も秋槻学園の敷地内というのも嘘ではない。しかし、実際に撮影をしているのは生徒たちが帰った夕方や早朝や土日の話で、慧斗自身は撮影にほとんど関わっていないのが実情なのだ。
それならなぜ紅龍が慧斗を通訳としてあてがっているのか。
「日中は学園の中を闊歩して、昼食は学食、基本は俺の付きまといで。更には夜は撮影とか、あの人いつ寝てるんですか」
「付け加えると、朝と夕方は君のボディガードもやってるしねぇ」
土日はほぼ『La maison』に入り浸り。変装をしているため、まだ国際俳優の王紅龍だと知られていないが時間の問題だろう。気づけば紅龍の視線が傍にあるのが当たり前となっているも、本当に彼に休息なんてあるのだろうかと疑問が湧く。
彼はどうしてそこまでして慧斗と関わろうとしているのだろうか。彼にはすでに番がいるというのに。
彼の口から番の話が出るのが怖くて、避けている一因でもある。
「それはそうと、紅音君のほうはどう? 峯浦君からの接触はない?」
揺れる気持ちを持て余す慧斗に、秋槻理事は話題を逸らそうというのか、その質問を口に乗せる。彼の空気を読まないというか、行間を見ようとしない部分は、マイナスの意味で尊敬しかない。
「あれからはなんとも。ただ、残念ですけど、保育園は退園することにしました。今は友人の子供が通ってる保育園に空きが出るのを待ってる状況です。まだ紅音にはそのことは話せていませんが……」
結局、個人ではどうにもならないと判断し、慧斗は白糸を通して秋槻理事に峯浦の件を報告した。秋槻理事は慧斗の訴えに耳を傾けてくれたが、経営者としての彼は峯浦の退職に関しては首を縦には振ってくれなかった。
それは当然だろう。峯浦家は名家でないにしても、学園に多大なる貢献をしているのだから。学園側としてはたったひとりの職員のために、資金の糸を断ち切るのはできない。
明け透けに慧斗に語った秋槻理事の言葉は、彼にしては譲歩したに違いない。本来ならば経営事情など一般職員に話す必要などないのだから。
それは彼が慧斗を信用していると同意だった。だからこそ慧斗もそれ以上強くでることもなく、潔く身を引いたのだ。
おかげで紅龍の付きまといが加速したのはどうかと思うが。
「君には本当に悪いことをしたと思ってる。こちらでも知り合いの託児所や保育園に空きがないか訊いてみよう。なに、犯罪者を解雇できないこちらのお詫びも兼ねてるから、気にしないでいいよ」
「ですが……」
「それは建前。うちの弟夫夫から早くしろとせっつかれてるから」
苦笑する秋槻理事に、すみません、と頭を下げる。きっと彼の最大の譲歩なのだろう。明らかに軽犯罪を犯してる人間を雇用しないといけない立場で、被害者である慧斗と紅音を守ろうとしてる姿勢に頭が下がる。快楽主義なのは困った性格ではあるが。
苦学生だった頃から随分助けてもらった。今こうして秘書として働けているのも、秋槻や白糸が背中を押してくれたからだ。
「ありがとうございます、秋槻理事」
「なに、急に怖いんだけど」
「そこで人の感謝をそう言うのはいただけませんよ」
「まあ、冗談はここまでで。……もし彼から接触や何かあったら、すぐに僕や寒川さんに連絡しなさい。学園内での不祥事には目をつぶるしかないけど、行政機関が介入すればそちらで断罪も可能だから」
秋槻理事との対面を終え、入れ替わるように結城と交代をして、理事室を出た慧斗は白糸の教授室へと向かう。契約時にもらったスケジュール表では、慧斗が在学してる間の撮影はなく、夕方まで教授室で溜まった仕事を片付けることができそうだ。
紅龍が撮影で滞在してるのがどこからか漏れたのか、学園内は俄かにわきたってる。
それは当然だろう。
世界で活躍する有名俳優。美形なのもさることながら高位アルファで、大金持ち。番として狙うオメガだけでなく、ベータやアルファの女生徒たちも目がギラついている。その意欲を勉学に向けてもらいたい。
どっちみち、撮影自体は学生が不在の時間を狙っているし、撮影場所は現校舎と反対側にある旧校舎を利用しているため、行くのも簡単ではないからだ。山のひとつを学園として活用している秋槻学園は、ひとえに反対といっても気軽に行ける場所ではない。昔は循環バスが通っていたらしいが、今は完全にルートからも外れている。
送迎用の駐車場も二箇所あるが、どちらも現校舎側にあるため、旧校舎一帯を封鎖しても生活には支障がないのだ。
更には撮影時間も決まっているのと、天候もその時によって撮影箇所を変えればいいらしいので、むしろスタッフたちも楽だと紅龍は言っていたが。
慧斗は賑わう生徒たちを横目に見ながら、教授室棟に入ろうとしたところで「御崎さん」と声を掛けられた。
振り返ると、そこには峯浦の姿があり、ぞわりと背中の産毛が逆立つ。
「み……ねうら、先生……」
「お久しぶりです、御崎さん。今、お話しても?」
にこやかに笑みを浮かべる峯浦は、怯える慧斗にそう告げる。事情を知らない他者が見たら、人畜無害そうな保育士にそこまで慧斗が震えるのか疑問に思うだろう。
だが、慧斗は峯浦に底知れぬ不気味なものを感じていた。
なんとか断って逃げることはできないか、と算段しながら周囲に目を凝らす。あれだけ賑やかだった校舎とは違い、教授室棟はよほどの理由……論文の提出などでない限り人が寄り付かない場所にある。
「いえ、仕事が立て込んでいるので……」
多忙だと言えば諦めてくれるだろう、と慧斗は思っていた。社会人としてはまっとうな理由だからだ。しかし。
「紅音君のことで大事な話があるんです。時間は取らせませんので、いいですよね?」
有無を言わさない言葉と、彼の身から溢れる圧に喉を絞められたように声が出ない。アルファの威圧だ。慧斗が番契約をしたオメガだと分かって、フェロモンでは意のままにできないから、威圧で言うことを聞かせようとしている。
どうして。どうして峯浦は慧斗に固執するのだろう。他にも慧斗と同じ境遇のオメガなんてたくさんいるはずだ。見た目も平凡で、手入れもされていない疲れ果てたオメガである慧斗なんて、悪食もいいところだ。秋槻理事ですら手を出すのも躊躇う家の子供である峯浦の興味を満たすものなんてない。
「御崎さん……いいえ、慧斗さん。俺の気持ち分かってますよね」
じりじりと圧を纏った峯浦が慧斗に近づく。いやだ、と声を張り上げたくても、喉が押さえつけられたように言葉が出てこない。アルファの威圧を初めて向けられたけど、こうも恐怖に覆われるのか。
支配されそうになる。黒い峯浦という波に飲まれそうになる。怖い。アルファが……怖い!
「慧斗さん」
「……ひっ!」
すっと伸びてきた手が慧斗の頬をそろりと撫でてくる。引きつった喉から悲鳴が溢れ、全身がわななく。明らかに慧斗は恐怖に震えてるというのに、峯浦は前と変わらぬ穏やかな 微笑を浮かべて、慧斗を更なる怯えに追い落とす。
「怖がらないで、俺のオメガ。そんな汚いうなじの傷を俺が上書きしてあげますよ。知ってます? 高位アルファなら、番契約を上書きできるんです。ですから、ね?」
うっとりと慧斗と距離を縮めた峯浦が、微笑みを崩すことなく告げる。
いやだ。こんな不気味な男と番なんて嫌だ!
慧斗は峯浦の要求を突っぱねて拒絶を叫びたかったけども、峯浦の威圧のせいで声も体も思い通りにならない。
(助けて……誰か……紅……龍っ!)
アルファの威圧に身を竦ませ怯える慧斗は、心の中で紅龍の名を叫んだ。
彼は今頃撮影の調整のために本校舎と反対側の旧校舎にいるはずだ。だからどれだけ早く駆けようとも、そう簡単に来れる距離ではない。それでも、慧斗は忘れようとしても忘れることのできなかった紅龍の名を叫んでいた。
「……誰が俺の番に触れていいと許可した……?」
背後からふわりと長い腕が慧斗を包み、耳元で低く艶のある声がそう目の前のアルファに向かって唸るように告げる。
(紅龍……まさか、本当に来てくれた……)
「誰……、あなたは俳優の……。外国のアルファが慧斗さんと番? はっ、なにを言っているんです。あなたくらいのアルファなら、どんなオメガも選り取りみどりでしょう。俺は望まぬアルファに傷つけられた可哀想な慧斗さんをしがらみから開放してあげたいだけなんです」
「世迷言はそれだけか?」
「いいえ? 慧斗さんは前から俺のことを慕ってくれて、優しい笑みで俺を見てくれました。彼が俺に惚れてるのは否定しようがないでしょう? だから、優しい俺は慧斗さんに番の上書きをしてあげるんです」
當然と語る峯浦の言葉に愕然となる。彼は本当の慧斗を見ていたのだろうか。別に彼を慕う様子は見せたことがない。ただの紅音の保育園の先生と保護者としての距離感でしか接したことがない。笑顔? それは紅音の先生だから笑みも見せただろう。だが、それはただの処世術だ。ひとかけらすら、峯浦に感情を向けたことなどない。
「それなら何故慧斗がこうも震えてる。本気で惚れた相手なら、別に威圧で言うことを聞かせるなんて真似はしないだろうが」
慧斗は傍にいる紅龍に目を動かして見つめる。普通、アルファの威圧を受ければ、多少の苦痛を見せると聞いている。それなのに紅龍は峯浦の威圧ですらそよ風と言わんばかりに涼しい顔をして対峙していた。
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