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忘れていた新婚初夜は甘く深い
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慌ただしい出来事から数時間後。王都邸の窓から見える空は黒に近い紺色で、濃密な夜の気配を漂わせていた。私の所在は、王都邸にある施設の礼拝堂にあった。
昼すぎに帰ってきたラファエルの本当の目的は、この結婚式だったそうだ。婚約者よりも妻という立場にあったほうが、私の身の安全に必要だからという理由で。正直、結婚式という存在を忘れてました。むしろ、そんなものしなくてもいいとか考えてました。だって、契約だと思っていたからね。
「ディアナ……綺麗だ」
「あ……りがとう、ございます」
淡い蝋燭の光に照らされた礼服姿のラファエルは、私をうっとりと見つめて賛辞を贈ってくれた。礼拝堂には、私とラファエルだけでなく、家令をはじめ、アインハルト公爵家の侍女服を着たエミリや、他の侍女や侍従たちが勢ぞろいしている。にもかかわらず、ラファエルの目には私しか映っていないようだ。うう……美形すぎて目がつぶれそう。
(いやいやいやっ! 綺麗、という言葉はあなたのほうですから! 月の光のような銀の髪は、ひとつに結ばれて、動くたびにキラキラ輝いている。氷のような瞳は、蝋燭の光に揺れて、幻想的に煌めく。国中の令嬢が恐れながらも求婚が絶えないって噂が嘘ではないのがわかるわ)
最高級の魔絹で作られた真っ白なドレスは、淡い光を受けて多色に輝く。が、平凡な私が着たせいで魅力が半減しているのではないか、と不安になる。こんなことラファエルに言おうものなら、「そんなことはない」ときっぱり反論しそうなので、決して口にはしないけども。
「ディアナ。これを」
差し出されたのは、王家の紋章が刻まれた正式な婚姻合意書だった。そこにはすでにアインハルト公爵家の紋章――氷狼の姿――もあった。
(まさか契約結婚するのに、王家が発行した特別婚姻合意書が出てくるなんて……。これ、契約解除の時に面倒な事にならないかしら……)
婚姻合意書を持ったまま硬直する私の手に、ラファエルが羽根ペンを握らせてくる。これは、書かなきゃいけない流れでは、と冷や汗が浮かぶ。というか、目の前の美形の圧がすごい。やっぱり書かなきゃですよねー。
意を決してペンを強く握り、ラファエルの名前の下に自分の名を書く。実家と絶縁したけど、ディアナ・ヒルトマンと、緊張する文字で綴った。家紋印はないから、省略しても大丈夫らしい。さすがに実家に戻るのは危険だから、ちょっと安心する。
ラファエル・アインハルト。
ディアナ・ヒルトマン。
並ぶ文字を見て、なんだか妙な気持ちになった。
(まさか、おじい様の屋敷で出会った男の子と、結婚しちゃうなんて……ね)
ふう、と息をつき、ペンを置くとラファエルに渡す。受け取った彼は、お互いの名前が並ぶ場所に視線を落としたかと思うと、ほんの少しだけ唇を綻ばせた。まるで固い蕾がふわりと開くような小さな変化。
「これで、君と俺は夫婦になったんだな」
「そ、そう……ですね?」
「もう誰も君を連れ去ることはできない。君は名実共に俺の妻だ。……未来永劫、な」
ラファエルが淡々と、だけど重い声で告げる。彼の表情は相変わらず無表情だけど、全身から溢れる雰囲気は、春の陽気のように穏やかだ。少なくとも契約上であっても、私との結婚を不快に感じなかったのだろう。
「次は、初夜の儀式だな」
色んな問題が片付いたと安堵していたら、最大の問題がラファエルによって告げられたのである。
◇ ◇ ◇
成婚した夜、夫婦が何をするべきか。それは子孫繁栄のための契りの儀。……つまり、肉体交渉というやつだ。
「ディアナ、こちらへ」
ラファエルに促されて入った主寝室は、とても広くて、暖炉の火で橙色に淡く照らされている。それがなんとも淫靡な雰囲気を漂わせ、思わず唾を飲み込んだ。
貴族令嬢の教育として、最低限の知識は書物で学んできた。だが、学んだからといって、実地はまた別の話と思うんです。初めて入ったラファエルの寝室にあるベッドを前に、私の頭はグルグルと混乱の渦でいっぱいになっていた。
(ど、どどど、どうしよう! 読んだ書物には『互いの慈しみを確認しあう行為』なんて綺麗な言葉で書かれていたけど、具体的なことはどこにも記載がなかったのよね。えっと、まずは服を脱ぐのよね? 自分で? それとも彼に任せるべき? というか、あんな大きなラファエルに圧しかかられて、私なんてぺちゃんこにならないかしら!?)
そんな私の混乱した状況にも気づかず、ラファエルは脱いだ上着を椅子に掛けると、ベッドの縁に腰を下ろしてこちらを見上げた。
「今日は疲れただろう。こっちに来て座ればいい」
そう言って、自分の隣を軽く叩くラファエルの姿に、私の体温は脈打ちながら上がっていく。おずおずと近づくと、長い腕が私の腰を引き寄せ、気づけば彼の膝の上に横座りしていた。この数日の間に、ラファエルの清涼な香りを感じたけども、今日はいつもより香りが強い気がする。もしかして、ラファエルの体温も上がっているの?
「か、閣下……」
「怖がらせるつもりはない。でも、ディアナと出会ったあの頃から、今日のこの時をずっと待ちわびていた」
「あの頃って……」
「ヴェルテ侯爵邸で出会ったあの時からだ」
ラファエルはそう囁き、私の頬に大きな手を当てると、ゆっくりと顔を近づけて……それから、薄くも形よい唇が私のそれに重なった。
「ん……」
ただの皮膚の接触。そう、思えばただそれだけのこと。だけど、エドガーの時は何度も拒否をしてきたのに、ラファエルの唇を自然と受け入れている。少し冷たくて、その奥はとても温かくて、甘い。ついばむように私の唇を啄んできて、私はだんだんと息が上がっていく。苦しくて、ラファエルのシャツをすがるように掴むと、私の背中でシュルと衣擦れの音が響いた。
「……んん?」
唐突に訪れた解放感と空気が入り込む感覚に身震いする。わずかな身じろぎで着ていたドレスが肩から滑っていき、驚きで唇を開いた途端、ラファエルの熱い舌が当然のように入ってきた。
(きゃああああ! ラファエルの舌が私の口の中に! なんか生き物のように蠢いているわ!)
未知の経験に、私の頭の中は混乱状態だ。悲鳴も重なる唇に呑まれ、抵抗しようにも力が入らない。その間にもラファエルの大きな手は、私が着ていたドレスを器用に脱がしていき、気づけば薄い下着だけになっていた。
心許なくて自分の腕で体を抱きしめていると、ラファエルは口づけを継続しながら自身もシャツを脱いでいく。鍛えられた肉体が露わになる。暖炉の明かりに浮かぶ彼の筋肉が艶めかしくて、机上の知識と現実はかけ離れていると、実感することになった。
(凄い……これが男の人の体なのね……)
初めて目にする『雄』の迫力。これからどうなるのか、緊張にゴクリと唾を飲み込んだ。
「ディアナ」
押し殺したような声で名前を呼ばれる。声の意識を向ける前に、私の体はラファエルによって、シーツの上に横たえられた。ギシ、と軋む音がし、私の頭上に大きな影が覆いかぶさってくる。重くて、熱い感覚。全然不快に感じない。ただただ、これから起こるであろう未知の領域に、頭が追い付いていないだけ。
「……あっ」
首筋に自分ではない体温が触れ、味わうように鎖骨を甘く噛まれる。経験したことのない甘い痺れが全身を駆け抜けた。
「ひ、っ……あっ、あぁ……っ」
声にならない悲鳴が漏れる。涙が滲み、歪んだ視界でラファエルを見る。苦しそうな、泣きそうなその姿に、かつての彼の姿が重なって見えた。かつて、祖父の屋敷にある月見草の庭で笑い合っていた、自分の魔力に怯えながらも優しかった少年の姿を。
「ラファエル……さ、ま」
ひく、と喉を痙攣させ、私の肌を味わう彼の名を呼ぶ。
「今の俺は公爵ではなく、ただの君の夫だ。だから、昔二人で決めた名で呼んでくれないか?」
顔を上げたラファエルを見下ろす形で見つめ合う。若いうちに公爵となった彼は、感情を表に出すことを封印したのだろう。相変わらず険しい顔をしているが、目元を赤く染め、青い瞳は獲物を前にぎらついている。その小さな変化が、私の心を震わせた。
「……エル」
祖父母以外は知らない私の大切な宝物の名を呼ぶ。それは、ラファエルの愛称だった。
「……っ、ディナ」
彼もまた、私の愛称を絞り出すように紡ぎ、再び深い口づけを与えてきた。
重なった唇から、お互いの境界線が溶けてしまいそうになる。ラファエルの大きな手が私の体を這い、その度に嬌声が溢れてくる。いつもなら、素肌を重ねる行為に羞恥で暴れそうになるだろう。だけど思考する余裕などなく、私の体はラファエルが与える快感に反応するだけだった。
しかし、そんな甘い快感に溺れるのも長い指が足の間に滑り込んだ瞬間、現実に引き戻される。
「ま、待ってっ……エル」
「待てない。十年待ったんだ。これ以上我慢なんて……できない」
「十年って……ひゃんっ」
疑問の声は、脚の付け根にある秘裂から広がる疼きで、続けることができなかった。
(な、なんなの、こんな変な感覚知らない……!)
ドキドキする心臓と呼応して、その場所も同じく痒いような痺れるような疼きが走った。特に触れている所よりも、おへその下が熱くて、何かがじわりと滲み出す気がした。
「……濡れてる。ディナも感じてくれているんだな」
どこか嬉しそうな中に艶のある声を、ぼんやりと聞いていると。
「少し痛いかもしれない。辛かったら、俺を噛んでくれればいいから」
ラファエルの指が秘裂を割って入ってくる。異物を感じて、媚肉が押し出すたび、グチュと粘ついた音が耳に届く。恥ずかしさと異物が奥に入っていく痛さで、私は首を振って逃げようとする。だけどラファエルの指は探るように奥へ深くへと未通の隘路を掻き分ける。蠢く指が奏でる水音が、私の脳までもを犯した。
私すら知らない体内が、ラファエルによって暴かれる。ジンジンと私の中が甘い疼きとなって、ラファエルを受け入れようとしている。でも心は行為に追いつけなくて、ただただ与えられる快感に悲鳴を上げ続けた。
「ディナ……もう我慢できない。初めてのディナには酷かもしれないが、俺がその痛みもつらさも全て受け入れる。ディナ、俺を……見ていろ。君のこれからを、俺しか知らない体に変える……俺を見ているんだ」
そう言って、ラファエルはスラックスの前立てを開く。弾けるように飛び出した質量ある塊は、長くて先端が濡れているのが、暖炉の明かりでヌラヌラと光っているのが分かる。初めて見る男性のソレはまさに凶器と言える存在感を放っていた。
(ちょ……待って。もしかして、コレが私の中に……? む、無理! 無理無理! 私の体が裂けちゃう!)
何とか阻止しようと手をラファエルに伸ばすが、指を絡めるように握られてしまう。
「あ……待って、エル……お願い、待って」
「すまない。もう……止まることはできない……っ」
苦悶に顔を歪めて荒く呼吸を吐くラファエルは、屹立に手を添えると私の体をゆっくりと、でも確実に貫いた。
「あ……あぁぁ……ぁ!」
生木を裂かれるような痛みが全身を襲う。メリメリと繋がっているだろう場所から、何かが押し広げられて引き伸ばされる音が、私を狂わせる。
「痛い……っ、痛いよぉ……エルぅ」
涙をボロボロ流して訴えると、ラファエルの大きな体が私を包み、何度も「すまない」「もう少しだから」と言って慰めてくれた。何かを耐えているのか、苦し気に囁く彼の声が幼かった頃のエルを思い出し、私はラファエルの首に腕を回してしがみ付いていた。
「ディナ、もう少しだけ我慢できるか?」
額に口づけをされて、私はコクコクと頷く。やせ我慢ですがなにか? だって、ラファエルがめちゃくちゃ耐えているのに、「ダメです、もうやめて」とは言いづらい。
「本当に無理なら、俺を蹴飛ばしてもいいから」
固まった表情筋のラファエルが、ぎこちないながらも微笑む。私の我慢なんてとっくにバレていたらしい。さすが、私の行動を見抜いている。
(でも、私を第一に考えてくれる所は、昔と変わってないわ)
私はラファエルの首に抱きつき、大丈夫だから、と答えた。
「……そうか」
「へ? ……ふぁ、あぁっ!」
ふ、とため息をついたラファエルの声が耳元を撫でた途端、繋がった場所から何かが抜け、再び奥を強く叩きつけた。嵐のような抽挿に放り出されないよう、必死にラファエルの首にしがみついて、衝動を受け続ける。次第に擦れて痛かったそこは、私から溢れた体液で滑って少しずつ快感を拾っていく。
繋がった場所だけでなく、ラファエルの熱が入るお腹の中も、ムズムズするような変な感覚に溺れていく。きっと、これが〝感じている〟って事なんだろう。もっと深く、もっと溶け合っていたい。ラファエルだから、そう思える。私の頭の中は、そればかりに支配されていった。
翻弄されている間も、ラファエルは「ディナ」と掠れた声で私の名を呼ぶ。私も喘ぐ声の合間に「エル」と繰り返し叫ぶ。いつまでも続くとも分からぬ時間は、ラファエルが小さく呻き、私の中に熱い飛沫が注がれたのを機に終わりを迎えた。
涙で滲んだ視界に、私の天正魔法とラファエルの氷魔法が混じり合って、黄金の氷がきらめき降ってくる。それは祝福のようで、重なる唇がとても甘くて、私は微笑みながら意識を落とした。
「……愛している、ディナ。もう、誰にも君を渡さない」
なんだか不穏な言葉が聞こえた気がしたけど、多分聞き間違い……だと自分に言い聞かせながら、眠りの底に沈んでいった。
昼すぎに帰ってきたラファエルの本当の目的は、この結婚式だったそうだ。婚約者よりも妻という立場にあったほうが、私の身の安全に必要だからという理由で。正直、結婚式という存在を忘れてました。むしろ、そんなものしなくてもいいとか考えてました。だって、契約だと思っていたからね。
「ディアナ……綺麗だ」
「あ……りがとう、ございます」
淡い蝋燭の光に照らされた礼服姿のラファエルは、私をうっとりと見つめて賛辞を贈ってくれた。礼拝堂には、私とラファエルだけでなく、家令をはじめ、アインハルト公爵家の侍女服を着たエミリや、他の侍女や侍従たちが勢ぞろいしている。にもかかわらず、ラファエルの目には私しか映っていないようだ。うう……美形すぎて目がつぶれそう。
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最高級の魔絹で作られた真っ白なドレスは、淡い光を受けて多色に輝く。が、平凡な私が着たせいで魅力が半減しているのではないか、と不安になる。こんなことラファエルに言おうものなら、「そんなことはない」ときっぱり反論しそうなので、決して口にはしないけども。
「ディアナ。これを」
差し出されたのは、王家の紋章が刻まれた正式な婚姻合意書だった。そこにはすでにアインハルト公爵家の紋章――氷狼の姿――もあった。
(まさか契約結婚するのに、王家が発行した特別婚姻合意書が出てくるなんて……。これ、契約解除の時に面倒な事にならないかしら……)
婚姻合意書を持ったまま硬直する私の手に、ラファエルが羽根ペンを握らせてくる。これは、書かなきゃいけない流れでは、と冷や汗が浮かぶ。というか、目の前の美形の圧がすごい。やっぱり書かなきゃですよねー。
意を決してペンを強く握り、ラファエルの名前の下に自分の名を書く。実家と絶縁したけど、ディアナ・ヒルトマンと、緊張する文字で綴った。家紋印はないから、省略しても大丈夫らしい。さすがに実家に戻るのは危険だから、ちょっと安心する。
ラファエル・アインハルト。
ディアナ・ヒルトマン。
並ぶ文字を見て、なんだか妙な気持ちになった。
(まさか、おじい様の屋敷で出会った男の子と、結婚しちゃうなんて……ね)
ふう、と息をつき、ペンを置くとラファエルに渡す。受け取った彼は、お互いの名前が並ぶ場所に視線を落としたかと思うと、ほんの少しだけ唇を綻ばせた。まるで固い蕾がふわりと開くような小さな変化。
「これで、君と俺は夫婦になったんだな」
「そ、そう……ですね?」
「もう誰も君を連れ去ることはできない。君は名実共に俺の妻だ。……未来永劫、な」
ラファエルが淡々と、だけど重い声で告げる。彼の表情は相変わらず無表情だけど、全身から溢れる雰囲気は、春の陽気のように穏やかだ。少なくとも契約上であっても、私との結婚を不快に感じなかったのだろう。
「次は、初夜の儀式だな」
色んな問題が片付いたと安堵していたら、最大の問題がラファエルによって告げられたのである。
◇ ◇ ◇
成婚した夜、夫婦が何をするべきか。それは子孫繁栄のための契りの儀。……つまり、肉体交渉というやつだ。
「ディアナ、こちらへ」
ラファエルに促されて入った主寝室は、とても広くて、暖炉の火で橙色に淡く照らされている。それがなんとも淫靡な雰囲気を漂わせ、思わず唾を飲み込んだ。
貴族令嬢の教育として、最低限の知識は書物で学んできた。だが、学んだからといって、実地はまた別の話と思うんです。初めて入ったラファエルの寝室にあるベッドを前に、私の頭はグルグルと混乱の渦でいっぱいになっていた。
(ど、どどど、どうしよう! 読んだ書物には『互いの慈しみを確認しあう行為』なんて綺麗な言葉で書かれていたけど、具体的なことはどこにも記載がなかったのよね。えっと、まずは服を脱ぐのよね? 自分で? それとも彼に任せるべき? というか、あんな大きなラファエルに圧しかかられて、私なんてぺちゃんこにならないかしら!?)
そんな私の混乱した状況にも気づかず、ラファエルは脱いだ上着を椅子に掛けると、ベッドの縁に腰を下ろしてこちらを見上げた。
「今日は疲れただろう。こっちに来て座ればいい」
そう言って、自分の隣を軽く叩くラファエルの姿に、私の体温は脈打ちながら上がっていく。おずおずと近づくと、長い腕が私の腰を引き寄せ、気づけば彼の膝の上に横座りしていた。この数日の間に、ラファエルの清涼な香りを感じたけども、今日はいつもより香りが強い気がする。もしかして、ラファエルの体温も上がっているの?
「か、閣下……」
「怖がらせるつもりはない。でも、ディアナと出会ったあの頃から、今日のこの時をずっと待ちわびていた」
「あの頃って……」
「ヴェルテ侯爵邸で出会ったあの時からだ」
ラファエルはそう囁き、私の頬に大きな手を当てると、ゆっくりと顔を近づけて……それから、薄くも形よい唇が私のそれに重なった。
「ん……」
ただの皮膚の接触。そう、思えばただそれだけのこと。だけど、エドガーの時は何度も拒否をしてきたのに、ラファエルの唇を自然と受け入れている。少し冷たくて、その奥はとても温かくて、甘い。ついばむように私の唇を啄んできて、私はだんだんと息が上がっていく。苦しくて、ラファエルのシャツをすがるように掴むと、私の背中でシュルと衣擦れの音が響いた。
「……んん?」
唐突に訪れた解放感と空気が入り込む感覚に身震いする。わずかな身じろぎで着ていたドレスが肩から滑っていき、驚きで唇を開いた途端、ラファエルの熱い舌が当然のように入ってきた。
(きゃああああ! ラファエルの舌が私の口の中に! なんか生き物のように蠢いているわ!)
未知の経験に、私の頭の中は混乱状態だ。悲鳴も重なる唇に呑まれ、抵抗しようにも力が入らない。その間にもラファエルの大きな手は、私が着ていたドレスを器用に脱がしていき、気づけば薄い下着だけになっていた。
心許なくて自分の腕で体を抱きしめていると、ラファエルは口づけを継続しながら自身もシャツを脱いでいく。鍛えられた肉体が露わになる。暖炉の明かりに浮かぶ彼の筋肉が艶めかしくて、机上の知識と現実はかけ離れていると、実感することになった。
(凄い……これが男の人の体なのね……)
初めて目にする『雄』の迫力。これからどうなるのか、緊張にゴクリと唾を飲み込んだ。
「ディアナ」
押し殺したような声で名前を呼ばれる。声の意識を向ける前に、私の体はラファエルによって、シーツの上に横たえられた。ギシ、と軋む音がし、私の頭上に大きな影が覆いかぶさってくる。重くて、熱い感覚。全然不快に感じない。ただただ、これから起こるであろう未知の領域に、頭が追い付いていないだけ。
「……あっ」
首筋に自分ではない体温が触れ、味わうように鎖骨を甘く噛まれる。経験したことのない甘い痺れが全身を駆け抜けた。
「ひ、っ……あっ、あぁ……っ」
声にならない悲鳴が漏れる。涙が滲み、歪んだ視界でラファエルを見る。苦しそうな、泣きそうなその姿に、かつての彼の姿が重なって見えた。かつて、祖父の屋敷にある月見草の庭で笑い合っていた、自分の魔力に怯えながらも優しかった少年の姿を。
「ラファエル……さ、ま」
ひく、と喉を痙攣させ、私の肌を味わう彼の名を呼ぶ。
「今の俺は公爵ではなく、ただの君の夫だ。だから、昔二人で決めた名で呼んでくれないか?」
顔を上げたラファエルを見下ろす形で見つめ合う。若いうちに公爵となった彼は、感情を表に出すことを封印したのだろう。相変わらず険しい顔をしているが、目元を赤く染め、青い瞳は獲物を前にぎらついている。その小さな変化が、私の心を震わせた。
「……エル」
祖父母以外は知らない私の大切な宝物の名を呼ぶ。それは、ラファエルの愛称だった。
「……っ、ディナ」
彼もまた、私の愛称を絞り出すように紡ぎ、再び深い口づけを与えてきた。
重なった唇から、お互いの境界線が溶けてしまいそうになる。ラファエルの大きな手が私の体を這い、その度に嬌声が溢れてくる。いつもなら、素肌を重ねる行為に羞恥で暴れそうになるだろう。だけど思考する余裕などなく、私の体はラファエルが与える快感に反応するだけだった。
しかし、そんな甘い快感に溺れるのも長い指が足の間に滑り込んだ瞬間、現実に引き戻される。
「ま、待ってっ……エル」
「待てない。十年待ったんだ。これ以上我慢なんて……できない」
「十年って……ひゃんっ」
疑問の声は、脚の付け根にある秘裂から広がる疼きで、続けることができなかった。
(な、なんなの、こんな変な感覚知らない……!)
ドキドキする心臓と呼応して、その場所も同じく痒いような痺れるような疼きが走った。特に触れている所よりも、おへその下が熱くて、何かがじわりと滲み出す気がした。
「……濡れてる。ディナも感じてくれているんだな」
どこか嬉しそうな中に艶のある声を、ぼんやりと聞いていると。
「少し痛いかもしれない。辛かったら、俺を噛んでくれればいいから」
ラファエルの指が秘裂を割って入ってくる。異物を感じて、媚肉が押し出すたび、グチュと粘ついた音が耳に届く。恥ずかしさと異物が奥に入っていく痛さで、私は首を振って逃げようとする。だけどラファエルの指は探るように奥へ深くへと未通の隘路を掻き分ける。蠢く指が奏でる水音が、私の脳までもを犯した。
私すら知らない体内が、ラファエルによって暴かれる。ジンジンと私の中が甘い疼きとなって、ラファエルを受け入れようとしている。でも心は行為に追いつけなくて、ただただ与えられる快感に悲鳴を上げ続けた。
「ディナ……もう我慢できない。初めてのディナには酷かもしれないが、俺がその痛みもつらさも全て受け入れる。ディナ、俺を……見ていろ。君のこれからを、俺しか知らない体に変える……俺を見ているんだ」
そう言って、ラファエルはスラックスの前立てを開く。弾けるように飛び出した質量ある塊は、長くて先端が濡れているのが、暖炉の明かりでヌラヌラと光っているのが分かる。初めて見る男性のソレはまさに凶器と言える存在感を放っていた。
(ちょ……待って。もしかして、コレが私の中に……? む、無理! 無理無理! 私の体が裂けちゃう!)
何とか阻止しようと手をラファエルに伸ばすが、指を絡めるように握られてしまう。
「あ……待って、エル……お願い、待って」
「すまない。もう……止まることはできない……っ」
苦悶に顔を歪めて荒く呼吸を吐くラファエルは、屹立に手を添えると私の体をゆっくりと、でも確実に貫いた。
「あ……あぁぁ……ぁ!」
生木を裂かれるような痛みが全身を襲う。メリメリと繋がっているだろう場所から、何かが押し広げられて引き伸ばされる音が、私を狂わせる。
「痛い……っ、痛いよぉ……エルぅ」
涙をボロボロ流して訴えると、ラファエルの大きな体が私を包み、何度も「すまない」「もう少しだから」と言って慰めてくれた。何かを耐えているのか、苦し気に囁く彼の声が幼かった頃のエルを思い出し、私はラファエルの首に腕を回してしがみ付いていた。
「ディナ、もう少しだけ我慢できるか?」
額に口づけをされて、私はコクコクと頷く。やせ我慢ですがなにか? だって、ラファエルがめちゃくちゃ耐えているのに、「ダメです、もうやめて」とは言いづらい。
「本当に無理なら、俺を蹴飛ばしてもいいから」
固まった表情筋のラファエルが、ぎこちないながらも微笑む。私の我慢なんてとっくにバレていたらしい。さすが、私の行動を見抜いている。
(でも、私を第一に考えてくれる所は、昔と変わってないわ)
私はラファエルの首に抱きつき、大丈夫だから、と答えた。
「……そうか」
「へ? ……ふぁ、あぁっ!」
ふ、とため息をついたラファエルの声が耳元を撫でた途端、繋がった場所から何かが抜け、再び奥を強く叩きつけた。嵐のような抽挿に放り出されないよう、必死にラファエルの首にしがみついて、衝動を受け続ける。次第に擦れて痛かったそこは、私から溢れた体液で滑って少しずつ快感を拾っていく。
繋がった場所だけでなく、ラファエルの熱が入るお腹の中も、ムズムズするような変な感覚に溺れていく。きっと、これが〝感じている〟って事なんだろう。もっと深く、もっと溶け合っていたい。ラファエルだから、そう思える。私の頭の中は、そればかりに支配されていった。
翻弄されている間も、ラファエルは「ディナ」と掠れた声で私の名を呼ぶ。私も喘ぐ声の合間に「エル」と繰り返し叫ぶ。いつまでも続くとも分からぬ時間は、ラファエルが小さく呻き、私の中に熱い飛沫が注がれたのを機に終わりを迎えた。
涙で滲んだ視界に、私の天正魔法とラファエルの氷魔法が混じり合って、黄金の氷がきらめき降ってくる。それは祝福のようで、重なる唇がとても甘くて、私は微笑みながら意識を落とした。
「……愛している、ディナ。もう、誰にも君を渡さない」
なんだか不穏な言葉が聞こえた気がしたけど、多分聞き間違い……だと自分に言い聞かせながら、眠りの底に沈んでいった。
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17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳
ロミオ王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
〖完結〗旦那様には本命がいるようですので、復讐してからお別れします。
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