【本編完結】年下料理男子と社畜ラノベ作家の恋ごはん

藍沢真啓/庚あき

文字の大きさ
58 / 61

お花見弁当とプロポーズ⑦

しおりを挟む
「さて、ほぼ全てを開示しました。誰もオレと健一さんを隔てる壁はありません。ですから、受けてくれますよね、プロポーズ」
「そ、そんな怒涛な勢いで種明かしされても……。本当に、涼さんは、俺でいいの?」

 俺のどこに執着するポイントがあるのか、それでも涼さんは俺にプロポーズしている。俺の汚い部分や弱い部分を知ってもなお、傍に居て欲しいと希っている。

「何度もいいますけど、オレ、今まで何事も誰にも興味がなくて、本当つまらない人生送ってたんですよね。そんな中で少しだけ意識的に動いてたのが、株と料理とネット小説で。Ryo名義でフォローしていた作家さんは更新を楽しみにしてる位で、その中でも『トータカ』さんの書く話が大好きで。まさかK出版から本を出すなんて思ってませんでしたけど」

 何かを思い出したように柔らかく微笑む涼さんに、俺は言ってはいけない一言を放っていた。

「じゃあ、俺の書籍化には涼さんは無関係?」
「……もしかして、オレが口添えしたと思ってました?」

 眉根を寄せて少しだけ不機嫌な表情をする涼さん。普段からどれだけ機嫌が悪くなっても、こんな風に俺に対しては嫌な部分を見せなかったのに。俺の不用意な言葉が彼を傷つけていると気づき、自然と「ごめんなさい」と言葉がこぼれ落ちていた。

「まあ、オレがK出版の身内だと認めた時点で、健一さんが疑うのも理解できますけどね。でも、K出版の社長の椅子を蹴ったことで、経営自体ノータッチですから。そもそもオレが言ったからって、あの博貴がすんなりとオレの提案を快諾するとは思いませんよね」
「……うん」

 まだ数回しか会ったことないけど、博貴さん……あの人はかなり胡散臭い人物だと思う。
 あの年齢で大手企業を経営しているのだから、それなりに苦労とかしてたんだろうけども、基礎部分からして普通の俺とは違うって感じさせるんだよな。物語ファンタジーで言えば、賢者とか魔法使いとか。頑固で高みから見下ろして嘲笑してそうなイメージ……あ、今考えてる話で迷っていた受けの魔法使いの師匠の雰囲気に合うかも。

「その様子だと、また何か楽しい事を思いついたようですね」
「ほら、前に新しい話で悩んでたキャラクターがいたよね。社長が雰囲気ピッタリだったから、どこで出そうかなって」
「ね? 自分で気づいてないかもしれないけど、健一さんは誰の手も借りなくても、ちゃんと自分で人を魅了できる世界を作れる人なんですよ。……オレが何も言わなくてもね」
「……あ」

 きょとりと目を瞬かせて涼さんを見る。そこにはさっきまであった不機嫌な部分はどこにもなく、ただ穏やかで慈しむ笑みを浮かべて俺を見ていた。

「オレは健一さんが作る世界も、健一さんの全ても大好きです。ずっと傍にいてあなたを守り愛したい。オレがこんな風に人を思いやれる機会を与えてくれた健一さんと、これからの人生を共に歩きたいんです」

 まっすぐに俺を見つめて、心奥深くにまで刻むような涼さんの言葉。さっき以上に心臓がドキドキして、顔が熱い。好きな人からのプロポーズがこんなにも破壊力があるとは想像もできなかった。

「涼さん、本当にこんな俺でもいいの? すぐ疑心暗鬼になったりするし、きっと何度も涼さんを困らせる事も多くなっていくと思う。……俺、多分、涼さんの荷物になる気がするんだ」
「……健一さんって、結構大胆なことするくせに、たまに反対方向に全力疾走する位、後ろ向きになりますよね」

 俺はなぜプロポーズされた相手から、褒められてるのか貶されてるか曖昧な言葉を投げかけられているのだろうか。というか、反対方向に全力疾走って……ただの逃走では。

「健一さんが真面目すぎるほど真面目で、石橋叩いて渡るほど慎重なのも理解してますけど、そんなにガチガチに生きてきて疲れません?」
「……」

 クスクス笑いながら言われたせいで、反応するのが遅れてしまった。胸がドクドクと痛いくらいに鼓動を打ち、一瞬沈黙したあとに口を開く。嘘偽りない俺の気持ちを。

「まあ、結構疲れるかな。でも、これも俺だ。こんな俺だからこそ、あの物語たちが生まれた」
「……確かに、健一さんが頑固で頭が柔らかくないから、オレの好きなお話が読めるわけですから」
「それって、聞きようによっては貶めてるようにしか聞こえないんだけど」
「貶めてないし、けなしてもいませんよ。オレの好きな健一さんの魅力のひとつです」
「っ!!」

 涼さんは俺を好きだ愛してるだと言いながらも、殺したいのだろうか。もう心臓が持たないんだけど。

「ねえ、健一さん。これからはオレの傍で、色んな顔を見せてくれませんか。泣いてる顔も、悔しそうな顔も、怒ってる顔も、それから沢山の笑顔をふたりの間を死が分かつまで」
「死が……分かつ、まで」
「健一さんがしわくちゃのおじいちゃんになっても、オレはずっと愛してます」
「お……俺も……っ」

 もう我慢できなかった。ボロボロと涙が溢れては頬を転がり、海風がさらっていく。そんな俺を涼さんは愛おしいと言わんばかりの笑みで、親指で滂沱する俺の涙を拭い、そっと抱きしめてくれる。
 何度こうして涼さんに抱きしめられただろう。その度に安堵を覚え、包まれる温もりに愛おしさが込み上げた。
 生まれて初めて人からプロポーズをされた。その相手は、俺の人生では絶対にないだろうと思っていた同性の涼さんで、死ぬまで愛してくれると言ってくれた。
 これは夢なんじゃないだろうか。こんなに都合のいい展開なんて、物語でしか見たことがない。

「ねえ、涼さん」
「はい?」
「これ、夢じゃないよね。こんな素敵な場所で、イケメンの涼さんからプロポーズとか。普通なら『なに、そのラノベ』とか言いそうだもん」
「また突拍子もない事を考えてますね。現実ですよ。なんなら、ほっぺでも抓ってみましょうか?」

 と、涼さんは俺の頬をキュッと指で挟み、それから優しいキスをくれた。


 ひとしきり甘い甘いキスを交わした後、涼さんお手製のお弁当をふたりで仲良く食べた。
 小ぶりな三段のお重には、俵型の筍ごはんのおにぎりと、海苔の帯をつけた塩おにぎり。菜の花のおひたしにブロッコリーと甘辛ツナのマヨネーズ和え、人参とインゲンの肉巻きに、オレンジマスタードのチキンソテー。唐揚げじゃないんだと言ったら、生姜を切らしていたようで、変更したんだと。
 その代わりお弁当定番のタコさんウインナーとか、卵焼きはちゃんと入っていたので大満足。
 最後のお重にはデザートが入っていて、ぎっしり保冷剤が詰め込まれた中には、淡いピンクのミルクババロア。上には真っ赤なイチゴが乗っていて可愛らしい。

 会社に勤めてた時に作ってくれていたお弁当もそうだったけど、涼さんは俺が苦手とする物は一切入れてなかった。常に俺が美味しいと思える物を食べてもらいたいからだと、前に言ってくれていたけども、普通なら料理人の人ってそういうの考えずに作ったりするんじゃないかって思ってたら。
 涼さんも幼少期に苦手な物を無理やり食べさせられて以降、見るのも嫌になった食べ物があるので、他人に自分の主張ばかり押し付けるのはかわいそうだと感じていたようだ。
 ちなみに、涼さんは雲丹が大嫌いだそうで、潮臭さと味が気持ち悪くなるんだと。

 ふたりで青い花畑を背に色々話ながら、お花見弁当に舌鼓を打った。
 真っ青な海を眺めながら、桜色のババロアの舌で溶ける食感に幸せを感じつつ、俺はゆっくりと口を開く。

「……涼さん。こんなに面倒臭い俺だけど、これからも末永くよろしくお願いします」

 息を呑む気配に顔を上げると、そこには涼さんの輝くような笑顔があり、俺もつられて同じような満面の笑みを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

処理中です...