冷甘メイドの怪奇図書

要 九十九

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第一章「最初の一冊」

とあるメイドの備忘録2

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 扉を開け、部屋の中に入ると、が私を出迎えてくれる。やはり、入り口から直ぐ見える位置に貼ったのは正解だった。B1サイズまで引き伸ばしたお陰で、部屋の大体何処からでも、あのお顔を確認出来る。
 ポスターに手を振りながら、洗面所へ向かう。そこで、軽く顔を洗い、鏡に映る自分を確認する。今日は本当に色々な事があった。
 鷹見? と言ったか、あの警察の人間が来た時には本当に驚いた。隠していた筈の怪奇図書を、何故か南ぼっちゃま自身が見つけ出し、結局本に書かれていた通りに出会ってしまった。
 やはり、怪奇図書に書かれている内容を変えるのは難しいのだろうか? 結局あそこに書かれていた情報を元に、先に動こうとしても結果は同じだった。
 挙げ句、結論を先延ばしにした私のせいで南ぼっちゃまを危ない目に遭わせたのだから笑えない。
 鏡を使ってメイド服の背中を見ると、至る所が破け穴が開いていた。本当に今日は油断した。屋敷の掃除中、遠くに大きな反応を感じて向かったが、まさかあんな事になるとは思ってもいなかった……。
 工事現場の2階で、意識を集中した時に感じた気配は3つだった。今にも消えそうな弱々しい力と、小さな力、そしてそれよりも少し強い力を持った女。
 だからこそ、あの女が屋敷で最初に感じた大きな気配の持ち主だと思っていたのだが、まんまと騙された。あの双腕の男が、気配を抑えたり、コンクリート片を投げたり、それ以外の小細工を他に使ってきていたら、私はあの場で死んでいたかもしれない。実際、南ぼっちゃま達がいなければ、本当に危なかった。
 男を倒した後に、工事現場で感じた気配、3つの内の残り1つ……弱々しい力の持ち主は、姿を見ることもなく、いつの間にかあの場から消えていた。
 それが何処に行ったのかも気になるが、それよりも……。
 あの時、男の攻撃を受けて弱っていた私を、南ぼっちゃまが抱き締めた瞬間、いつも以上の。あれは、何だったのだろうか?
 結局あの後、南ぼっちゃまと鷹見とは分かれ、明日の朝、改めて会うという事になった。
 分かれる間際、南ぼっちゃまは私の事をとても心配してくれていたのだが、自分でも驚くくらいに力が満ち溢れていたので、思わず1人で戻ってきてしまったのを、私は今さら後悔している。
 とはいえ、南ぼっちゃまは本当に優しいお方だと思う。私に対するその気遣いだけでも、私の心は温かい気持ちでいっぱいになった。
 顔をもう一度洗いタオルで拭いて、鏡を見ながら髪も少し整えて、ベッドまで戻る。本当なら直ぐにお風呂にも入りたい所だが、今日は色々とありすぎた……。体は元気といえば元気なのだが、心の方が悲鳴を上げている。今日は早く寝て、明日の早朝にしよう。
 ベッド横のタンスの上に、頭から取ったカチューシャを置き、その横にある大事な物を仕舞う小物入れに、ガラスの宝石がついた髪留めのゴムを壊さないように慎重に入れる。背中に当たる長い髪に、指を入れて軽くすく。髪のケアをやり始めたら切りがないので、程ほどにして途中で切り上げる。
 ブーツを脱いで、絨毯の上に。腰辺りに作った結び目を解いて、メイド服の上に着けたエプロンを外す。改めて確認すると、メイド服程ではないが、破片のせいでこちらも少し破けている。ベッドの横に置いた洗濯物用の籠に、そのエプロンを投げ入れた。
 次はメイド服だ。背中にあるファスナーを下ろして、背中が穴だらけになったメイド服を脱ぐ。その下に着ていた白のタンクトップも続けて脱いで、メイド服と一緒に籠に放り投げた。
 タンクトップの下に着ていたブラもよく見ると、背中のベルト部分が何ヵ所か切れていた。切れ切れになりながらも、何とかブラとしての役割を果たしてくれてはいるが、強く引っ張れば直ぐに千切れそうだ。慎重に後ろのホックを外して、これは優しく籠の中に。
 服というしがらみから解放された上半身の調子を確かめる為に、腕をグルグル回してみる。
 うん、大丈夫だ! 姿見の前でくるりと回って確認する。いや、全然大丈夫じゃなかった。体というか、背中が血だらけ過ぎて、流石にこのまま寝る訳にはいかない……。
 洗面所でタオルを濡らして急いで戻ってくる。左手で前に持ってきた髪を押さえながら、姿見で確認しながら、背中をゆっくりと拭いていく。傷は既に全て塞いでいた。後は血さえ拭えれば見た目的には問題ないだろう。
 いざ、やってみると、これを1つ1つ拭いていくのは結構大変だな。そうだ! 1ヶ所に纏めよう。思い付くのが早いか、拭き取りやすい位置に。力のお陰で、たった一拭きで背中が綺麗になった。血がついたタオルも籠へ投げる。
 残りはパンツとガーターベルト、ストッキングだけだ。下に着けているガーターベルトに引っ掛からないように、ゆっくりとパンツを脱いで籠に。それから、ベッドに腰掛けて足を上げながら、ガーターベルトを外していく。前後左右に4つある留め具をストッキングから1つずつ取っていき、最後にウエスト部分にあるホックを外して、これも籠へ。
 残るはストッキングだけだ。よく見てみると、これが一番破片のダメージが大きいかも知れない。ズタズタと言う表現が一番しっくりくるほどに、それは破けていた。
 ベッドに腰掛けたまま、ストッキングをこれ以上裂かないように、太ももからゆっくりと下ろして脱いでいく。裂けまくってる影響か、少し引っ掛かりながらも、ストッキングは予想以上にするりと脱げた。
 何とか左右とも脱げたが、これに関してはどうしようもなさそうなので、買い替えた方が明らかに良さそうだ。まぁ、大体何処でも売ってるし、まだ替えも何枚かあった筈なので、問題はないだろう。
 破けたストッキングは一応、籠の中に投げ入れたが、上手く入らずに半分ほどはみ出ている。もう戻しに行くのも面倒になって来たので諦めた。
 本来なら、大浴場の脱衣所にある洗濯機の所まで洗濯物を入れた籠を持っていきたかったが、それも明日でいいだろう。

 やっぱり全裸が一番落ち着くなぁ……。ベッドに置いてあるに飛び込んで、そのまま強く抱き締める。

 抱き枕に顔を埋めながら思い出す……。
「……あぁぁぁーー!! 恥ずかしい!! 私は何て事を!!」
 体を支えて貰うまでは良かったのに、嬉しくなってついつい思いっきり抱き締めてしまった。
 恥ずかしがってるのバレてなかったかな? 今、思い出しただけでも何だか恥ずかしくなってきた。枕を抱えたままベッドの上をゴロゴロと左右に転がって恥ずかしさを紛らわす。
 いや、よく考えよう……。そう、あれは不可抗力だった! だから恥ずかしがる必要なんてない筈だ。あの時は仕方なかった――――という事にしておこう……。そうじゃないと私の心が持たない。
 まだベッドの上をゴロゴロと転がっていた私だったが、ふと冷静になる。そうだ……。浮かれてばかりもいられない。
 北斎は、怪奇図書を南ぼっちゃまに見せて、どうするかは本人に決めさせようとしていた。でも、私は彼をわざわざ危険に巻き込む必要はないと、見せるのを反対していたのだ。
 でも、北斎が亡くなって、どうすればいいのか自分で決められず、結果的に中途半端な事をしてしまった。
 そうだ。本当に巻き込ませたくないのなら、怪奇図書なんて1つも見せなければ良かったのだ。それなのに、北斎の意思を尊重して何冊か見せたかと思えば、肝心な怪奇図書は隠したり、何もかもの行動が最初から本当に中途半端だった。
 こんなのまるで、私の存在と同じじゃないか……。完全な人間とも言えずに、完全な化け物とも言えない。行動にまでそれが表れている。
 そんな中途半端な事を南ぼっちゃまにしておいて、北斎や自分の事は信用して欲しいだなんて、私はどれだけ勝手なんだ。
 今日だって、その私の中途半端さのせいで、南ぼっちゃまを危険な目に遭わせた。どちらかを選べない、それを貫き通す覚悟もない、私はどうすればいいんだ……?
 まだ、。早く選ばなければ、取り返しのつかない事になる可能性だってある……。
 どれだけ悩んでも、答えはやはり出てこない。抱き枕を腕で挟んで持ちながら、天井に貼ってあるを見る。
 うん。やっぱりあそこに貼ったのも正解だった! 折れそうな心も、それらを見るだけで元気が湧いて来る。色々なタイミングで、南ぼっちゃまを隠し撮りした甲斐があった。

 何気なく、ベッド横のタンスの上に置いた時計を確認すると、帰ってきてからかなりの時間が経っていた。明日は朝から大変だ。思い悩むのは一旦止めて、今日はとりあえずさっさと寝てしまおう。

 その日の私は、南ぼっちゃま抱き枕を抱き締め、天井の南ぼっちゃまポスターを見ながら眠りについたのだった……。
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