旦那様、彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです

ましゅぺちーの

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第一章 虐げられる妻、からの公爵様との契約です!

25 公爵閣下との契約

マイアード侯爵夫妻の結婚式から数日後、フルールの元へは机に乗りきらないほどの大量の手紙が届いていた。


「こ、この手紙の量は一体何なの……!?」
「奥様の噂を聞きつけた貴族たちが、我先にとパーティーやお茶会に誘っているようです……!」


フルールとほとんど面識のない名門伯爵家にマイアード侯爵夫妻と親しくしている家門の者たち、さらには王国に数少ない公爵家まで。
これまで彼女との関わりを持とうとしなかった者たちが、ここぞとばかりにフルールと親しくなろうと招待状を送っている。


(まぁ、今までフルールはこういう招待にはほとんど行っていなかったから……)


来ないとわかっている人をわざわざ誘うなんて、そんな面倒なこと普通だったらしない。
フルールは招待状を一枚一枚入念に確認した。


「あの、奥様……奥様の決めたことに反対はしませんが……付き合う家門はしっかりと選ぶべきかと」
「……そうねぇ」


手紙の中には、フルールの実家と敵対している家門からのものまで含まれていた。
レスティア伯爵家で虐げられているフルールを味方に付け、家の機密情報を盗ませるつもりなのかもしれない。


(前世と違って、こういうことも気にしないといけないのね)


前世のように来る者拒まず形式で、全員友達として受け入れるわけにはいかないということだ。
じっくりと考え込んでいたそのとき、外から足音と声が聞こえた。


「――な、急に入ってくるだなんて無礼ですよ!」
「誰に向かって言っている?」
「誰だなんて知らないですよ!あなたは一体誰なんですか!何の先触れもなく突然来るなんて……」


言い争う声が近付くと同時に、フルールの執務室の扉が開けられた。


「ちょ、ちょっと!」
「――奥様はいるか?」


扉から姿を現したのは、フルールが一ヵ月前に会ったアレクシス・ウィンターベルだった。


「ウィ、ウィンターベル公爵様……!?」
「こ、公爵!?公爵閣下だったんですか!?」


彼と言い争いをしていた侍女の顔が真っ青になった。
フルールは椅子から立ち上がり、開いた扉の間に立つ彼の元へ駆け寄った。


「公爵様、どうしてここへ?一体何をしに……」
「夫人」


アレクシスが、フルールに手を差し伸べた。フルールは目を見開いて長身の彼を見上げた。


「――お前と契約をしに来た」



***


侍女たちを下がらせたあと、フルールとアレクシスは彼女の執務室で二人きりになった。
あの日のように、二人はテーブルを挟んで向かい合って座った。


「久しぶりだな、伯爵夫人」
「お久しぶりです、公爵様」


目の前に座るアレクシスは腕を組んで彼女を見つめていた。
まるで面白い観劇でも見るかのように、口元には笑みが浮かんでいる。


「結婚式での評判は聞いている、お前がリメイクした侯爵夫人のドレスが話題になったそうだな」
「ええ、自分でも驚いています」


アレクシスはマイアード侯爵夫妻の結婚式には参列しなかった。


(そんな彼が私の評判を知っているということは……)


それほどまでに、社交界で彼女の噂は広まっているということだ。結婚式からはまだ一週間も経っていなかった。貴族夫人はお喋りだから仕方が無い。


フルールにとってはそっちよりもずっと気になることがあった。


「ところで……先ほどの発言の詳細を聞かせていただきたいのですが……」
「ああ、そっちの方が大事だったな」


アレクシスは忘れていたのか、思い出したように話し始めた。


「お前の提案を受け入れることに決めた」
「と、いうことは……出資をしてくれる、ってことですか!?」


フルールは嬉しさのあまり体を乗り出した。こんなにも上手くいくだなんて。もっと苦戦すると思っていた彼女にとっては吉報だった。


「いや、そうではない」
「え……?」


フルールの表情が一瞬にして曇り始めた。


(どういうこと……?私の提案を受け入れるのに出資はしないの……?)


アレクシスは組んでいた腕をほどき、頬杖をついて口を開いた。


「――お前を俺のビジネスパートナーにしたい」
「……ビジネスパートナー?」


フルールは口を開けたまま呆然とした。彼は理解が追い付いていない様子の彼女に説明を加えた。


「ああ、単に俺がお前の事業を手伝うだけではなく、お前も俺の事業を手伝うんだ」


ビジネスパートナーとは、仕事面において同じ目的や利益を目指しながら協力し合うパートナーのことだ。ルースとアリアのような関係が良い例だろう。まぁ、あの二人は単なるビジネスパートナーではなく、愛人関係でもあったが。


フルールは彼の提案を素直に受け入れられなかった。彼女は前世でも経営学なんて学んだことがない。


「わ、私……公爵様がしているようなことに関しては詳しくないんです……そんな私がお力になれるとは思えません……」
「それでもいい」


アレクシスは何の迷いもなく言い切った。フルールはそんな彼に、さらに困惑した。アレクシス・ウィンターベルともあろう人間が、何故何の利益ももたらさない女をわざわざビジネスパートナーに選ぶのか。


「それでもいいだなんて、一体どうしてですか……?明らかに私よりももっと適任がいるはずでは……」
「どうしても理由が必要か?ならこういうのはどうだ?」


その瞬間、彼女と目を合わせた彼が不敵に笑った。


「――俺はお前を気に入ったから、パートナーにしたい」
「……!」


アレクシスはソファから立ち上がると、座ったままのフルールの元へゆっくりと歩み寄った。
それは、あの日彼女が彼にした行動と一致していた。


アレクシスが顔を近付けると、フルールの顔は赤く染まった。
どうしてこんな、自分からやったときは平気だったのに。フルールは心の中で男性に対する免疫のない自分を恨んだ。
前世でも彼女は恋人ができたことが無かった。


彼はフルールの耳元に唇を近付け、囁いた。


「あの日、お前は俺に対して一度でいいから自分を信じてほしいと言った。次はお前の番だ」
「え……?」


そこまで言うと、アレクシスは至近距離で彼女と目を合わせた。


「――一度でいいから、俺を信じろ」


力強い声色と、揺るぎない眼差し。
彼は信じるに値する人だ。絶対に私を見捨てたりはしない。
これまで他人から裏切られ続けてきたフルールの本能がそう言っていた。


「わかりました、公爵様の提案を受け入れます」
「契約成立だな」


これでお前は俺のものだ、とでも言うかのように彼はニヤリと笑った。
獲物を捕らえた狼のような顔つきに、フルールの顔はさらに赤くなった。




第一章・完



***





第一章完結となります!
ここまで読んでくださってありがとうございました!


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