旦那様、彼は仕事において必要不可欠なパートナーなのです

ましゅぺちーの

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第二章 公爵様と共にお店を開きます!

2 王妃陛下のサロン

アレクシスとの契約締結から一週間後。
フルールはとある貴婦人たちの集まりに参加していた。


(な、何だか緊張するわね……)


彼女はチラチラと部屋の中に視線を彷徨わせた。


宝石を体中に身に着けた女性たちが真剣な表情で椅子に座っている。
彼女たちが囲んでいる丸いテーブルには、お茶菓子が並べられているが、誰一人として口にはしていない。


(私の場合、食べても胃が痛くなりそう……)


フルールが今回いるのはいつものように、同年代たちを集めたのほほんとした夫人会ではなかった。
しばらくの間部屋に沈黙が流れたあと、上座に座っていた人物が口を開いた。


「――これより、定例の夫人会を始めます」
「はい、


その言葉に合わせて手に持っていた扇子を開いて口元を隠したのは……
オルティエ王国の国母であり、最高権力者の妻――カトリーナ・オルティエ王妃陛下だった。


威厳に満ち溢れたその姿、力強い視線に、フルールは思わず身震いした。


何故、このような事態になったのか。
それは、遡ること数日前――


***



その日、フルールはアレクシスと会議をしていた。
話の内容は主に、フルールの開くブティックについてだ。


「グロリア夫人、ドレスについてだが……」
「そのことなんですけど!私、もう何個かデザイン画を作成してきたんです!」


アレクシスの言葉を遮ったフルールは、机の上に数枚のデザイン画を置いた。


「……」


彼はしばらくフルールの描いたデザイン画を見つめていた。


(どう!?見直したでしょう!?)


フルールは前世でロリータファッションにハマり、その系統の洋服を山ほど見てきている。
そんな彼女にとって、ドレスを数着デザインするなど朝飯前だ。


フルールは自信満々でアレクシスの返事を待った。
しかし、彼はそんな彼女に冷静に問いかけた。


「……お前、事前に調査は済ませたのか?」
「ちょ、調査……?」


フルールはアレクシスが何を言っているのかわからなかった。
首をかしげていると、彼は呆れたような顔で頬杖をついた。


「ただ自分の好きなものを作ればいいと思っていないか?」
「そ、それではいけないんですか……?」


アレクシスは険しい顔でフルールを見つめた。


「ダメだ。ブティックを開く以上、最新の流行を徹底的に調査し、今後の傾向を予測する。そのうえでデザインを考える必要がある」
「……」
「お前は経営というものを何もわかっていないようだな」


返す言葉も無かった。
フルールはアレクシスと違って、経営については学んだことが無い。


(そうよね……やっぱりそこまでしないとダメだよね……)


今日、フルールは初めて経営の難しさというものを知った。


「最新の流行を調査……街にでも行けばわかるかな……」
「……」


フルールは、近いうちに王都にあるブティックを片っ端から見て回ることをアレクシスに提案した。
しかし、彼はそんなフルールの意見を気にも留めず、意外なことを口にした。


「――お前、王妃のサロンにでも行ってこいよ」
「…………………え?」


フルールは驚いて彼を見上げた。
冗談を言っているのかと思ったが、彼の顔は真剣そのものだった。


(王妃って王妃陛下のことよね?王妃陛下のサロンに、私が?)


王妃陛下が王妃宮で定期的に開催しているサロンは、貴族女性たちがよく開くお茶会とは全く違うものだ。
高位貴族であり、なおかつ王妃陛下から直接指名された貴婦人のみが参加できる特別な会だった。


フルールは当然、参加したことなど無かった。


(候補に入ることすらとても難しい会なのに……)


大体、フルールは王妃陛下と話したことすらほとんどない。
そんな彼女が次のサロンの候補に入る可能性は限りなくゼロに近いわけで。


「あの、公爵様。お言葉ですが……王妃陛下のサロンは誰でも参加できるものではありませんよ」
「だろうな、あの人は付き合う人間を選ぶ優生思想の持ち主だから」
「では一体どうして……!」


そこまで言いかけたとき、アレクシスが不敵な笑みを浮かべた。


「――だが夫人、俺にできないことがあると思うか?」
「……!」


醸し出される冷たいオーラに、人間味を感じない酷薄な笑顔。
その姿はまるで映画に出てくるラスボスのようだった。


(や、やっぱり本当は悪役だったのかしら……?)


報われない可哀相な男というのは私の勘違いで、本当はラスボスだったのかもしれない。
ラスボスを早くに味方に付けた私、もしかしたら運が良いのかも。
いや、結局最後に倒されてしまうのなら運が悪いのか……?


「具体的にはどうするおつもりですか……?」
「俺がお前を王妃に推薦してやろう」
「す、推薦……ですか!?」


アレクシスは公爵という地位に加えて、オルティエ王家の血を引く数少ない人物だ。
そのため、彼が直々に推薦した相手なら王妃陛下も招待する可能性が高い。


「そう不安になるな、ただちょっとお茶を飲んで話してこればいいだけだろう?」
「あ、相手が王妃陛下となると話は別ですよ……!」
「王妃も国王も普通の人間だ、ただ性格が悪いってだけで」


平然とそんなことを口にしたアレクシスに、フルールは慌てふためいた。


(お、王族に対してよくもそんなハッキリと……!)


狼狽えるフルールに、アレクシスはクックッと笑みを零した。
もはやそのような反応を楽しんで言っているのではないかと疑ってしまうほどだ。


「そんなに心配なら俺がお前に処世術を教えてやるよ、こっちに来い」


彼は右手を上げ、指を動かしてフルールを手招きした。
その手に導かれるように、彼女は彼に顔を近付けた。


アレクシスの手が届く位置まで来ると、彼はフルールの首の後ろをグッと掴んで引き寄せた。


「……!」


強引なアレクシスに、フルールは微かに頬を染めた。
そして彼は、彼女の耳元で囁いた――





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