1 / 37
お飾りの王妃
しおりを挟む
王妃カテリーナはニール王国の筆頭公爵家の令嬢で、幼い頃より王太子の婚約者に決められていた。
王太子とカテリーナの仲は悪くなかった。舞踏会があるときは毎回必ずドレスを贈ってエスコートしてくれるし、カテリーナの誕生日になるといつも贈り物をしてくれた。彼にとっては義務的なものだったかもしれないが、カテリーナにとってはそれが嬉しかった。いつしか彼女は婚約者である王太子のことを好きになった。
そしてその王太子とは長い婚約期間を経て、三年前に結婚した。その頃には既に先王も退位しており、王太子は王になっていたためカテリーナは王太子妃ではなく王妃となった。
彼女は信じていた。愛は無くともきっと幸せな結婚生活を送れると。
しかし、夫となった国王は正妃である自分に見向きもせず多くの女を囲った。
最初の側妃が迎えられるまでそう時間はかからなかった。それからは一人、また一人と増えていきそのたびにカテリーナの胸は痛んだ。
国王とカテリーナは白い結婚である。なので子供が出来るわけもないし、そうなれば側妃を迎えるのは当然のことだろう。
カテリーナは王太子時代の彼に恋をしていた。だが今のカテリーナには国王を想う気持ちは微塵も残っていない。
~カテリーナ視点~
「―王妃陛下、国王陛下が新しい愛妾を迎えるようです」
部屋にいた私にそう報告してきたのは王妃付きの侍女だ。
「そう・・・」
私は窓の外を眺めながら興味の無さそうに返事をした。
現在後宮には三人の側妃と二人の愛妾がいる。私の夫はたった三年間で五人もの女性を見初めたようだ。無類の女好きと言われた先王ですら、正妃が存命のときはこれほど派手にはやっていなかった。
私はハァとため息をついた。
(後宮が満員になるのも時間の問題ね・・・・・・)
結婚してから分かったことがある。それは夫である国王が華やかな美女を好むということだ。
現に側妃、愛妾たちは皆社交界で美姫として名を馳せた令嬢たちだった。それに対して私はどちらかといえば地味な顔立ちだ。
そのことに気が付いたのは夫が三人目の側妃を迎えた時だった。
そのときまでの私は執務や公務を頑張っていればいつか陛下が私を見てくれるって信じていた。
だけどそれを知ってからは期待することをやめた。こればっかりはどうしようもない。結局、私の努力なんて全て無意味だったわけだ。
そう思い、自嘲する。
◇◆◇◆◇◆
その日、私はいつものように王宮の廊下を歩いていた。
(退屈だわ・・・陛下はどうせ私の元へは来ない・・・)
そんなことを考えていたそのとき、前から貴族とは思えないほどマナーのなっていない女が走ってきて私は思わず眉をひそめた。
「―まあ、カテリーナ様!」
私に駆け寄り、そう言ったのは第一側妃のリリア様だ。
子爵家の令嬢で、陛下が一番最初に見初めた側妃。側妃になる前は社交界の華と謳われるほどの美貌を持つ令嬢だった。高位貴族では無かったものの、その美しさから数多くの貴族令息に求婚されたという。そんな彼女が最終的に選んだのは国王の側室という地位だった。きっと王の寵愛を得れば何でも出来ると思っているのだろう。
(・・・彼女は本当に貴族の令嬢として生まれたの?)
貴族令嬢が走るだなんてはしたないし、身分の低い者から高い者へは原則声をかけてはいけない。
そんなことも知らないのか。
そう思ったが、叱って陛下に告げ口されるのも面倒なので私は適当に相手をする。
「ごきげんよう、リリア様」
私は口元に笑みを携えてリリアに挨拶をした。
「カテリーナ様はどちらへ行かれるのですか?」
「本を読みに書庫へ行こうかと」
私の言葉にリリア様の口角が上がった。
「あら、そうだったんですね!本を読む時間があるだなんて羨ましいですわ。私なんていつも陛下のお相手をしなきゃいけなくて、とっても忙しいんです」
そう言ってリリア様は私を馬鹿にしたような笑みを見せた。
そんなことを言われても別に何ともなかった。私はもう陛下を愛していないのだから。
(・・・いつも?陛下のお相手は現状五人もいるのだからそんなことあるわけないでしょう)
心の中でそう思いながらも適当に返す。
「お体に気を付けてお過ごしくださいね。リリア様」
そう言って微笑みかけるとリリアは悔しそうな顔をする。
「ッ・・・。ありがとうございます、カテリーナ様ッ・・・」
リリア様はそう言うと、そのまま私の前から立ち去った。
(行ったようね)
リリア様と別れ、私は再び廊下を歩き始める。
私とすれ違った使用人たちは皆口々に言った。
「王妃陛下よ・・・」
「結婚してまだ三年なのに五人も別の女を作られるだなんて憐れね・・・」
「どうやら本人は白い結婚だそうよ」
「まぁあの見た目じゃあねぇ・・・」
「側妃様たちと比べるとどうしても見劣りしてしまうものね」
こんなのにはもう慣れたがハッキリとそう言われるとなかなか悲しくなる。
(はぁ・・・いっそのこと離縁して家に帰りたい・・・)
王太子とカテリーナの仲は悪くなかった。舞踏会があるときは毎回必ずドレスを贈ってエスコートしてくれるし、カテリーナの誕生日になるといつも贈り物をしてくれた。彼にとっては義務的なものだったかもしれないが、カテリーナにとってはそれが嬉しかった。いつしか彼女は婚約者である王太子のことを好きになった。
そしてその王太子とは長い婚約期間を経て、三年前に結婚した。その頃には既に先王も退位しており、王太子は王になっていたためカテリーナは王太子妃ではなく王妃となった。
彼女は信じていた。愛は無くともきっと幸せな結婚生活を送れると。
しかし、夫となった国王は正妃である自分に見向きもせず多くの女を囲った。
最初の側妃が迎えられるまでそう時間はかからなかった。それからは一人、また一人と増えていきそのたびにカテリーナの胸は痛んだ。
国王とカテリーナは白い結婚である。なので子供が出来るわけもないし、そうなれば側妃を迎えるのは当然のことだろう。
カテリーナは王太子時代の彼に恋をしていた。だが今のカテリーナには国王を想う気持ちは微塵も残っていない。
~カテリーナ視点~
「―王妃陛下、国王陛下が新しい愛妾を迎えるようです」
部屋にいた私にそう報告してきたのは王妃付きの侍女だ。
「そう・・・」
私は窓の外を眺めながら興味の無さそうに返事をした。
現在後宮には三人の側妃と二人の愛妾がいる。私の夫はたった三年間で五人もの女性を見初めたようだ。無類の女好きと言われた先王ですら、正妃が存命のときはこれほど派手にはやっていなかった。
私はハァとため息をついた。
(後宮が満員になるのも時間の問題ね・・・・・・)
結婚してから分かったことがある。それは夫である国王が華やかな美女を好むということだ。
現に側妃、愛妾たちは皆社交界で美姫として名を馳せた令嬢たちだった。それに対して私はどちらかといえば地味な顔立ちだ。
そのことに気が付いたのは夫が三人目の側妃を迎えた時だった。
そのときまでの私は執務や公務を頑張っていればいつか陛下が私を見てくれるって信じていた。
だけどそれを知ってからは期待することをやめた。こればっかりはどうしようもない。結局、私の努力なんて全て無意味だったわけだ。
そう思い、自嘲する。
◇◆◇◆◇◆
その日、私はいつものように王宮の廊下を歩いていた。
(退屈だわ・・・陛下はどうせ私の元へは来ない・・・)
そんなことを考えていたそのとき、前から貴族とは思えないほどマナーのなっていない女が走ってきて私は思わず眉をひそめた。
「―まあ、カテリーナ様!」
私に駆け寄り、そう言ったのは第一側妃のリリア様だ。
子爵家の令嬢で、陛下が一番最初に見初めた側妃。側妃になる前は社交界の華と謳われるほどの美貌を持つ令嬢だった。高位貴族では無かったものの、その美しさから数多くの貴族令息に求婚されたという。そんな彼女が最終的に選んだのは国王の側室という地位だった。きっと王の寵愛を得れば何でも出来ると思っているのだろう。
(・・・彼女は本当に貴族の令嬢として生まれたの?)
貴族令嬢が走るだなんてはしたないし、身分の低い者から高い者へは原則声をかけてはいけない。
そんなことも知らないのか。
そう思ったが、叱って陛下に告げ口されるのも面倒なので私は適当に相手をする。
「ごきげんよう、リリア様」
私は口元に笑みを携えてリリアに挨拶をした。
「カテリーナ様はどちらへ行かれるのですか?」
「本を読みに書庫へ行こうかと」
私の言葉にリリア様の口角が上がった。
「あら、そうだったんですね!本を読む時間があるだなんて羨ましいですわ。私なんていつも陛下のお相手をしなきゃいけなくて、とっても忙しいんです」
そう言ってリリア様は私を馬鹿にしたような笑みを見せた。
そんなことを言われても別に何ともなかった。私はもう陛下を愛していないのだから。
(・・・いつも?陛下のお相手は現状五人もいるのだからそんなことあるわけないでしょう)
心の中でそう思いながらも適当に返す。
「お体に気を付けてお過ごしくださいね。リリア様」
そう言って微笑みかけるとリリアは悔しそうな顔をする。
「ッ・・・。ありがとうございます、カテリーナ様ッ・・・」
リリア様はそう言うと、そのまま私の前から立ち去った。
(行ったようね)
リリア様と別れ、私は再び廊下を歩き始める。
私とすれ違った使用人たちは皆口々に言った。
「王妃陛下よ・・・」
「結婚してまだ三年なのに五人も別の女を作られるだなんて憐れね・・・」
「どうやら本人は白い結婚だそうよ」
「まぁあの見た目じゃあねぇ・・・」
「側妃様たちと比べるとどうしても見劣りしてしまうものね」
こんなのにはもう慣れたがハッキリとそう言われるとなかなか悲しくなる。
(はぁ・・・いっそのこと離縁して家に帰りたい・・・)
71
あなたにおすすめの小説
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
【完結済】自由に生きたいあなたの愛を期待するのはもうやめました
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
伯爵令嬢クラウディア・マクラウドは長年の婚約者であるダミアン・ウィルコックス伯爵令息のことを大切に想っていた。結婚したら彼と二人で愛のある家庭を築きたいと夢見ていた。
ところが新婚初夜、ダミアンは言った。
「俺たちはまるっきり愛のない政略結婚をしたわけだ。まぁ仕方ない。あとは割り切って互いに自由に生きようじゃないか。」
そう言って愛人らとともに自由に過ごしはじめたダミアン。激しくショックを受けるクラウディアだったが、それでもひたむきにダミアンに尽くし、少しずつでも自分に振り向いて欲しいと願っていた。
しかしそんなクラウディアの思いをことごとく裏切り、鼻で笑うダミアン。
心が折れそうなクラウディアはそんな時、王国騎士団の騎士となった友人アーネスト・グレアム侯爵令息と再会する。
初恋の相手であるクラウディアの不幸せそうな様子を見て、どうにかダミアンから奪ってでも自分の手で幸せにしたいと考えるアーネスト。
そんなアーネストと次第に親密になり自分から心が離れていくクラウディアの様子を見て、急に焦り始めたダミアンは─────
(※※夫が酷い男なので序盤の数話は暗い話ですが、アーネストが出てきてからはわりとラブコメ風です。)(※※この物語の世界は作者独自の設定です。)
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~
由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。
両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。
そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。
王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。
――彼が愛する女性を連れてくるまでは。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる