陛下、あなたが寵愛しているその女はどうやら敵国のスパイのようです。

ましゅぺちーの

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新しい愛妾

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その夜、私は夫であるウィルフレッド陛下に呼び出された。


陛下に呼ばれるのは久しぶりだった。おそらく新しく迎える愛妾のことだろう。もう今となっては悲しいとさえ思わない。


「陛下、お呼びでしょうか」


「ああ、よく来たな」


私の声に陛下は振り返ってそう言った。


私の夫である国王陛下はまだ二十代前半で美しく、令嬢たちに人気がある。彼の寵愛を得て妃になりたいと考えている令嬢たちも多い。


彼はどうやら先王陛下に似てかなりの女好きらしく、ある程度美しい容姿を持ってさえいればすぐに落ちた。側妃や愛妾が増え続けているのはそのせいだ。陛下は本当に人を見る目が無いなと思う。実際彼女たちが美しいのは見た目だけであって、性根は醜かった。


「侍女から聞いたと思うが新しい愛妾を迎える」


「はい、存じております」


私が返事をすると、陛下は私をじっと見つめて言った。


「―その件で、お前に頼みたいことがある」


「何でしょうか」


その言葉に少しだけ驚いている自分がいた。今までそんなことは一度も無かったから。


陛下は難しい顔で私に言った。


「これはまだ一部しか知らないことだが新しい愛妾は平民なんだ」


「・・・そうですか」


平民。


どうやら彼の新しい愛人は貴族ですらなかったようだ。


(・・・一体どこで出会ったのかしら)


そんな衝撃の事実を聞いても、私はそれしか思わなかった。おそらく私の陛下に対する愛情はもう既に底をついているのだろう。


しかし、その次に彼が発したのはとんでもないことだった。


「―初めての王宮で慣れないことも多いだろうからお前が面倒を見てやってくれ」


「・・・」





(・・・・・・・・・・なんですって?)


王妃である私に夫の愛妾となる人間の世話をしろというのか。正妃に愛人の世話を頼むなど、非常識にも程がある。


私はそう思って言い返してしまいそうになったが、必死で我慢した。陛下の愛人の面倒を見るのは心底嫌なことではあるが、私に拒否権などないからだ。


「分かりました。陛下」


私がそう言うと、陛下は満足そうに頷いた。


「ああ、頼んだぞ」


それだけ伝えられ、私は部屋を追い出された。


「・・・ハァ」


私は誰にも気付かれないようにため息をついた。なかなか面倒なことになりそうだったからだ。


平民、ともなればあの側妃たちよりも礼儀がなっていない女だ。きっと新しい愛妾も側妃たちみたいな性根の醜い人間なのだろう。私はこれからそんな人の面倒を見なければいけないのだ。


そう思うと自然と気が重くなった。





◇◆◇◆◇◆




後日、私は陛下に新しい愛妾を紹介された。


「王妃、紹介する。新しく私の愛妾となるクリスティーナだ」


「王妃陛下、お初にお目にかかります。クリスティーナと申します」


そう言って陛下の隣に控えていた愛妾は綺麗なカーテシーをする。


クリスティーナと名乗ったその女は絶世の美女ともいえるほどの美貌の持ち主だった。


(・・・側妃や愛妾もたしかに綺麗だけれど)


このクリスティーナという愛妾に関してはレベルが違った。


「クリスティーナ、私は忙しくて会えない日もあるだろう。だから何か困ったことがあれば王妃に聞いてくれ」


「はい、陛下」


愛妾に話しかける陛下は物凄く優しい目をしていた。おそらく彼女が今の陛下のお気に入りなのだろう。


「―よろしくお願い致します、王妃陛下」


愛妾はそう言って美しく微笑んだ。


「ええ・・・」


誰もが魅了されるであろう美しい笑み。だけども私は何かが引っ掛かった。


(新しい愛妾は平民だって言ってたわ。でも言葉遣いといいさっきのカーテシー・・・。あれは平民ができるものではない。どう見ても洗練されたものだわ)


何も知らない人間は彼女を高位貴族だと言われても信じるだろう。


陛下は気にしていないようだったが私は不審に思った。


(没落した貴族とかかしら?でもここ最近ニール王国で没落した一族はいないし・・・)


どうしても気になった私は愛妾が出て行った後、陛下に尋ねた。


「クリスティーナ様は平民だというのにとても礼儀正しい方ですわね」


「そうだろう?クリスティーナとは視察のときに市井で出会ったんだ」


(視察の時に市井で・・・)


国王と平民が市井で出会って恋に落ちるだなんて、まるでおとぎ話のような話だ。




「―クリスティーナは可哀そうな子なんだ・・・」


すると陛下は突然悲しそうな顔をし、語り始める。


陛下が言うにはあの愛妾は隣国のとある貴族の令嬢で父の愛人に虐げられていた。そして挙句の果てに家を追い出され、仕方なく市井で暮らしていたのだという。


「だから、王宮では絶対に彼女を守ってやりたいんだ」


そう言った陛下の顔は真剣そのものだった。


「ええ・・・そうですわね・・・」







しばらくして陛下が部屋から出て行った後、私は少しの間考え込んでいた。


(元貴族令嬢ならあの完璧な所作も納得がいく。だけど・・・何かしら?何か・・・何かが引っ掛かる・・・)



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