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グレンお兄様
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その翌日、私の元に思いもよらぬ来客があった。
「―カテリーナ、元気にしていたか?」
私は聞き覚えのあるその声に振り返った。
「グレンお兄様・・・・・・!」
客間に入って来たのは、私の実の兄であり今は公爵閣下でもあるグレンお兄様だった。
公務以外でお兄様と会うのは久しぶりだった。臣下としてではなく、兄として私に会いに来てくれたということだ。
お兄様は私の顔を見て軽く微笑みながら口を開いた。
「父上と母上は王宮での話を聞いて毎日お前を心配しているよ。カテリーナを王家に嫁がせるべきではなかったとも言っていたな」
「まぁ、お父様とお母様が・・・!」
お兄様のその話に胸が温かくなる。
(嬉しい・・・)
どうやら離れて暮らす父と母は今でも私を心配してくれているようだ。
侍女にお茶を用意させ、私とお兄様は向かい合って座った。
お茶を一口飲んだお兄様は、侍女が部屋から出て行ったことを確認すると急に真面目な顔になって話し出した。
「―陛下が新しい愛妾を迎えたそうだな」
「・・・!」
どうやら陛下が新しい愛妾を迎えたということは既に貴族たちにも知れ渡っているらしい。お兄様はそのことでここへ訪れたのだろうか。
「・・・お兄様もご存じだったんですね」
私は極力お兄様を心配させないように平然を装ってそう言った。
本当は何かが引っ掛かっているが私の勘違いかもしれない。ただの勘違いでお兄様の手を煩わせるわけにはいかないので話す気にもなれなかった。
「あぁ・・・」
お兄様はそれだけ言って少しの間黙り込んだ。
(何かしら・・・?何かに悩んでいる顔だわ・・・)
私はいつもとは違う兄の様子を不思議に思った。
そして、お兄様は再び口を開いた。
「・・・それと、さっき王宮の廊下でその噂の愛妾とやらに会った」
「!」
私はお兄様の言葉に驚いた。まさかあの愛妾と会っていたとは思わなかったからだ。
「会っていたのですか・・・?」
「あぁ」
お兄様はそこまで言うと私を真っ直ぐに見つめた。
「―カテリーナ、単刀直入に言う。あの愛妾には気をつけろ」
お兄様はハッキリと私にそう告げた。
「お兄様・・・」
驚いて固まっている私をお兄様は真剣な目で見つめている。
お兄様がこのような目をするということは本気なのだろう。どうやらあの愛妾を怪しいと思っているのは私だけではなかったようだ。
(まさか、お兄様もなの・・・?)
私はそう思い、お兄様に尋ねた。
「お兄様も、あの愛妾に対して何か思うところがあるのですね?」
「・・・お前もか?」
お兄様は私の言葉に少しだけ驚いたような顔をした。
私はそんなお兄様の目をじっと見つめて言った。
「―お兄様の意見をお聞かせください」
お兄様は私のその目を見てコクリと小さく頷いた。
「・・・分かった。その前に防音の結界を張ろう。誰かに聞かれるとまずい」
魔法に長けているお兄様は一瞬で防音の結界を張った。
そして、ゆっくりと話し始めた。
「あの愛妾、たしか隣国にある貴族の生まれで父の愛人に虐げられ続けて最終的には家を追い出されたっていう話だったよな?」
「はい」
(愛妾の過去に関する話ももう既に知られているみたいね・・・)
お兄様がそこまで知っていたとは正直驚いた。お兄様は昔から情報を掴むのが早い。
「あれはおそらく嘘だ」
「・・・え?」
「さっきあの愛妾に接触したとき魔力の流れを感じ取ったんだが・・・あの女には貴族の血なんて一滴も入っていない。両親ともに平民の平民出身だろうな」
この国には魔法が使える人間が一定数いる。
生まれた時点で誰もが魔力を保持しているが魔法が使えるのはその中の一部だけだ。そしてさらにその中のごくわずか、魔法に長けている人間は相手の魔力を感じ取ることができる。その感じ取った魔力の流れから相手の生まれが大方分かるのだ。本当にすごい能力だと思う。
「お兄様、それは事実なのですか?」
私はお兄様に尋ねた。
するとお兄様は深刻そうな顔で頷いた。
「あぁ、初めて感じたものだった。この国の人間ではないというのは事実だろうな」
「私はあの愛妾が平民だというのにやけに礼儀やマナーがなっていることに疑問を持ちました。その後に陛下から元貴族であると聞いて、私の杞憂だと思ったのですが・・・」
「・・・王族に嘘をつくのは重罪だ。あの女はそれを分かっているのだろうか」
「どうなのでしょうね・・・」
お兄様はハァとため息をついて言葉を続けた。
「ただ単に周囲からの同情を得たい馬鹿な女なのか・・・何か企んでいるのか・・・」
「どちらにしても危ないですわね・・・」
それからお兄様はしばらく考え込む素振りをして、口を開いた。
「・・・カテリーナ、俺は少しあの愛妾を調べてみようと思う」
「分かりましたわ」
お兄様が力を貸してくれるのならば心強い。グレンお兄様は本当に優秀な方だから。
「カテリーナ、とりあえずあの愛妾のことは俺に任せてお前は自分の身を守ることだけを考えていろ」
「お兄様・・・!」
お兄様のその言葉を聞いて、王宮に来てから初めて誰かに優しくされた気がして私は気持ちが穏やかになった。
「―カテリーナ、元気にしていたか?」
私は聞き覚えのあるその声に振り返った。
「グレンお兄様・・・・・・!」
客間に入って来たのは、私の実の兄であり今は公爵閣下でもあるグレンお兄様だった。
公務以外でお兄様と会うのは久しぶりだった。臣下としてではなく、兄として私に会いに来てくれたということだ。
お兄様は私の顔を見て軽く微笑みながら口を開いた。
「父上と母上は王宮での話を聞いて毎日お前を心配しているよ。カテリーナを王家に嫁がせるべきではなかったとも言っていたな」
「まぁ、お父様とお母様が・・・!」
お兄様のその話に胸が温かくなる。
(嬉しい・・・)
どうやら離れて暮らす父と母は今でも私を心配してくれているようだ。
侍女にお茶を用意させ、私とお兄様は向かい合って座った。
お茶を一口飲んだお兄様は、侍女が部屋から出て行ったことを確認すると急に真面目な顔になって話し出した。
「―陛下が新しい愛妾を迎えたそうだな」
「・・・!」
どうやら陛下が新しい愛妾を迎えたということは既に貴族たちにも知れ渡っているらしい。お兄様はそのことでここへ訪れたのだろうか。
「・・・お兄様もご存じだったんですね」
私は極力お兄様を心配させないように平然を装ってそう言った。
本当は何かが引っ掛かっているが私の勘違いかもしれない。ただの勘違いでお兄様の手を煩わせるわけにはいかないので話す気にもなれなかった。
「あぁ・・・」
お兄様はそれだけ言って少しの間黙り込んだ。
(何かしら・・・?何かに悩んでいる顔だわ・・・)
私はいつもとは違う兄の様子を不思議に思った。
そして、お兄様は再び口を開いた。
「・・・それと、さっき王宮の廊下でその噂の愛妾とやらに会った」
「!」
私はお兄様の言葉に驚いた。まさかあの愛妾と会っていたとは思わなかったからだ。
「会っていたのですか・・・?」
「あぁ」
お兄様はそこまで言うと私を真っ直ぐに見つめた。
「―カテリーナ、単刀直入に言う。あの愛妾には気をつけろ」
お兄様はハッキリと私にそう告げた。
「お兄様・・・」
驚いて固まっている私をお兄様は真剣な目で見つめている。
お兄様がこのような目をするということは本気なのだろう。どうやらあの愛妾を怪しいと思っているのは私だけではなかったようだ。
(まさか、お兄様もなの・・・?)
私はそう思い、お兄様に尋ねた。
「お兄様も、あの愛妾に対して何か思うところがあるのですね?」
「・・・お前もか?」
お兄様は私の言葉に少しだけ驚いたような顔をした。
私はそんなお兄様の目をじっと見つめて言った。
「―お兄様の意見をお聞かせください」
お兄様は私のその目を見てコクリと小さく頷いた。
「・・・分かった。その前に防音の結界を張ろう。誰かに聞かれるとまずい」
魔法に長けているお兄様は一瞬で防音の結界を張った。
そして、ゆっくりと話し始めた。
「あの愛妾、たしか隣国にある貴族の生まれで父の愛人に虐げられ続けて最終的には家を追い出されたっていう話だったよな?」
「はい」
(愛妾の過去に関する話ももう既に知られているみたいね・・・)
お兄様がそこまで知っていたとは正直驚いた。お兄様は昔から情報を掴むのが早い。
「あれはおそらく嘘だ」
「・・・え?」
「さっきあの愛妾に接触したとき魔力の流れを感じ取ったんだが・・・あの女には貴族の血なんて一滴も入っていない。両親ともに平民の平民出身だろうな」
この国には魔法が使える人間が一定数いる。
生まれた時点で誰もが魔力を保持しているが魔法が使えるのはその中の一部だけだ。そしてさらにその中のごくわずか、魔法に長けている人間は相手の魔力を感じ取ることができる。その感じ取った魔力の流れから相手の生まれが大方分かるのだ。本当にすごい能力だと思う。
「お兄様、それは事実なのですか?」
私はお兄様に尋ねた。
するとお兄様は深刻そうな顔で頷いた。
「あぁ、初めて感じたものだった。この国の人間ではないというのは事実だろうな」
「私はあの愛妾が平民だというのにやけに礼儀やマナーがなっていることに疑問を持ちました。その後に陛下から元貴族であると聞いて、私の杞憂だと思ったのですが・・・」
「・・・王族に嘘をつくのは重罪だ。あの女はそれを分かっているのだろうか」
「どうなのでしょうね・・・」
お兄様はハァとため息をついて言葉を続けた。
「ただ単に周囲からの同情を得たい馬鹿な女なのか・・・何か企んでいるのか・・・」
「どちらにしても危ないですわね・・・」
それからお兄様はしばらく考え込む素振りをして、口を開いた。
「・・・カテリーナ、俺は少しあの愛妾を調べてみようと思う」
「分かりましたわ」
お兄様が力を貸してくれるのならば心強い。グレンお兄様は本当に優秀な方だから。
「カテリーナ、とりあえずあの愛妾のことは俺に任せてお前は自分の身を守ることだけを考えていろ」
「お兄様・・・!」
お兄様のその言葉を聞いて、王宮に来てから初めて誰かに優しくされた気がして私は気持ちが穏やかになった。
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