陛下、あなたが寵愛しているその女はどうやら敵国のスパイのようです。

ましゅぺちーの

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王弟殿下

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グレンお兄様と会った次の日、王宮の廊下を歩いていると懐かしい人物と出会った。


「・・・・・・・・・・・王弟殿下」


「―王妃陛下、お久しぶりです」


廊下の奥から歩いてきた彼は恭しく私に礼を取った。


私は王弟殿下のその行動に少しだけ寂しさを感じた。


「堅苦しいのはやめてください、私と殿下は幼馴染ではありませんか」


私がそう言うと王弟殿下はクスリと笑った。


「そうでしょうか、なら遠慮なく。



カテリーナ、久しぶりだな」


「お久しぶりです、殿下」


彼の名前はアルバート・ニール。


この国の王弟殿下で陛下の弟君である。私は陛下、そして王弟殿下とは幼馴染だ。小さい頃の私たちは王宮でよく一緒に遊んでいた。仲はわりと良かったと思う。


殿下は私の目の前でハァとため息をついて話し始めた。


「兄上は一体何を考えているんだ・・・六人もの女を王宮に召し上げるだなんて・・・」


「殿下・・・」


どうやら殿下は私を心配してくれているようだ。彼は昔から本当に優しい人だった。


(アルバート様・・・)


しかしだからこそ、優しい彼を心配させたくないという気持ちが大きかった。


「殿下、私のことならご心配なく。なんとも思っておりませんから」


私は軽く微笑みながらそう言った。


しかしそれを見ても殿下は納得いかないといったような顔をしている。


「・・・だが君は昔から兄上を好いていたではないか」


「昔の話ですわ、今は特別な感情など抱いておりません」


これは事実だった。昔の私はたしかに陛下のことが好きだった。しかし今となってはもう何とも思わない。今回、陛下が新しい愛妾を迎えると聞いても私の心が動かされることは無かった。もうあの人に対する愛と期待は完全に消えてしまったのだ。


私の言葉に、殿下の目が丸くなる。


「・・・そうか」


それから彼は少しの間考え込んだ後、口を開いた。


「カテリーナ、君は―」




「―アルバート様ッ!」


そのとき、王宮に似つかわしくない甲高い大声が聞こえた。


(あれは・・・!)


私は驚いて声がした方に目をやった。


「・・・イブリン様」


その先にいたのは陛下の愛妾の一人であるイブリン様だった。


イブリン様は貧乏男爵家の令嬢で、陛下の二人目の愛妾である。ピンク色の髪に水色の瞳で、非常に可愛らしい方だ。彼女もまた、リリア様と同じく社交界で相当な人気を誇っていた令嬢だった。


彼女は私に目もくれずに王弟殿下に駆け寄って行った。


「アルバート様ッ!来ていたんですね!私とっても嬉しいですぅ~!」


そう言って彼女は殿下の腕にしがみついた。


「・・・」


そのときの殿下は非常に冷たい目で彼女を見下ろしていた。


イブリン様の行動を不快に思っているということはたしかなようだ。


それでも全く退かない彼女に、私は少し感心した。


(この状況でよくそんなことできるわね・・・すごいメンタル・・・)


「アルバート様?」


先ほどからずっと黙り込んでいる殿下を不思議に思ったのか、イブリン様が声をかけた。


しかし、彼女に返ってきたのは冷たい言葉だった。


「―イブリン嬢、こういう場合はまず王妃陛下に挨拶をするのが先ではないのか?」


「えっ・・・」


そんなことを言われるとは思わなかったのだろう、イブリン様は驚いて王弟殿下を見た。


「王妃陛下を無視するだなんて不敬罪にあたる。いくら国王陛下の愛妾とはいえ立場は王妃のが上なんだ。君はもっと身分を弁えるべきだ」


殿下は冷たい声でハッキリとそう言った。


「無視するだなんて・・・私はそんなつもりじゃッ!」


「私に話しかけるのはもっと礼儀やマナーを身に着けてからにしたほうがいい」


「ッ・・・!」


殿下がそう言うとイブリン様は泣きそうな顔をして私たちの前から立ち去って行った。


「兄上はあれのどこがいいんだ・・・」


王弟殿下はイブリン様が去って行った方向を見て不機嫌そうな顔をしながらそう言った。


「ふふ、きっと陛下が新しい愛妾に夢中になっていらっしゃるからお暇なのでは?」


「なるほど、それで今度は私にすり寄っているわけか。」


殿下はそう言って嫌そうな顔をした。


王弟殿下は見目麗しい上に優秀で、大公位を賜っている。先王陛下の正妃の子で、全てにおいてが優秀だったと聞く。


それに加えて彼は独身だ。令嬢たちに大人気なはずなのになぜ未婚なのかは私にも分からない。


「新しい愛妾といえば・・・カテリーナ、大丈夫か?」


王弟殿下は不安そうな顔で私に尋ねた。


「大丈夫、とは?」


私がそう言うと殿下はハッとなって首を横に振った。


「いや、何でもない。」


(・・・何かしら?)


私は不思議に思いながらもそこで王弟殿下と別れた。


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