陛下、あなたが寵愛しているその女はどうやら敵国のスパイのようです。

ましゅぺちーの

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側妃と愛妾

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クリスティーナ様と別れた後、私は自室へと戻っていた。


部屋に着いて私はふぅと一息ついた。ここが王宮の中で私にとって唯一落ち着ける場所だった。


(・・・・・何だったのかしら)


私は先ほどのクリスティーナ様を思い浮かべてそう思った。


私が知っている彼女とは随分かけ離れていたからだ。


クリスティーナ様は他の愛妾たちと同じで華やかな容姿をしているものの、どちらかというと控えめな性格で王妃である私に対してあのような物言いをする人物ではなかった。


(あれが彼女の本性なのかしら?だとしたら、相当厄介な相手になりそうね)


クリスティーナ様がスパイだということは既にお兄様によって調べがついている。


しかしこの国の最高権力者が彼女にベタ惚れなのだ。今の陛下に何を言おうとも無駄だろう。


(王弟殿下は陛下を失脚させるためにあえて放っておくと言っていたけれど・・・やはり不安だわ)


そこで私は先ほどクリスティーナ様に言われたことを思い出した。




『王妃様、本当は寂しいって思っていらっしゃるでしょう?』




驚くことに、彼女はたった数回会っただけだというのに私の本質を見抜いていた。


私は王妃教育を受けているため、人前で感情を顔に出すことはほとんどない。それなのに―


(・・・一体、何者なの?)


そこまで考えて私は部屋に備え付けてある机に向かって歩いた。


(一度、整理してみようかしら)


私はそう思って椅子に座り、机の上にノートを広げてペンを手にした。


(まずは一人目の側妃のリリア様・・・)


子爵令嬢であり、陛下が最初に側妃として迎えた女性だ。社交界の華と謳われるほどの美貌を持ち、多くの貴族令息を虜にした美女。そして普段からお飾りの王妃である私を見下している。


彼女は最初こそ国王の夜を独占し続けていたが、それもすぐに終わりを迎えた。


(その次に迎えられたのが二人目の側妃のアンナ様・・・)


アンナ様は伯爵家の令嬢で側妃たちの中だとマナーや礼儀作法はまだマシな方だ。リリア様とは違って私に対しても礼儀正しく接していた。まぁそれも最初だけだったが。


彼女は王の寵愛を得たことで次第に傲慢な人になっていった。アンナ様の実家は伯爵家ではあるが、それほど裕福ではない。だから望む物は何でも手に入る王宮での暮らしを経験して王の愛があれば何でも出来ると思うようになってしまったようだ。それからアンナ様はリリア様と一緒に私を馬鹿にする発言をするようになった。自分は国王から愛されているのだと。


(・・・だけど、それもまたすぐ終わってしまったのよね。アンナ様の次に迎えられたのが伯爵家のローズ様・・・)


ローズ様はアンナ様と同じく伯爵家の令嬢ではあるが、彼女もまたマナーが壊滅的な人間だった。ローズ様は伯爵令嬢ではあったが、正妻の子では無く愛人から生まれた子供。つまり妾腹の子だった。側妃として王宮に上がる数年前までは平民として市井で暮らしていたというのだから、それも仕方がないのかもしれない。


ローズ様はとにかく散財が激しかった。いつもドレスや宝石を買い漁り、これでもかというほど着飾っている。どうやら平民だった頃、彼女はかなり貧しい生活をしていたらしく、何が何でも今の生活を手放したくないようだ。


(だけど人生はそう上手くいかないものよ・・・彼女が陛下の愛を独占していたのもまた一時の話だった・・・)


次に陛下の目に留まったのは男爵令嬢のリズ様だった。


リズ様は側妃になれない身分だったので、必然的に愛妾となった。


それからも陛下は数多くの女性と浮名を流し、男爵家のイブリン様を二番目の愛妾にした。


そして・・・


(三番目の愛妾であり、陛下が愛した六人目の女性・・・クリスティーナ)


私は側妃や愛妾たちの中で彼女が最も恐ろしかった。


他の側妃や愛妾たちはただ単に私を見下しているだけだが、クリスティーナ様には何か得体のしれないものを感じた。それに加えて頭も良さそうだ。敵に回れば相当厄介な相手になりそうである。


「・・・」


私はそこでハァと溜息をついて机に突っ伏した。


(ハァ・・・何だか怖いわ・・・またお兄様や王弟殿下が王宮に来てくれないかな・・・)


気付けば私はそんなことばかり考えるようになっていた。


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