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断罪劇の翌日

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翌日。
日の光が差し込んだ寝台の上で私は目を覚ました。


「ん……」


目が覚めると既に外は明るくなっていた。


(あれ……随分寝た気がする……)


それからすぐに部屋に侍女が入って来た。


「おはようございます、王妃陛下」
「おはよう……今は何時?」
「十二時でございます」
「……十二時!?」


私は慌てて飛び起きた。
まさかそんなに寝ていたとは、さすがに申し訳ない。


そんな私を見てクスクス笑いながら侍女は言った。


「王弟殿下と公爵様からしっかりと体を休めるようにとのことです」
「あ……」


そこで私は昨日起きたことを全て思い出した。
陛下とクリスティーナ様を断罪して、それからリズ様と陛下が刺されて……。


(今、王宮はどうなっているんだろう?)


私がやっていない仕事が溜まっているはずだ。
そう思ってベッドから起き上がろうとした私を、侍女が止めた。


「陛下、執務に関しては王弟殿下が代わりをされています」
「……殿下が?」
「はい、王妃陛下にはゆっくりしていただきたいとのことで」


侍女はニッコリ笑った。
まるで微笑ましいものを見るかのような目だった。
私と王弟殿下の関係に気付いているのだろうか。


(殿下が……)


どうやら殿下が気を遣ってくれたようだ。
そういうことなら、それを無視するわけにはいかない。


「……なら、そうさせてもらおうかしら」
「はい、陛下。お茶をお持ちしましょうか」
「そうね、お願い」


それから侍女は一度部屋を出て行き、お茶を持って再び部屋へ入って来た。


「ねぇ、陛下については何か聞いてるかしら?」
「国王陛下についてですか……?」
「ええ、知っていることがあるのならば教えてほしいの」
「……重傷を負いましたが、何とか一命は取り留めたようです」
「そう、それは良かったわ」


陛下が生きていたようで良かった。
彼のことは好きではないが、生きてしっかりと罪を償うべきだ。
私も、そして殿下もそれを願っているはずだから。


「愛妾のリズ様に関しては何か聞いてる?」
「あ……それが……」


リズ様について尋ねると、侍女は言いづらそうな顔をした。


(まさか……)


その反応を見た私は、最悪の事態を想定した。


「リズ様は……お亡くなりになられました……」
「そう……」


侍女は悲しげにそれだけ言った。


「王宮の医師が陛下の治療を優先していたこともあって……リズ様は……」
「……」


やはり誰かが亡くなると悲しいものだ。
よく知っている顔の人間ならなおさらである。


「陛下は今、どうしているの?」
「まだ意識が戻っておりません」
「そうなのね」


一命を取り留めた陛下もかなりの重傷のようだ。
無理もない、あれほど胸を深々と刺されたのだから。


「あ、王妃陛下……」
「どうしたの?」
「王弟殿下がこちらにいらっしゃるそうです」
「……殿下が?」


そのときに私が思い出したのは昨日殿下に抱き締められたときのこと。


(私らしくない……)


彼に会うとなると、何だか胸がドキドキする。
この気持ちに気付いている今はなおさら、殿下に会うのが恥ずかしいと感じてしまう。


「……お茶の準備をしてちょうだい」
「はい、陛下」


それからすぐに、王弟殿下はやってきた。


「――カテリーナ」
「殿下、お忙しいところわざわざ来てくださってありがとうございます」
「心配で居ても立ってもいられなかったんだ。ここ最近陛下の執務を代わりにしていたこともあってかなり疲れていただろう?」
「殿下……」


そう言いながら殿下は私の向かいの席に腰を下ろした。
優しい笑みを浮かべながら私を見つめている。


「今は殿下が代わりにされているとお聞きしました。殿下こそ平気なのですか?」
「ああ、私は何ともないよ。グレンも手伝ってくれている」
「お兄様が……」


殿下の方こそ、王弟としての仕事があるはずなのに何だか申し訳ない。
本来ならば、私が一刻も早く仕事に復帰しなければならないだろう。
しかし、目の前で優しく笑う王弟殿下の優しさに甘えたくなってしまう自分もいる。


(本当に、王妃失格ね……)


「殿下、お身体が心配です。少し休まれてはいかがですか?」
「平気さ。王位継承の準備もあるし、休んでなどいられない」
「王位継承……」


その言葉でようやくピンと来た。
彼が次の王位継承者だということを。


(陛下に子供がいれば分からなかったけれど……)


今現在、王家の血を引いているのはアルバート王弟殿下だけだ。
だから彼が王位に就くのは当然のことだった。


それからすぐに王弟殿下は椅子から立ち上がった。


「カテリーナの姿も見たことだし、私はそろそろ失礼しよう。本当はもう少しここにいたいけど、仕事がまだ残っているから」
「あ、はい……」


今来たばかりだというのに、もう行ってしまうのか。
彼が好きだと自覚してからお互いに忙しくてまともに会えない日々が続いている。
思わず俯いてしまった私を見て、彼が一歩近付いた。


「――カテリーナ」
「……はい?」


顔を上げた瞬間、私は殿下の胸に包まれた。


「……!」
「また来るから、待っててくれ。そのときは君に想いを伝えられるようにしておくから」
「はい……殿下……」


(やっぱり私……殿下のことが好き……大好き……)


私はそう思いながら、しばらくの間彼の胸に顔をうずめていた。


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